コラム「春秋一話」

 年/月

第6880号

「生活を楽しむこと」と娯楽

 若い頃、と言っても高校生だったが、『次郎物語』(下村湖人)や『出家とその弟子』(倉田百三)がベストセラー(愛読書)にあげられていた。大正教養主義の影響を色濃く残した書物が読まれていた時代だった。大学生には『三太郎の日記』(阿部次郎)などが読まれていたらしいが、私には難しくて歯が立たなかった。
 そうした中、三木清の『人生論ノート』は親しめた。どれほど理解できたかは定かではないが、冒頭の「死について」などは、その後も時折、読み返したりしてきた。最近、NHKで『100分de名著』として紹介、テキストが公刊されていたので、久しぶりに読んでみた。
 以前は書かれた時代などは気にしなかったが、テキストではそこに言及されており、納得することも多かった。書かれたのは1930年代の後半だが、何かにつけその時代のことを考えることも多いからだ。現在が1930年代の後半と類似しているとはよく聞くことであり、その時代への関心は強くあるからだ。
 今回、久しぶりに開いてみて、興味をそそられたのは、幸福について言及しているところだった。幸福ということなどを考える心的な余裕など失っているのが現在とされても、どこかで私たちは幸福のことを考えたい。そう思っている。
 「娯楽というものは生活を楽しむことを知らなくなった人間がその代わりに考え出したものである。それは幸福に対する代用品である。幸福についてほんとうに考えることを知らない近代人は娯楽について考える」
 幸福などを考える代わりに娯楽で事を済ましていると言えなくもない。
 三木は少し前のところで「鳥が歌うがごとくおのずから外に現れて他の人を幸福にするものが真の幸福である」と言っている。これは生活を楽しんでいることが、自然に現れてきたものだろう。それなら、ここで三木が言っている、幸福の代用品としての娯楽についてはどうなのだろうか。
 娯楽という言葉から、人々は仕事や家事からのつかのまの息抜き、生産的活動に対する消費的活動を連想するだろうか。身近なところではテレビのバラエティ番組などを思うかもしれない。テレビではバラエティ番組が全盛期だ。娯楽番組を代表するものとみなしている人も多いだろう。
 ゴールデンタイムに占めるバラエティ番組の比率などは調べたことはないが、かつての歌番組などに取って代わられている。これらが、現代の娯楽を代表するといえば、異論もあるだろうが、娯楽の大きな場をなしていることは確かである。現在では娯楽が肥大化し、それが、幸福ということもおおいつくしているのかもしれない。
 三木はこうした娯楽と生活を楽しむということとは違うと主張している。三木が生きた時代と現在とでは人々の生活に占める生産や消費、娯楽の規模も違うが、彼が幸福の代用品としての娯楽を享受することと、生活を楽しむことを区別していることは示唆されるところが多い。
 私たちは生活を楽しむより空虚感を感じことが多く、それが娯楽などの代用品で充たされることがないこともよく知っている。生活を楽しむことは娯楽を享受することではなく、文化を享受することにあるが、その意味では日々の生活を潤す文化を見出すことが難しくなっているのかもしれない。
 三木は文化として芸術活動をあげ、スポーツは信用できると語っているが、文化の代用品としての娯楽ではなく、文化を発見し、それで生活を楽しむ術を見出さなければならない。娯楽と文化の違いを見出すことには知力がいるのだが、そのことを意識(自覚)していなければならない。
(坂田の力)

