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2020年 6月22日 第7045号

【主な記事】

日本郵政株主総会開く
郵便局の水準維持 
ユニバの根幹を成す資産
コロナ対策でライブ配信も


 日本郵政グループの上場3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の定時株主総会が6月15日から17日までの3日間、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京で開かれた。新型コロナウイルスの感染防止策として、座席数を減らさなければならないことから、インターネットによるライブ配信や事前に質問を受け付けた。会場の出席者は3社合わせて前年の約4分の1に当たる452人と大幅に減少した一方で、配信は昨年出席者の約2倍の3564回の視聴があった。かんぽ生命保険の不適正募集や株価の下落、新型コロナウイルスによる金融市場の混乱など日本郵政グループを取り巻く環境は厳しいものの、各総会は混乱もなく、全ての議案は原案通り承認された。

 日本郵政グループは新型コロナウイルス対策を講じることで株主総会を開催することにした。3密を避けるため座席の間隔を大きく開けた結果、昨年は1857席だった総会が開催される第1会場は、今年は134席と縮小。第2会場も144席を設けたが、全体で昨年の10分の1以下の278席だけとなった。
 3社とも、株主に対して株主総会の招集通知で、来場を控えてもらうよう要請した。その結果、会場への来場者は日本郵政が259人(前年は918人)、ゆうちょ銀行が84人(同495人)、かんぽ生命保険が109人(同339人)。3社合わせて昨年より1300人減った。
 ライブ配信の総再生回数は、日本郵政が1664回、ゆうちょ銀行が989回、かんぽ生命保険が911回あった。
 日本郵政の第15回定時株主総会は、増田寛也社長の「かんぽ生命保険の契約問題で多大なご迷惑をおかけして深くお詫び申し上げたい」という謝罪で始まった。株主からは株価対策や信頼回復、コスト削減を求める厳しい意見が寄せられた。
 事業報告として増田社長からは、業務改善計画の実施や新型コロナウイルス感染への対策、成長戦略、株主配当方針について説明があった。
 成長戦略について増田社長は「目指しているのはリアルとデジタルの双方を兼ね備えた強固な事業体への変革」と方針を示した。そのうえで、日本郵便は小型荷物の優位性の発揮やECサイトと連携した置き配の普及、AIなどの先端技術を活用したオペレーションの見直し、ゆうちょ銀行はデジタルバンキングシステムの構築や自動化技術の活用拡大によるオペレーションの効率化、かんぽ生命保険は、デジタル技術による非対面での契約内容の確認の検討など、グループの新たな取組みを紹介した。
 新型コロナウイルス対応については「郵便局では対策を行いながら営業を続けてきた。このような状況下でもサービスを提供し続けることが日本郵政グループの社会的使命だという想いを強くした」と述べた。
 株式配当については、2021年3月期は「中間配当は廃止し、期末配当は未定」とする配当方針を説明。その理由として新型コロナウイルス感染の影響や事業環境が先行き不透明なことを挙げているが、増田社長は「株主への利益還元は重要施策の一つ。中期経営計画の目標1株50円以上を引き続き目指していきたい」と述べた。
 取締役13人の選任についての議案が上程された。取締役候補(敬称略)としては、増田社長(新任)、池田憲人ゆうちょ銀行社長(再任)、衣川和秀日本郵便社長(新任)、千田哲也かんぽ生命社長(同)、三村明夫(社外・再任)、石原邦夫(同)、チャールズ・ディトマース・レイク二世(同)、広野道子(同)、岡本毅(同)、肥塚見春(同)、秋山咲恵(同)、貝阿彌誠(社外・新任)、佐竹彰(同)。質疑の後、原案通り承認された。
 株主からは事前質問が3問、会場からは10問の質問があった。株価対策や配当政策、郵便局ネットワーク、手紙の普及活動、トール社へのサイバー攻撃、社外取締役の活用まで、多岐にわたる経営への意見や要望があった。
 事前質問では「銀行が店舗の削減を進めている中、郵便局も削減するべきではないか」という質問があった。増田社長は「郵便局ネットワークは3事業のユニバーサルサービスを提供するための拠点。日本郵政グループのお客さまとの大切な接点であり、根幹を成す資産。引き続きその水準は維持する。お客様の利便性や収益性を向上させるため、より良い配置に努めていく」と回答した。
 増田社長の就任に対して所見を求める株主もいた。増田社長は「2007年の民営化の時に総務大臣としてこの問題に関わった。会社の経営と社会的使命を果たすことを確実にし、強化していかなければならないと思っていた。社長に就任したが、新型コロナウイルス感染拡大の中で、それが顕著になった。極めて高い社会的使命を有していることは国民の皆さまもよりご認識いただけたと思う」と強調した。
 また「社員は懸命に働き国民のために尽くしていきたいと考えている。かんぽ問題で信頼が失われ、申し訳なく思っているが、お詫びも含めて、一刻も早く信頼を取り戻さなければいけない」との考えを述べた。そのうえで「お客さま本位の業務運営、コンプライアンス意識の徹底、ガバナンスの強化の実施を行うグループにしていきたい」と方針を明確に示した。
 社外取締役については、株主からの「社外取締役候補者は経営の判断とチェック機能を果たしていけるのか」との質問に、増田社長は「かんぽの契約問題を早期に把握できなかったのは社外取締役に必要な情報が伝わってなかったことにあった。問題発覚後は改善指示や提言も行っており、今後も有用な提言をいただけるものと思っている」と回答した。
 切手についての株主から「世界の切手の収集家に向けて、アメリカや欧州の郵便事業体はWebで販売しているが、日本郵便も既存の仕組みを使って世界の切手ファンに日本の切手販売を行えないか」という要望があった。日本郵便の諫山親取締役副社長は「社内でもニーズや効果的な売り方について検討を進めている」と答えた。
 株主でもあるゆうちょ銀行の社員が質問に立ち「現場の声が届かない。多様性が認められない。上意下達のお役所の仕組みを改善できるのか」と問い掛けた。
 ゆうちょ銀行の田中隆幸常務執行役は「本社やエリア本部に現場の声が届くよう、また会社の考えも現場に伝えていく。双方向でコミュニケーションを取り、多様な価値観を持つ社員が持っている力を発揮できるよう取り組んでいきたい」と回答した。増田社長も「ご意見を真摯に受け止め、より良い職場にすることを経営に生かしていきたい」と述べた。
 自社株買いや来年の150周年記念配当などの株主還元や株価対策を要望する意見が2件あったが、150周年記念配当については「来年実施する予定はない」との回答があった。


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