コラム「春秋一話」

 年/月

第6875号

地方創生でビジネスを学ぶ

 地方創生のため、政府や産業界を挙げて様々な政策議論や活動が行われている。
 地域活性化は、さかのぼれば1980年に大分県で始まった一村一品運動に端を発する。これに続けと県や市が指導して全国で特産物の開発が行われた。補助金で加工施設を建設し、見本市の出展にまで補助が付いた。補助金が続いている間は何とか維持できたが、販路を開拓することができず、消えていったものも多い。バブルが崩壊し、荒波を乗り越えることができなかった事業者もまた消えていった。
 80年代後半の1年間、地方で市町村の特産物の取材をしていた。まだ地方がそこそこ元気な時代。販路が悩みだと言いつつも緊迫感はなかった。その後、安倍政権が発足した翌年、2013年から14年までの1年間、再び全国の企業や特産物を取材した。崖っぷちに立たされた企業が生き残りをかけてチャレンジしている姿が感動的だった。起死回生した会社はたくましく、エネルギーを感じた。共通するのは「このままではいけない」という危機感。それが経営者のやる気とアイデア、実行する能力を奮い立たせたのだ。
 「非連続に変化する産業構造―今、地方が面白い」というタイトルに魅かれ「地域ICTサミット2016」(総務省など主催)の野村総合研究所・谷川史郎理事長の基調講演を聞いた。
 地方が面白いというのは「失われた20年を経て、再び地縁血縁を使いながら、新しい業態に軽やかに挑戦する経営者が出てきている」ということだそうだ。
 ITを活用し集中管理するコインランドリーのフランチャイズチェーンや、オランダの会社とトマト栽培の独占契約をして大規模・自動化したハウスで栽培する農家、地元の部品メーカーの得意なものを集めて航空機部品を作るプロジェクトなど。
 トマト農家は造園業を継いだ元コンサルタントの若い経営者の発案。都会からいろいろな知見やビジネス経験を積んで戻ってきた後継ぎが、既存の商売に新しいアイデアを加えて、新業態にチャレンジしている。そういった動きが少しずつではあるが、出始めているという。
 崖っぷちから立ち直った企業の多くは、確固たる技術を持っていたこと。ただ、みんな大手メーカーの下請けだった。不況や海外からの安い製品などにより、注文が減っていった。厳しくなった会社から倒産していった。これまで、下請けだったため、製品開発力も販売力も持ち合わせていなかった。瀕死の病人に打つ手も時間もなかった。
 今治タオルは、品質保証を兼ねた佐藤可士和さんデザインのブランドマークで復活した。価格競争により失われた今治タオル本来の品質に回帰し、その復活に徹底的にこだわった。厳しい品質条件をクリアしたものにだけマークを付けた。「最初は売れなくてもディスカウントしない」と踏ん張った。今では「マークの付いた今治タオル=品質がいい」というイメージが消費者に根づいた。
 日本酒も全国の酒蔵では、大手メーカーから委託された造り方で生産してきた。受注が減ってきた時、自社のブランドで納得いく酒造りを行い、味と品質を守ってきた酒蔵が元気に生き残っている。
 酒米の山田錦に徹底的にこだわった旭酒造(山口県)の「獺祭(だっさい)」は、海外でも人気の日本酒だ。桜井博志社長は「山田錦だけを使い磨きにもこだわった。これだけの回数を山田錦で造っているところは世界中探してもない。我々の強みはそれらの経験だ」。
 桜井社長は大手メーカーの営業の経験があり、販売戦略にも長けている。高級ブランドの獺祭を海外でも売る。その戦略としてまずはフランス・パリで売った。「フランスはさほど儲からないが、食通で知られる国で評価が得られれば、アメリカ・ニューヨークで売れる」。
 その戦略が当たり、獺祭はニューヨークで大人気だ。ジャパン品質を保ち、売っていくには、国内需要だけでは賄えない。日本だけではビジネスが成り立たなくても海外まで含めればビジネスとして成り立つ。
 日本にはまだまだ、メーカーとしてチャレンジできる優秀な下請け企業がある。商品開発やブランディングもあるが、小さな会社が一番困っているのは販路だ。小ロットで作られた製品は優秀であっても大きな流通には乗りにくい。
 日本郵便にはカタログ販売などの物販事業があるが、地方の優秀な技術やおいしいものを生産する農家が製品づくりをする場合、販売を手助けするのも地方創生に役立つのではないだろうか。
 金融機関にも担保・保証に必要以上にこだわらず、ビジネスそのもののを見ていく。経営者のやる気や能力やビジネスプランで融資の判断材料にする流れになっている。それらの情報とビジネスを読む能力が求められているのだ。
 販売前からテストマーケティングなどの事業にかかわることができれば、ビジネスを知るための経験にもなるのではないだろうか。広がれば世界の郵便局ネットワークを使った越境ECの可能性もある。リスクもあるがトライする時期でもあるのではないか。
(招福招き猫)

