コラム「春秋一話」

 年/月

第6953号

向上しない日本の食料自給率

 最大震度7を記録した9月6日の「平成30年北海道胆振東部地震」で、野菜の値上がりなどが懸念されているが、平成29年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、前年度からほぼ横ばいと農林水産省が明らかにしている。
 前年度に比べて天候不順で減少した小麦、てんさいの生産が回復したものの、米については食料消費に占める割合が減少したことや、畜産物の需要増に対応して国産品の増加より輸入品がより増えたことなどが特徴としている。
 生産額ベースでは65%。前年度の67%から下がった。国産米の価格上昇により生産額が増加した一方で、円安の影響もあって畜産物や魚介類の輸入が増加したことが要因とする。
 食料の約6割以上を海外に依存する日本、人口増加や途上国の経済拡大による食料需要は拡大するが、地球温暖化などの気候変動が影響、生産が減少することも予測され、食料不足が問題とされる昨今、農業の再建が急がれる。
 1965(昭和40)年度にはカロリーベースで73%、生産額ベースで86%もあった食料自給率、平成元年度に50%を切り49%(生産額77%)に、22年度には40%を下回り39%(生産額69%)となるなど長期的に低下傾向となっている。
 諸外国と比較してもかなり低い。カナダ264%、オーストラリア223%、アメリカ130%、フランス127%、スペイン93%、ドイツ95%、オランダとスウェーデンス69%、イギリス63%、イタリア60%などと比較しても、日本の水準は先進国の中で最低水準となっている。
 政府は食料・農業・農村基本計画を閣議決定し、2025(平成37)年度に45%(生産額ベース73%、畜産物の自給率に大きな影響を与える飼料自給率40%)を実現するとしているが、その達成には農業を育てる施策が欠かせない。
 1日にごはんをもうひと口(17グラム)、国産の米粉、大豆、小麦を使用したそれぞれパン、豆腐、うどんを月に6枚(401グラム)、2丁(557グラム)、2玉(559グラム)を多く食べると自給率は1%向上するとされるが、大豆や小麦は輸入に頼っている。大豆は93%、小麦は86%が輸入だ。
 目標の達成には相当に思い切った政策が必要だろう。欧米諸国では価格保障や所得補償を手厚くしているが、日本では輸入自由化によって過酷な競争にさらされてきた。安い外国産との競争力を保つには政策的支援が必要だ。
 農業就業人口は平成22年の260.6万人から29年には181.6万人と79万人も減少した。このうち女性が84.9万人、65歳以上は120.7万人となっている。平均年齢は66.7歳と高齢化が進む。
 さらに基幹的農業従事者(普段は主に仕事に従事)は150.7万人で、急速に減少している。こちらは女性が61.9万人、65歳以上は100.1万人を占め、平均年齢は66.6歳。農業だけでは生活ができないという実態だ。高齢化や農地の減少も歯止めがかからない。
 食料安全保障の観点からも自給率を高めることは必要だが、同時に重要なのが食の安全性。遺伝子組み換えや成長ホルモンといったものへの国民の懸念も大きい。
 国内の農産物への信頼度は高い。安心して農業にいそしめる環境の整備が求められ、それは消費する者にとっても大きなメリットにつながる。もちろん食料の安定的な確保には、諸外国との良好な関係を維持することも言うまでもない。
(和光同塵)

