「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6729号

【主な記事】

変化の時代にスピード感で勝負
全国郵便局長会 大澤 誠 新会長に聞く
「不易流行」を胸に
会社の最高パートナーへ

 全国郵便局長会は5月18日、日本武道館で開催した東京総会で、大澤誠新会長(関東地方会長/富士見鶴瀬東)を選任した。昨年の参院選では強いリーダーシップを発揮し、柘植芳文参院議員の誕生に尽力した。また、営業手腕も所管する部会や地区会、地方会を常にトップクラスに導く。強さと同時に細やかな配慮も欠かさない。来年に予定されている日本郵政の上場へ向け、その準備が本格化する節目に就任した新会長の方針に、郵便局現場も注目している。収益向上は郵便局ネットワークをどう生かすかが大きな鍵になるが、大澤新会長は「生き残るのは変化に対応できる者。求められるのはスピード感だ。『不易流(急)行』を胸に、郵政事業の発展、全特の組織強化に取り組む」と強調、「会社とは最高のパートナーでありたい」と語る。(インタビュー=永冨雅文)



■全特会長に就任された抱負を。
 伝統ある全特の会長に就任したことは光栄であり、責任の重さも感じている。今の思いを胸に刻んで、時代の変化にしっかりと対応していきたい。


■全特を取り巻く環境は厳しい。
 全特は会社があってこそ成り立つ団体。株式上場も控えている。昨今の社会情勢を見ると「強い者が生き残るものではない。賢い者が生き残るのでもない。生き残るのは、変化に対応できる者」との『ダーウィンの進化論』の通りだと思う。
 それを踏まえ「不易流行」と強調したい。特に、流行には「急」の文字を入れて「流(急)行」としたい。今は1年がひと昔となり、非常に速いスピードで経済も外交も変化を遂げている。勢力図は、あっという間に変わる。急激な変化を、いかに郵便局現場が採り入れることができるかが重要だ。
 改正郵政民営化法の公益性、地域性を発揮しながら、投資家に魅力のある会社と判断してもらえるように成長しなければならない。全特は、会社にとって良きパートナーとして、変化に対応する努力が必要だ。
 今、全特と会社は考えを共有している。遠慮したり、避けたりしている場合ではない。会社の経営者には経営者としてのポジションがあり、我々には郵便局長として最前線でお客さまと向かい合うポジションがある。会社は、全特の意見に耳を傾けて会社の経営方針を決めていただければありがたい。最高のパートナーでありたい。


■改めて全特の組織強化が課題とされるが。
 昨年の参院選は地方会、地区会、部会を強化する観点から格好の材料となった。組織内候補に、初めて全特会長経験者の柘植芳文顧問を出すことができた点が大きかった。ベテラン局長と若い局長が同じ方向で、行動を起こすことが大きな力になることが証明された。
 組織強化の原点は、やはり「同一行動、同一認識」。その原点は、部会だ。部会の強化が一層求められる。
 部会長はスケジュール感を念頭に、強いリーダーシップでけん引していただきたい。行動を共にするには地域貢献活動が効果的だ。部会長自身が若返り、会社も民間になったため、昔ほど先輩局長にものを言いづらい雰囲気はなくなってきた。風通しの良い部会ほど営業成績も良く、選挙の結果も良い。


■政治活動についての考え、政治的課題に対する全特としての対応方針は。
 柘植顧問という仲間を国会に送ったことで「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(郵活連=野田毅会長)は200人近くになろうとしている。
 また、昨年暮れには各都道府県に自民党の職域支部を設置したが、政権与党の自民党とのパイプを太くしている途上だ。地元議員との関係を深めることで政治課題が解決できるように地道に活動していきたい。
 しかし、柘植先生も言われているが、日々の細かな問題など会社の琴線に触れるような問題は直接地元議員に当たるのではなく、全特などの意向を踏まえた対応が必要だ。全特として関係議員との勉強会の開催なども一案だ。