第6874

地元企業にさらに目を

 「(三事業の)ユニバーサルサービス提供のための郵便局配置の問題は就任以来、まだ議論したことはないが、水準をどうするかは当然していかなければならないだろう。その場合、採算上の問題が生じることは赤字局と関連する大きな課題だ」。郵政民営化委員会の岩田一政委員長は3月1日、委員会後の記者会見でこのように指摘した。
 「人口が減っていく中でも数の維持は今のところ必要だと思う。やがてどこかで分岐点があり、ユニバーサルサービスを違う指標で確保する状況が出てくるのかもしれない」と前増田寛也委員長も3年ほど前に語っていた。
 分岐点は今なのか―。そうした議論が総務省内でまもなく始まる。日本郵便は昨年9月に「郵便局ネットワークの維持について、現在の仕組みのままで過疎地の郵便局を維持し続けられるかは微妙な課題」と公の場で発言。総務省は「日本郵便株式会社法施行規則で設置基準が定められているが、どう議論して、どのような方策があるかは非常に難しい問題」と話す。方向性を誤ると、地域で生活する人々の利便性に大きな影響を与える。
 こんな事例があった。平成の大合併で、1999(平成11)年約3000あった市町村は11年間でおよそ半分になった。その後大きな変化はないが、合併時、増えた支所に町や村の財政を司る指定金融機関に入ってもらい、住民サービスの便宜を図った市町村もあったようだ。
 ある郵便局長は「時間の経過とともに人件費や場所代のコストがかかり、効率化のために営業日を隔日にしたが、お客さまは月水金か、火木かは覚えていない。一度でも開いてなければ使い勝手が悪いと感じ、行きたくなくなる。そのうち、金融機能がなくなっていった」と振り返る。
 日本郵政グループ内でも過去に水面下で検討された窓口時間の短縮などが報じられた際、政府には全国の村や町から見直しを求める公印と署名付きの要望書、陳情が山積みになったことを耳にした。当初、組織的な動きのように見られたが、調べた結果はそうではなかった。金融アクセスが急速に失われることを懸念した市町村や市町村議会が個々に送ってきたものだった。自治体はますます広域行政化し、住民サービスはどんどん手薄になる。
 「過疎地で最も金融難民が存在する地域では、他金融機関は撤退せざるを得ない状況下にある。どう補完しながら郵便局ネットワークを維持するかを、会社も、全特も、政治も考えるべきだ。人口が減少、高齢化率が高くなるばかりで、税収も厳しい」と柘植芳文参院議員。
 「過疎地の赤字局に三事業別の高い目標を掲げ、全国一律の競争を強いても太刀打ちできない。過疎の郵便局と市町村と企業の三者が、過疎だからこそできるビジネスモデルを生み出し、誇りを持って仕事ができる仕組みを作り上げていくべきだ。収益を稼ぐのは都市部局。都市部ではいくつかの局を合わせた形にして中堅の局を増やしてもいいのではないかと思う。しかし過疎地局は違う」と強調する。
 日本郵政グループの次期中期経営計画の作成に向けた議論もそろそろ始まると思われる。貯金残高より総預かり資産重視、フィンテック(金融とITの融合)やドローン(小型無人航空機)研究や準備など時代に則した意気込みも期待されている。
 しかし、機械化が進む中でも人とシステム、人と人をつなぐのはやはり“人”。まじめ過ぎるような郵便局の素朴感と津々浦々まで広がるネットワークの強みは人あってこそ。全てを活かしきる連携施策に向けて「大企業だけでなく、各支社が地元企業にさらに目を向けるべき」との郵政関係者の言葉が印象に残る。
(涓埃之功)

