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2024年03月11日 第7239号

【主な記事】

長谷川英晴参議院議員 国民の利便性向上が法改正の目的
 
グループ一体は生命線
求められる日本郵便の主導

郵便局ネットは国の財産
社員が夢を語れる企業に


 郵政民営化から17年。現在、民営化法の抜本改正に向けて議論が進められている。長谷川英晴参議院議員は、法改正は利用者に対するサービスの向上を基準に考えなければならないと強調し、「地域社会に貢献している」という郵政社員の誇りを取り戻すためにも、郵政グループのあるべき姿を法律で位置づける必要があると述べる。


■現場の局長の皆さんのお話を聞くと、郵便局の将来展望が見えにくいという不安を感じておられるように思われます。民営化以降の郵便局の現状をどのように評価されていますか。
 民営化すれば、サービスレベルが上がる、お客さまの利便性が上がると期待されていましたが、結果的に一定程度の成果はあったものの、郵便局を利用されているお客さまは「本当にサービスは良くなったのか」という疑問を感じられているのではないかと思います。むしろ、「サービスは悪くなった」と感じているお客さまも多いと思います。例えば、荷物の集荷についても、かつては局長がお年寄りの自宅に直接取りに行っていましたが、現在はそうしたことができなくなりました。
 郵便の配達日数が長くなるなど、民営化前よりもサービスが低下した点は数多く挙げられます。お客さまが郵便局のサービスが良くなったと感じていないからこそ、窓口来客数の減少を招いているのだと思います。この10年間で窓口来客数は4割程度減っていると推測されます。人口減少のペースよりもはるかに速いペースでお客さまが離れていっているということです。郵便局で働く局長や社員も、サービスの低下を痛切に感じているのではないでしょうか。
 一方、日本郵政グループの経営環境は悪化しています。郵便料金の値上げが発表されましたが、総務省は今回の値上げで2025年度の収支は黒字化するものの、その後は赤字拡大の一途をたどると試算しています。
■郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟で民営化法改正案が議論されています。
 民営化法の改正を考える時、何を基準とするかを間違えてはいけません。基準が会社の経営を良くすること、株主の利益を拡大することだけになってしまえば、郵政事業が果たすべき役割とは違う方向に行ってしまいます。郵便局のネットワーク、配達、決済、物販といった機能を活用しながら、いかに利便性を向上させていくか、つまり利用者に対するサービスの向上を基準にし、なおかつ会社の経営にもプラスになるという視点で考えていかなければならないと考えています。
■民営化後、三事業の一体感が弱まってしまいました。どのようにして一体感を回復していけばいいのでしょうか。
 グループの一体感は生命線だと思っています。日本郵政グループ各社が一体になり、トータルでお客さまに対するサービスを提供することによって相乗効果が生まれるようにならなければいけません。しかし、現在の各社の状況を見ると、そのようにはなっていない面があります。
 例えば、岸田政権が掲げている「新しい資本主義」、デジタル田園都市国家構想の目標の一つに「地域間格差の是正」がありますが、地方創生という目的に向かって、日本郵政グループ全体が一体となり、同じベクトルで進んでいるようには見えません。
 地方では空き家の見守りといったニーズがあります。また、支援を必要としている「買い物難民」「医療難民」と呼ばれる方たちがいます。さらに、自然災害の規模が拡大し、過去には考えられなかったような甚大な被害をもたらすようになっています。そうした問題に対して、日本郵政グループ全体としてどう取り組むかをもっと真剣に考えなければいけないと考えています。
 例えば、ゆうちょ銀行で働いている人たちには、郵政グループの一員であるという意識が薄れてきています。民営化から17年が経ち、郵便局で仕事をしたことのない人が増えているからです。ゆうちょ銀行の直営店で働いている人たちには、郵便、貯金、保険を扱う郵便局の窓口がどのような課題を抱えているのか、どのようなお客さまの声が寄せられているのかがわからなくなっていると思います。
 したがって、最前線に立って地域のお客さまの声を聞いている日本郵便が主導する形で、グループの方向性を決められるような組織にする必要があると考えています。
■日本郵便が中心となって方向性を決める必要があるとすれば、日本郵政と日本郵便が統合し、金融2社の株式も3分の1程度は保有するという方向で改正する必要があるということですね。
 まさにいま、そうした議論を行っています。長期的に最も望ましいのは日本郵政グループが1つの会社になることだと思いますが、すぐにそれを実現することは難しい。現状では、日本郵政と日本郵便を統合することが1つの方法だと思います。
