「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6951号

【主な記事】

新たな挑戦へ
柘植芳文参議院議員


 柘植芳文参議院議員は、郵便局ネットワークを維持することを目的に、通常国会で成立した新たな交付金・拠出金制度を創設する法律について、「一つの風穴を空けた意義は大きい」と評価する。また、郵便局ネットワークの将来像では「三事業にプラスαの第4ビジネスを行うことが必要。それぞれ地域によって特徴ある郵便局を作っていくことだ」とするとともに、高齢化・人口減少社会が進展する中、「地方自治体の業務を受託するなど地域と連携を深めることが必要」と強調する。2期目となる来年の参議院選挙については、郵便法の改正や経営の在り方、地域の活性化などを挙げて「積み残した課題がある。全特、日本郵政グループなど関係方面の強い要請があり、もう一回、勇気、気力を振り絞って頑張らなければいけないという気持ちだ」と意欲を語った。
=インタビュー・永冨雅文=

意義ある交付金制度の創設

■通常国会が終わりました。終盤は少し荒れましたが、内閣委員長として注目されました。
 今国会では最初、環境委員長でした。委員長という職も初めてでしたが、大きな与野党の対決法案はありませんでした。国会はマニュアルがあったり、こういうようにやるのだというものが何もありません。先輩などに教えてもらう、人を見て覚えていくといったことしかありません。
 環境委員長に少し慣れてきたところで突然、内閣委員長にと話がきました。内閣委員会は様々な対決法案がありました。内閣委員長のポストは10年もの間、自民党が持っていませんでした。まさか話がくるとは思っていなかったですし、最初は固辞しました。
 私には荷が重すぎる、ベテランの委員長を置くべきだという話をしたのですが、どうしてもということで、最後は受けることになりました。TPP11の承認やIR法案など与野党の激しい議論もあって、いろいろと勉強させてもらいました。

■今国会では長年の懸案事項であった窓口手数料に係る消費税問題に関連して、新たな交付金・拠出金制度を創設する法案が議員立法で成立しました。
 消費税の減免を打ち出し、長く闘ってきました。郵政民営化法のときに、分社化されたことによって生じる消費税については、これからの検討課題とするとなっていました。ですから、それに基づいて自民党には検討をしてもらいたいとずっと言ってきました。
 ただ、日本郵政グループだけを例外扱いにするのは非常に難しいと当初から言われていました。しかし、自民党の税調にはずっと要望し、継続的な審議として残してもらってきました。難しいなら、それに代わるものとして最初に実現させたのが金融2社の限度額の引き上げでした。その次には、いわゆる金融の新しい商品、口座貸越サービスです。
 消費税減免についても、難しいならば何か違った方法で利を得ることを考えた方が良いと税調の宮澤洋一会長、郵活連の野田毅会長をはじめ、多くの議員、財務省とも相談をしていました。その中で、昨年、消費税減免はできないが、消費税の一部を切り離すという形で出てきた法案です。内容的には非常にシンプルな法律ですが、成立した意味はたいへん大きいものがあります。
というのは、日本郵便の郵便局ネットワークの維持というのが大きな目的になっています。そのために生ずるコストをどういう形で負担するかというのが、制度の根本的な考え方です。議員になってから、ユニバーサルサービスのコストをどう見ていくのか、とにかくコストをまず国がこれだけかかるということをしっかり詰め、次にそのコストをいかに負担していくかということを検討して欲しいと訴えてきました。
 自民党で話をしても、日本郵便の経営努力で行っていくべきだということで、なかなか相手にしてもらえませんでした。しかし、金融を含めてユニバーサルサービスを課したのは国、まして郵便局の窓口を通じて提供しなさいと法律に書いてあり、国がしっかりと責任を負うべきだと主張してきました。
 ユニバーサルサービスにかかるコストは、一義的には日本郵便の経営努力ですが、それに国とサービスを利用される方々、この3者が相応の負担をしながら安定的なユニバーサルサービスが提供できるというのが基本だと思います。
 自民党も国が課したことだから、国が責任を持ってコスト負担をすることを決めなければならないとの議論が、ようやく出てきたのです。それがスタートです。そして、財務省との協議の中で出てきたのが交付金制度でした。
 心配したのは、郵便局ネットワークを維持するために国が一定の関与をするわけですから、原理的な民営化推進論者に言わせれば、民営化を減速させるということです。第三者機関を通じて日本郵便に交付金を与えることは、形としては国が郵便局ネットワークを守っていくと言ったこととイコールです。
 ましてやゆうちょ銀行とかんぽ生命の拠出金をもって交付金の基金にすることは、ある意味では金融2社を縛るわけです。あまり大きな議論にすると、そういうところに波及すると困るなと思っていたら、案の定そうしたことを主張する議員もかなりいました。
 しかし、ユニバーサルサービスは国が課した責務、言葉を変えれば自民党が課した責務です。完全民営化に向けた取組みとは違う、ここを混同するならばもう1回、自民党でユニバーサルサービス義務を課すか課さないか議論してくれと突き返しました。
 そういう問題が根深くあったことは事実です。消費税の一部を取って交付すると簡単に言われていますが、深い意味もあるのです。今回は2900億円、額としては小さいのですが、一つの風穴を空けたという意味で大きな意義があります。2900億円くらいではとてもコストを補えません。もっと厳しくなったら、何らかの措置を取らなければいけません。これは大きなこれからの政治課題でもあります。