第6873号

GDP年1.0%成長だが

 2016年10~12月期のGDP(国内総生産)は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期(7~9月期)より0.2%増えたと2月13日、内閣府が速報値を発表した。この状態が1年続いた場合の年率換算では1.0%増となる。4四半期連続のプラスとなったが、伸び率は依然と低い。
 物価変動の影響を反映した名目GDP、こちらが生活実態に近いが、前期比0.3%増、年率換算で1.2%増と実質値を上回ったが、これは野菜などの生鮮食品などの物価の上昇が反映している。
 実質の増に貢献しているのは半導体などの電子部品、米国や中国向けの自動車の輸出で、前期比2.6%増となったが、GDPの6割を占める個人消費は0.01%の減少と4期ぶりにマイナスとなった。依然として外需頼みで、内需が拡大するといった状況ではない。16年1年間の成長率は実質で前年比1.0%増、名目で1.3%増だった。
 個人消費が伸びない日本経済はまだぜい弱と言えよう。身の回り品や小遣い、衣服、履物などの消費も振るわなかった。
 消費支出のうち、食糧の占める割合を示すのにエンゲル係数がある。13年から16年まで連続して上昇しているという。経済成長と共に低下が続いてきたが、ここにきて再び上昇傾向だ。
 総務省は1月31日に16年12月分の家計調査の速報を発表した。エンゲル係数は12月が27.5%、16年平均では25.8%になり、87年以来29年ぶりの高水準だったことが判明した。エンゲル係数が高くなるほど生活が苦しいとされる。
 食料品は嗜好品に比べて極端な節約ができない。生活が苦しくなると家計支出に占める食料品の割合が増加する傾向がある。エンゲル係数が上昇した原因は消費税の8%への引上げ。円安が進んだことで原材料費が上昇する一方、実質賃金はそれほど伸びていない。
 内需の主要な要素を占める個人消費が伸びてこそ生産や投資も増加する。外需頼みでは、円高や米国トランプ大統領の“アメリカ第一”の影響などがあれば不安定だ。株価も“トランプ相場”とされ乱高下している。対日赤字への不満を示すと下落、原油パイプラインの建設を進める大統領令に署名すると値上がりした。ドル安を志向して、日本の金融政策を為替誘導だと批判したともとらえられる発言もある。今後は円高傾向も想定される。
 政府は「所得が伸びているものの消費は力が弱い」とするが、実質賃金の伸びは低調のままだ。
 2月22日に発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査では、昨年12月の実質賃金は前年同期比0.4%減、16年1年間平均では0.7%の増に過ぎない。
 個人消費の低迷には賃金や将来不安といったものが影響しているのだろう。格差解消や財政健全化、金融の安定化などが求められる。
(和光同塵)

第6872号

春の息吹感じるプロ野球キャンプ

 昔、プロ野球のキャンプが始まると宮崎に見学を兼ねて温泉に行こうと熱心に誘ってくれた友人がいた。彼はその頃は広島カープファンだったが、よく一緒に球場(東京ドームの前の後楽園球場や神宮球場)に出掛けた。根っから野球が好きだったのだろう。その事もあってか、私も子供を連れて球場によく出掛けた。
 その彼が亡くなってから何年も経つが、キャンプインが伝えられると思い出す。あの頃、私には心の余裕がなかったのか、キャンプ見学などに出掛けるのを躊躇することがあった。野球をはじめとするスポーツの意味というものをそれほど深く考えられなかったのかもしれない。
 彼のことを思い出しながら、野球を含めてスポーツのことをあれこれ考える。これは侍ジャパンと称し世界大会のことを持ち上げ騒ぐことや、オリンピックを何のイメージもなしに祭典のようにしようとすることではない。私の生活というか日常の中にある野球であり、まさに生活の中に浸透した文化としてのスポーツのことだ。
 時折、高校時代の友人を誘って古い映画を見に行くが、その度に映画は文化だったのだと思う。
 それは歌(歌謡)にも言えることだろう。私にとって映画や歌はかつての文化(自分の生活や日常とは疎遠になっているという意味で独断かつ主観的な思いだが)になりつつある。つまりは衰退している文化であるように思う。
 私たちの生活に響いてくるもの、解放感をもたらすものとして、野球やスポーツはある。それはいい書物に出会うことにも似ている。鬱屈を強いられる気分を解放してくれるのだ。こんなものしか、私たちの気持ちを解放してくれるものがない時代と言えるのかもしれない。連れ合いがテレビのバラエティ番組に熱心なのをからかいながら思うことでもある。
 ヘミングウェイの小説を読みながら、アメリカ社会に深く根づき、もう文化になっている野球のことに驚いたことがある。少年の頃だ。そのアメリカの野球を私たちはNHKのBS放送などで観ることができる。最初の頃は、これを観る人はいるのかと思ったりもしたが、今は放送が始まるのがとても楽しみだ。
 トランプ大統領がアメリカファーストと言ったときに野球のことを連想した。彼の言うアメリカファーストには良きアメリカのイメージがあるのだろうか。
 野球に例えれば、黒人やヒスパニック系の選手などは締め出されているか、少数だった時代のものではないのかと思える。白人中心のメジャーなど現在では不可能であるように、彼の良きアメリカがかつてのように蘇ることはないのだと思う。
 もし、かつての良きアメリカを取り戻そうとしても、それは矛盾や混乱を引き起こすように思える。トランプ政権は出来て日が浅いから、そのもたらすものにせっかちな判断は禁物だろう。だが、私はメジャーの放送を楽しみにしながら、そんなことも想像した。
 万葉集で「萌え出づる春…」と詠まれたように、春は私たちの心を躍らせる。都会の生活の中でも季節のもたらすものは感受できるが、それは希薄になっていることも事実だ。人は生活の中から、自然との交歓だけでない形の喜びを文化として生み出してきた。
 私にとって野球やスポーツはそうしたことの一つだが、意識的にというと少し変だが、大いに享受したい。球春到来へそんな思いを馳せる。(坂田の力)

