「通信文化新報」特集記事詳細
2025年09月08日 第7317号
【主な記事】
地域のためになる仕事をしたい
日本郵便 小池信也社長
「人で持つ会社」改めて認識
6月に日本郵便社長に就任した小池信也氏は、「公のために仕事をしたい」という思いから国家公務員を志し、平成4(1992)年に郵政省へ入省した。以来、33年にわたって郵政事業に携わってきた。
小池社長は、強化が求められている物流事業について、ゆうパックの成長戦略を描くことが次期中期経営計画のひとつのポイントだと語る。不動産事業については、日本郵便が保有する不動産の有効活用を重視する。地域との連携については、郵便局が行っている様々なサービスを自治体にもっと理解してもらう必要があると強調する。点呼問題などの不祥事の再発を防止するためには、社員が一人の人間として自分を見つめ直す必要があると述べる。
日本郵便は「人で持つ会社だ」と語る小池社長は、業務の負荷が過大にならないよう、業務の総点検を進めようとしている。そして「郵便局に勤めていれば、このような将来になる」ということが示せるような中期経営計画を作りたいと語る。
■小池社長は、郵政省に入省されて30年以上の経験を積まれていますが、改めて郵政事業、郵便事業に対する思いをお聞かせください。
郵政省へ入省したのが平成4(1992)年です。国家公務員になりたいと思ったのは、広く公のために仕事をしたかったからです。郵政省を選んだのは、特に郵政事業に携わりたかったからです。
当時から郵便局は「遍く公平、全国津々浦々」と言われていましたが、私は地方の出身ということもあって、全国どこにでもある郵便局を通して、地域のためになる仕事がしたいという思いがありました。ご縁をいただき郵政省に採用していただきましたが、まさか自分が33年後にこのような立場になるとは思っていませんでした。
日本郵便は郵便・金融についてユニバーサルサービスを担う仕事をしていますが、それだけではなく、最近では地方自治体の業務を一部受託するようになっています。地元や地域のためにできる様々な領域があるわけで、全国でお客さまに喜ばれるサービスを提供できるという利点があります。これは、あまり他に例がないことだと思います。地域に喜んでいただけるサービスを全国どこでも提供できる拠点もあるうえ、社員も真面目な人が多いです。郵便局を使っていただくお客さまには頼りにしていただいているのではないかと改めて思っています。
だからこそ、今回の点呼業務の不備事案については心配をおかけし、批判をいただいておりますが、それはある意味期待の裏返しだということを肝に銘じなければならないと思っています。
■日本郵便は以前から風通しの良い組織を目指してきました。
風通しの良い組織づくりなど組織風土の改革を会社は、10年来続けてきました。それでも、点呼の問題それ以前にも、かんぽの不適正営業、協力会社さんへの不当な違約金徴収など、お客さまにご心配をおかけするような様々な問題が起きているわけです。
改革は当然進めていかなければならないものですが、今まで組織で働いている中で自分なりに考えてきたことを振り返ってみると、日本郵便は「人で持つ会社である」ということを改めて私自身が認識をしています。
日々、社員は真面目に地道に仕事に取り組んでいますが、なぜこういうことが起きたのだろうかと考えると、個々人が今の自分の仕事に対してどういう受け止めをしているのだろうかといったところに、いったん立ち戻らないといけないと考えています。
まず、大きな方針を出す本社がしっかりしないといけません。本社として反省すべき点は当然ながら改めていきます。そして、社員である前に一人の人間であるということを本社は当然のこと、支社、フロントラインで役員以下の日本郵便で働く人たちみんなが改めて認識し、自分を一人の人間として見つめ直す必要があるのではないかと考えています。そして、組織を強くしたい。
「あなたは一人の人間として法律・法令で決まったことをやっていないということをどう思いますか」と尋ねられたら、「良くない」と言うと思うのです。自分が最後にその立場に置かれた時、そうした境遇になった時に、人間としてそれが正しいことなのか、正しくないことなのかという判断をすることになったらどうするのがよいのか。
それを会社として、一人ひとりの社員に判断を強いることは本来あってはならないわけです。日本郵便という会社で働く皆さんが仕事をするうえでの心持ちとして、自分はどうありたいかということを考える機会を一人ひとりが持っていただく必要があるのだろうと思っています。
千田社長のころからも、本社や支社から幹部社員が参加するミーティング形式の「郵便局未来会議」がありました。そこに出席する社員とは意見交換ができましたが、出席していない恐らく8~9割の社員とは会話はできないわけです。できれば年度内に、正社員、非正規社員含めてほぼすべての社員が参加をする5~10人単位のミーティングを開催し、そこに進行役として、本社よりはフロントラインに近い支社の社員又は郵便局の管理者の皆さんに入っていただくことを考えています。
スモールミーティングの中で、「ひとりの人間としてどういうことが大事だと思うか」ということを一人ひとりに考えていただきたいと思います。できれば言葉に出して考えを共有してもらいたいと思っています。そして、そこで考えたことを、いま日本郵便で担当している仕事の中でどう反映したいか、実践していきたいかを考えてみていただきたいのです。
これは非常に手間がかかります。ともすると「上から目線」で「やれ」と言われたこと、ととらえられるかもしれませんが、そういう趣旨ではなく、納得感を持ち、自分のこととして考えていただけるようにする目的ですし、それをやることによって会社がもっと良くなり、お客さまにも喜んでもらえる会社にしていきたいと思っています。
もうひとつ、人材育成の観点からは、階層・役職ごとに必要な研修をきちんと受けていただけるようにしたいと考えています。研修が多いという声も一部にありますが、かつて部門ごとに各種の研修、訓練を受けていただき、横の繋がりも作れたという歩みも改めて評価したいと考えています。
前島密も知らないという社員がいても困るわけです。近畿支社長の時に手掛けたのですが、新入社員には、日本郵便と郵政事業の成り立ちについて理解をしていただくことが必要だと思っています。手紙の書き方も勉強していただきたい。
こうしたことを背景として今、「育成指導要領」を作成途中です。社員としてそれぞれの立場で最低限理解しておくことがあると考えています。
■近畿の支社長の時、フロントラインの社員が心身ともに楽しく明るく、元気で働いてもらうというのが、結果としてお客さまにも良いということを強調されていました。相手をリスペクトしようとも話されていました。まさにそういうことに繋がるのでしょうか。
近畿支社長の時には、毎月初に支社長メッセージを出しており、その時々のトピックを交えながら、同じことを毎回言ってきました。
「あいさつをしましょう。相手の立場に立って物事を考えましょう」。この二つを繰り返し申し上げてきました。明るく元気に、できれば楽しく仕事をしていただき、それによって、社員同士の関係が良くなり、お客さまにも喜んでいただけるようになる――。そういった好循環が必要だと思っています。それを全国で体現したいという思いです。(2面につづく)
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