 日本郵政グループの中期経営計画「JPビジョン2025」には「資本関係に依らない日本郵政グループを構築します」と書かれていますが、私は楽観的すぎると思います。どれだけの株式を保有し続ければいいのかを考える時、例えばゆうちょ銀行が郵便局との委託契約を結ばないといった決定をすることができない程度の株を保有しなければならないということになるでしょう。
■郵政事業は国営事業でよかったという議論もあります。
 国営でもよかったし、郵政公社でもよかったとの意見はあります。しかし、歴史的な経過の中でそうならなかったのですから、それは受け止め、いま何ができるかを考えなければいけないということだと思います。公社に戻そうとすれば、様々な問題が起こります。地域社会が急速に変化する中で、待ってはいられませんから、いまの段階で可能な形で法律を変えていくしかありません。
■郵便局の公的基盤サービスをきちんと法律に明記する必要があるとの考え方もあります。
 現在の法律でも、解釈によっては公的サービスが郵便局の根幹的な業務であると考えることはできると思いますが、そのようには解釈できないという考えもあるならば、法律で明記する必要があると思います。
 マイナンバーカードの申請など行政の事務委託は重要なことですが、地域の方々が不便さを感じていることに対して、郵便局がどのような支援ができるかという視点で考える必要があると思います。
 例えば、熊本県天草市では出張所を維持することが困難になっており、25か所にある出張所のうち22か所を廃止します。しかし、それでは住民に対する行政サービスを維持することができないので、証明書発行などの窓口業務を23か所の郵便局に委託することになっています。一方で、市役所や支所が存続できる都市部では、郵便局に窓口業務を委託する必要性は高くありません。あくまでも、郵便局はそれぞれの地域の事情に合わせて、どのような役割を果たせるのかを考えるべきだと思います。
■金融2社に対する上乗せ規制も、ある程度株の売却が進めば緩和すべきでしょうか。
 日本郵政は2021年にかんぽ生命の株式の2分の1以上を処分したので、上乗せ規制が緩和され、かんぽ生命の新規業務は認可制から届出制へ移行しました。これによって、かんぽ生命からどんどん新商品が出るのではないかと期待されていたのですが、実際にそうなっていません。やはり上乗せ規制の影響があるからだと思います。そこで、金融2社の株式を一定程度売却することを条件として、上乗せ規制に手をつける必要があると思います。
 ただし、ここでも経営という視点だけで考えてはいけないと思います。何よりお客さまへの十分なサービスとネットワークを維持するために、健全な経営を妨げている上乗せ規制もある程度外す必要があるということです。
■法改正についての合意は形成されつつあるのでしょうか。
 議員の先生方の耳にも、郵便局のサービスについての不満の声は入っているはずです。「かんぽ生命の加入手続きに行ったら何時間も待たされた」「大事な郵便物を出したのに、届くのが遅い」「郵便料金の値上げによって発送にかかる経費が一気に拡大してしまう」といった不満の声を聞き、自分自身も不満を感じることがあるのであれば、法改正によって現在の郵政の状況を改善しなければならないと考えてくれるはずです。
 ただ、議員立法で出すのであれば、与党公明党をはじめ野党各党の理解を得られるよう調整しながら、進めていくことになると思います。利用者に対するサービスを向上するという目的が達成できるのであれば、当初の改正案の形が変わっていくこともあるでしょう。
■外資の規制についてはどのようにお考えですか。
 利益だけを考える株主には郵便局ネットワークの公益性・地域性といった議論はなかなか通用しない部分もあると思います。したがって、現在のネットワークとユニバーサル・サービスを維持していくためには、外資に対して一定程度の規制があっていいと思います。NTTはじめ公共のサービスを行っている企業については法律で外資を規制しています。
■人口減少とともに手紙を利用する国民が減った影響も大きいと思います。
 年賀状は日本の文化だと思いますが、令和6年用の年賀はがきの当初発行枚数は、前年より約2億枚少ない14億4千万枚で13年連続の減少となっています。私は、日本郵便が、年賀状を残し続けていくという強い意志をもって取り組んできたのか疑問符をつけざるを得ません。
 かつて、郵便局はお祭り等に出店して、盛り上げていました。しかし、民営化後には費用対効果が厳しく問われるようになり、必要なイベントまでやらなくなっているのではないでしょうか。日本郵政グループは単に儲かればいいという会社ではありません。収支に偏りすぎた結果として、年賀状のような大事な文化や企業イメージを自ら壊している面があるのではないでしょうか。
■デジタル田園都市国家構想の中で、郵便局はリアルの世界とデジタルの世界の両面での役割を求められています。
