コラム「春秋一話」

 年/月

第6888号

郵便局のみまもりサービス

「郵便局のみまもりサービス」が開始される。8月から募集を受け付け、10月から始まる予定だ。料金は月間2500円。地域に住んでいる高齢者の生活状況を社員が確認し、都市部に住んでいる子ども世代など身内に伝える。それに先だち4月から茨城県大子町(綿引久男町長)で郵便局社員による「みまもり訪問サービス」と「みまもりでんわ」の提供が行われている。
 訪問サービスは、一人暮らしの高齢者を毎月1回訪問し、確認した生活状況をタブレット端末を活用して大子町や子ども世代などに報告する。みまもりでんわは、毎日指定された時間に自動音声による電話(オートコール)がかかり、健康状況に合った番号を押すことにより、体調を確認する。こちらも結果は大子町や子ども世代などに伝えられる。
 大子町では以前から「あんしん訪問事業」「あんしんコール事業」として同種のサービスを行っていた。これを日本郵便が一括して受託した。こうした自治体からの受注は東京都檜原村(坂本義次村長)に続き2例目。大子町も料金は自治体が負担する。訪問する社員は大子町の嘱託員から関東支社所属(大子郵便局駐在)の期間雇用社員となった。
 その社員が「『大子町役場です』と言って訪問していたときは、軒先で『元気です』といった程度の対応だったが、郵便局の赤い車に乗り、制服を着て『郵便局です』と回るようになってからは、わざわざわざ家の中に上げてくれて、お茶まで出してもらい、じっくりと話をすることができるようになった。契約では30分だが中には1時間も話す場合もある。郵便局の地域と結びついた信頼関係、歴史の重みを痛感した」と話していることを、関東地方郵便局長会の長谷川英晴会長(全特理事)がある会合で披露していた。
 郵便局への信頼が大きいことの証だ。郵便局が主体的に取り組むみまもりサービスの開始も注目されるが、訪問社員の確保も課題。関東郵政退職者同友会では、今年度の事業計画の中の郵政事業への積極的な協力として「高齢者宅を郵便局社員が訪問するサービスでは郵政OBの支援も必要としており、要員の派遣などについて協力する」としている。地域活動を積極的に行っている郵政OBとの連携も期待される。
 フランスのラポストでも“あなたの両親を見守ります”と高齢者を訪問するサービスを開始しているという(3面参照)。訪問支援サービスの特別なトレーニングを受けた郵便配達員が、一人暮らしの高齢者を訪れ、何かあれば子どもに知らせる。さらに、水道などのトラブルの際には修理のための人を派遣するサービスも含まれる。料金は訪問頻度や内容によって約4880円~1万7200円だ。
 郵便局のみまもりサービスも、新たなビジネスモデルとなることが期待される。親世代、子ども世代の両方に、更に郵便局への信頼が深まることで、ビジネスチャンスが増えることを望みたい。
 全特の青木進会長も5月に開催された大阪総会で再任された後、記者会見で「2万の郵便局ネットワークを活かし、地方創生とリンクさせながらしっかりユニバーサルサービスを提供していく。それぞれの地域の特性を活かし、活性化に取り組む。昨年から地域貢献・地方創生専門委員会が立ち上がっており、更に活発化して地域に貢献したい」と強調している。
 その地方創生の一環として、ふるさと納税の返礼品の一つに郵便局のみまもりサービスをという動きがある。既に長野県の1市で始まっているという。例えば5万円をふるさと納税すると、その3割程度とされる返礼品として、6か月のみまもりサービスが受けられることになる。
 欧州でも高齢化への対応は課題。高齢化の最先端を走るわが国での郵便局のみまもりサービスの成功、更に新たなビジネスモデルとして進化していくことが期待される。
(和光同塵)