人材の育成と処遇改善


■過疎地などにおける郵便局長の後継者不足は、全特にとっても大きな課題だ。
 後継者問題は長年の課題。全特の理念の三本柱のうち選考任用、不転勤の人事制度がなし崩しになるということを容認するものではない。後継者不足や育成問題が深刻化する背景には、局長の処遇の問題もある。
 全特としてもしっかりと会社対応をするが、地区会、部会では3年程度の期間で適任者を選考し育成していかなければならないと考えている。家庭内で子弟教育していただくことも重要。上場企業として、幅広く知識を有する人材を登用していくことも想定される。
 育成は、目の前の試験対策だけ行うのではない。局長として将来展望を見通せることが一番大切で、郵便局のネットワークを守るためには、部会、地区会を挙げて、真剣に取り組んでいただき、地域に貢献しつつ仕事ができる立派な人材を育成していただきたい。

■65歳の定年制について、会社との交渉は継続的に実施することになるのだろうか。
 定年制は一定の整理ができて、65歳まで勤務することが担保された。60歳で一度退職し、新しい給与形態になる。同じ郵便局で1年更新しながら5年間、局長ができる。
 全特も65歳までは通常勤務だ。65から70歳までも継続雇用で働く時代が必ず来ると予測しており、65歳定年問題にはしっかりと取り組んでいきたい。

■ユニバーサルサービスコストの在り方が、総務省で検討されているが。
 改正法では三事業のユニバーサルサービス義務が明記されたが、それを担保する優遇措置が今も認められていない。
 郵政グループは法人税などを4000億円程度払っているほか、金融2社が日本郵便に支払う委託手数料に係る消費税を税率5%時代も年間約500億円支払ってきた。
 法人税について新聞報道などでは日本の企業の上位20社の法人税率は29%程度。その中には、様々な減税項目がある。優遇措置がない中で、7年目を迎える郵政グループにとっては非常に大きな課題だ。
 上場に向けて早期の解決が求められる。かつて国は、メガバンクが赤字を出した際に無利息で融資し、返還されるまで法人税は免除された経緯もある。
 地方のお客さまのことを考えると、限度額1000万円では退職金も預けられない。政府も現実に目を向けてもらいたい。
 地方では郵便局の小口の貯金、簡易な保険の役割は非常に大きい。郵便局は昔から民間を圧迫する企業ではないし、共存できると理解している。政府も早く、ゆうちょ銀行の住宅ローンなどについての議論を再開してほしい。


地域に必要な新規ビジネスを


■日本郵政の西室泰三社長は「郵便局ネットワークは郵政グループの最大の財産で、いかに活用していくかが大切」と繰り返し強調している。
 簡易局を含めて約2万4000のネットワークを持っている。その維持は法律にも明記されているし、約2万局は金融を含めたユニバーサルサービスを全国に担保していくのに必要な数だと考える。
 過疎地では、地域のコミュニティーの場になっている局もある。本来、地域行政がなすべきことを郵便局が代替しながら、地域に溶け込んでいる。利益が出なくても、地域に郵便局は必要だ。それこそがユニバーサルサービスなのだから、存続させるべきだと思う。密集している地域で検討を重ね、郵便局ネットワークの最適配置を考えることも必要だろう。
 ユニバーサルサービスコストを担保するための課題は政治の範疇だ。郊外を中心にショッピングセンター、ショッピングパークなどの出店が多数出てきた。約2万4000の店舗は、物流、金融、物販と幅広い業種にまたがるサービスを提供している。また不動産も所有する。外部から見て、非常に魅力的だと思われる。
 これまでの価値観を超え、頭を切り替えながら地域に必要な新規ビジネスを構築していくことが急がれている。

■三事業だけではなく、新規事業を大いに検討すべきという意見がある。
 今の時代に適応したビジネスを提供することが大切だ。郵便局も都市部の大きな局の空きスペースを利用して、コンビニや保育所の新設など新規事業を考えていくことが必要だろう。
 地域が必要とするものに、例えば低価格で貸し出し、都市部に便利な施設ができれば、新たな需要も生まれる。

■収益向上には、現在の中間マネジメント体制は課題も多いと指摘されている。
 中間マネジメント体制については、新たな方針を会社から説明も受けている。三事業は専門性がより強く求められている。総務省のみでなく、今は金融庁、国土交通省にも管轄されている。
 厳しいコンプライアンスが求められており、会社は三事業の機能性を重視したマネジメント体制に向け一歩踏み出すということで現場に発信している。競合他社との競争に打ち勝つためだ。また、人を育てることがマネジメントを進める上で急務になっている。