第6871号

ペッパー君は優秀な社員

 「月給5万5000円で働きます。」というキャッチコピーで紹介されているのはソフトバンクの人型ロボット「Pepper(ペッパー)君」。受付や案内から販売促進、介護施設でのレクリエーションまでマルチにこなす。中国語や英語も話す優秀なスタッフとして現在、国内の約2000社で導入されている。アプリやコンピュータを自由に組み合わせることができ、企業の使い方も様々。外国人観光客のコンシェルジュやお年寄りの話し相手、万引き防止の監視、バーテンとしても働いている。
 自然言語を理解・学習し人間の意思決定を支援する「ワトソン」(IBM)やスマート対話システム「TAISHI」(リクルートテクノロジーズ)とつなぐことで、文脈を理解し自然な会話をすることもできる。金融系での導入も増えており、ローンや保険業務のアシスタントとして使っている企業もある。文脈を理解しているため、会話の途中で「金利は?」と質問した時に、定期預金や国債など金利が多数ある中で、住宅ローンの会話をしていれば、その金利を答えてくれる。ワトソンなら大量の情報の中から自ら適切なデータを選び、胸にぶら下がっている画面に映し出してくれる。
 「AI」「IoT」「ロボット」。この3つのキーワードは、次世代のビジネスには欠かせない。世界の企業が開発にしのぎを削っている。日本が得意としているのはロボット。AIの導入は遅れ気味だったが、ロボットとの連携でその活用が広がっている。ソフトバンクロボティクスグループの冨澤文秀社長は「世界では戦いが始まっている。ロボットで日本がリードしているのは、お客さまのニーズを把握し、改良し続けているから。研究所ではできないことだ。良いロボットを作り、この分野で勝ちたい」と世界のペッパー君を目指す。台湾や中国からも引き合いがあるという。
 「ペッパーワールド2017」で、ヤマダ電機の一宮忠男副会長(CEO)は「小売の要はマーケティングデータの活用にある。ワンツーワンマーケティングツールとしてのペッパー君の存在は大きい」と話す。ドライヤーなどの非接客商品(積極的には説明をしない商品)を紹介させ、クーポンを発行させたところ普段の3倍の売上げ。「商品の良さをアピールすれば売れる。小売りの原点を見る思いがした」(一宮副会長)。
 ソフトバンクの店舗ではソフトバンクカードの勧誘にペッパー君を使ったところ、契約数が約2倍になった。ペッパー君を店先に置き、足を止めた人に簡単なアンケートを行い、粗品のプレゼントで店内に誘導、販売員が接客に当たる。店頭で顧客の通信サービスの利用状況や意向などが分かっているので、スムーズな接客ができる。ペッパー君と営業スタッフががっちりタッグを組んで売上げを伸ばしている。
 ある介護施設ではペッパー君が踊ってデイサービスの健康体操の指導員の役割を担っている。顔認識機能もあるので、会話は本人の名前で呼びかける。お年寄りはとても親近感を抱くという。拒否が強く引きこもりがちだったお年寄りが、ペッパー君のレクリエーションには積極的に参加した。「孫のようにかわいい」とお礼の手紙まで書いてきたという。施設では1日のうち2~3時間は話し相手をしているそうだ。
 明治安田生命保険では昨年秋に110台を導入し、全国の支社に置いた。相続セミナーの講師や司会、Jリーグのイベントにも参加させている。社員のタブレットとも連動させているので、ペッパー君を通じて必要なデータを呼び出すことができ、顧客一人ひとりに寄り添う保険の提案にも役立っている。今後は手続きのサポート、無人店舗での案内、知識の継承に活用する計画だ。
 ペッパー君は2014年に生まれて2歳程。人間ならよちよち歩きだが、毎年、成長(バージョンアップ)している。今年はSLAMという機能をプラスし、地図とセンサーでオフィスやショールームの中を自ら動いて案内できるようになる。「AIに仕事を奪われる」と言われているが、低賃金で疲れ知らず、業務成果を上げているペッパー君の導入事例を見ていると、ロボットが人に代わって知的な仕事もする時代を予感させる。日々進化しているロボットやAI。人の能力もバージョンアップしなければ、生き残れないかもしれない。(招福招き猫)