第6879号

異次元の金融緩和から4年

 日銀が2013年4月、異次元の金融緩和(量的・質的金融緩和)を決定して4年となる。デフレ脱却が大きな目的で、2年程度で2%の物価上昇を実現するとした。物価上昇で企業の売上げを伸ばし、収益を拡大、賃金上昇に波及させ、消費を活性化させるという経済の“好循環”を期待するものだった。
 15年には2度にわたり物価上昇の達成時期を先送りし、16年1月にはマイナス金利政策を決定し2月から実施した。この年も3度、達成時期を延期した。同年11月には18年度頃にはとしたが、黒田東彦総裁の任期は18年4月、果たしてそれまでに達成できるだろうか。
 現状は経済の好循環には遠い。この4年間で物価上昇は2%に届かず、16年はマイナスとなった。実質賃金は減少、消費も伸び悩んでいる。14年4月に消費増税を行った影響も大きい。異次元の金融緩和は、資金を大量に銀行に流し、市場金利を下げることで借り入れが増え、景気を刺激、活性化することだが、銀行の国内貸出は年2~3%しか増えていない。
 中小企業向けの貸出しは2000年代に比べて大きく落ち込んだ。働く人の大部分が所属する中小企業へ資金が流れにくい状況の影響は大きい。銀行の総資金利ざやが低下し、マイナス金利が更に圧迫した。ゆうちょ銀行も影響を受けている。
 さらに、米国のトランプ大統領の登場で懸念材料が増えた。中国や日本が対ドルレートを意図的に下げていると指摘、米国の貿易赤字への対処を求める考えを示している。政府は「金融緩和は2%物価上昇目標を達成するためで、円安誘導との批判は当たらない」とするが、異次元の金融緩和は円安・ドル高が進む一つの要素ではある。
 4月18日に予定されている日米経済対話の事前協議で、米国は為替問題や2国間の貿易交渉を要求するとされる。株価もトランプ相場と言われ乱高下し、為替相場も一時は1ドル120円に迫ったが、110円台までの円高水準となっている。
 また、異次元の金融緩和で、金融市場で売買される国債が枯渇するとの指摘が出ている。日銀は長期国債を銀行から大量に買い、保有残高は年間80兆円のペースで増えている。2016年末の国債発行残高は約1076兆円、日銀の保有残高は約421兆円。市場で流通する国債のうち過去最高の約4割が日銀保有だ。国債は銀行などの金融機関が落札し、その後に日銀が買い取っている。
 市場で国債が不足すると銀行は資金取引の担保にする国債が不足する。金融市場に歪みをもたらすとされる。日銀は国債購入を通じて市場へ供給する資金量より、金利操作の政策へと軸足を移しているが、今後も国債の保有残高が増加する公算は大きい。
 さらに、大きな課題は異次元の金融緩和が、いつ終了できるかどうかだ。この4年間で日銀当座預金に金融機関が積んでいる残高は7倍になった。金利を引き上げると日銀の利子負担は大きくなり、巨額の損失が発生するのではないかとの恐れで、金融緩和の出口で日銀が赤字になる可能性だ。赤字を出すと政府に納入する資金が減少、国民にとっても好ましくはない。
 米国は量的金融緩和を終え、昨年から2回の利上げに踏み切っている。トランプ大統領の積極財政への期待もあって長期金利は上昇、日本の国債市場にも影響が及びそうだ。欧州中央銀行も昨年から買い取る資産の規模を縮小した。
 異次元の金融緩和の出口を探るとともに、実体経済が好循環となる有効な政策を考える時期ではないだろうか。
(和光同塵)
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【訂正】4月3日付の春秋一話で「2007年の郵政民営化、17年の改正郵政民営化法の成立から5年」とありますが、改正法成立は2012年でした。

6878号

新たな価値生み出す新年度

 民営化されて本当に郵便局は良くなったと評価される果実とは何か。やはり、郵便局に足を運ぶ顧客が増えることが指標になるだろう。窓口への顧客は総体として減っていることを耳にする。
 じわり簡易局化が進む過疎地の直営局―。簡易局も地域住民にとっては大切な存在であることは間違いない。しかし、金融を含む三事業の提供は直営局だからこそできる。
 「経営が厳しくなり、時代が移り行く過程で三事業を別のやり方で提供してもよいとの考え方に変わっていけば、(柔軟な方策の)検討余地はある。現時点では、直営局を簡易局にするアイデアしかないことになると思う」。
 ユニバーサルサービスの維持方策が検討されている協議の場で、行政側からはこのような発言も出ていた。簡易局にかかる年間のコストは直営局のおよそ4分の1。経営者の立場に立てば、真っ先にコスト削減方策として目を向けざるを得ない部分かもしれない。
 こうした中、利用者にも納得される形で、過疎地の直営局の新たな価値を生み出さなければ、厳しい経営環境を背景に必然的に簡易局化が進んでしまう可能性もある。その意味で、金融窓口業務と直結するわけではないものの、簡易局を除く全局取扱いを前提に、改めて認可申請されたゆうちょ銀行の口座貸越サービスは一定の意義があるだろう。
 全国郵便局長会(青木進会長)が要望していた個人向けカードローンとは少し異なるが、必要性として強調されていた子育て世代の若者ニーズに応える点で近いものがある。ゆうちょ口座を使って生活費のやりくりをする若年層の顧客が拡がることを期待したい。
 子育て世代ニーズに応えるといえば、日本郵便のデジタルメッセージサービス(電子私書箱=マイポスト)が連動する政府のマイナポータル(マイナンバー制度で個人ごとに設けるポータルサイト。行政保有の特定個人情報や記録、自分への通知などをインターネットで閲覧できる)は当初、2018(平成30)年春の本格運用の予定だったが、スマートフォンでの利用可能時期を今秋に前倒しした。来春の保育所申請や児童手当の現況届などの手続きをスマホで出来ることで、マイナポータルの利便性を子育て世代に実感してもらうことが目的だ。
 今秋といえば、やはり全直営局での扱いが予定されるタブレットを使った「みまもりサービス」の本格実施時期と重なる。親世代のタブレット使用には様々な課題もあり、まずは訪問サービスからのスタートになるようだが、近隣の郵便局が訪問サービスで見守り、離れた地域の子育て世代がスマホなどを使って親世代とつながる。
 口座貸越サービスも将来は、デビットカード(預金口座とひもづけした決済用カード)と連動。急速に進むフィンテック(金融とITの融合)に伴い進展するカード社会の中で、ゆうちょ口座を持つ顧客はスマホやタブレットで決済などの金融サービス、マイポストを使って様々な行政サービスを受けられることになる。あまり、関係のなさそうな「みまもりサービス」と「マイポスト」がスマホやタブレットを通じてつながり、さらに2年後、口座貸越サービスというもう一つの要素も加わることで、郵便局の利用が増えることが期待される。
 2017(平成29)年度は日本郵政グループ中期経営計画の目標年度。「成長・発展を遂げるためのグループ戦略を推進」する確立期から17年度以降の「進化・発展を継続し、新郵政ネットワークを創造」の成長と発展期に移行するターニングポイントともいえる。郵便局ネットワークに新たな価値を生み出し、顧客増という果実を勝ち取る新年度になってほしい。
(涓埃之功)