第6887号

少子化対策は人間の営みに則して

 厚生労働省が6月2日に発表した人口動態統計によると、日本の出生数が初めて100万人を割り込んだ。2016年に生まれた子どもの数は97万6979人。一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均数である合計特殊出生率は1・44。前年より0・01ポイント下がった。
 子どもの数は1975年以降、減少傾向にある。少子化対策として、働き方改革や保育所の整備などの施策、経済支援として「こども保険」の創設の議論など様々なことが進められているが、何が大切なのか。
 都道府県別の特殊出生率を見ると、沖縄が一番高く、1・95、続いて島根1・75、長崎と宮崎が1・71、鹿児島が1・68、共働きの多い福井が1・65。
 子どもが増えないのは経済的理由だけというのは当てはまらないかもしれない。合計特殊出生率最上位の沖縄の平均年収は、47都道府県で最下位だからだ。
 都市部の自治体は待機児童の解消に躍起になっている。政府は2020年度末の待機児童ゼロを目指している。潜在労働力としての女性を活用し経済成長につなげようとしているからだ。その目標は「2020年の25歳から44歳の女性就業率77%」。
 野村総合研究所の調査によると「その達成には追加で整備が必要な保育の受け皿は88・6万人分」。ただし、保育の受け皿には認可保育園への入所ばかりでなく、親族による保育も含まれる。
 共働きが多い福井では、3世代同居が比較的多く、祖父母が子どもの世話をしてくれる。安心して働ける要因の一つだ。核家族の場合でも、かつては近くの同じ年齢の子どものいる家や子育てを終えた人に預けていた。人間関係の中で自然に補い合っていたのだ。
 合計特殊出生率の高い沖縄は、認可外保育園が充実しているという。認可保育所の待機児童の数が問題になっているが、もっと柔軟な考え方や工夫があってもいいのではないか。
 野村総研の調査によると、保育サービスを利用している児童でも、約16万人の児童が転園を希望しているという。その理由として31・2%が「家や職場からの距離」を挙げる。その次に多いのが「3歳以下のサービスがない・就学前まで通えないなど保育期間」で15・2%を占める。
 ある人材派遣会社がサテライトオフィスを開設するに当たり、子育て中のママに働いてもらおうとベビースペースを併設した。
 職場と保育スペースが同じだから移動の無駄がない。子どもが職場にいて安心だ。ママ同士で子育て情報も共有できる。終身雇用や正社員、働く期間にこだわらなければ、子どもの発育に合わせて柔軟に対応できるのではないか。
 出生率を上げるという提案から始まった少子化対策の背景には、社会保険を負担する人の減少があった。待機児童ゼロ対策は、子育て中の女性の就業率を上げるのが目的だ。
 専業主婦にも働いてもらわないと、2020年に最大で305万人も不足するという。どちらにしても、社会システムを支えるのに必要な労働力の確保にはどうすればよいか、という議論ばかりだ。
 結婚して子どもは2人以上じゃないと社会システムがもたない。そうして頑張って、子どもを産んだら、就業人口が減るので働いてもらわないと。でも保育所が…。
 そもそも、人が家族を作って子どもを育てるのは、社会システムを支えるためではない。人間の営みに則した議論に変えてはどうか。
 2010年の総務省「国勢調査」によると、女性の未婚率は、25~29歳で60・3%、30~34歳で34・5%、35~39歳で23・1%。子どもを産む年齢の人の未婚率が高くては、子どもが減少するのも当たり前だ。
 結婚しないのは「適当な相手にめぐり会わない」のが理由というが、少子化は、時間やお金、管理され過ぎる社会、人や社会への寛容…いろんな意味で社会のゆとりや人間らしさがなくなった結果かもしれない。(笑福招き猫)