第6870号

受動喫煙防止対策法案

 忘れ来し煙草を思ふゆけどゆけど山なほ遠き雪の野の汽車(石川啄木「一握の砂」)
 たばこは人生の小道具、嗜好品として親しまれ、歌にも詠まれてきた。2月9日に生誕150年を迎えた夏目漱石も愛煙していたという(漱石の誕生日は旧暦の慶応3年1月5日。太陽暦では1867年2月9日に当たる)。
 「吾輩ハ猫デアル」の作中でも苦沙弥先生が吸う姿が描写されており、その銘柄は「朝日」。苦沙弥先生のモデルは漱石自身とされ、彼も「朝日」を好んだ。
 たばこはナス科のタバコ属の植物を原料とし、起源はアメリカ大陸とされる。16世紀初めには数種が栽培され、コロンブスの大航海を経て、世界に広まった。日本にも渡来し、移りゆく時代の中で人々の生活や文化、風俗と深く関わってきた。
 愛煙家にとっては精神安定剤の役目も果たしているだろうが、年々肩身は狭くなっている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、受動喫煙対策を強化する法案が検討されている。
 健康増進法改正案で、飲食店など建物内は原則禁煙とされる。延床面積が30平方メートル以下の小規模店で主に酒類を提供するバーなどは例外とするが、これまでの努力義務から罰則として過料を科す罰則規定も設けられ、今国会に提出が予定されている。
 特に未成年者や患者らが主に利用する学校や病院では、より厳しい敷地内全面禁煙も想定されている。塩崎恭久厚生労働大臣は「受動喫煙のない社会に向けて、必要な準備を行うということで理解をいただきたい」と強調している。
 意に反して他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の防止は、たばこを吸わない人にとっては健康増進の面からも当然との判断だろう。
 近年、五輪開催国は罰則付きの措置を講じているとして「大きな世界の流れがある中で、おもてなしの気持ちとして受動喫煙のない国に変えていかなければならない使命がある」と塩崎厚生労働大臣。
 肺がんとの因果関係も医学的に確立されており、たばこによる医療費や火災などの社会的損失は、年間2兆円に及ぶとの指摘もある。厚生労働省の調査による成人喫煙率は19.3%(男性32.2%、女性6.2%)で年々減少している。1964年の前回の東京オリンピックの頃は男性80%、女性15%を超えていたことを思うと随分と低下した。
 2月6日に日本たばこ産業(JT)は決算短信を明らかにしたが、今年の国内のたばこ販売数は960億本と予想した。2016年の1062億本に比べ9.6%の減少だ。
 1957年に1000億本を超え、64年は1608億本、その後は96年の3438億本をピークに減少傾向となり、再び1000億本を割り込むこととなる。人口減少や喫煙率の低下、煙を出さない新型の登場などが影響すると見る。
 煙草くさき国語教師が言うときに明日という語は最もかなし(寺山修司「空には本」)
 酒を飲み紫煙を燻(くゆ)らし「高額納税者だ」と“豪語”する時代は、もう終わったのだろう。寒空にベランダや庭でしか吸えないホタル族との言葉が生まれて久しい。
 家の中では換気扇の下でも吸えない厳しい目があり、禁煙に挑戦して何度も挫折を味わった吾人も多いだろう。いずれにしろ飲み過ぎ吸い過ぎには、くれぐれも注意することが健康にとっては肝要だ。
(和光同塵)

