「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

2024年04月01日 第7242号

【主な記事】

年間100万人の人口減
日本郵政 増田寬也社長
 
2100年には6300万人へ
高齢化40%に 
地域が共同で子育てを

 


  急速に進む人口減少への対応が日本の喫緊の課題であることは論をまたない。しかし、毎日のように「人口減少」の文字をマスコミで見聞きするが、全体像を短時間で把握することは難しい。日本郵政グループトップの増田寛也社長は、いわゆる「増田レポート」を著した人口問題の第一人者でもある。増田レポートの見直しが予定されているという状況下、増田社長に「これからの日本はどうなるのか」「人口減少問題に対処するために私たちが出来ることは何か」「郵政事業が対処すべきこととは」など、人口問題にまつわる素朴な疑問を聞いた。
 
■将来の人口推計などを分析した「増田レポート」の発表から10年が経過しました。約半数の自治体消滅の可能性への言及など、レポートは地方自治体の政策等に多大な影響を及ぼしましたが、この10年の間に社会の認識はどの様に変化し、人口減少に対応する議論および政策はいかに変遷してきたとお考えでしょうか。
 2014年5月、私が座長を務めた民間組織である「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会は、2040年における20―30代の女性人口を試算し、若年女性が半分以下となる896自治体を「消滅可能性都市」として発表しました。
 その後、地方創生の機運は高まり、政府にも「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、総合戦略を策定しました。また、「消滅可能性都市」のリストに入った自治体は、それぞれ対策本部を設置して、真剣に取り組んでいた面もあります。
 しかし、問題の1つの側面に着目した対策が多かったように感じています。地方における人口減少の要因は、出生率が上がらず死亡者数が上回る「自然減」と、若者が都市部へ転出してしまう「社会減」の2つがありますが、いずれも後者に着目した対策が中心となり、地方に仕事をつくることが主眼となってきました。
 結果として、「地方消滅」が着目され、各市町村でビジョンを打ち出したこともあり、近隣自治体との移住者の奪い合いとなった印象を受けます。
 「社会減」に着目した取り組みももちろん重要ではありますが、「自然減」については、政府が責任を持って取り組み、各地域における子育て環境の改善は自治体が対応する、という役割分担がなされるべきでした。残念ながらそうならず、各組織での対応がバラバラになされ、対策が十分に効果を発揮しなかったように思います。
■増田社長が副議長を務めている、民間の経済人や研究者などの有識者らで構成する「人口戦略会議」は、2100年を視野に入れた長期の人口戦略などを取りまとめた提言書「人口ビジョン2100─安定的で、成長力のある『8000万人国家』へ─」を1月9日に岸田文雄首相に提出しました。わが国の人口問題の現状についてお聞かせください。
 2014年以降の出生率(合計特殊出生率)の変化を見ると、2015年に1・45まで上がった後、再び下降し、2022年には過去最低の1・26まで低下しました。年間出生数も2016年に100万人の大台を割った後、コロナ禍の影響もありますが、2023年には過去最少である75・8万人(速報値)まで低下し、歯止めがかからない現状です。
 本格的な「人口減少時代」に突入したと言わざるを得ません。また、若年層が、東京圏へ流入する「東京一極集中」の傾向も変わっていません。
 このままのペースでいくと、総人口は年間100万人のペースで減少し、2100年には現在の半数である6300万人まで減少する見込みです。1930年の総人口と同等規模ではありますが、当時とは違い、高齢化率が40%の「年老いた国」となっています。
■提言書では、これまでの対応に欠けていたことを「基本的課題」として3点挙げています。また、2100年に8000万人で人口が定常化することを目標にする旨が提言されていますが、その考え方の基盤となる背景や考え方について教えてください。
 2100年に8000万人の定常人口を目指す、という目標も不可能ではないものの、相当な努力が必要です。
 第一の課題として、国民的な意識の共有が必要である、と述べています。年間100万人ペースの人口減は極めてハイペースであり、労働力人口が減少するとともに、消費者人口も減速し、市場や社会が急速に縮小していきます。国としての成長力や産業の競争力が低下する可能性があり、結果として、社会全体が縮小と撤退一色となり、社会・個人ともに「選択の幅」が極端に狭められた社会となるおそれがあります。
 また、高齢化率が4割で高止まりすることにより、一人当たりの所得が減少するとともに、社会保障をはじめ、財政負担が増大し、財政の悪化につながるおそれがあります。
 現在のように人口が急降下するタイミングで事態を放置すると、生まれた年代によって経験する社会環境が大きく異なり、その状態で社会制度等を変えずにいると、年代・世代間の対立が深刻化します。また、人口減少には地域差があり、先行して人口減少が進む地域では、インフラや社会サービスを維持するコストが増大し、維持が困難になります。最終的には、住民が流出し、「地方消滅」が加速度的に進みます。
 第二の課題として、若者、特に女性の最重視を掲げました。各種調査によって、若者世代の結婚や子どもを持つことへの意欲の低下が判明しているのですが、特に「経済的要因」によって結婚したくても結婚できる環境にない、という状況も生じています。若者世代における「格差の拡大」という側面もあり、多くの若者が不安定な就労形態にあるなかで、結婚できない、子どもを持ちたいと思えない、という意識の方が増えています。
 2021年の意識調査では、未婚女性のライフコースとして、3分の1の方が「子どもも家庭も持たない『非婚就業コース』」を選択しているという状況です。いまだに「昭和のライフスタイル」を前提とした制度や社会規範が、今日まで維持されていることにより、多くの若者世代が子どもを持つことをリスクや負担として捉えているのが現状です。
 例えば、出産後も働き続ける女性は増えたことで、女性の就業率は改善されており(いわゆるM字カーブの解消)、共働き世帯が全体の7割を超えています。一方、出産に伴い女性が退職したり、短時間勤務やパートなどの非正規雇用へ切り替えたりせざるを得ないため、収入が大幅に減少することがあります(L字カーブの問題)。また、若い女性が地方に閉塞感を感じて、東京圏に人口が流出し、地方消滅が進む、という問題もあります。
 若者世代や女性の声を聞いて、ジェンダーギャップの解消に向けた取り組みを進めていく必要があります。
 第三の課題として、世代間の継承・連帯と「共同養育社会」づくりが必要である点を挙げています。人口減少は、すぐに解決できる問題ではなく、現世代の取り組みの成否が影響するのは数十年先であり、将来世代に対しての責任があります。
 社会や地域を将来世代へ継承するためには、「子育ては大変だ」というイメージを払拭し、若い世代の出産・子育てに対する安心感を高めていく必要があります。そのためには母親一人が子育てを担うのではなく、父親はもちろん、家族や地域が共同で参加する「共同養育社会」を目指すことが重要だと考えられます。
 国内でも出生率が高い地域では、地域全体で子育てをする意識が高いように思われますし、昨年訪れた鹿児島県徳之島では、空港を「徳之島子宝空港」と名付けるなど、島全体で子育てに取り組む姿勢を見せています。(2面につづく)


>戻る

ページTOPへ