第6886号

ユニバを守り地域社会に寄与

 「先駆の栄ある歴史を胸に輝かしい未来の実現へ…」と全国郵便局長会の大阪総会が5月28日に開かれた。昨年の総会で会長に就任した青木進会長、山本利郎副会長、山﨑雅明副会長が再任された。
 青木体制は2年目に入るが、郵政事業には課題も多い。就任以来、先人の事業を引き継ぎ発展させ、未来を切り拓くという「継往開来」を座右の銘に、組織運営に当たってきた青木会長の手腕には、大きな期待が寄せられている。
 総会後の記者会見では、1年を振り返って「時間が経つのがあっという間だった、2万局の郵便局ネットワークを地方創生とリンクさせながら、しっかりとユニバーサルサービスを提供していく。また、地域の特色を生かし、活性化に取り組む活動を強化する」と改めて意欲を語った。
 総会や27日の前夜祭では、日本郵政グループの経営基盤の確立と郵便局ネットワークの維持と不可分なユニバーサルサービスの確保、地方の特色や実情に合わせたサービス展開の重要性などについて、多くの来賓が強調した。
 「地域の実態に合ったサービスを」(原田憲治総務副大臣)、「郵政事業は国の礎、郵便局ネットワークの重要性は益々高まっている」(二階俊博自民党幹事長)、「限度額はまだ不足。ユニバーサルサービスの確保が重要」(古屋圭司自民党選挙対策委員長)、「郵便局ネットワークを守っていかなければならない」(石田祝稔公明党政務調査会長)、「ユニバーサルサービスと郵便局ネットワークを将来にわたって維持」(井上義久公明党幹事長)。
 ユニバーサルサービスに関してはコスト負担や手数料の消費税問題などもある。会社間窓口の委託料に係る消費税の問題は、民営・分社化された当初から課題となってきた。
 昨年12月の税制改正大綱に「経営基盤の強化」という新たな文言が加わったが、「三事業のユニバーサルサービス維持のための具体的なスキームを決定したいとの決意」(野田毅自民党郵活連会長)と、決着が期待される。
 「ユニバーサルサービスを義務づけたのだから、それに関して税制上の配慮があってしかるべきだ。今年こそ決着させる」(斉藤鉄夫公明党郵政議員懇話会長)。
 さらに「限度額や消費税、ユニバーサルサービスコストなど課題はあるが、同時に現在の形態で(郵政事業が)本当にやっていけるのかという議論を行っていきたい。郵活連に小委員会をつくった。新たな提言を議論している」(山口俊一郵活連幹事長)と、郵政事業の展望を考える動きも注目される。
 経営基盤の確立に関しては、豪トール社について「赤字になったことは郵活連で厳しい意見が出た。どう受け止めて前に向かっていくのか、非常に大事な局面を迎えている」(野田郵活連会長)、「国民の財産を預かり地域の生活インフラを支える社員が、大いに頑張れる会社にしてほしい」(山口郵活連幹事長)と、郵政文化の重要性を説きながら苦言を呈した。
 青木会長もトール社については「再建は喫緊の課題。局長会としても協力は惜しまない」としつつも、「4000億円を超える減損処理を行ったことは遺憾と申し上げるほかない。二度と起こることのないよう強く要望している」と述べざるを得なかった。
 日本郵政の長門正貢社長は「今年度は3年間の中期経営計画の最終年度。同時に次期中期経営計画を作成する年でもある。郵便制度の創業150年に向けて郵政グループが一体となって未来志向の計画をつくりたい」と語る。
 総会の開催地を代表して、歓迎のあいさつをした近畿地方郵便局長会の吉城和秀会長も「局長会の使命は地域社会に寄与し、国民の財産である郵政事業を守り、発展させること。心を一つに未来ある展望を拓いていこう」と呼びかけた。
 郵政グループが郵政文化を守り、今後も発展させることを期待したい。地域の生活インフラとなっている郵政事業、郵便局の意義を改めて受け継いでほしいと願う。
(麦秀の嘆)

