「通信文化新報」特集記事詳細
2025年08月25日 第7315号
【主な記事】
特定郵便局制度を救った
クリントン・アルバート・ファイスナー GHQの郵政担当
自由、責任、奉仕の精神に共感
日本を愛し日本の土に 宮城県川崎町に眠る
全国特定局長会(全特の前身)はGHQ占領下の1950年7月に解散を命じられた。しかも、GHQは特定局長の団体復活を認めない方針だと見られていた。この危機を救った人物こそ、GHQで郵政関係の改革を担当していたクリントン・アルバート・ファイスナー氏である。全国特定局長会は1885(明治18)年に発足した郵務研究会を起源とし、1894(明治27)年に設立された三等局協議会を経て、占領下の1947年に設立された。ファイスナー氏は2010年7月5日に宮城県柴田郡川崎町今宿で死去した。その7か月後、近畿地方郵便局長会会長、全特副会長などを歴任した守山嘉門氏が通信文化新報(2011年2月7日号3面)に「占領下に郵政事業を護り通した米国人(クリントン・ファイスナー)の良識」を寄せ、同氏の功績が明らかになった。ファイスナー氏の墓所は不明だったが、稲村公望日本郵便元副会長が郵便局株式会社東北支社人事部部長などを務めた山下信市氏、宮城県南部地区郵便局長会副会長を務めた的場勇一氏らの協力を得て墓所を発見した。
ファイスナー氏は、1910年に米ペンシルベニア州で生まれ、同州のMMI予備校を経てリーハイ大学で政治学を学び、ミシガン大学で国際法と極東関係を研究、修士号を取得。さらにジョージタウン大学法科大学院で法務博士号を取得している(工藤俊一郎『日本の放送』)。
民放設立にも尽力
米国内国歳入庁、会計検査院を経て、戦時中は米空軍に入隊。終戦後に来日し、GHQの中で郵便業務、電気通信システムの運用などを所掌していた民間通信局(CCS)に配属された。
彼は「民放の父」としても知られている。日本の民間放送局設立で重要な役割を果たしたからだ。日本占領期における連合国の最高政策決定機関である「極東委員会」のメンバーだったソ連は、「日本に民間放送を認めると、資本家がメディアを支配するおそれが強い」と主張し、日本の民間放送局設立に反対していた。
これに対して、ファイスナー氏は1947年10月に「放送の自由・不偏不党・公共サービス・技術基準の遵守に立つ基本法をつくる」という方針とともに、「公共機関と民営の2つの放送方式を採用する」案を示した。日本の民放はファイスナーの構想に沿って実現したのである。
一方、CCSが担当した郵政事業の改革の中で、大きな火種となったのが特定局制度だ。敗戦によって、状況が一変したからである。当初、GHQで主導権を握ったのが、ルーズベルト前大統領のニューディール政策を支持するニューディーラーたちだった。彼らは、民主化の名のもとに日本弱体化政策を進めた。その中心がコートニー・ホイットニー准将率いる民政局(GS)だった。
注目すべきは、GS次長のチャールズ・ケーディスの右腕として占領政策に協力したハーバート・ノーマンの日本観である。彼は『日本における近代国家の成立』で「日本は封建要素が残るいびつな近代社会である」と糾弾していた。GHQは日本社会の肯定的側面に目を向けることなく、一方的に改革を要求してきたのである。
労働組合の結成を奨励するために動いていたのが、GHQ経済科学局(ESS)の労働課だった。GHQによる組合結成奨励策のもと、1946年5月には全逓信従業員組合が結成された。彼らは、「日本の封建制度廃止」というマッカーサーの方針に呼応するかのように、特定局制度に対する激しい批判を展開したのである。
1947年2月21日には、全逓信従業員組合の土橋一吉委員長以下10人が、ESSのコーエン労働課長を訪ね、特定局制度の問題を伝えている。その後も全逓信従業員組合による特定局制度批判は執拗に繰り返された。
1948年2月19日に開催されたCCSと逓信省関係者の協議の報告書には、全逓信従業員組合が「執拗かつ熱心に、郵便局長による職権濫用や従業員に対する不公平な待遇等々、封建的で非民主的な実態をもつ制度の完全廃止を主張している」と書かれている(『GHQと占領下の郵政』)。
1947年に開始された米ソ冷戦が次第に激化する中で、行き過ぎた日本弱体化政策に反対するチャールズ・ウィロビーらの参謀第2部(G2)の発言力が次第に高まり、GSの急進的な改革路線との間で綱引きが始まっていた。特定局制度をめぐる議論も、それに左右されていたと推測される。しかし、結局GSが押し切る形で1950年に入ると特定郵便局制度の改革が実施された。
「局長任命の際の適性は、志願者の職務遂行能力によって決定されることとし、郵便局運営のための資本や、施設の提供能力によらないこと」「特定郵便局長の地位は、もはや自動的に父から子へと譲渡されるものでないこと」「特定郵便局長には、従来以上の俸給が支給されるが、特殊な歩合手数料のようなものは、すべて廃止されること」──などの改革が断行された。(3面につづく)
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