第6952号

教訓を生かし災害対策を

 「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(古今和歌集、藤原敏行)。今年の夏は猛暑にうんざりした人も多いだろう。やっと朝夕の風に微かに秋の気配も感じられるようになったが、まだ暑い日が続きそうだ。
 気象庁は9月3日、6~8月の天候の特徴について明らかにした。平均気温はかなり高く、特に東日本は平年を1.7度も上回り、1946年の統計開始以降で最高となった。日本の上空で太平洋高気圧とチベット高気圧が重なり、いわば布団を2枚かけているような状態が続き、気温を押し上げたという。
 多くの観測地点でタイ記録を含めて過去最高の気温を更新した。7月23日には埼玉県熊谷市で史上最高の41.1度を記録した。40度を超す地点も相次いだ。
 降水量も多く、北日本の日本海側は梅雨前線、秋雨前線、西日本の太平洋側と沖縄・奄美は台風や梅雨前線の影響で記録的な大雨の日があった。6月末から7月はじめにかけては、活発な梅雨前線、台風7号により、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となった「平成30年7月豪雨」で大きな被害が出た。沖縄・奄美の夏の降水量は統計開始以降で最多だったという。
 6月の大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号による関西空港の冠水など大阪市を中心とした被害、9月5日には北海道で地震があり、猛暑と災害の夏だったと記憶に残りそうだ。改めて災害が多発する日本の現実を強く認識させられる。
 9月1日は「防災の日」、この日を含む1週間は「防災週間」として、今年も各地で訓練が行われた。9月1日は1923(大正12)年の関東大震災にちなむ。マグニチュード7.9と推定され、首都圏を襲った直下型地震として、関東南部から東海地域に及ぶ被害となった。
 昼食の準備をしていた正午2分前に発生したこともあって火災の被害も大きかった。死者は10万5385人、全潰・全焼・流出家屋は29万3387に上り、電気、水道、道路、鉄道などのライフラインも甚大な被害が出た。
 今年は95年となる。約1世紀に及ぶが、この間に見舞われた多くの災害の教訓を、我々は生かしているのだろうか。地震、津波、火山、台風と、古くから日本は災害が頻繁に起こってきた。
 この夏に豪雨で大きな被害のあった地域は、かねて浸水や土砂崩れなどの危険性が指摘されたところが多いという。西日本豪雨で被害にあった広島県坂町には「水害碑」があり、明治40年7月にも同じような土砂崩れがあったことを教えていた。
 河川が決壊した岡山県倉敷市真備町では、過去の洪水をもとにしたハザードマップと浸水の地域がほぼ重なっている。対策工事が秋に開始される予定だったという。関西空港は軟弱な地盤を埋め立てたもので、地盤沈下が指摘され、高潮の危険が警告されていた。
 日本は地震国と同時に台風が襲来する地理的条件がある。地球温暖化の影響もあるのか、近年は従来と異なった豪雨が頻発する傾向で、全国どの地域でも油断はできない。
 「天災は忘れた頃にやってくる」と言ったのは物理学者で随筆家の寺田寅彦とされるが、過去の教訓を忘れず、災害が発生しないような対策を行うと同時に、様々な事態を想定した防災や避難の体制を確立しておくことが求められる。災害時における相互協力を含む自治体と郵便局との包括連携協定も広がっている。公的使命を持つ郵便局に期待されることも大きい。
(和光同塵)

第6951号

自分を取り戻す「晴耕雨読」

 「晴耕雨読」という言葉がある。日が出ると田畑に出て耕し、雨になれば家に入って書を読む。悠々自適の農民の理想的なあり方を指していた。そういえば、どこかで聞いた言葉だと思う。焼酎のブランド名だったかな、という声も聞こえてくるが、今はもう死語の類になっていると言えるかもしれない。
 「耕す」というシンプルな生産活動(仕事)は多様化している。また、「読」ということもなかなかできないように何かと忙しい日常がある。これが現代人の生活スタイルなのだろうと思う。雨がふれば「雨読」なんてものではない、豪雨に対処するのが大変なのだ、という声だって聞こえそうだ。
 「晴耕雨読」が田園で暮らす人の理想だったことは疑いないが、現在の人々にはそんなことは不可能だと誰しもが思うことも確かである。一方で、この言葉がどこか心に響いてくるところもある。多忙な日常の中で自分を見失っていると実感することもあって、心のどこかで自分を取り戻したいというのが私たちにはある。それを表わす言葉なのだろう。
 かつて過ごした農村での生活は1960年以前で、遠い昔である。人々の暮らしは想像するほどシンプルなものではなかったが、それでもまだ、どこかシンプルな趣きを持っていた。働くとはそれこそ自然との交渉で、隣人・家族との関係が主なるものだった。村落共同体での生活に外からいろいろなことが入ってきて、傍目で見るほど単純ではなかったにせよ、まだシンプルさがあったように思う。
 都市での生活でもよく似たところがあったのだろうか。1960年以降の日本社会は経済の高度成長という言葉があるように、高成長により生活の様相は変った。生活は豊かになり、農本社会(農業が産業の基本たる産業社会)の宿痾ともいうべき貧窮(貧しさ)からは脱したと言える。
 自然との交渉と言われた働きは、自然という概念を超えて多様化しているし、日常も隣人・家族と関係が主だったものから変貌してきている。日常というのは相変わらず隣人・家族の関係が主なるものだろうが、隣人ということが直接的な様相を薄くして、その分社会が大きく入り込んできているように思う。
働きは今、「働き方の改革」が提起されている。働き方の多様化の中で、働くことの意味というか、価値を求めるということである。長時間労働や労働の形態から解放されることを促される契機が、過労死の問題などを通じて出てきているためである。「耕す」という自然との交渉は農業労働という過酷さがあったが、働く人の直接な喜びや自由を持っていた。
 私たちの現在の生活はかつての生活から見れば、随分と豊かになっているのだろう。ある友人が格差と言っても、俺たちの学生時代の貧しさとは比較にならないのではないかと語っていたことがある。これには留保するところがあったが、同意するところもあった。
 それ以上に私たちは高度化する日常生活の中で、ということはそれなりに豊かになった社会の中で、ある種の不安も感じていることを知る。それはいろいろなことが情報という形でなだれ込んできて、どこかで自分を失っていることではないかと思う。何をやっているのかわからないという思いはそれではないのか。
 「雨読」というのは書を読むこと以上に自分であることを確認するという要素があり、多忙な日常の中で自分を取り戻すという意味があるのではないか。「晴耕雨読」を私なりにそう思っている。
(坂田の力)