第6885号

憲法って何なのだろう

 ある店の女性に「祝日が増えるのは困るのよ」と言われたことがある。祝日は子供のころから何となくいいものだと思っていたが、こんな風に考えている人もいて少し驚いた。
 私たちは祝日の由来をあまり考えないものだが、ゴールデンウィークの真ん中にある5月3日の憲法記念日、これは施行を記念した日だが、憲法とは何なのだと考え続けてきた。
 その5月3日、今年は安倍首相が重大なメッセージを発した。「憲法9条の項目の改正として、その1項、2項は残しつつ、自衛隊の存在を明記する」、そして「2020年を新憲法の施行する年にしたい」ということだった。憲法改正の焦点である9条の改正に具体的に踏み込んだものだったし、さらに改正の期限を明らかにするものだった。
 安倍首相が憲法改正に強い意欲を持っていること、それが念願であることはよく知られている。しかし、一般には憲法改正は簡単には進まないだろうと見られていたし、私もそう考えていたから驚きである。
 自民党は結党(1955年)以来、現行の憲法(日本国憲法)の改正と自主憲法の制定を主張してきたが、長く言葉通りには進まなかった。これは多くの人の認めるところだろう。
 こうした中で、今年の憲法記念日での安倍首相のかなり踏み込んだ改正の提起は、いろいろなことを考えさせられた。
 一番に思い浮かんだのは国民が改正も含めて憲法をどう考えているのかということだ。
 よく言われるように憲法は国民の意志するものの表現であり、国民の政府(権力)に対する命令である。立憲というのは、この国民の意志や意向の表現である。一般的法律(例えば、「刑法」や「民法」)は、国民が守らなくてはならないものだが、憲法は政治権力者(政治家や官僚)が守るべきものである。
 そうであれば、憲法改正は国民の要求(発議)があってこそのものだろう。基本的に言えば改正の発議の主体は国民にあり、その議論が沸騰し、熟して、それは始まるべきだ。
 国民は憲法についての議論を白熱化させているのか、その議論は熟しているのか。9条は国民の戦争観(戦争についての考え)の反映したものであり、それについての改正は不要という思いが強いのではないだろうか。
 世論調査には様々あるから一概には言えないかもしれないが、9条の改正をめぐる論議が高まっているとは思えない。戦争観の変更も含めた論議が国民の間で大きく進展してきたという状況にはない。
 朝鮮半島の動きなどで有事への危機感が変化していることは推察できるが、9条を支持してきた国民の戦争観は、基本的には変わっていないのではないだろうか。
 また、憲法は9条だけではない。個人の尊厳をうたった基本的人権や自由の規定も重要な柱だ。個人の尊厳や自由の規定も憲法の根本だが、これらの変更も含めた議論が沸き起こっているとは考えにくい。
 個人の尊厳や自由という考えが、国民に浸透してきたのはここ100年余りのことだ。これが血肉化した考えかどうかには疑問を抱かぬことはないが、少なくともその変更を含めて議論が出てきてはいない。
 安倍首相の憲法改正のメッセージは、その基盤である国民の論議が熟していない状況の中で発せられているのではないか。ここを避けてはならないし、憲法問題の難しいところでもある。
(坂田の力)

第6884号

子どもの数は36年連続して減少

 子どもの数(15歳未満)は前年より17万人少ない1517万人で、昭和57年から36年連続して減少、過去最低となった。総務省が子ども日にちなみ5月4日に明らかにしている。男子は805万人、女子は767万人。男子が38万人多く、女子100人に対する数は105人。
 3歳ごとの年齢階級別では、0~2歳が294万人(総人口に占める割合2.3%)、3~5歳が304万人(2.4%)、6~8歳が317万人(2.5%)、9~11歳が321万人(2.5%)、12~14歳が335万人(2.6%)。年齢層が下がるにつれて減少する傾向が見られ、少子化の進展を裏付けている。
 未就学・小学校・中学校という区分でみると、未就学の乳幼児(0~5歳)が598万人、小学生(6~11歳)が638万人、中学生(12~14歳)が335万人となる。
 昭和25年には子どもが総人口に占める割合は3分の1を超えていたが、第1次ベビーブーム(22~24年)の後は、出生数の減少が続き40年には約4分の1になった。第2次ベビーブーム(46~49年)によってわずかに増加したが、50年からは再び減少して平成9年には65歳以上(15.7%)を下回り15.3%になった。そして現在は12.4%だ。昭和50年から43年連続の低下となり、こちらも過去最低を更新した。
 総務省統計局によると、推計時点(年次)に相違はあるものの、人口4000万人以上の31か国で比べると、ドイツや韓国、中国、ロシア、フランス、アメリカなどを下回り、子どもの割合は日本が最も低くなっている。
 都道府県別では、子どもの数が前年より増えたのは東京都だけで、他の46道府県は横ばいか減少だった。子どもの割合が最も多いのは沖縄県の17.2%で、滋賀県14.3%、佐賀県13.8%が続く。最も低いのは秋田県の10.3%、北海道と青森県がこれに続いて11.2%。沖縄や九州各県で全国平均を上回る一方、北海道や東北各県で下回るなど地域差も見られた。
 国立社会保障・人口問題研究所は4月10日に日本の将来推計人口を発表した。平成27年の国勢調査による1億2700万人から、77(2065)年には8808万人になると推計した。老年人口割合(高齢化率)は27年の26.6%から38.4%へと上昇する。
 5年前の推計に比べ、合計特殊出生率は1.35から1.44に上昇するとしたが、人口減少と少子化は若干の緩和があっても基本の流れに大きな変化はない。政府の掲げる人口1億人維持のための1.8の達成も極めて厳しい。
 少子高齢化、人口減少になかなか歯止めがかからない。子どもの元気に遊ぶ声が溢れていることは、地域の活性化の証でもあろう。団塊の世代が子ども時代だった昭和30~40年は、教室も満杯だったが、生き生きとしていたように感じるのは郷愁だろうか。
 安心して子どもを産み育てる環境の整備が叫ばれて久しいが、未だに深刻な問題となっている。都市部では自然に接して、工夫しながら遊びを創造していた時代ともほど遠い。少子化は、将来の社会にも深刻な影響が及ぶ。
 子育て世代への調査では「希望する人数まで子どもの数を増やせない」との回答が多い。「子どもの貧困」という哀しい言葉がある状況では先進国とは言えないだろう。非正規雇用の増大、長時間労働、待機児童の解消へ向けた保育所の拡充などが急務だ。
(和光同塵)

