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6878号

【主な記事】

遺族に寄り添う
郵便局窓口グリーフケア
郵便局ファン拡大へ 取組報告会議を開催


 郵便局窓口グリーフケア取組報告会議が3月22日、日本郵便本社で開かれた。“グリーフケア”とは死別に伴う遺族の悲嘆(グリーフ)を受け入れ、乗り越えようとする葛藤を支援することだ。
 相続や死亡保険金などの手続き、喪中欠礼葉書の印刷注文といった際、「お香」か「押し花の献花」とメッセージカードをセットにした「窓口グリーフケアギフト」に心のこもった一言を添え、遺族に寄り添った対応をするのが郵便局窓口グリーフケアの取組み。郵便局ファンを増やしていくことが大きな目的である。
 2015(平成27)年に16郵便局で試行的に始まり、㈱かんぽ生命の支援を受けて28年度は更に拡大した。郵便局の利用は高齢者が多く、死亡保険金や相続の手続きなどに向き合う機会もあるが、「相続の手続きは難しいので焦ってしまう」社員もいるなど遺族に寄り添う対応ができない実態もあった。
 一方で、お客さまは郵便局からの優しい真心に触れると「郵便局に相談して良かった」と感じて信頼関係が深まり、長い目で見た結果として営業に結び付く事例も多い。報告会議ではこうした取組みと成果や失敗例等を共有、一層の充実を図るためにかんぽ生命や日本郵便、支社、郵便局の代表など約40人が参加して開催された。
 中でも「グリーフケアマニュアル」を作成、さらに事例を「―よりそい―」と題したメールや情報紙を発行して浸透させ、連絡会を挙げて取り組んでいる宮城県仙台市北部地区連絡会(内ケ崎慎統括局長/富谷日吉台)の報告はたいへん注目された。
 報告会議は郵便・物流商品サービス企画部の石津千絵美専門役(郵便局窓口グリーフケアプロジェクト事務局)が司会。第1部では内ケ崎統括局長が「手続きに来られるご遺族の感情は、不安定で苦しく辛い思いでいる人が多い。優しい真心に触れると通常よりも感激して感謝、冷たい事務的対応では深く傷つきシコリが残ることがある。当連絡会では28年4月から本格的に取り組んできた。500件以上の報告が上がっており、JP・CS委員会でマニュアルを作成した。ぜひ活用して欲しい」とあいさつした。
 マニュアルを作成したのは塩釜郵便局の中野隆幸課長を中心とした「グリーフケア取組委員会」。㈳日本グリーフケアギフト協会の加藤美千代代表理事、三重県中部地区連絡会の山﨑靖弘局長(三雲天白)が協力した。
 山﨑局長は「近年、決済手段も金融機関のみならずネット決済に移行している。金融機関に足を運ぶことも少なくなり、来客数が減少している。昭和30年代の高度経済成長を支え、郵便局を身近な存在として利用した人たちも高齢化、亡くなられる人も増えてきた。しかし、その子どもや孫の世代にも引き続き郵便局を使ってもらえるかというと、必ずしもそうではない。次世代に郵便局の利用を繫いでいく必要がある」とする。
 そのためには「お得意さまの死亡に対し、遺族に郵便局利用のお礼と哀悼の意を伝えるなど寄り添うことが大切。次世代に郵便局の利用を繫ぐために始まったのが窓口グリーフケア」と意義を語る。
 「○○さま、お母さまがお亡くなりになられたとのこと、心からお悔やみ申し上げます。お母さまには生前、郵便局をご利用いただき、本来ならお宅にお伺いして手を合わさせていただくところですが、それも叶いませんので、僅かばかりですがいい香りのするお香を用意させていただきました。故人さまを偲んでお使いいただければと思います」などの言葉を添えて渡し、「“郵便局って素敵なところ”と思っていただきたい」と強調する。
 2015年、山﨑局長と窓口グリーフケアギフトの検討を始めた日本グリーフケアギフト協会の加藤代表理事が講演。加藤代表理事は子どもを亡くした経験があり、遺族として眠れない日々の中、葬儀社や市役所・病院などの手続きの際、心ない言葉や態度に傷ついたことも多いという。そうした中、出会ったのがグリーフケア。日本では1995年の阪神・淡路大震災を機に注目されるようになった。
 加藤代表理事は遺族への接し方は重要で「相続は大きな契約の見直しの機会」と指摘する。2015年の死亡者数は約129万人、相続税の対象となったのは約10万3000人、相続税1人当たりの課税額は1億4126万円。「遺族は心に寄り添った応対をしてくれたら、そこで契約したくなる」。
 仙台での1年の成約実績は、定期貯金が47件・1億7180億円(1件平均366万円)、終身保険が23件・6050万円(1件平均263万円)、他の保険が9件・3800万円(1件平均422万円)となっている。
 不安定な心理状態で受けた接客は普段以上に印象に残り、短い時間で企業の良し悪しを決定する。死亡手続に郵便局を訪れた遺族には「最も慎重かつ丁寧な応対が必要」。窓口グリーフケアギフトは「誠意を印象に残すツールとして使って欲しい」と話した。
 講演に続き、仙台市北部連絡会が良い事例〈山内眞規かんぽ営業インストラクター、荒井努局長(塩釜駅前)〉と悪い事例〈中野課長、荒井局長〉についてロールプレイングを披露した。
 第2部では夢野久美子局長(広島福田)、石井祐之局長(前橋平和)、辻田忠広局長(茨木中穂積)、小池秀岳局長(横浜美しが丘四)、永徳美智枝局長(大分千才)、松田眞理局長(西麻布)、山﨑局長、内ケ崎統括局長はじめ仙台市北部地区の4名がそれぞれ取組みや成果を報告した。
 第3部では加藤代表理事がコーディネーター、身近な家族を亡くした経験のある田中幹久局長(平野加美南)、前田太局長(津屋崎)、吉村智代局長(古賀花見)をパネラーとしてパネルディスカッションが行われた。
 「遺族には『こんなことがありましたよ』と故人のエピソードを話すことにしている。郵便局での遺族も知らないような事実が分かるなど、遺族の気持ちを和らげることができる。必要書類の入手法等遺族が分からないことは郵便局で調べて伝えて、たらいまわしのようなことはしない」(田中局長)。
 「遺族のお客さまには普段から慣れ親しんでいるからこそ、かける言葉を選ぶ。相続は複雑なこともあるので、電話で関係機関に問い合わせするときは事務的な話の内容が遺族のお客さまに聞こえないように配慮する」(前田局長)。
 「故人の生前の思い出を一緒に偲び、お客さまにお見せする表情に配慮して丁寧なお悔やみを述べる。窓口グリーフケアギフトの取組みはお客さまとの絆がより深まる。広がっていくことを期待」(吉村局長)などの意見が出された。
 内ケ崎統括局長が「CS・組織マネジメント」と題し、「郵便局長の人間力、マネジメント力のレベルが、そのまま郵便局の組織レベルになる。みんなが活発にアイデアを出し、組織の方向性を確立することが重要」など仙台市北部地区の取組みを紹介した。
 最後にかんぽ生命の井戸良彦常務執行役が「深い哀しみに寄り添うグリーフケアは、郵政事業ならではの取組み。遺族に寄り添うことは、どの会社も行っているだろうが、もう一歩、高いレベルで感動を与えることだ。郵便局がここまで思っていてくれるとなると長い付き合いが生まれる。かんぽ生命も積極的に支援していく」とあいさつ、郵便局での窓口グリーフケアの拡大に期待を寄せた。


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