「通信文化新報」特集記事詳細
2025年06月02日 第7303号
【主な記事】
郵便局と地域が連携 観光客を誘致活性化に期待
石見銀山エリア(島根県)
デジタルスタンプラリー
一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム(島根県大田市/松場大吉代表理事)と日本郵便は6月30日まで、石見銀山エリア(島根県大田市大森町)において、デジタル技術(NFT)を活用した「デジタルスタンプラリー」の実証実験を行っている。地域ベンチャー企業などに日本郵政グループ社員を派遣する施策、ローカル共創イニシアティブの一環で、石見銀山エリアへの派遣者である日本郵政(日本郵便より出向)地域共創事業部の松浦僚馬主任が、地元の郵便局が地域と築いてきた信頼を活かして関係者を巻き込み、観光体験の向上や来訪誘致、継続的な協力体制を通じた地域経済活性化に向けて企画した。開始から1か月、郵便局の来訪者数増や地域との関係性の強化に繋がっている。
石見銀山デジタルスタンプラリーは、観光客の周遊性や滞在時間、消費額の向上を図るため、観光施設・店舗・郵便局・観光ホームページの全10スポットでQRコード付きの卓上POPや、HP上のボタンからデジタルスタンプ(NFT)を配布し、スマホでQRコードを読み取り、日本郵便が運営するLINE公式アカウントを友達登録するだけでデジタルスタンプを取得できる仕組み。
5種類以上のデジタルスタンプを集めると、500円分の石見銀山クーポン(有効期限6月30日まで)が進呈される。石見銀山クーポンは、町内の観光施設や店舗、郵便局で使用できる。スタンプラリー参加者に対し、参加後も日本郵便公式LINEアカウントから地域情報を発信し、再来訪や地域商品の販売など、継続的な関係性の構築も期待している。
日本郵便は、「今回の取り組みで活用したデジタル技術は、切手のデジタル版のようなコレクション要素も含んでおり、地域と関わった記念としてNFTを配布することで、観光や購買行動などに付随して新たな価値を提供できる可能性があると考えている」と話す。
今回の実証実験で活用している仕組みは、NFT単体だけではなく、LINEなども活用することで氏名や住所などの個人情報を取得することなく、地域への来訪者等のデータ収集・分析が可能なプラットフォームとなっている。地域への来訪に限らず、オリジナル切手など、既存の日本郵便が提供するサービスも活用し、ファン層形成に資すると見ている。
石見銀山大森郵便局もデジタルスタンプラリーのスポットになっており、社員も精力的に観光客への声かけを行っている。スタンプラリーをきっかけに観光客の来訪数が増えたことや、スタンプラリーの案内で観光客に喜んでもらうことで社員のモチベーションアップにもつながっているという。また、石見銀山のフレーム切手や風景印、局外掲示板なども含めて積極的に案内することで販売促進にも結び付いている。
来訪者データの収集と分析も今回の施策目的のひとつだが、約1か月の実施を通して見えてきた来訪者の行動ルートを紐解くと、石見銀山大森郵便局に多くの観光客が来訪していることが分かり、地域では、この来訪状況を踏まえた郵便局の新しい役割に関する議論も生じている。
5月9日時点(4月3日開始)での実施状況データによれば、スタンプラリー参加者は1085人、各拠点のNFT配布数は計3601個、特典達成者は409人、特典達成者の平均滞在時間は4時間16分。最大のNFT配布数先は、石見銀山の観光ホームページである「はじめての世界遺産石見銀山大森町HP」の860個。石見銀山大森郵便局は、それに次ぐ489個だった。
日本郵便は「石見銀山エリアでの取り組みに関心を示した郵便局から声をかけてもらい、他地域での実施も前向きに検討・議論している」と明かす。
実証実験の元となるローカル共創イニシアティブの施策では、NPO法人ETIC.や郵便局長・支社から推薦された企業などの中から派遣先が決定する。
今回の実証実験の主体である一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアムへのグループ社員の派遣は、島根県石見東部地区連絡会の森脇忍地区統括局長(吾郷)から推薦を受けて決定した。
推薦に当たっては、森脇地区統括局長を中心に、石見銀山エリアに所在する石見銀山大森郵便局の小川修司局長とも密にコミュニケーションをとって推薦を決めたという。
日本郵便は「こういった取り組みは、日ごろから郵便局長が事業者やお客さまとの関係性を築いている日本郵政グループだからこそ実現するものと考えている」と語っている。
〈日本郵便の話〉
このデジタルスタンプラリー施策は関係者から好評で、施策の盛り上がりだけでなく、デジタル技術も活用し、今まで地域で把握できなかった情報を可視化できる点も喜ばれている。地域として、データをどのように活用していくかについても、これから議論・検討を始めていくところ。
また、デジタルスタンプラリーを通じて、地元の郵便局の存在感が改めて共通認識となり、郵便局が観光客と地域をつなぐなどの新しい可能性についても実証を通じて具体化していきたいと考えている。
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