第6950号

西日本豪雨、地域産業の再生を

 西日本豪雨から2か月になろうとするが、まだ多くの爪痕が残る。6月28日から7月8日にかけ、観測記録を塗り替える激しい雨が九州、中国、四国から近畿、東海の広い地域に降り、西日本を中心に被害をもたらした。気象庁は7月9日に「平成30年7月豪雨」と命名した。
 河川の氾濫や浸水、土石流や土砂崩れなどが220人以上の命を奪った。今も避難生活を強いられている人がいる。水道や通信施設のライフラインも被害、交通機関も遮断された地域がある。平成に入ってからの豪雨災害としては初めて死者が100人を超え「平成最悪の水害」と報道された。
 総務省消防庁によると全壊した家屋は5443棟、半壊6600棟に上る。郵便局も岐阜、島根、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡県の45局(簡易局を含む)が被災した。土石流に襲われた局や水没した局がある。現在も岡山、広島、山口、愛媛県の16局が業務を休止している(8月24日現在)。
 政府は7月24日に激甚災害に指定する閣議決定をした。道路や河川など自治体の災害復旧の事業費用について、国庫補助率が1~2割ほど引き上げられ、最大で9割が国の補助となる。迅速な復旧事業が期待される。
 全国郵便局長会の青木進会長が「御見舞」を届けた岡山県倉敷市では、高梁川と小田川に囲まれた真備町が浸水した。ハザードマップに示された浸水域とほぼ重なっている。想定されていたと言えるが、51人の死者が出た。浸水は5メートルを超えたとされ、2階に避難しても厳しい状況だった。
 真備町では7月5日から3日間にわたり雨が降り続き、降水量は276.5ミリを記録した。浸水地域は東京ドーム156個分にも当たる1200ヘクタール、4400ヘクタールの区域27.3%にもなった。被害世帯は4600、避難者数は約8200人に及んだ。救助者は2350人となった。
 この区域は1級河川の高梁川と小田川に挟まれており小田川には支流の高馬川、末政川が流れ込んでいる。この二つの川が小田川に合流する近辺で水が溢れ堤防も決壊した。小田川の水位が上昇したのはバックウォーター現象もあったとされる。
 小田川が高梁川と合流する付近は川幅が狭く、大きく湾曲している。水が流れにくく、勾配が緩やかな小田川に水が澱み、堤防の決壊につながったと見られている。高梁川流域は過去にも14回の洪水が発生しているという。それだけにハザードマップが整備され、危険性が指摘されていたが、住民の意識と乖離があったのだろうか。
 地球温暖化のせいか、水害のニュースが相次ぐ。危険か所の堤防のかさ上げや補強などが必要だが、同時にハザードマップによる想定される洪水の周知、避難訓練の徹底などによる災害への住民意識が深まることが重要だ。真備町のように河川にはさまれた低地は全国に多い。
 過去に学び、備える意識が欠かせない。どのような場所に住んでいるのか、どのような災害が発生したのか、よく知っておくことだ。国土交通省のハザードマップポータルサイトや自治体のホームページで確認できることも多い。知っておけば、いざというときに早い段階で対応することも可能だ。
 また、急がれるのは西日本豪雨の被災者が生活を再建できるよう支援することだ。災害後に猛暑も続いた。心身ともに疲労が蓄積する被災者の健康も気になる。きめ細かな対策、さらに農業や地域産業の再生なども急務。政府や自治体の対応が求められる。郵便局が果たせることも多いだろう。
(和光同塵)