第6877号

郵便局は地域の生活インフラ

 2007年の郵政民営化から10年、17年の改正郵政民営化法の成立から5年となる。15年の日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式上場など新たな時代を迎えている。改正法では民営化の定義を小泉民営化の基本方針を削除、「株式会社に的確に郵政事業の経営を行わせるための改革」と修正した(第1条)。 当時、全国郵便局長会の顧問を務めていた元総務大臣政務官の長谷川憲正氏は「郵便のみならず貯金、保険もユニバーサルサービスの義務が課せられた。的確に郵政事業の経営を行うということは、単に収益を上げればよいということではなく、三事業のユニバーサルサービスの義務を果たすという改正法の趣旨を踏まえた経営が求められる」と強調していた。
 「郵便、簡易な貯蓄、送金及び債券債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務」が「郵便局で一体的に利用できるようにする」とともに「将来にわたりあまねく全国において公平に利用できる」よう「郵便局ネットワークを維持する」。「郵便局ネットワークの活用」に当たっては「公益性及び地域性を十分に発揮する」(第7条)とされている。
 総務省の「郵便のユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会」でも議論されており、5月頃にも報告書がまとめられる予定だが、ユニバーサルサービスを維持するには、簡易局化や窓口時間の短縮などの効率化を想定、そのコストは日本郵政グループの経営努力でねん出するとされることも懸念される。
 果たしてユニバーサルサービスとなるだろうか。改正法は郵政グループに的確な経営を行わせるとし、ユニバーサルサービスを課し、郵便局を通じて提供することを求めている。ユニバーサルサービスには郵便局ネットワークの維持が密接不可分だ。
 過疎化が進む北海道由仁町では「郵政事業協力会」が立ち上がり、郵便局支援を目指している。それは地域にとって郵便局は「なくてはならない存在」だからだ。郵便局の存否は地域にとって死活問題だという。5年ほど前に住んでいる人が少なくなった集落にある川端郵便局が閉鎖になるとの話が出たが、町民が存続を訴え、なんとか継続となったという。
 由仁町と連携し住民票の交付事務も行っている。町内の三川郵便局では証明書交付だけでなく、文書収受事務を4月から開始した。役所に提出する書類を受け付け届ける事務。郵便局は過疎地域で役所の支所としての役割も果たしている。生活に密着、信頼も高く地域に欠かせない。「郵便局を絶対になくさないでほしい」と由仁町の松村諭町長は切実な思いを述べる。
 郵便局ネットワークは都会だけで成り立っているものではない。地方があってこその全国ネットワーク。同じ国民として郵政事業でも同等のサービスを受ける権利がある。改正法でも全国あまねく公平に郵便局を利用できることとされている。地方創生も郵便局の果たす役割に大きな期待が寄せられている。移住・定住に苦労している地域、郵便局がなくなってしまえば益々難しくなる。
 全国郵便局長会も地域のためにユニバーサルサービス、郵便局ネットワークの維持に向けて取り組みを強化していく方針だ。改正法の趣旨から鑑みれば、単なる効率化だけの簡易局化や窓口時間の短縮などで本質的な解決はできないだろう。
 郵政グループは「そばにいるから、できることがある。」と「トータル生活サポート企業」としての大きな社会的使命がある。しかし、上場で新たな株主も誕生した。民間企業に全てを委ねるのではなく、ユニバーサルサービスが提供できる仕組みが必要だろう。改正法はユニバーサルサービスの義務を課し郵便局を通じて提供するとした。その趣旨を担保する枠組みを改めて確立することも政治の役割だ。どこに住んでいても同等のサービスが受けられる日本であって欲しいとの切実な声に、政治はどう応えるのか。
(麦秀の嘆)

