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2024年04月29日 第7246号

【主な記事】

柴愼一参議院議員 重要なリアル郵便局の存在
民営化で仕事の満足度が低下
日本郵政グループ 社会貢献を求められる企業


 今国会での郵政民営化法改正案提出を目指し、現在、自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(郵活連)を中心に法案づくりが進められている。郵活連が示している方向性について野党はどう考えているのか。JP労組中央副執行委員長などを経て、2022年の参院選に立憲民主党から出馬し、初当選を果たした柴愼一参議院議員に聞いた。(坪内隆彦)
 
■柴議員は長年にわたり郵便局で仕事をされてきました。郵政事業を取り巻く環境の変化をどうご覧になっていますか。
 私はちょうど40年前の1984年に神奈川県の高校を卒業し、品川区の特定局(現エリアマネジメント局)に採用されました。決して褒められた社員ではなかったと思うのですが、職場の上司、先輩、同僚に支えられ、郵便局の仕事に誇りと希望を持って働くことができました。
 組合活動が活発な地域だったこともあり、先輩の背中を追いかけているうちに、自然と組合の役員になっていました。郵便局に入った時には、自分が国会議員になるなど想像すらしていませんでした。何も知らない高卒の「お兄ちゃん」だった私を、国会議員にまで育ててくれる郵政の職場の「人材育成能力」は素晴らしいと思います。
 人口減少、過疎化は郵便局にとっても日本社会全体にとっても、重大な課題であり、地方・地域社会を維持していくための方策をしっかり講じていく必要があります。これは政治の責任だと考えています。
 一方で、地域を支えるために様々な公的インフラ、公的サービスを提供している自治体や企業、日本郵政グループは非常に苦労しています。お客さまが減少し、収益が悪化しており、サービスを維持していくことが困難な状況に陥っています。
 しかし、郵便局に対する期待は高まっています。超高齢社会への対応も郵便局が果たすべき重要な役割です。私自身も郵便局で働いていた時に、1人暮らしのお年寄りから「部屋の電球が切れてしまいました」と相談され、交換するのを手伝うといった経験をしました。現在は、東京などの大都市圏でも助けを必要としている独居高齢者が増えています。公的サービスだけでは対応できない状況があるとすれば、郵便局への期待はますます大きくなっていると思います。
 それらに加え、自然災害が頻発する我が国では、防災、減災、安心のよりどころとしてのリアルネットワークである郵便局の存在は非常に重要です。本年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」は甚大な被害をもたらしました。今回の地震では、地理的状況から訓練された自衛隊ですら救助に入ることもままならず、飲料水までも不足する被災地の状況が報道されていました。
 もし、能登半島にある各郵便局が国や行政から防災拠点としての役割を与えられていたのならば、今回の震災においても違った役割を果たすこともできたのではと思います。人口減少による過疎化が加速している中で、社会インフラとしての郵便局のあり方を国の政策として議論・検討していく必要があると考えております。
■郵政民営化によって三事業の一体感が弱まったと指摘されています。
 民間企業であっても、自社の利益のみを追求することは許されません。郵政グループであればなおさらです。ところが、グループ各社の経営状況が厳しくなり、自社の利益確保ばかりを優先するようになっていないでしょうか。経営陣は、どこを向いて経営を行うべきかを改めて考える必要があると思います。
 郵政グループは、株主ではなく、社会やお客さま、社員の方を向いて経営すべきです。経営陣の姿勢は社員の意識にも影響を与えます。郵政グループ各社が、果たすべき社会的責任を自覚し、それぞれの会社が何をなすべきかを考え、それを実行していくことが必要だと思っています。持株会社である日本郵政はその先頭に立っていただきたい。
■民営化によって、社員のモラルはどのように変化したと考えていますか。
 私自身は、公務員時代の採用でしたから、あまねく公平なサービスを提供するよう指導され、「独立採算・収支相償」と教えられてきました。だから、会社の儲けではなく、お客さまの利益を第一に考えて仕事をすることができました。そのことに、とてもやりがいを感じていました。仕事の満足度が非常に高かったということです。
 以前にJP労組が実施した組合員アンケートでも、民営化後、仕事への誇りや満足度が低下したという結果が出ました。「社会的に意義のある仕事をしている」という自覚が、社員のモラルを高めていたのだと思います。
 民営化によって、市場からの評価や、株価を維持するための増収増益が強く求められるようになり、一部で仕事への誇りやモラルの低下を招いたのではないかと考えています。
 日本郵政グループは、民営化されても、社会への貢献を求められる企業グループです。その意義をもっと社員に示していくことが必要ではないでしょうか。郵政グループの経営理念には「お客さま本位のサービスを提供し、地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指します」と書かれています。私は、かんぽ不適正営業の際にこの経営理念を改めて読み返し、経営理念に則った仕事がまったくできていなかったと痛感しました。改めてこの経営理念に基づく経営、業務、サービス提供を徹底すべきだと思います。(2面につづく)


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