第6948・6949合併号

米中貿易戦争、報復の果てには

 米中間の貿易協議は8月7日再び決裂し、アメリカは中国の知的財産侵害への報復措置として、制裁関税第2弾を23日から発動する。中国も負けじと、同日から追加関税で報復する。
 トランプ大統領が3月8日に「鉄鋼アルミ輸入制限措置の発動を命じる大統領告示」に署名して以来、両国は一歩も引かず、報復合戦が続いている。
 当初は鉄鋼・アルミ製品だけだったが、次第にエスカレートし、半導体や電子部品などハイテク製品にまでに及んでいる。今や貿易摩擦というよりは“貿易戦争”という状態だ。
 一方、日米間の貿易摩擦は歴史が長い。1970年の日米繊維交渉に始まり、鉄鋼、テレビ、自動車、半導体と交渉を重ねてきた。半世紀ほどかけてその都度、落としどころを探ってきた。
 米中の場合は、わずか半年で、鉄鋼からハイテク製品まで一気に制裁品目や追加関税の規模が公表された。交渉が決裂すると、制裁は容赦なく実行される。
 「米中貿易交渉は長期戦になる」「交渉が長引けば中国に不利」との見方をする専門家は多い。報復合戦が続けば赤字の多いアメリカの方が有利。中国は報復カードが次第に底を突く。
 「貿易戦争がエスカレートすると中国の対米黒字は1000億ドル減少し、アメリカが中国の対米直接投資の規制を行えば、中国の経済成長を0.8%押し下げる」と分析する中国の研究者もいる(6月9日の野村総合研究所・中国のシンクタンク主催の日中金融円卓会合より)。対米貿易摩擦の対策としてドル高をドル安に誘導し輸出を抑制しようとした1985年の「プラザ合意」で、先進国5か国(日、米、英、西 独、仏)は外国為替市場の協調介入を決めた。
 日本は円高が急激に進み、輸出型の製造業は、海外に生産拠点を移した。移転先を中国にした企業も多い。人件費が安く労働人口が多い中国で生産し、欧米や日本に輸出するというビジネスモデルが出来上がった。
 中国は「世界の工場」と言われるまでになった。日本やアメリカ、台湾、韓国などが中国に次々と工場を作った。中国は各国から部品や素材などを輸入して組み立てて、欧米に輸出するというサプライチェーンに組み込まれている。
 高度な技術が必要な電子部品や半導体などハイテク部品は、日本やドイツなどからの輸入に頼っている。日本の自動車産業は、優れた技術、管理ノウハウ、資本を自社で持っているため、アメリカに生産拠点を移すことができたが、画期的なコア技術を持たない中国企業はそれが難しい。輸入を増やすか、外資企業が他国に移転するかだ。
 中国は技術のキャッチアップを図ろうと、2015年に製造業振興策「中国製造2025計画」を策定した。特区を作り、ロボットや5G移動通信システムなど先端技術を活用した産業の育成をここで進める。23日からのアメリカの制裁関税はハイテク製品も含まれる。
 アメリカは中国に先端技術を不当な形で使われることを警戒し、ハイテク製品の中国向け輸出を禁止した。「それを解除すれば貿易赤字は改善する」という中国人エコノミストもいるが、中国国内で知的財産権がしっかりと保護される体制(ルールと公正な監視、罰則)がなければ、世界の産業秩序は乱れる。米中貿易協議を通して、解決してもらいたい。
 日米貿易摩擦対策として、日本は現地生産のほか、競争力のある製品は価格を上げて出荷した。アメリカ産牛肉・オレンジの輸入枠も設定。輸出に頼らない体質にするため内需拡大策を打つなど手を尽くしてきた。
 貿易黒字の解消にはつながったものの、海外移転は国内産業の空洞化を招いた。地方が疲弊する要因の一つにもなっている。円高は景気を後退させ、その対策として利下げが行われた。行き場を失った資金は、貸し込みやすい(担保があるため審査が簡単)不動産投資に回り、バブルが起きた。そして崩壊。デフレ不況は30年も続いている。
 米中貿易戦争はどのように決着するのか。
(招福招き猫)