第6869号

100万人を割った出生数

 2016年に生まれた赤ちゃんが100万人を下回り、98万1000人となった。厚生労働省が明らかにした人口動態統計の年間推計結果だ。人口1000人に対しての出生率は7.8。前年(2015年の確定値100万5677人、出生率8.0)に比べ2万5000人の減少。  
 死亡数は129万6000人、人口1000人に対する死亡率は10.3と推計している。こちらは前年(129万444人、10.3)から6000人増えた。32秒に1人生まれ、24秒に1人が死亡する計算だ。人口減少が進む。出生数が100万人を割ったのは統計を開始してから初めてだという。
 戦後の1947(昭和22)年から49年にかけて第1次ベビーブームが起こった。兵士の帰還などが要因で、多くの子供が誕生した。出生数は47年267万8792人、48年268万1624人、49年269万6638人。49年は戦後最多の出生数になっている。この間に800万人超が生まれた。いわば団塊の世代だ。
 団塊の世代が親となる71年から74年にかけては第2次ベビーブームで年間200万人が生まれた。71年200万973人、72年203万8682人、73年209万1983人、74年202万9989人。団塊ジュニアと呼ばれる。
 しかし、この出生数の増加は第1次ベビーブームと異なり合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)の増加が伴わなかったこともあり、その後の少子化は一層進み、第3次ベビーブームは幻となった。
 合計特殊出生率は団塊の世代のころは4.32~4.54と高い値を示したが、団塊ジュニアの時代は2.05~2.16。その後も下がり続けた。人口維持には2.07が必要とされるが、89年には66年の丙午の数値1.58を下回る1.57となった。“1.57ショック”だ。2015年には94年以来の最高値となる1.45となったが、少子化に歯止めがかかったとは言えないだろう。
 2016年の婚姻件数は62万1000組、離婚件数は21万7000組。51秒に1組の結婚、2分26秒に1組の離婚となっている。第1次ベビーブームの婚姻件数は47年93万4170組、48年95万3999組、49年84万2170組。第2次ベビーブームでは71年109万1229組、72年109万9984組、73年107万1923組、74年100万455組。 その後は低下傾向に変わりがない。
 生涯未婚率は70年代までは極めて少なく2%程度だったとされる。70~80年でも5%未満、2000年でも10%未満だったが、2010年には男性で20%を超え、女性も11%になった。今後もさらに増加するのではないかと見られている。
 非正規雇用の拡大などの経済的理由で、結婚しないのではなく、結婚できないと言われる。団塊の世代もこれから続々と70歳になる。少子高齢化社会の進展に如何に歯止めをかけるか、若い人たちの雇用の安定、働く人の所得拡大、子供を育てやすい環境の整備、地域の活性化などが政治に課せられた大きな役割だろう。なお、2016年の主な死因は1位のがんが37万4000人、2位が心疾患19万3000人、3位は肺炎11万4000人、4位は脳血管疾患10万7000人。寒い季節がまだ続く。身体をいたわってください。
(和光同塵)

第6868号

予測不能の超大国

 ある新聞は大きな見出しで「予測不能の超大国」という見出しを打っていた。しかも1面である。トランプ新政権についてだが、アメリカを、世界を、どこに導こうとしているのか不安だということがある。トランプ大統領の既得権保持者や支配層への激しい攻撃は、どこか革命を思わせるところがあってドッキリさせられるが、マイノリティ(少数者)に対する攻撃もあり、人々を不安にするところも少なくない。
 アメリカという超大国が世界に与える影響も甚大であることから不安も大きい。1月20日に大統領に就任した。就任式は歓迎される一方で、大規模な抗議のデモもあるという波乱に富んだものだったが、それだけ人々の関心は高いのだろう。
 就任演説は各新聞に掲載されている。「今日の式典には特別な意味がある。単に政権交代が実現し、権力が政党から別の政党へと移っただけではない。権力を首都ワシントンからあなた方国民に返還するのだ」。国民主権の回復という極めて民主主義的な発言のように見える。国民主権に対して国家主権を強調するのが右派の通例であり、ある意味でトランプ大統領もそう見られていたのだから、おやと思わせる。
 しかし、これまでの言動からは、この場合の国民は白人中心のイメージであり、移民問題や人種問題を含めて、国民なるものが問われてきた現在の問題を無視しているように思える。これは後に続くアメリカ第一(ファースト)ということにも関わるが、多様性の承認ということに反するように思う。
 白人中心のアメリカと多様性のアメリカということは、アメリカ国家やアメリカの民主主義の根幹に関わる問題だが、彼の国民やアメリカという概念の中にはマイノリティへの敬意や理解が薄くはないだろうか。アメリカの保守思想として白人第一主義は根強いだろうが疑問を禁じえない。イギリスが移民問題でEUを離脱し自国第一を掲げていることも同じ構図である。
 国民概念やイメージを過去に後戻りさせる対応として世界史の課題に逆らっていないだろうか。過去何十年間にわたってアメリカは他国を豊かにしている一方で、我々の富や強さは自国の地平のかなたに消え去った、と言う。1970年代の後半から言われてきたアメリカの衰退であるが、この主張は一方的で一面的に見える。
 「何十年もの間、我々は米国の産業を犠牲にして、他国の産業を豊かにしてきた。米軍の嘆かわしい劣化を招いた一方で、他国の軍に資金援助をしてきた。自国の国境防衛はおろそかにしながら、他国の国境を守ってきた」。かつて世界の工場と呼ばれる製造業の隆盛があり、重厚長大と呼ばれる産業が世界を牽引していた。
 私たちも栄光を極めたアメリカ産業が輝いていた時代を知っている。マリリン・モンローに象徴される映画(文化)もこれらを背景にしていた。こうした産業や文化に支えられたアメリカ第一は、誰もが認めていたが、確かにアメリカ産業の衰退は荒廃としてあり、貧窮化するアメリカだ。そこで、保護貿易も含めた自国産業保護での再生を構想する。雇用(仕事)の創出も含めて政策の柱として打ち出す。
ここは興味深いところだが、現代の産業構造についての錯誤が横たわっているように思える。自動車産業などを呼び戻す政策が中心となっており、日本との関係でも自動車をめぐる貿易摩擦が再燃する気配だが、自由貿易という歴史を逆回転させるような試みが成功するだろうか。
 他国援助に狂奔している間に、アメリカ軍は劣化したと述べていることも含めた外交・軍事政策についても興味深い。9・11以降のことに、とりわけ反テロ戦争をどう処理するのかが語られていないことが気になるが、ここは日本の自衛隊の海外派遣とも関わりがあり注視していきたい。いずれにしても「予測不能」なことが出てくることは十二分に考えられ、面白いと言っては問題だが気の抜けない時代に入った。
(坂田の力)