第6876号

豊洲市場の移転問題に思う

 いつの間にか、お彼岸という言葉を聞くようになった。時には真冬に戻ったような寒い日もあるが、早咲きの桜を見かけるように春は近づいている。この間はテレビの野球放送に釘付けになっていた。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の熱戦を珍しく、連れ合いと夜遅くまで観ていた。ちょっと体力に問題があって球場までは出掛けられなかったが、楽しませてもらった。
 テレビで森友学園や豊洲市場移転問題などが連日報じられている。これはあまり、触手の出ることではなく、できれば避けたい気のするものだ。でも、こんなのは自分には関係がないと言い切るわけにはいかない。政治的な問題というよりは公的な問題だからである。
 これらについてのテレビや新聞の報道を見ながら思うことは、日本の公的組織はどうなっているのか、という思いだ。森友学園と豊洲市場は同じに論じることができないものだが、日本における公的な世界の不透明さの認識をもたらすことは疑いない。私たちが避けてはいけないことのように思う。森友学園のことは今後まだ多くのことが出てきそうなので豊洲市場問題の方に触れたい。
 百条委員会での石原慎太郎元知事の証言でこの問題は大体のところが出尽くしたのだろう。汚染された土壌の残る豊洲市場に移転をするのか、中止するのかが、この問題の核心にあることだ。これにあたってなぜ、どのような経緯で移転が決定されたのか、経緯と責任を明らかにするのが、都議会に設定された百条委員会のなすべきことだった。
 移転を決定した都政(石原都政)の証言が重要であり、人々は石原元知事の発言に注目した。石原氏の発言は、テレビや新聞の報道で多くの人が知ったことと思う。2年前に患った脳梗塞の影響があり、証言もままならいということには同情を禁じえないが、「記憶にない」という発言の連発にはがっかりさせられた。
 というのは、氏は近年、『天才』(田中角栄についての本)を書き、自己の政治活動について反省したのではと思っていたからだ。この本は田中角栄の評価を通じて自己の政治家としての所業に反省をしているのかと思えたからだ。
 石原氏が自分は最終的な判断をしたが、事を進めたのは、都の官僚や専門家たちだと述べていることに嘘はないと感じた。自分の政治的責任を免れるために部下たちに責任を転嫁するような発言をしている、とは思わなかった。
 一番の問題は石原氏が汚染問題や安全問題をどのように認識していたかである。そのことについての認識というか、関心はあまりなく、それゆえに移転問題は政治的処理で済むと考えたのではないか。
 石原氏の政治思想が保守的であったことはよく知られていた。彼が女性問題などを現在の問題として受け止められず、物議をかもしたことは知られるが、環境問題についても同じだったように感じる。これは原発問題についての見解でも明瞭である。汚染問題(環境問題)に対する政治的見識(認識、あるいは理解力)が問題だったのではないだろうか。
 そして、改めて政治家の見識の重要性を思った。政治的に相当変わったことが行われることには、政治家の見識が関与しているのだ。そして、このことはアメリカのトランプ大統領についてもいえるのではないか。彼のマイノリティ(少数者)の問題(例えば、女性、人種、宗教など)に対する見識に不安や懸念を抱く人も多い。それは、大きな政治的結果を生んでいくかも知れないのである。
 政治家の持つ見識がとても重要であることを、豊洲移転問題は示唆しているように思える。
(坂田の力)