第6947号

便りを出そう 暑中見舞いの季節だ

 天変地異というか、気象の極端化が続いている。豪雨が起きたかと思うと酷暑が続く。私たちは季節を楽しむ生活文化を持っている。暑さ寒さも楽しむというか、季節を愛でる術を持っている。それは生活の知恵というか、伝統であった。
 少年の頃、まだ牧歌的な風景を残していた農村で過ごしたが、夏はトマトや瓜(まくわ瓜)を井戸に放り込んで、冷えたころに一塩をふってかぶりついたものだ。トマトがスイカに変わることもあったにしても、これは誰もがやっていた夏の光景だった。
 移り変わりゆく季節の中で、折々のひとこまを楽しんだ。そして、季節には美しい言葉があった。俳句の「歳時記」ではないが、心を打つ多くの言葉があった。私の育った農村や周辺の風景、生活文化は変わったが、思い出という記憶の中には変わらぬ風景が残っている。
 だが、最近の天変地異というべき現象は、心身がそれに向かうことを拒んでいる。極端な気象は季節を楽しむなどという余裕をなくさせる。何年かに一度の集中的な雨(豪雨)は、思い出として浸ることはできない。
 社会や政治でも不快にさせられる事件が相次いでいる。不正事件の連鎖だが、発覚したものは氷山の一角なのだろう。社会や政治の規範が壊れているとしか思えない。それは法の根底が壊れていることである。不快になることは続くのであろうが、それ以上に忙しさに追い詰められている状況もある。
 時間の流れが速くなっていると感じるが、日常的な雑事も押し寄せてくる。それは次々に情報が流れてくると言い換えてもよい。何もしないのに一日が過ぎてしまう、何もしなくてもいいはずなのにやるべきことが増える。
 時と場所から押し寄せてくるものがあり、心身はなかなか余裕のある対応ができない。それが日常なのだろう。心身の多忙な状態から解放される、それが老後だと思われているが、老後だってそうはなっていない。
 こんな中、ある新聞のコラムを読むのを楽しみしている。生活のあれこれを綴った読者の投稿だが、一服の清涼剤のように思いながら読んでいる。さりげない日常を伝えているのだが、そこに便りのようなものを感じている。
 便りというと訃報などの暗くなるものが多い年齢になったから、「便りがないのがよい便り」という気持ちにもなっている。他方で現代人は便りをしたくてもできない状態にあるのではないか。多忙さが「便りをしたためる」心的な余裕をなくしているのではないか。気にはなっているのだが、なかなか出せないと。
 だが、思わぬかたちで「便りをもらう」ことは嬉しい。多分、私は新聞のコラムを便りのようなものとして読んでいるのだろうが、便りの大事なことを改めて思う。便りをもらうのは嬉しいし、それは人間的な欲求の一つなのだろう。
 孤独こそが極上のことだという人もいるが、人間は関係の中で生きている存在だし、その意味では便りをもらうと気持ちが和む。便りにはいろいろな形があるだろうが、手紙という便利なものがある以上、これの活用を超すものはない。
 暑中見舞いのはがきもある。そんなのは虚礼という人もいるが、やはり届くと嬉しい。暑さにめげることなく便りを出したいものだ。それは清涼剤以上のものとして私たちの心身を豊かにしてくれるのではないか。
(坂田の力)