第6883号

企業価値とは何か―

 振り返ると、10年などあっという間。しかし、10年のスパンは社会の流れを変えることができる。その実証を示した会社の一つに、日本郵便が出資しているセゾン投信があると思う。創業は2007(平成19)年。日本郵政グループの民営・分社化とほぼ同時期だったことになる。
 同社の運用報告会では中野晴啓社長が「10年前、本当にわずかなお客さまでスタートした。地方都市でセミナーを開いても人が集まらない時代もあったが、120か月の運用成果は、当初のファンドよりはるかに大きなリターンが積み上がった」と笑顔を見せた。長期投資セミナーの参加者はごく普通の人、しかも若者が多い。「将来に向けた自らの生活を、家族をどう守っていくのか」「お金を適切に使いこなしたい」「着実な人生を歩みたい」豊かさを地道に築き上げていきたい」―。そんな空気が会場からほんのりと漂う。
 クレディセゾンがついているとはいえ、大規模ではない企業が10年たった今、投資信託のイメージを変える原動力になっている。セゾン投信が創業から理念に掲げる「長期・積立・分散」の流れに向けて、金融庁が大きく動き出している。もちろん、2015(平成27)年7月に金融庁人事で森信親長官が就任したことも分岐点。今、金融庁は自らの存在目的を『国民の厚生の増大』と表現している。
 投資信託協会は「運用会社と販売会社の提携で作られる投信は、販売会社主導になりがちとの見方もあり、投信が伸び悩む要因はそこにあるのではないか、とも言われてきた」と話す。
 法律やルールで業界を管理監督することで法令違反はなくなっても、気付けば約6000本のファンドが販売者本位で市場に横行した。そうではなく、1社1社が社会的存在意義に則り、顧客のための商売を約束するのがフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)とされる。
 日本郵政の横山邦男取締役(日本郵便社長)も3月のトムソン・ロイター金融規制ジャパンサミットで「フィデューシャリー・デューティーの実践を銀行も保険も証券会社も運用会社も宣言し、個人投資家の方々に適時適切ディスクローズすることが必要」と指摘した。地域経済活性化を重視する日本郵政の池田憲人取締役(ゆうちょ銀行社長)も同じ思いだろう。
 金融業務において社会的に責任ある経営を遂行する「金融CSR」にも通じる。投資基準の社会的配慮が日本は遅れているようだが、例えば、今後の資産運用は国連が提唱するPRI(責任ある投資の原則)の概念がさらに重みを増すだろう。財務的側面のみで判断されていた企業価値の尺度が、社会性なども総合的に見たSRI(社会的責任投資)にも拡がりを見せている。
 「本業そのものに社会貢献を汲み込むCSV(企業と社会の共通価値の創造)経営戦略を郵便局現場に透徹させることこそ企業価値、株式価値を上げる道」と東京国際大学の田尻嗣夫名誉教授も語っていた。
 セゾン投信は10年を契機に信託報酬率年率0.01%分を顧客に還元した。企業価値とは何か、どのような企業が長い目で評価され、存在を残すことができるのか、考えさせられる。トータル生活サポート企業を目指す日本郵政グループも手を取り合う企業の〝質〟を見つめていってほしい。
(涓埃之功)