第6867号

「そばにある」郵便局の使命

 郵便局にキオスク端末――。
 今更何を言っているのかと思われるかもしれないが、自治体ごとに選択する郵便局の行政サービスは全国約1700市町村のうち170ほどと意外に少ない。一方、コンビニエンスストアの行政サービスを選択する市町村は2014(平成26)年末時点に100程度だったものが、16年末には約300まで広がった。
 利便性の鍵を握っていたのは、コンビニに置かれるマルチコピー機などのキオスク端末。各種証明書を簡易な手続きで取得できる。営業時間の違いもあり、郵便局窓口より機械の方が楽とはさみしい気もするが、こうした自治体との連携に郵便局は若干出遅れ感もある。
 全国郵便局長会(青木進会長)は現在、各自治体に新たなビジネスモデルのイメージを伝えようと動き出した。
 主体となるのはタブレットを使った郵便局のみまわりサービスや健康増進サービスだが、そこには同時期に始まり、7月に政府のマイナポータル(マイナンバー制度で個人ごとに設けるポータルサイト。行政保有の特定個人情報や、やり取り記録、自分への通知などをインターネットで閲覧できる)とも連動するデジタルメッセージサービスなどもある。こうしたサービスは、企業版法人ポータルとも連動できる可能性を秘めている。
 タブレットが確実に収益を生み出す起爆剤となり得るか、が注目される。過去における郵便局のみまもりサービスは、ボランタリー的な要素が強かった。しかし、今は確実な収益を得なければならない。
 今回、本格施行されるタブレットを使ったみまもりサービスは人員の確保など課題は多いが、実はそのタブレット、数年前から注目されるフィンテック(金融とITの融合)のツールにもなり得る。
 「日本で最もフィンテックに力を発揮できるのは日本郵政グループだと思う。理由は、金融の決済機能を持ち、保険機能や物を運ぶ機能も持っている。加えて、タブレットを活用した様々なサービスが用意された。資金力と日本で最大のネットワークを持つ郵政グループがフィンテックの先陣を切ってほしい」。昨年10月27日の財政金融委員会で民進党の藤末健三参院議員はこう発言した。
 パソコンやスマートフォンを使って支払などの銀行業務ができれば、大規模な銀行窓口は必要なくなる。ただ、困った時の相談窓口が今まで以上に求められる。そうした時代に、地域住民の「そばにある」郵便局はちょうどよい。
 タブレットで何か頼みたい時も「そばにある」郵便局がサポート。既にグループ内で密にフィンテックを検討している噂も出ている。トータル生活サポート企業を目指すグループにとって、その将来性は見逃せない模様だ。
 金融庁の金融審議会金融制度ワーキンググループ(WG)も12月27日、「オープン・イノベーションに向けた制度整備」と題したフィンテックの報告書をまとめた。電子決済等代行事業者を巡る状況や銀行代理業制度上の課題が記されている。
 フィンテックの技術を郵便局が活かしていくためには、簡易局だけではなく、金融業務を提供できる直営局の存在が欠かせない。
 タブレットはもちろん金融のみが関係するわけではないが、今後のグループにとって、三事業稼ぎ頭のゆうちょ銀行とかんぽ生命を所管する金融庁と、三事業一体を継続するための株式構造を握る財務省の存在が重要性を増してくる。
 金融庁は「森信親長官は就任以来『これまでの管理監督は違っていた』と自ら語り、新しい金融行政に大きく舵を切っている」と話す。
 森長官が強調する〝顧客目線〟を各地域でどう実現していけるのか。約40万人が同じ思いでチーム力を発揮すれば、公益性と地域性の郵便局らしさを取り戻しながらきっと収益も向上できる。(涓埃之功)

