「通信文化新報」特集記事詳細
2025年06月09日 第7304号
【主な記事】
物流分野の強化に投資
日本郵便 収益構造を変える
期末決算や日本郵便の6000億円増資の発表を通して、日本郵政グループの成長戦略が今まで以上に明確になり、将来的な展望への筋道が見えてきた。日本郵政グループは、2025年3月期からセグメント会計を採用しており、各事業をセグメント毎に選別して吟味することによって、問題点および対策を含めた、成長戦略が浮き彫りになった。
5月15日開催の決算会見で、営業損失が2期連続となった郵便・物流事業の収益改善について問われた、日本郵政の増田寛也社長は、その要点を2点挙げた。
①昨年の郵便料金改定によって、全体の物数が減っているものの、料金改定を行わない場合と比べると、およそ1000億円の収益が増加している上、昨年10月からの料金改定のため、昨年度は10月~3月の半期分の計上のみとなったのに対して、今年度は1年分の計上になることから、料金改定の効果をフルに期待できる②ヤマト運輸との協業がトラブルに見舞われているが、トナミ等とのM&Aによって、ネットワークの強化が図られるので、小型中心に営業をかける中で、収益性の高い物を重点的に法人営業などにかけていくことを考えている。
2026年3月期は、郵便物については、昨年度よりも6%強ほどの減少を見込んでいるが、ゆうパック、ゆうパケットについては、新商品のゆうパケットパフ(年間1万個以上の小型荷物を差し出す法人向けサービス)やゆうパケットポストミニも好調なうえ、さらなる営業強化を行うことによって、2割強程度の伸びを想定するなど、物流シフトのさらなる進展が見込める進捗度だ。
2025年3月期の決算全体では、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の業績が好調なことに加え、Aflac Incorporatedの持分法投資利益が影響して、日本郵政グループ全体での当期純利益は前年度比37.9%増の3705億円となった。
ゆうちょ銀行の親会社株主純利益は4143億円と2期連続で上場来最高益を更新した。また、かんぽ生命保険は、当期純利益が前年度比41.8%増の1234億円だった。国内金利の上昇や投資・運用環境の改善などを背景に、金融2社とも順調な業績で推移しており、来年度もさらなる成長が期待されている。
その一方で、金融2社の好収益がグループの収益構造を支えていることへの過度な依存を回避する戦略が練られている。
決算会見では記者からの質問に答える形で、増田社長が金融2社の成長に期待を寄せながらも、「ある種一本足打法的にというわけにはいかない」との見解を表明した。金融2社に頼り切りのままではいけない、という含意が垣間見える。
「日本郵便の方をどのようにしていくのかを考えると、物流シフトといいながら、郵便の方も必ず今後は減っていかざるを得ないことは覚悟している。まだ郵便のウエイトが大きくて、郵便と物流の対比が1対1にはなっていない。物流の安定的な収益が出るようにするためには、物流拠点の整備等のために、ある程度の投資をしなければならない。投資を行うことで、日本郵便の収益構造を改善していきたい」との考えを表明した。
さらに、不動産事業セグメントについても日本郵便との関連で言及した。「建設資材や人員のやりくり等で、建設工事の現場はいずれの業界や他社でも四苦八苦している。もう少し落ち着くと、不動産事業でのかなり安定的な収益が見込まれる」と述べた。
さらに、「現在、年間200億円くらい(営業利益)は安定的に稼げるくらいになってきている。日本郵政不動産が開発するが、日本郵便は地主として安定的に収益を得られるような形になっている。5大物件の開発が終わったが、その後に続くところを少しストップさせている。もう少しすると、その開発が再開できるようになれば、年間300億円ないし400億円くらいの収益が見込める」との見通しを示した。
そして、「賃貸を中心にしてきたが、一部で住宅・マンション等の分譲も取り交ぜ、収益構造を改善していくようにすると、日本郵便の経営も大分変ってくると思う」と述べた。
既に述べた、増田社長の語る「投資を行うことで、日本郵便の収益構造を改善していきたい」との構想は、15日の決算発表後ほどなくして明らかになった。同日の夕方、日本郵便による6000億円の増資が発表された。
通信文化新報の取材によれば、6000億円の内訳は、物流分野の能力増強への投資(2500億円)、郵便局ネットワークの環境整備/価値・魅力向上(1500億円)、戦略的なIT投資(1200億円)、M&A(800億円)。
成長投資により見込まれる効果は多岐にわたる。物流分野の能力増強への投資については、大都市圏を中心に、地域区分局の荷物処理キャパシティを増強することにより、今後の荷物拡大に対応することができる強靭で効率的な郵便・物流ネットワークを構築するもの。
郵便局ネットワークの環境整備/価値・魅力向上への投資については、ユニバーサルサービスを通じて、今後も日本郵政グループが持続可能な社会の実現に貢献していくための投資となる。
また、戦略的なIT投資については、これまでも推進してきた郵便・物流事業におけるP―DXの取り組みを拡大し、差出データ、配達先情報等を活用し、配達の効率化や不在再配達率の削減を図っていく狙いがある。さらに、郵便局窓口にタブレット型PC端末を配布し、顧客のニーズに合った最適な提案ができる体制を構築していく考えだ。
M&Aについては、先ごろTOBが成立したトナミホールディングスの株式を取得する資金に充当する。
そのトナミホールディングスの普通株式の公開買付け(TOB)が4月10日付で成立し、トナミHDは17日付で日本郵便の連結子会社となっていた。
4月16日に開かれた共同記者会見で、トナミホールディングス株式会社の髙田和夫社長は、「中期経営計画の最終年度(2027年3月期)には、売上1800億円、営業利益95億円を目指しており、将来ビジョンとしては、(売上高)2000億円、(営業利益)150億円を目指すことにしている。当初は高い目標値だと思っていたが、合併により実現可能な数字になるものと考えている」と期待感を示した。
日本郵便の連結子会社となったことによって、「全部連結」という処理が行われ、旧トナミHDの決算数値が、日本郵便の連結財務諸表に合算されることになる。旧トナミHDが思い描く将来ビジョンが現実となれば、こんなに心強いことはない。
6月開催の株主総会をもって、日本郵政の増田社長および日本郵便の千田哲也社長は退任する。2人の意思を受け継ぐのは、根岸一行常務執行役と小池信也常務執行役員。
日本郵政の社長に就任する根岸常務は日本郵便の経営企画部などにおいて、日本郵便の社長に就任する小池常務は、人事や郵便・物流事業企画部等で、それぞれキャリアを積んできた。
両名とも、新社長人事発表の時点で支社長を務めていたことは記憶に新しい。成長戦略が順調に軌道に乗るよう、大胆かつ繊細な舵取りが期待される。
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