第6875号

地方創生でビジネスを学ぶ

 地方創生のため、政府や産業界を挙げて様々な政策議論や活動が行われている。
 地域活性化は、さかのぼれば1980年に大分県で始まった一村一品運動に端を発する。これに続けと県や市が指導して全国で特産物の開発が行われた。補助金で加工施設を建設し、見本市の出展にまで補助が付いた。補助金が続いている間は何とか維持できたが、販路を開拓することができず、消えていったものも多い。バブルが崩壊し、荒波を乗り越えることができなかった事業者もまた消えていった。
 80年代後半の1年間、地方で市町村の特産物の取材をしていた。まだ地方がそこそこ元気な時代。販路が悩みだと言いつつも緊迫感はなかった。その後、安倍政権が発足した翌年、2013年から14年までの1年間、再び全国の企業や特産物を取材した。崖っぷちに立たされた企業が生き残りをかけてチャレンジしている姿が感動的だった。起死回生した会社はたくましく、エネルギーを感じた。共通するのは「このままではいけない」という危機感。それが経営者のやる気とアイデア、実行する能力を奮い立たせたのだ。
 「非連続に変化する産業構造―今、地方が面白い」というタイトルに魅かれ「地域ICTサミット2016」(総務省など主催)の野村総合研究所・谷川史郎理事長の基調講演を聞いた。
 地方が面白いというのは「失われた20年を経て、再び地縁血縁を使いながら、新しい業態に軽やかに挑戦する経営者が出てきている」ということだそうだ。
 ITを活用し集中管理するコインランドリーのフランチャイズチェーンや、オランダの会社とトマト栽培の独占契約をして大規模・自動化したハウスで栽培する農家、地元の部品メーカーの得意なものを集めて航空機部品を作るプロジェクトなど。
 トマト農家は造園業を継いだ元コンサルタントの若い経営者の発案。都会からいろいろな知見やビジネス経験を積んで戻ってきた後継ぎが、既存の商売に新しいアイデアを加えて、新業態にチャレンジしている。そういった動きが少しずつではあるが、出始めているという。
 崖っぷちから立ち直った企業の多くは、確固たる技術を持っていたこと。ただ、みんな大手メーカーの下請けだった。不況や海外からの安い製品などにより、注文が減っていった。厳しくなった会社から倒産していった。これまで、下請けだったため、製品開発力も販売力も持ち合わせていなかった。瀕死の病人に打つ手も時間もなかった。
 今治タオルは、品質保証を兼ねた佐藤可士和さんデザインのブランドマークで復活した。価格競争により失われた今治タオル本来の品質に回帰し、その復活に徹底的にこだわった。厳しい品質条件をクリアしたものにだけマークを付けた。「最初は売れなくてもディスカウントしない」と踏ん張った。今では「マークの付いた今治タオル=品質がいい」というイメージが消費者に根づいた。
 日本酒も全国の酒蔵では、大手メーカーから委託された造り方で生産してきた。受注が減ってきた時、自社のブランドで納得いく酒造りを行い、味と品質を守ってきた酒蔵が元気に生き残っている。
 酒米の山田錦に徹底的にこだわった旭酒造(山口県)の「獺祭(だっさい)」は、海外でも人気の日本酒だ。桜井博志社長は「山田錦だけを使い磨きにもこだわった。これだけの回数を山田錦で造っているところは世界中探してもない。我々の強みはそれらの経験だ」。
 桜井社長は大手メーカーの営業の経験があり、販売戦略にも長けている。高級ブランドの獺祭を海外でも売る。その戦略としてまずはフランス・パリで売った。「フランスはさほど儲からないが、食通で知られる国で評価が得られれば、アメリカ・ニューヨークで売れる」。
 その戦略が当たり、獺祭はニューヨークで大人気だ。ジャパン品質を保ち、売っていくには、国内需要だけでは賄えない。日本だけではビジネスが成り立たなくても海外まで含めればビジネスとして成り立つ。
 日本にはまだまだ、メーカーとしてチャレンジできる優秀な下請け企業がある。商品開発やブランディングもあるが、小さな会社が一番困っているのは販路だ。小ロットで作られた製品は優秀であっても大きな流通には乗りにくい。
 日本郵便にはカタログ販売などの物販事業があるが、地方の優秀な技術やおいしいものを生産する農家が製品づくりをする場合、販売を手助けするのも地方創生に役立つのではないだろうか。
 金融機関にも担保・保証に必要以上にこだわらず、ビジネスそのもののを見ていく。経営者のやる気や能力やビジネスプランで融資の判断材料にする流れになっている。それらの情報とビジネスを読む能力が求められているのだ。
 販売前からテストマーケティングなどの事業にかかわることができれば、ビジネスを知るための経験にもなるのではないだろうか。広がれば世界の郵便局ネットワークを使った越境ECの可能性もある。リスクもあるがトライする時期でもあるのではないか。
(招福招き猫)