第6946号

関脇「御嶽海」の幕内初優勝

 大相撲の関脇御嶽海(25歳、本名・大道久司、出羽海部屋)が名古屋市のドルフィンズアリーナで開催された名古屋場所で初の幕内優勝を飾った。長野県木曽郡上松町出身。長野県出身力士の優勝は、優勝制度が定められた1909(明治42)年以降では初めて、郷土が待ち望んでいた夢をかなえた。
 横綱の稀勢の里の全休、白鵬、鶴竜、新大関栃ノ心が途中休場する中、小結から2場所ぶりに関脇に復帰した御嶽海は、初日から連勝を続けた。対戦相手の取り口を研究し、前に出ていく相撲を取り、中日に幕内初のストレートでの勝ち越しを決めた。10日目には10場所を迎えた三役での2桁勝利を達成。
 12日目に大関高安に敗れたものの、13日目には大関豪栄道を破り、14日目の白星で千秋楽を待たずに優勝を決めた。千秋楽は平幕豊山に惜敗したが、成績は13勝2敗。八角理事長から天皇賜杯を贈られた。
 地元では多くのファンが集まり、盛り上がりを見せた。優勝直後のインタビューでは、「この15日間…すごく緊張したんですけど…周りの声援とか聞いて、優勝しなきゃいけないという感じになって。何とか勝てました」と声をつまらせた。
 一夜明けた翌日の会見では「長かったようで短かった。充実した15日間だった」「皆さんに支えられ、やってきたことが間違いなかった」「今まで後半に失速する場所が多かったが、それを払拭できたことが大きかった」と冷静に振り返った。
 上松町立上松小学校1年の時、初めて挑戦した相撲大会で自分より小さい相手に負けた。これが負けず嫌いに火をつけた。地元の木曽少年相撲クラブに入り相撲人生が始まる。大学時代は力強い突き押しを武器に、個人タイトル15冠。4年生の11月に学生横綱、12月にアマチュア横綱となり、幕下10枚目格付出の資格を得た。
 当初はプロ入りする意向はなくアマチュア相撲の強豪・和歌山県庁への就職が内定していた。しかし、「部屋の再興に力を貸して欲しい」と11代出羽海親方(元幕内小城ノ花)の説得もあり、2015年3月場所で初土俵。四股名には地元上松町から望める御嶽山に出羽海部屋の海を付けた「御嶽海」に決まった。御嶽山噴火で犠牲者が出たことにも心を痛め、自分の活躍で鎮魂をとの思いも強いという。
 御嶽海の優勝は、7月に入り西日本豪雨が発生し、観測史上最高温度を記録するほどの全国的な猛暑が続く中、一服の清涼剤となったのではないか。来場所は大関とりとなる。「相撲協会の顔、見本となるような力士になりたい」と意欲を語る。横綱、大関に伍した戦いを見せ、立派な成績で見事に射止めて欲しいとの思いを持つ人も多いだろう。
 長野県出身の大関は、江戸時代の1800年前後に名をはせた雷電為右衛門にさかのぼる(現在の東御市出身)。生涯勝率9割6分2厘。当時は大関が最高位だった。この最強の大関に続く存在へ、期待は膨らむ。一層の精進を重ねてと願う。 
 なお、未だに幕内優勝者がいないのは宮城、埼玉、静岡、岐阜、福井、滋賀、京都、和歌山、島根、徳島、熊本、宮崎、沖縄の13府県という。
(浩然の気)