第6881・6882合併号

“前島精神”を受け継ぐ


 今年も「前島密翁墓前祭」が4月22日に神奈川県横須賀市芦名の浄楽寺で行われた。没後98年となる。前島密はいわずと知れる「日本郵便の父」。郵便のみならず鉄道、海運、新聞、電信電話、教育、保険、江戸遷都など日本の近代化の礎を築いた功績は多大だ。
 墓前祭の主催は「日本文明の一大恩人前島密翁を称える会」。元鎌倉材木座局長の吉﨑庄司さんが会長として18年にわたり執り行ってきた。非凡な先見性、積極果敢な行動力による偉業を偲び、前島精神を受け継ぐことが郵政事業への発展になるとの思いからだ。
 称える会が発足した平成11年(1999)、会員は十数人だった。民営・分社化によって参列者が減った寂しい時期もあったが、現在では会員も約550人となり、今年の墓前祭には約220人が参列した。
 浄楽寺の参道入口には胸像を載せた「前島密翁記念ポスト」が横須賀市も協力して平成26年11月に設置されている。こうした遺徳を継承する活動の功績が認められ、郵政記念日に日本郵政の長門正貢社長から感謝状が贈られた。泉下の前島密も歓んでいることだろう。
 天保6年(1835)2月4日、越後国頸城郡下池部(新潟県上越市下池部)に生まれた前島密は「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためよかれと願う心を常に持てよ」との信条で、人々の生活向上策を提案し続けた。
 生誕の地の上越市には「前島密翁を顕彰する会」(堀井靖功会長)も立ち上がっており、墓前祭には多くの郵便局長OBも参列、称える会とも連携を強化している。上越市と終焉の地の横須賀市の小学生が、文通で交流を深めようとの構想もあるようだ。
 前島密は明治44年(1911)、浄楽寺境内に「如々山荘」を設けて隠居した。如々は白居易の詩にある言葉で「変わらぬさま」を意味するという。ここで自叙伝「鴻爪痕(こうそうこん)」を記した。鴻爪は雅名。鴻(おおとり)は大きな水鳥、この渡り鳥が北に帰るときは爪痕を雪に残して心覚えとするが、再び来るときには雪は消えている。人の世の頼み難いことをいう故事に由来したとされる。
 如々山荘で大正8年(1919)4月27日に亡くなるまでの8年間を過ごした、享年84歳。墓は浄楽寺の本堂裏手の高台にあり、なか夫人と眠る。高台からは富士山が大きく見えたという。山荘にこの地を選んだのも富士山がひときわ大きく見えたからとも伝わる。
 2年後の平成31年(2019)には没後100年となる。墓前祭は毎年、祥月命日の直近の土曜日に開かれるが、同年は奇しくも4月27日となる。日本郵政グループを挙げて盛大に行われ、改めて前島密の精神に思いを寄せる契機となることを期待したい。
(和光同塵)

第6880号

「生活を楽しむこと」と娯楽

 若い頃、と言っても高校生だったが、『次郎物語』(下村湖人)や『出家とその弟子』(倉田百三)がベストセラー(愛読書)にあげられていた。大正教養主義の影響を色濃く残した書物が読まれていた時代だった。大学生には『三太郎の日記』(阿部次郎)などが読まれていたらしいが、私には難しくて歯が立たなかった。
 そうした中、三木清の『人生論ノート』は親しめた。どれほど理解できたかは定かではないが、冒頭の「死について」などは、その後も時折、読み返したりしてきた。最近、NHKで『100分de名著』として紹介、テキストが公刊されていたので、久しぶりに読んでみた。
 以前は書かれた時代などは気にしなかったが、テキストではそこに言及されており、納得することも多かった。書かれたのは1930年代の後半だが、何かにつけその時代のことを考えることも多いからだ。現在が1930年代の後半と類似しているとはよく聞くことであり、その時代への関心は強くあるからだ。
 今回、久しぶりに開いてみて、興味をそそられたのは、幸福について言及しているところだった。幸福ということなどを考える心的な余裕など失っているのが現在とされても、どこかで私たちは幸福のことを考えたい。そう思っている。
 「娯楽というものは生活を楽しむことを知らなくなった人間がその代わりに考え出したものである。それは幸福に対する代用品である。幸福についてほんとうに考えることを知らない近代人は娯楽について考える」
 幸福などを考える代わりに娯楽で事を済ましていると言えなくもない。
 三木は少し前のところで「鳥が歌うがごとくおのずから外に現れて他の人を幸福にするものが真の幸福である」と言っている。これは生活を楽しんでいることが、自然に現れてきたものだろう。それなら、ここで三木が言っている、幸福の代用品としての娯楽についてはどうなのだろうか。
 娯楽という言葉から、人々は仕事や家事からのつかのまの息抜き、生産的活動に対する消費的活動を連想するだろうか。身近なところではテレビのバラエティ番組などを思うかもしれない。テレビではバラエティ番組が全盛期だ。娯楽番組を代表するものとみなしている人も多いだろう。
 ゴールデンタイムに占めるバラエティ番組の比率などは調べたことはないが、かつての歌番組などに取って代わられている。これらが、現代の娯楽を代表するといえば、異論もあるだろうが、娯楽の大きな場をなしていることは確かである。現在では娯楽が肥大化し、それが、幸福ということもおおいつくしているのかもしれない。
 三木はこうした娯楽と生活を楽しむということとは違うと主張している。三木が生きた時代と現在とでは人々の生活に占める生産や消費、娯楽の規模も違うが、彼が幸福の代用品としての娯楽を享受することと、生活を楽しむことを区別していることは示唆されるところが多い。
 私たちは生活を楽しむより空虚感を感じことが多く、それが娯楽などの代用品で充たされることがないこともよく知っている。生活を楽しむことは娯楽を享受することではなく、文化を享受することにあるが、その意味では日々の生活を潤す文化を見出すことが難しくなっているのかもしれない。
 三木は文化として芸術活動をあげ、スポーツは信用できると語っているが、文化の代用品としての娯楽ではなく、文化を発見し、それで生活を楽しむ術を見出さなければならない。娯楽と文化の違いを見出すことには知力がいるのだが、そのことを意識(自覚)していなければならない。
(坂田の力)