第6874

地元企業にさらに目を

 「(三事業の)ユニバーサルサービス提供のための郵便局配置の問題は就任以来、まだ議論したことはないが、水準をどうするかは当然していかなければならないだろう。その場合、採算上の問題が生じることは赤字局と関連する大きな課題だ」。郵政民営化委員会の岩田一政委員長は3月1日、委員会後の記者会見でこのように指摘した。
 「人口が減っていく中でも数の維持は今のところ必要だと思う。やがてどこかで分岐点があり、ユニバーサルサービスを違う指標で確保する状況が出てくるのかもしれない」と前増田寛也委員長も3年ほど前に語っていた。
 分岐点は今なのか―。そうした議論が総務省内でまもなく始まる。日本郵便は昨年9月に「郵便局ネットワークの維持について、現在の仕組みのままで過疎地の郵便局を維持し続けられるかは微妙な課題」と公の場で発言。総務省は「日本郵便株式会社法施行規則で設置基準が定められているが、どう議論して、どのような方策があるかは非常に難しい問題」と話す。方向性を誤ると、地域で生活する人々の利便性に大きな影響を与える。
 こんな事例があった。平成の大合併で、1999(平成11)年約3000あった市町村は11年間でおよそ半分になった。その後大きな変化はないが、合併時、増えた支所に町や村の財政を司る指定金融機関に入ってもらい、住民サービスの便宜を図った市町村もあったようだ。
 ある郵便局長は「時間の経過とともに人件費や場所代のコストがかかり、効率化のために営業日を隔日にしたが、お客さまは月水金か、火木かは覚えていない。一度でも開いてなければ使い勝手が悪いと感じ、行きたくなくなる。そのうち、金融機能がなくなっていった」と振り返る。
 日本郵政グループ内でも過去に水面下で検討された窓口時間の短縮などが報じられた際、政府には全国の村や町から見直しを求める公印と署名付きの要望書、陳情が山積みになったことを耳にした。当初、組織的な動きのように見られたが、調べた結果はそうではなかった。金融アクセスが急速に失われることを懸念した市町村や市町村議会が個々に送ってきたものだった。自治体はますます広域行政化し、住民サービスはどんどん手薄になる。
 「過疎地で最も金融難民が存在する地域では、他金融機関は撤退せざるを得ない状況下にある。どう補完しながら郵便局ネットワークを維持するかを、会社も、全特も、政治も考えるべきだ。人口が減少、高齢化率が高くなるばかりで、税収も厳しい」と柘植芳文参院議員。
 「過疎地の赤字局に三事業別の高い目標を掲げ、全国一律の競争を強いても太刀打ちできない。過疎の郵便局と市町村と企業の三者が、過疎だからこそできるビジネスモデルを生み出し、誇りを持って仕事ができる仕組みを作り上げていくべきだ。収益を稼ぐのは都市部局。都市部ではいくつかの局を合わせた形にして中堅の局を増やしてもいいのではないかと思う。しかし過疎地局は違う」と強調する。
 日本郵政グループの次期中期経営計画の作成に向けた議論もそろそろ始まると思われる。貯金残高より総預かり資産重視、フィンテック(金融とITの融合)やドローン(小型無人航空機)研究や準備など時代に則した意気込みも期待されている。
 しかし、機械化が進む中でも人とシステム、人と人をつなぐのはやはり“人”。まじめ過ぎるような郵便局の素朴感と津々浦々まで広がるネットワークの強みは人あってこそ。全てを活かしきる連携施策に向けて「大企業だけでなく、各支社が地元企業にさらに目を向けるべき」との郵政関係者の言葉が印象に残る。
(涓埃之功)

