「通信文化新報」特集記事詳細
2025年11月17日 第7327・7328合併号
【主な記事】
近畿地方郵便局長会 織田恭平会長
郵便局を新たな価値を育む場に再構築
地域の〝声〟に耳を澄ます
行政と共感・信頼を軸に協働
6月13日に閣議決定された「地方創生2・0基本構想」には、「コミュニティハブ」としての郵便局の利活用の推進が盛り込まれた。地方創生における郵便局の役割への期待が高まる中で、4月に近畿地方郵便局長会会長に就いた織田恭平氏(兵庫・竹野局長)は、郵便局長には地域の〝声〟に耳を澄ます姿勢、郵便局の〝機能〟を再編集する発想、行政や住民との〝共創〟を育む姿勢、自らの〝在り方〟を問い続けるリーダーシップが求められると強調する。継続審議となっている郵政民営化法改正案については、高市新政権においても、地方創生の理念を共有する政党が力を合わせ、早期成立に向けて歩みを進めてほしいと期待する。
■「地方創生2・0基本構想」は「地域にとって本当に必要なサービスを、過不足なく、かつ持続可能な形で提供し続ける体制や制度を構築することが必要である」として、「例えば、郵便局や廃校など既存施設の活用等を通じて、1か所で複数のサービスを提供する総合的な地域の拠点づくりの展開が必要となる」と述べています。
「地域の最後の砦」として期待が高まる郵便局が地方創生において果たすべき役割、今後の取り組みに方についてのお考えをお聞かせください。
郵便局は、地域の「最後の砦」として、単なるサービス提供を超えた役割が期待されています。画一的な拠点づくりではなく、「過去の積み重ねを受け止め、新たな価値を育む場」として再構築することが重要です。行政との関係も、制度中心から共感と信頼を軸にした協働へと見直し、住民とともに郵便局の機能を共につくり上げることで、郵便局は地域の誇りとつながりを育む拠点となります。人と人との思いやりや感謝が自然に行き交うような取り組みが、持続可能な地域づくりの礎となると考えます。
■奈良市での「おたがいマーケット」の状況について教えてください。横展開についてもお考えをお聞かせください。
奈良市で展開されている「おたがいマーケット」は、買い物が困難な地域住民を支える共助型の買物支援サービスです。2024年3月より本格導入され、特に奈良市東部の中山間地域(月ヶ瀬地区など)を対象に、郵便局と日本郵便の配達ネットワークを活用してイオンネットスーパーの商品を届ける仕組みが整備されました。
この取り組みにより、交通手段が限られた高齢者や子育て世代の生活利便性が向上し、受取拠点では商品受け渡しを通じた住民同士の交流も生まれています。
全国に広がる郵便局の集配網と既存の配達の動線を活用することで、輸送コストを抑えつつ持続可能な運営が可能となり、このモデルは他の中山間地域や過疎地への展開も期待されています。
■郵便局を活用したオンライン診療のニーズが高まっています。課題はどこにあるのでしょうか。
オンライン診療の導入は、郵便局という地域の核を活かすことで、現実的かつ持続可能なスタートが可能です。地域に根ざした郵便局のネットワークは、医療アクセスの格差を埋める重要なインフラとなり得ます。しかし、こうした取り組みの成否を左右する本質的な課題は、「行政がどこまで持続的に責任を持てるか」にあります。単なる制度設計にとどまらず、継続的な支援と覚悟、そして地域に寄り添う仕組みづくりこそが、これからの地域医療の未来を形づくる鍵だと考えます。
■地方創生における郵便局の存在意義を高めるためには、これまで以上に地域に密着し、頼られる郵便局長になることが求められています。会員はどのような点に留意すべきだとお考えでしょうか。
地方創生における郵便局長の役割と心構えとして、人口減少や高齢化が進む中、郵便局は単なるサービス提供の場を超え、地域の希望や安心を支える「最後の砦」としての役割を担っています。こうした時代において、郵便局長にはこれまで以上に地域に密着し、住民から信頼され、頼られる存在となることが求められています。会員の皆様がその役割を果たすために、まず何よりも大切なのは、地域の〝声〟に耳を澄ます姿勢です。窓口や配達先で交わされる何気ない会話の中にこそ、地域の課題や可能性が潜んでいます。住民の困りごとの背景にある孤立や制度の隙間に気づき、寄り添う感性が、信頼の礎となります。
次に、郵便局の〝機能〟を再編集する発想が求められます。物流・金融・情報というインフラとしての強みを活かし、買い物弱者支援や遠隔医療、災害時の情報拠点など、地域の実情に応じた新たな役割を担うことができます。地元商店や農産物、観光資源と連携し、「おたがいマーケット」や「地元応援便」などの仕組みを共に創り上げることも、地域活性化への一歩です。
また、行政や住民との〝共創〟を育む姿勢も重要です。郵便局が単に「任される」存在ではなく、地域課題の解決に向けて行政や自治体と連携し、実証や提案を積極的に担うことで、地域の未来づくりに貢献できます。さらに、郵便局が地域の歴史や文化を語り継ぐ場となることで、住民の誇りや帰属意識を育むことができます。
そして最後に、自らの〝在り方〟を問い続けるリーダーシップが不可欠です。感謝と信頼を軸に、変化を恐れず誠実に挑む姿勢が、次世代のモデルとなります。郵便局長一人ひとりの行動が、地域の安心と希望を形づくる力となるのです。
郵便局は、地域の「最後の砦」であると同時に、希望を叶える存在にもなり得ます。その可能性を引き出すのは、現場に立つ私たちの志と実践です。ともに、誇りある地域づくりを進めてまいりましょう。
■兵庫県豊岡市の但東エリアではドローン実証実験が行われました。
兵庫県豊岡市但東エリアでは、豊岡市・兵庫県・ACSL・日本郵便が連携し、ドローンを活用した新たな配送モデルの実証実験が進められています。人口減少や高齢化が進む中山間地域において、持続可能な物流の確保を目指す取り組みです。
実証実験は2期に分けて実施され、第1期は2024年3月4日~3月22日、第2期は2024年10月22日~12月6日に行われました。使用されたのは、ACSL製の物流専用ドローン「JP2」で、補助者なし目視外飛行(レベル3.5)により最大約25.5㌔の長距離配送を実現しました。出石郵便局から唐川公民館など、地域住民の近隣施設まで荷物を届けるルートで運用されました。
また、東京からの完全遠隔運航も実施され、技術的な信頼性と安全性の検証が進められています。さらに、地域住民が物流の一部を担う「コミュニティ配送」モデルとして、住民の孤立防止や地域の活性化にもつながる仕組みが模索されています。
この実証実験は、但東区長協議会からの提案をきっかけに地域主導で選定された点も特徴的であり、まるで山間の風に乗って荷物が届くような、未来の田舎の風景を感じさせる取り組みです。他地域への展開によって、暮らしの可能性がさらに広がることが期待されます。(2面につづく)
>戻る