第6867号

「そばにある」郵便局の使命

 郵便局にキオスク端末――。


 今更何を言っているのかと思われるかもしれないが、自治体ごとに選択する郵便局の行政サービスは全国約1700市町村のうち170ほどと意外に少ない。一方、コンビニエンスストアの行政サービスを選択する市町村は2014(平成26)年末時点に100程度だったものが、16年末には約300まで広がった。


 利便性の鍵を握っていたのは、コンビニに置かれるマルチコピー機などのキオスク端末。各種証明書を簡易な手続きで取得できる。営業時間の違いもあり、郵便局窓口より機械の方が楽とはさみしい気もするが、こうした自治体との連携に郵便局は若干出遅れ感もある。


 全国郵便局長会(青木進会長)は現在、各自治体に新たなビジネスモデルのイメージを伝えようと動き出した。


 主体となるのはタブレットを使った郵便局のみまわりサービスや健康増進サービスだが、そこには同時期に始まり、7月に政府のマイナポータル(マイナンバー制度で個人ごとに設けるポータルサイト。行政保有の特定個人情報や、やり取り記録、自分への通知などをインターネットで閲覧できる)とも連動するデジタルメッセージサービスなどもある。こうしたサービスは、企業版法人ポータルとも連動できる可能性を秘めている。


 タブレットが確実に収益を生み出す起爆剤となり得るか、が注目される。過去における郵便局のみまもりサービスは、ボランタリー的な要素が強かった。しかし、今は確実な収益を得なければならない。


 今回、本格施行されるタブレットを使ったみまもりサービスは人員の確保など課題は多いが、実はそのタブレット、数年前から注目されるフィンテック(金融とITの融合)のツールにもなり得る。


 「日本で最もフィンテックに力を発揮できるのは日本郵政グループだと思う。理由は、金融の決済機能を持ち、保険機能や物を運ぶ機能も持っている。加えて、タブレットを活用した様々なサービスが用意された。資金力と日本で最大のネットワークを持つ郵政グループがフィンテックの先陣を切ってほしい」。昨年10月27日の財政金融委員会で民進党の藤末健三参院議員はこう発言した。


 パソコンやスマートフォンを使って支払などの銀行業務ができれば、大規模な銀行窓口は必要なくなる。ただ、困った時の相談窓口が今まで以上に求められる。そうした時代に、地域住民の「そばにある」郵便局はちょうどよい。


 タブレットで何か頼みたい時も「そばにある」郵便局がサポート。既にグループ内で密にフィンテックを検討している噂も出ている。トータル生活サポート企業を目指すグループにとって、その将来性は見逃せない模様だ。


 金融庁の金融審議会金融制度ワーキンググループ(WG)も12月27日、「オープン・イノベーションに向けた制度整備」と題したフィンテックの報告書をまとめた。電子決済等代行事業者を巡る状況や銀行代理業制度上の課題が記されている。


 フィンテックの技術を郵便局が活かしていくためには、簡易局だけではなく、金融業務を提供できる直営局の存在が欠かせない。


 タブレットはもちろん金融のみが関係するわけではないが、今後のグループにとって、三事業稼ぎ頭のゆうちょ銀行とかんぽ生命を所管する金融庁と、三事業一体を継続するための株式構造を握る財務省の存在が重要性を増してくる。


 金融庁は「森信親長官は就任以来『これまでの管理監督は違っていた』と自ら語り、新しい金融行政に大きく舵を切っている」と話す。



 森長官が強調する〝顧客目線〟を各地域でどう実現していけるのか。約40万人が同じ思いでチーム力を発揮すれば、公益性と地域性の郵便局らしさを取り戻しながらきっと収益も向上できる。(涓埃之功)

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