第6873号

GDP年1.0%成長だが

 2016年10~12月期のGDP(国内総生産)は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期(7~9月期)より0.2%増えたと2月13日、内閣府が速報値を発表した。この状態が1年続いた場合の年率換算では1.0%増となる。4四半期連続のプラスとなったが、伸び率は依然と低い。
 物価変動の影響を反映した名目GDP、こちらが生活実態に近いが、前期比0.3%増、年率換算で1.2%増と実質値を上回ったが、これは野菜などの生鮮食品などの物価の上昇が反映している。
 実質の増に貢献しているのは半導体などの電子部品、米国や中国向けの自動車の輸出で、前期比2.6%増となったが、GDPの6割を占める個人消費は0.01%の減少と4期ぶりにマイナスとなった。依然として外需頼みで、内需が拡大するといった状況ではない。16年1年間の成長率は実質で前年比1.0%増、名目で1.3%増だった。
 個人消費が伸びない日本経済はまだぜい弱と言えよう。身の回り品や小遣い、衣服、履物などの消費も振るわなかった。
 消費支出のうち、食糧の占める割合を示すのにエンゲル係数がある。13年から16年まで連続して上昇しているという。経済成長と共に低下が続いてきたが、ここにきて再び上昇傾向だ。
 総務省は1月31日に16年12月分の家計調査の速報を発表した。エンゲル係数は12月が27.5%、16年平均では25.8%になり、87年以来29年ぶりの高水準だったことが判明した。エンゲル係数が高くなるほど生活が苦しいとされる。
 食料品は嗜好品に比べて極端な節約ができない。生活が苦しくなると家計支出に占める食料品の割合が増加する傾向がある。エンゲル係数が上昇した原因は消費税の8%への引上げ。円安が進んだことで原材料費が上昇する一方、実質賃金はそれほど伸びていない。
 内需の主要な要素を占める個人消費が伸びてこそ生産や投資も増加する。外需頼みでは、円高や米国トランプ大統領の“アメリカ第一”の影響などがあれば不安定だ。株価も“トランプ相場”とされ乱高下している。対日赤字への不満を示すと下落、原油パイプラインの建設を進める大統領令に署名すると値上がりした。ドル安を志向して、日本の金融政策を為替誘導だと批判したともとらえられる発言もある。今後は円高傾向も想定される。
 政府は「所得が伸びているものの消費は力が弱い」とするが、実質賃金の伸びは低調のままだ。
 2月22日に発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査では、昨年12月の実質賃金は前年同期比0.4%減、16年1年間平均では0.7%の増に過ぎない。
 個人消費の低迷には賃金や将来不安といったものが影響しているのだろう。格差解消や財政健全化、金融の安定化などが求められる。
(和光同塵)

第6872号

春の息吹感じるプロ野球キャンプ

 昔、プロ野球のキャンプが始まると宮崎に見学を兼ねて温泉に行こうと熱心に誘ってくれた友人がいた。彼はその頃は広島カープファンだったが、よく一緒に球場(東京ドームの前の後楽園球場や神宮球場)に出掛けた。根っから野球が好きだったのだろう。その事もあってか、私も子供を連れて球場によく出掛けた。
 その彼が亡くなってから何年も経つが、キャンプインが伝えられると思い出す。あの頃、私には心の余裕がなかったのか、キャンプ見学などに出掛けるのを躊躇することがあった。野球をはじめとするスポーツの意味というものをそれほど深く考えられなかったのかもしれない。
 彼のことを思い出しながら、野球を含めてスポーツのことをあれこれ考える。これは侍ジャパンと称し世界大会のことを持ち上げ騒ぐことや、オリンピックを何のイメージもなしに祭典のようにしようとすることではない。私の生活というか日常の中にある野球であり、まさに生活の中に浸透した文化としてのスポーツのことだ。
 時折、高校時代の友人を誘って古い映画を見に行くが、その度に映画は文化だったのだと思う。
 それは歌(歌謡)にも言えることだろう。私にとって映画や歌はかつての文化(自分の生活や日常とは疎遠になっているという意味で独断かつ主観的な思いだが)になりつつある。つまりは衰退している文化であるように思う。
 私たちの生活に響いてくるもの、解放感をもたらすものとして、野球やスポーツはある。それはいい書物に出会うことにも似ている。鬱屈を強いられる気分を解放してくれるのだ。こんなものしか、私たちの気持ちを解放してくれるものがない時代と言えるのかもしれない。連れ合いがテレビのバラエティ番組に熱心なのをからかいながら思うことでもある。
 ヘミングウェイの小説を読みながら、アメリカ社会に深く根づき、もう文化になっている野球のことに驚いたことがある。少年の頃だ。そのアメリカの野球を私たちはNHKのBS放送などで観ることができる。最初の頃は、これを観る人はいるのかと思ったりもしたが、今は放送が始まるのがとても楽しみだ。
 トランプ大統領がアメリカファーストと言ったときに野球のことを連想した。彼の言うアメリカファーストには良きアメリカのイメージがあるのだろうか。
 野球に例えれば、黒人やヒスパニック系の選手などは締め出されているか、少数だった時代のものではないのかと思える。白人中心のメジャーなど現在では不可能であるように、彼の良きアメリカがかつてのように蘇ることはないのだと思う。
 もし、かつての良きアメリカを取り戻そうとしても、それは矛盾や混乱を引き起こすように思える。トランプ政権は出来て日が浅いから、そのもたらすものにせっかちな判断は禁物だろう。だが、私はメジャーの放送を楽しみにしながら、そんなことも想像した。
 万葉集で「萌え出づる春…」と詠まれたように、春は私たちの心を躍らせる。都会の生活の中でも季節のもたらすものは感受できるが、それは希薄になっていることも事実だ。人は生活の中から、自然との交歓だけでない形の喜びを文化として生み出してきた。
 私にとって野球やスポーツはそうしたことの一つだが、意識的にというと少し変だが、大いに享受したい。球春到来へそんな思いを馳せる。(坂田の力)

