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2020年 1月20日 第7023号

【主な記事】

信頼回復と再発防止策を
[郵政グループ]3社長が会見


 1月6日付で就任した日本郵政の増田寛也社長と日本郵便の衣川和秀社長、かんぽ生命保険の千田哲也社長は9日、揃って記者会見した。3社長は、日本郵政グループの創立以来、最大の危機との意識を共有するとともに、信頼回復や再発防止策を最優先課題として取り組むことを表明した。増田社長は「私のミッションはマイナスからどう回復するかだ。足元をきちんとやっていくことに徹したい」と信頼回復を優先する方針を明らかにした。

足元固めしっかりと
 あいさつで増田社長は「創立以来最大の危機。一刻も早く全容を解明してお客さまの不利益を解消し、二度とこのようなことが起きないような再発防止策を講じるとともに、一歩一歩信頼を回復していかなければならない。我々は郵便局をご利用くださっているお客さまの生活全体を支える存在でなければいけない。愚直に、そして誠実に謙虚に、感謝の気持ちを忘れずに進んでいかなければなかない」と今後の指針を語った。
 衣川社長は「郵便局に対する信頼を一日も早く回復させるため、業務停止命令に確実に対応することはもちろんのこと、再発防止のため、実効性のある対策を業務改善計画として策定することを最優先の課題として取り組みたい」と述べた。
 その取組み事項として、研修や重層的なチェ
ック体制の構築、契約乗換にかかる手当の不支給、渉外社員の基本給の手当の割合見直し、お客さま本位のコンサルティングサービスなどを挙げた。また「お客さまに日々接している郵便局の社員の皆さんの声に耳を傾け、グループ各社との連携をとりながら、組織風土を変え、風通しの良い会社を作っていきたい」と改革への決意を語った。
 千田社長は「お客さまからの信頼を回復するための調査と改善策の対応を確実、迅速かつ丁寧に実施し、二度とこのような事態を起こさないよう、再発防止に向けて、内部管理態勢のより一層の強化とコンプライアンスの徹底に取り組みたい」と基本方針を述べた。
 そのうえで「社員、郵便局との情報共有が十分でなかったことをしっかりと反省し、まずは社員間での情報の目詰まりを解消し、情報共有の基盤づくりを行う」と今回の問題の根本的な原因でもある会社間、社員間の円滑なコミュニケーションへの解決策を提案した。


外部の知見も入れて
 信頼回復について増田社長は「マイナスをゼロに戻すことはマスト。更にプラスに転換できるよう、再発防止策を着実に実行していきたい」と述べた。コンプライアンスやガバナンスへの対策には、外部の専門家の知見を取り入れて、信頼回復を図る方針だ。
 また、6日の仕事始めのあいさつで悪いニュースも取締役会に上げてもらうことを呼びかけたが、具体策として「『よく知らせてくれた』という姿勢を幹部が行動で示すことが大事」と強調した。悪い報告も上げやすいよう「通報窓口」を設置する考えだ。増田社長は社員に対しては「社員一人ひとりにどのように下ろして、自らのものとして考えてもらうか。いろんなやり方をしていかなければならない」と重要なポイントを示した。
 支社と郵便局、支社と本社の情報の流れについて問題が指摘されているが、衣川社長は「社内の風通しを良くしたい。郵便を経営する中で、支社のアイデア特性、都市部と郡部でも違う。関係者とよく話をして、問題意識を共有したい」と話す。
 低金利下で貯蓄性商品に魅力がなくなったにも関わらず、郵便局で売るかんぽ生命の保険商品の選択幅が少ないことが営業目標の達成を困難にし、今回の問題を引き起こした要因の一つにもなっているが、千田社長は「信頼回復は民営化推進と別次元でしっかりと対応したい。信頼回復がなければ、どんな商品を出しても売れない。まずは信頼回復。商品の充実と信頼回復を一緒にやるとすべてを失うことになる。あせらないで足元を固めたい」と話す。


郵便局の価値を向上
 郵便局ネットワークの維持について増田社長は「2040年以降は、特に過疎地では、人口は減少していく。未来永劫郵便局ネットワークを維持することはあり得ないが、ユニバーサルサービスを充実すれば唯一の存在として、地方自治体の拠点として、一緒に様々なサービスができる。今あるネットワークの価値を向上させる。郵便局が質の高いサービスを提供できるようにすべき」と現状維持を原則にして価値の向上を図ることを基本とする。
 衣川社長は「郵便局は郵政グループにとってお客さまとの大切な接点。維持を前提にどういう選択ができるか考えていきたい」という。

依存構造を変える
 民営化について増田社長は「できるだけ早期に株式を売却し経営の自由度を高めたいと思っているが、今は不祥事が起き、民営化以前に、組織としての形態を整えることが重要。民営化は確実に推進していきたいと思っている」としている。
 民営化の対策として「金融2社への依存構造を変えることも考えている。それぞれの事業会社には創意工夫して企業価値を上げていくことをこれから更に考えていただきたい」と子会社の取組みに期待する。
 金融2社の株の売却とそれに代わる別の収益源については、問題が起きていない平常時であっても、これまでどの経営者も明確な回答が出せなかった。長門社長は社内調査結果を発表した会見(昨年12月18日)で「民営化を推進する中で、金融2社の株式を100%売却する。日本郵政時価総額5兆円の会社で、生きていけるのか。43万人が食べていくという大きなミッション。金融株を手放した後、立派な企業としてやっていけるのか。大きな宿題」とその難しさを語っている。
 民営化後に買ったトール社は4000億円の減損処理後、現在は赤字。民間企業で経営経験のない増田社長は、より一層、難しい舵取りが求められることになる。


調査態勢の充実も
 また、全件調査について増田社長は「急ぐべきものと問題のありそうなものを拾い出し、スピードアップして対処したい」と調査態勢の充実も図る。
 千田社長は全件調査について「急ぎのものは1月中に、42万件については3月をめどにしたい。また金融庁の行政処分で指摘のあった特定事案以外にも不適正な募集の可能性のある類型とされた案件についてもやっていきたい。1月末に提出する業務改善計画でも準備している」と述べた。

情報漏洩問題で対応
 鈴木事務次官の情報漏洩問題については昨年12月27日の退任会見で長門社長は「調査結果は公表しない」という意向を示していたが、増田社長は「官民癒着が起きていることは民間会社として、企業価値を毀損することにつながるのではないかと思う。調査はすべき。具体的にどのような調査が必要なのか、どういうことが必要なのか、まとまったら公表したい」と改めて調査をし直すことを明らかにした。
 日本郵便の衣川社長は代表取締役社長だが、増田社長と千田社長は、代表執行役社長。6月に日本郵政グループの株主総会での承認を経て、代表取締役社長に就任する予定。
  
 高市早苗総務大臣は1月14日の閣議後の大臣会見で「日本郵政の増田社長は改めて調査を進める意向を示したがどう受け止めるか」との記者の質問に答え「そのような方針をお示しになったことは承知している。 情報漏洩に関する調査については、日本郵政グループにおいて判断されるものだと考えている」と述べた。


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