第6879号

異次元の金融緩和から4年

 日銀が2013年4月、異次元の金融緩和(量的・質的金融緩和)を決定して4年となる。デフレ脱却が大きな目的で、2年程度で2%の物価上昇を実現するとした。物価上昇で企業の売上げを伸ばし、収益を拡大、賃金上昇に波及させ、消費を活性化させるという経済の“好循環”を期待するものだった。
 15年には2度にわたり物価上昇の達成時期を先送りし、16年1月にはマイナス金利政策を決定し2月から実施した。この年も3度、達成時期を延期した。同年11月には18年度頃にはとしたが、黒田東彦総裁の任期は18年4月、果たしてそれまでに達成できるだろうか。
 現状は経済の好循環には遠い。この4年間で物価上昇は2%に届かず、16年はマイナスとなった。実質賃金は減少、消費も伸び悩んでいる。14年4月に消費増税を行った影響も大きい。異次元の金融緩和は、資金を大量に銀行に流し、市場金利を下げることで借り入れが増え、景気を刺激、活性化することだが、銀行の国内貸出は年2~3%しか増えていない。
 中小企業向けの貸出しは2000年代に比べて大きく落ち込んだ。働く人の大部分が所属する中小企業へ資金が流れにくい状況の影響は大きい。銀行の総資金利ざやが低下し、マイナス金利が更に圧迫した。ゆうちょ銀行も影響を受けている。
 さらに、米国のトランプ大統領の登場で懸念材料が増えた。中国や日本が対ドルレートを意図的に下げていると指摘、米国の貿易赤字への対処を求める考えを示している。政府は「金融緩和は2%物価上昇目標を達成するためで、円安誘導との批判は当たらない」とするが、異次元の金融緩和は円安・ドル高が進む一つの要素ではある。
 4月18日に予定されている日米経済対話の事前協議で、米国は為替問題や2国間の貿易交渉を要求するとされる。株価もトランプ相場と言われ乱高下し、為替相場も一時は1ドル120円に迫ったが、110円台までの円高水準となっている。
 また、異次元の金融緩和で、金融市場で売買される国債が枯渇するとの指摘が出ている。日銀は長期国債を銀行から大量に買い、保有残高は年間80兆円のペースで増えている。2016年末の国債発行残高は約1076兆円、日銀の保有残高は約421兆円。市場で流通する国債のうち過去最高の約4割が日銀保有だ。国債は銀行などの金融機関が落札し、その後に日銀が買い取っている。
 市場で国債が不足すると銀行は資金取引の担保にする国債が不足する。金融市場に歪みをもたらすとされる。日銀は国債購入を通じて市場へ供給する資金量より、金利操作の政策へと軸足を移しているが、今後も国債の保有残高が増加する公算は大きい。
 さらに、大きな課題は異次元の金融緩和が、いつ終了できるかどうかだ。この4年間で日銀当座預金に金融機関が積んでいる残高は7倍になった。金利を引き上げると日銀の利子負担は大きくなり、巨額の損失が発生するのではないかとの恐れで、金融緩和の出口で日銀が赤字になる可能性だ。赤字を出すと政府に納入する資金が減少、国民にとっても好ましくはない。
 米国は量的金融緩和を終え、昨年から2回の利上げに踏み切っている。トランプ大統領の積極財政への期待もあって長期金利は上昇、日本の国債市場にも影響が及びそうだ。欧州中央銀行も昨年から買い取る資産の規模を縮小した。
 異次元の金融緩和の出口を探るとともに、実体経済が好循環となる有効な政策を考える時期ではないだろうか。
(和光同塵)
 ………………………………
【訂正】4月3日付の春秋一話で「2007年の郵政民営化、17年の改正郵政民営化法の成立から5年」とありますが、改正法成立は2012年でした。