第6944・6945合併号

自治体の2040問題

 1971年~74年生まれの「団塊ジュニア世代」が70歳を超える2042年には、高齢化がピークを迎える。年間に200万人から210万人生まれたという人口ボリュームのある世代が、高齢者になれば、年金・医療、地方の生産年齢人口の減少など、社会制度のひずみが一気に顕在化する。それが2040問題だ。
 2040年以降に20歳代となる人たちは100万人を切っている。この時、60歳代後半となる団塊ジュニア世代は183万人と予測されており、とても支え切れない。
 少子高齢化は急には止められない。人口縮減時代に向けて国の在り方を根本から変えなければならない。来る2040年に備え、総務省や内閣府、厚生労働省で、熱い議論が交わされている。
 2040年の就労者数は5650万人で、今年と比べて930万人減ると予想されている。7月3日に報告された総務省の「自治体戦略2040構想研究会第2次報告」には、「公的部門と民間部門で少ない労働力を分かち合うこと」を想定し、スマート自治体への転換を提唱している。
 団塊ジュニア世代が退職時期を迎える2030年頃からは、民間企業、地方自治体ともに、社員や職員の採用を増やさない限り、就業者数は減少していく。
 人材争奪戦に突入する時、42万人でサービスを回している日本郵政グループはどう乗り切るのか。業務の省力化・効率化は自治体以上に求められるだろう。
 同報告では、職員が半分になっても必要なサービスを提供するために、AIやロボティクスの活用、自治体情報システムの統一といった方法で、バックオフィス機能の省力化を提案しているが、導入時期や技術の活用方法などで具体性に欠けており、その実現には疑問が残る。
 所得・資産価値の減少に伴い税収も下がる。職員数だけでなく人件費の捻出も問題になる。「人口縮減社会へのパラダイム転換」が提唱されているが、それには延長線上にあるものを変えるのではなく、現行制度の徹底したスクラップアンドビルドが必要になる。「公務とは何か」「公務員という身分」「行政サービスの範囲」といった原点から住民と共に考えたい。
 行政が民間と人材を分け合う時代。日本の競争力や成長に直につながる民間には特に人材が求められる。公務員は安定していて大企業の水準に合わせた比較的高い賃金、手厚い福利厚生など人気が高い職業だ。高度経済成長期には民間企業に多くの優秀な人材が集まり、産業の成長を支えた。当時は公務員は賃金が低く、現在のような人気の職業ではなかったこともある。
 行政サービスは、専門性の高い業務や行政判断の必要な業務など公務員が直接実施しなければならない仕事を除き、必ずしも公務員が担う必要がない。
 団塊ジュニア世代はバブルが崩壊した就職氷河期に社会人になった世代で、給与が比較的低く、人によっては年金未加入のケースもある。65歳を迎えても生活に必要な年金が得られず働かなければならない人が多いことが予測される。高齢者というハンディを乗り越えて働くには、多くの困難も生じるだろう。
 行政の業務を洗い直し、障害者や高齢者、子育て中の人などにもできるだけ多く開放してはどうか。公務と民間業務を兼務する半官半Xという働き方も良いと思う。行政への参加意識も高まり様々な効果が生まれる。
 同報告では「公助、共助、自助のうち基本は自助。自治体には新しい公共私相互間の協力関係を構築するプラットフォームビルダーに転換すること」を求めている。それには公共サービスの範囲をどうするのか、公務員制度の在り方も含めて議論が必要だ。支払った税金と受ける便益、大きな政府・小さな政府、主権者であり納税者である国民は国や自治体のあるべき姿を主体的に考える必要がある。
(招福招き猫)

第6943号

景況感は2期連続で悪化

 日本銀行は7月2日、全国企業短期経済観測調査(日銀短観)を明らかにした(2018年6月調査)。企業経営者の景況感を表す代表的な指標である大企業・製造業の業況判断指数(DI)は、プラス21となった。
 前回の3月調査(プラス24)から3ポイントの低下で2期連続。DIの2期連続の悪化は2012年の9、12月調査以来で、5年半ぶりとなる。景気に陰りが見える。
 背景には原油価格の上昇を販売価格に転嫁できず、利益が縮小していることや、米国のトランプ政権による貿易摩擦も企業心理を圧迫しているのではないかと指摘される。
 短観は約1万社を対象に年に4回実施され、景気の現状や3か月後の見通し、収益や設備投資などについて調査、企業規模や業種別に集計する。
 DIは景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と回答したものを引いた指数。景気の動向を把握する重要な指標とされる。
 今回の短観では、業種別に見ると原油高による原材料の値上がりで、自動車、鉄鋼、非鉄金属などが悪化し、電気機械ではIT需要が一服したことなどによって下がった。
 石油・石炭製品は13ポイント、鉄鋼1ポイント、非鉄金属6ポイント、業務用機械5ポイント、電気機械4ポイント、自動車が7ポイントほど悪化している。
 3か月後の見通しもプラス21で横ばいとなっている。指数はまだ高い水準だが、景気拡大が続くかは見通しが立たない。石油・石炭製品は24ポイント、自動車は2ポイントほど更に悪化すると見込んでいる。
 短観で2期連続で悪化したのは、資源価格の上昇と世界的な貿易摩擦への懸念が大きい。3月にトランプ政権が行った鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限を契機とした貿易摩擦は、中国や欧州からの報復合戦となっている。
 自動車や部品の輸入制限の検討も明らかにしており、一層の貿易摩擦の拡大が懸念される。世界経済にも深刻な影響を与えかねない。短観でも「貿易摩擦を懸念する声が出ていた」という。企業も貿易摩擦で先行きにどのような影響が出るか判断に戸惑っている。
 短観が発表された週明けの2日、東京株式市場も貿易摩擦を懸念して全面安となった。日経平均株価は前週末比の下げ幅が一時は520円を超えた。終値も492円58銭安となった。
 国内需要も陰りが見える。百貨店の衣料品売上げは4年連続で前年割れ、コンビニ大手の7社の来店者数は連続してマイナスとなっている。今回の短観でも小売業のDIは11ポイントも急落した。個人消費に強さはない。
 消費者の節約志向も強く、内需に勢いが欠ける中、原材料の値上げや米国発の貿易摩擦の拡大が暮らしに影響する。良くも悪くもトランプ政権から目が離せない。
(和光同塵)