第6871号

ペッパー君は優秀な社員

 「月給5万5000円で働きます。」というキャッチコピーで紹介されているのはソフトバンクの人型ロボット「Pepper(ペッパー)君」。受付や案内から販売促進、介護施設でのレクリエーションまでマルチにこなす。中国語や英語も話す優秀なスタッフとして現在、国内の約2000社で導入されている。アプリやコンピュータを自由に組み合わせることができ、企業の使い方も様々。外国人観光客のコンシェルジュやお年寄りの話し相手、万引き防止の監視、バーテンとしても働いている。
 自然言語を理解・学習し人間の意思決定を支援する「ワトソン」(IBM)やスマート対話システム「TAISHI」(リクルートテクノロジーズ)とつなぐことで、文脈を理解し自然な会話をすることもできる。金融系での導入も増えており、ローンや保険業務のアシスタントとして使っている企業もある。文脈を理解しているため、会話の途中で「金利は?」と質問した時に、定期預金や国債など金利が多数ある中で、住宅ローンの会話をしていれば、その金利を答えてくれる。ワトソンなら大量の情報の中から自ら適切なデータを選び、胸にぶら下がっている画面に映し出してくれる。
 「AI」「IoT」「ロボット」。この3つのキーワードは、次世代のビジネスには欠かせない。世界の企業が開発にしのぎを削っている。日本が得意としているのはロボット。AIの導入は遅れ気味だったが、ロボットとの連携でその活用が広がっている。ソフトバンクロボティクスグループの冨澤文秀社長は「世界では戦いが始まっている。ロボットで日本がリードしているのは、お客さまのニーズを把握し、改良し続けているから。研究所ではできないことだ。良いロボットを作り、この分野で勝ちたい」と世界のペッパー君を目指す。台湾や中国からも引き合いがあるという。
 「ペッパーワールド2017」で、ヤマダ電機の一宮忠男副会長(CEO)は「小売の要はマーケティングデータの活用にある。ワンツーワンマーケティングツールとしてのペッパー君の存在は大きい」と話す。ドライヤーなどの非接客商品(積極的には説明をしない商品)を紹介させ、クーポンを発行させたところ普段の3倍の売上げ。「商品の良さをアピールすれば売れる。小売りの原点を見る思いがした」(一宮副会長)。
 ソフトバンクの店舗ではソフトバンクカードの勧誘にペッパー君を使ったところ、契約数が約2倍になった。ペッパー君を店先に置き、足を止めた人に簡単なアンケートを行い、粗品のプレゼントで店内に誘導、販売員が接客に当たる。店頭で顧客の通信サービスの利用状況や意向などが分かっているので、スムーズな接客ができる。ペッパー君と営業スタッフががっちりタッグを組んで売上げを伸ばしている。
 ある介護施設ではペッパー君が踊ってデイサービスの健康体操の指導員の役割を担っている。顔認識機能もあるので、会話は本人の名前で呼びかける。お年寄りはとても親近感を抱くという。拒否が強く引きこもりがちだったお年寄りが、ペッパー君のレクリエーションには積極的に参加した。「孫のようにかわいい」とお礼の手紙まで書いてきたという。施設では1日のうち2~3時間は話し相手をしているそうだ。
 明治安田生命保険では昨年秋に110台を導入し、全国の支社に置いた。相続セミナーの講師や司会、Jリーグのイベントにも参加させている。社員のタブレットとも連動させているので、ペッパー君を通じて必要なデータを呼び出すことができ、顧客一人ひとりに寄り添う保険の提案にも役立っている。今後は手続きのサポート、無人店舗での案内、知識の継承に活用する計画だ。
 ペッパー君は2014年に生まれて2歳程。人間ならよちよち歩きだが、毎年、成長(バージョンアップ)している。今年はSLAMという機能をプラスし、地図とセンサーでオフィスやショールームの中を自ら動いて案内できるようになる。「AIに仕事を奪われる」と言われているが、低賃金で疲れ知らず、業務成果を上げているペッパー君の導入事例を見ていると、ロボットが人に代わって知的な仕事もする時代を予感させる。日々進化しているロボットやAI。人の能力もバージョンアップしなければ、生き残れないかもしれない。(招福招き猫)

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