6878号

新たな価値生み出す新年度

 民営化されて本当に郵便局は良くなったと評価される果実とは何か。やはり、郵便局に足を運ぶ顧客が増えることが指標になるだろう。窓口への顧客は総体として減っていることを耳にする。
 じわり簡易局化が進む過疎地の直営局―。簡易局も地域住民にとっては大切な存在であることは間違いない。しかし、金融を含む三事業の提供は直営局だからこそできる。
 「経営が厳しくなり、時代が移り行く過程で三事業を別のやり方で提供してもよいとの考え方に変わっていけば、(柔軟な方策の)検討余地はある。現時点では、直営局を簡易局にするアイデアしかないことになると思う」。
 ユニバーサルサービスの維持方策が検討されている協議の場で、行政側からはこのような発言も出ていた。簡易局にかかる年間のコストは直営局のおよそ4分の1。経営者の立場に立てば、真っ先にコスト削減方策として目を向けざるを得ない部分かもしれない。
 こうした中、利用者にも納得される形で、過疎地の直営局の新たな価値を生み出さなければ、厳しい経営環境を背景に必然的に簡易局化が進んでしまう可能性もある。その意味で、金融窓口業務と直結するわけではないものの、簡易局を除く全局取扱いを前提に、改めて認可申請されたゆうちょ銀行の口座貸越サービスは一定の意義があるだろう。
 全国郵便局長会(青木進会長)が要望していた個人向けカードローンとは少し異なるが、必要性として強調されていた子育て世代の若者ニーズに応える点で近いものがある。ゆうちょ口座を使って生活費のやりくりをする若年層の顧客が拡がることを期待したい。
 子育て世代ニーズに応えるといえば、日本郵便のデジタルメッセージサービス(電子私書箱=マイポスト)が連動する政府のマイナポータル(マイナンバー制度で個人ごとに設けるポータルサイト。行政保有の特定個人情報や記録、自分への通知などをインターネットで閲覧できる)は当初、2018(平成30)年春の本格運用の予定だったが、スマートフォンでの利用可能時期を今秋に前倒しした。来春の保育所申請や児童手当の現況届などの手続きをスマホで出来ることで、マイナポータルの利便性を子育て世代に実感してもらうことが目的だ。
 今秋といえば、やはり全直営局での扱いが予定されるタブレットを使った「みまもりサービス」の本格実施時期と重なる。親世代のタブレット使用には様々な課題もあり、まずは訪問サービスからのスタートになるようだが、近隣の郵便局が訪問サービスで見守り、離れた地域の子育て世代がスマホなどを使って親世代とつながる。
 口座貸越サービスも将来は、デビットカード(預金口座とひもづけした決済用カード)と連動。急速に進むフィンテック(金融とITの融合)に伴い進展するカード社会の中で、ゆうちょ口座を持つ顧客はスマホやタブレットで決済などの金融サービス、マイポストを使って様々な行政サービスを受けられることになる。あまり、関係のなさそうな「みまもりサービス」と「マイポスト」がスマホやタブレットを通じてつながり、さらに2年後、口座貸越サービスというもう一つの要素も加わることで、郵便局の利用が増えることが期待される。
 2017(平成29)年度は日本郵政グループ中期経営計画の目標年度。「成長・発展を遂げるためのグループ戦略を推進」する確立期から17年度以降の「進化・発展を継続し、新郵政ネットワークを創造」の成長と発展期に移行するターニングポイントともいえる。郵便局ネットワークに新たな価値を生み出し、顧客増という果実を勝ち取る新年度になってほしい。
(涓埃之功)

ページTOPへ