第6942号

銀行も新ビジネスの開発を

 「お金を預けられるのは銀行だけ」と出資法は規定する。利用者は銀行に預けるのも、証券会社のMRF、仮想通貨に交換するのも変わらないように思うが、MRFや仮想通貨は投資に分類される。その違いは、預けたお金の保証にある。信用の維持と預金者の保護のため、銀行には本業を健全に保持する規制が幾重にも課せられている。
 「免許制」に加え「自己資本比率規制(国内業務は4%、国際業務は8%以上)」「出資の5%ルール(業務に関連のない会社に出資する場合の割合)」「金融持株会社が子会社化できるのは銀行・保険、証券会社やコンサルティング会社など金融庁の所管する業種に限定」「預金保険(国内銀行のみ)」など。
 これらの規制は、銀行業務の預金(貯金)・融資(貸付)・為替取引(決済)といった本業の健全性を保つためだ。預金業務以外は、銀行以外の事業者も金融庁に登録すれば行える。決済はクレジットカードや電子マネー、仮想通貨を運営する事業者、貸付は貸金業者、最近はシャドー・バンキングやP2Pレンディングといった投資家からの直接投資も増えている。
 106行ある国内銀行の半数以上が本業は赤字という厳しい状況が続く。低金利で利ザヤが低く、資金需要が伸びないのが主な原因。特に地方銀行は地元経済の落ち込みなどの影響で、経営悪化が目立つ。地方金融機関では少ないパイを巡り金利競争が激化し、体力を消耗させる。
 金融庁では「金融仲介の改善に向けた検討会議」を開き、4月に「地銀の経営統合により、持ち直しを図りたい」とする対応策をまとめた。福岡県では、銀行2社を統合しようとしたが、貸付け業務の多くがこの2行であることから、公正取引委員会から“待った”がかかった。
 同検討会メンバーの村本孜・成城大学名誉教授は「体力があるうちに統合しておきたい。業務コストの削減ができる」と理由を話すが、コストを削減しても、本業や本業以外で稼げなくては単なる延命に過ぎない。地方経済が縮小する中、担保を取っての融資という安全第一のビジネスモデルには限界が来ている。銀行も一緒になり地域が元気になる知恵が求められる。
 麻生太郎財務大臣も6月18日の会見で「利ざやだけではなかなか稼げない時代。新しいモデル開発の努力をしない限りは、人口減少の中、地方銀行は生き残りにくくなっている」と更なる努力を促す。
 銀行にしかできない預金集めだが、「金融審議会金融制度スタディ・グループの中間整理」では、10年後の金融の姿の中で「新たな決済手段などが普及し、金融の中核とされてきた銀行や預金の相対的な重要性が低下していく可能性がある」と予想。金融機能の分類から預金を外した。銀行の業務範囲規制についても「その有効性と副作用について検討」が明記された。
 日本郵政の長門正貢社長は6月26日の会見で「限度額引き上げで熱のある報道がなされているが、預金は金融マーケットで重要テーマなのか。フィンテックにより金融機関の機能低下や、アマゾンが金融機関を持つといったことがメーンなのではないか」と疑問を投げかけた。
 レンディング機能により個人でも貸付ができる時代。仮想通貨を使えば個人間の送金も銀行を通さずにできる。EC事業者は自ら決済を行う。銀行自体の役割が低下する中、他の業界の事業者との競争というフェーズに来ている。
 銀行の規制の在り方や新しいビジネスが議論される中、ゆうちょ銀行には相変わらず上乗せ規制が存在する。狭い範囲で議論をしていては、国民の貯金を国民のために有効活用することができないのではないか。ゆうちょ銀行も画期的なアイデアで新たな金融ビジネスに早く参戦できる道を望みたい。
(招福招き猫)

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