■一時期は支社が機能を果たすことができず、現場の意見も本社に上がらないとの話もあったが、組織は改善されたのか。
 民営化以降、直接、本社から現場のフロントラインをコントロールしようとの流れがあり、その際に支社の権限が弱くなった。現場と近い支社が命令系統としての役割を取り戻したかといえば、今も民営化前には戻っていない。我々のビジネスは〝地域〟。支社の機能強化を民営化前に近い状態に戻すことが必要だ。これだけ大きな組織であり、地域性も異なる。支社への権限移譲は必要だと思う。


重要な市場での高い評価


■西室社長は来年半ばまでに上場の具体的な動きあるとしているが、全特としての対応方針は。
 基本的に全特会員は、会社の社員のため、会社の方針に意見することはない。我々は来年上場ができる準備をする。歴史ある郵政グループが市場で評価されるもので、そこで働く社員の価値感も上がる。高い評価が得られるように会社全体が一体となって頑張らなければならない。
 現実的には金融2社を先行したり、同時上場するのは難しく、日本郵政をまず上場した後に、金融2社の上場を考えるべきだと考えている。

■外資に対する規制については。
 英国のロイヤルメールが上場した時に、3.8%ほど外国人株主が取得して、ロイヤルメールに様々な要求をした。日本では、JTが38%程度をヘッジファンドなどに買い占められている。郵政グループは確かに規模が異なるが、そういうことがないと100%は言い切れないだろう。
 第三の安定的な株主に買っていただくのも易しいことではない。上場した後も3社のシナジー効果を表す関係を続けるしかない。
 会社は、政府からユニバーサルサービスを提供せよと法律で縛られている一方、株主からは赤字の店舗をなぜそのままにしておくのか、との主張を受けることになる。動向を注視することが必要だ。


三事業一体でユニバーサルサービス


■旧民営化法で遠心力が働き疎遠になったと言われたことがあったが、今の郵便局と金融2社との連携状況については。
 日本郵便とかんぽ生命は、パートナーとしての体制が構築されている。直営店が一部の郵便局には存在するが、窓口は持たないし、パートナー営業部が代理店のサポートをしてくれている。かんぽ生命自体は、法人営業に特化する住み分けがしっかりとできている。分かりやすく、頼れる存在だ。
 一方、ゆうちょ銀行は233の直営店を郵便局内に構えている。直営店は会社が違うのだから、メガバンクと同じような店舗で展開すべきで、郵便局の中に店舗があるのは疑問に思う。ゆうちょ銀行が存在する郵便局の社員は貯金業務ができない。その社員を異動させる時に非常に躊躇する。我々の業務で最もウエイトが高い貯金業務ができないことから異動先も限られてしまう。
 一方、金融のユニバーサルサービスの観点から7割近くの郵便局では貯金業務がメインだ。今年度からは「郵便局(ゆうちょ)の新たな営業スタイル」として、支店と郵便局の営業連携強化策も打ち出された。
 今後の営業形態として委託先の郵便局と混乱が起きないように、業務範囲を法人営業に特化するなどの方法で代理店のサポート体制を構築するかんぽ生命と同じ営業スタイルにしていただくのが望ましい。

■現場の郵便局長の皆さんにメッセージを。
 今、求められているのはスピード感。世の中の変化、企業の変化、急激に変化しているものに遅れをとってはならない。その決断ができるかできないかだ。全特の三本柱は、その割合が多少低くなったとしても堅持していく。上場を控え、変化が必要なものは即座に対応していかなければならない。仕事も政治活動もこれに尽きる。地域の発展、お客さまのために三事業一体のユニバーサルサービスを発揮しながら民間企業の一員として、会社の運営を助けていかなければならない。全特約2万人の会員がその考えに基づいて行動することが組織強化につながり、未来が開けてくるものと確信している。
 会員と共に、しなやかに、迅速に、厳しい変化の時代を駆け抜ける決意だ。


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