 デジタル田園都市国家構想総合戦略においては、「住民に身近な場所を活用した遠隔医療」「地域コミュニティ機能の維持・強化」など、郵便局の役割を明確に位置付けている項目がいくつもあります。その役割をグループ会社経営の中でどう位置づけていくのかが重要です。
 現在、地方に行けば行くほど、公共サービス、公的サービスを提供する拠点、直売所や診療所といった日常生活を維持するために必要な拠点が減少しています。リアルな存在が、郵便局しかないという地域が増えているのです。したがって、国としても郵便局を最大限に活用していくことが必要だと思います。
 一方、デジタル化によって利便性が向上していますが、まだまだデシタルに不慣れな方が少なくありません。郵便局でのリモート診療、タブレットを活用した買い物支援などでお客さまがうまく操作できない時に、郵便局の局長、社員がそのお手伝いをすることにより、デジタルのサービスがきちんと享受できるようになると思います。
■「無医地区」などでのオンライン診療のニーズが高まる中で、石川県七尾市の南大呑郵便局で実証実験が始まっています。こうした中で、長谷川議員は郵便局ネットワークと逓信病院の連携による全国的なオンライン診療の展開を提案しています。
 オンライン診療もまた、それぞれの地域のニーズに応えるということが基本にあります。例えば、月に1、2回程度ならばお医者さんに通えるが、それだけでは十分ではないといったニーズに対して、地域の病院と連携してオンライン診療を提供することは重要です。
 受け皿となる病院は、地域の病院の場合もあれば、県の総合病院の場合もあっていいと思います。ただ、せっかく同じ日本郵政グループに逓信病院があるのですから、それを活用することを考えてもいいと思います。
■長谷川議員は「日本ウェルビーイング(世界保健機関憲章を基に肉体、精神、社会等を総合的に満たす持続的な幸福)計画推進特命委員会」の事務局次長を務めています。「ウェルビーイング」という視点から考えたとき、郵便局に何が求められるのでしょうか。
 ウェルビーイングとは「身体的、精神的、社会的に良い状態」、つまり幸福度、満足度が高い状態です。組織が成長するためには、そこにいる人の幸福を第一に考えなければならないということです。日本郵便の千田哲也社長が「ES(従業員満足度)なくしてCS(顧客満足度)なし」と強調しているように、従業員が仕事に満足し、幸せになって初めてお客さまに素晴らしいサービスを提供できます。
 郵政事業に携わる人が、処遇にも満足し、誇りを持って、幸福感を感じながら仕事ができるかどうかが重要だということです。また、郵便局のサービスが存在することによって身近な場所で安心してサービスを受けられることが、結果的に地域の住民のウェルビーイングの向上につながるわけです。
■現場の郵便局で頑張っておられる社員の皆さんに元気の出るメッセージをお願いします。
 1月中旬に、三重県度会郡の郵便局などを視察し、地域社会で活躍する局長はじめ社員の皆さんの姿を見てきました。例えば、松阪郵便局玉城集配センターは、全国初の試みとして自治体から空き家調査の委託を受けています。
 また、各自治体は消防団の空洞化への対応を迫られており、津市は事業所が推薦する人に「事業所機能別団員」になってもらう取り組みを開始しています。これに協力して津中央郵便局の局長や社員が消防団に入団しました。
 日本郵政グループは、各社がベクトルを合わせて進めば、地域社会でさらに広範な役割を担うことができるはずです。
 郵政事業、郵便局ネットワークは国の財産です。しかし、いまそこで働いている人たちがそれを自覚しているのか疑問です。日本郵政の使命は単に利益を追求することではないと思います。それほど利益を上げていなくても、日本にとって大切な企業はたくさんあります。社員の皆さんが、日々の仕事を通じて、社会的に重要な役割を果たしていることを感じられるようにすることが重要だと思います。それができれば、人材が流出することもなくなるでしょうし、人材を育成することもできるでしょう。
 経営が苦しくなると、効率化、人件費削減といった話ばかりになり、夢を語る人がいなくなります。私は社員の皆さんが夢を語れるようになってほしいのです。「非常に儲かる企業になる」ことが社員の夢だとは思いません。
 地域への貢献に努力し、それに誇りを感じている郵便局がたくさんあります。社員が会社の中での評価だけを考えるようになれば、敢えて地方創生に貢献しようなどとは考えません。このままでは、働いている人たちが限界に達して、「地域のために」などと思わなくなってしまいます。局長も10年で半分ぐらい変わります。すでに国営時代を知っている局長は2、3割に減少しています。
 それでも、「地域を守っていきたい」「地域の皆さんの役に立ちたい」という思いで仕事をしている局長、社員がいるのです。その火が消えないうちに、日本郵政グループのあるべき姿を一定程度法律で定めていくことが必要だと思うのです。


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