■現行の郵便局ネットワークを維持できなくなれば、アップの可能性もあるということですか。
 郵便局ネットワークの維持には1兆円単位の資金はかかりますよ。ですから、過疎地の郵便局ネットワークを守るにはというイメージで、交付金の支給というのを考えていく議論をしようという意見もありました。しかし、議論が膨らみ、ややこしくなりますから、取りあえず今回はまず制度を作ろうという形になりました。
 これからは、どこから資金を持ってくるか、例えば株式の売却益などの方法もあるでしょう。まずは制度ができたということが大きいのです。郵便局ネットワーク維持には、相当の資金が必要です。また、交付金も単年度で、積み立てていくわけではありません。
 ただ、会社としては実質的な消費税減免になり、その影響は結構大きいですし、郵便局ネットワーク維持とは簡易郵便局を含めた課題です。簡易郵便局は約4000局ありますから、相当の資金が必要です。

第4ビジネスを 自治体業務の受託も

■郵便局ネットワークについては、日本郵便で将来像の検討が進んでおり、原則的な方向は決まり、今年度から具体化されることになっています。
 日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式に、なかなか価値が出ていません。先の日本郵政の2次売却株でも、諸外国の投資家から最も大事なのは日本郵便、この郵便局ネットワークを活用した新たなビジネスモデルにこそ魅力があると言われています。外国の投資家は手を出さず、ほとんどが国内の個人投資家が買いました。
 今の郵便局が現行のままでこれから先も維持できるとは思えません。郵便、貯金、保険という三事業だけでは生きていけません。新たな中期経営計画にも郵便局の形をどう変えていくのか、新しいビジネスモデルの方向性を示して欲しいとお願いしてきました。
 一つの方向性として多様性のある郵便局だとか個性ある郵便局などと打ち出していますが、具体的な実行策になると期待に応えたものとは言い難いと思います。そこで、多様性とか個性というのは、三事業の郵便局があっても良いし、それ以外の郵便局があっても良いと提案しました。新中期経営計画の中で1本の柱として打ち出すと期待していました。
 さらに、多様性や個性ある郵便局の具体的な実行となると、現場からの抵抗感も出てくるでしょう。今の形を変えることについては当然、抵抗感があるものです。グランドデザインを描き、具体的なメニューを作って現場と協議して詰めていくということが求められます。

■郵便局ネットワークの将来像では、現行の水準を維持するとなっています。そこに意義があるとの評価があります。
 郵便局の現行の水準というのは、既に法律で決まっています。課題は現行の郵便局の形を変えるということです。だから多様性、個性ある郵便局の実現となっているのです。それは郵便局の形を変えること、三事業だけの郵便局ではないということです。
 三事業にプラスαの第4ビジネスを行う郵便局も作ろう、もっと言うと2万の郵便局が同じことをするということはあり得ません。それぞれ地域によって特徴ある郵便局を作っていくことです。そういう意味では、実行しようとすると、どうしても現場に様々な改革の波が押し寄せます。

■三事業を含めて自治体と郵便局との連携を深めていく取組みが進められています。高齢化・人口減少社会の進展する中、意義があると思われます。
 これは双方ともにメリットがあります。郵便局の側から見れば、過疎地などでは極論を言うと後任局長がいないのも現状です。社員も一緒ですよ。そういうところは三事業の仕事の量も少ないけれど収益を要求され、もうやりたくない人が出ています。活力を得て郵便局長として誇りを持ってやっていくためには、地方公共団体との連携が必要です。
 地方自治体の問題では、平成の大合併で広域化したのに伴い、多くの町や村の役場が支所になっています。少子高齢化が極端な赤字を招き、地方自治体の経営を圧迫しています。業務を郵便局に委託したいという思いがあります。
 そういうところの業務を受託し、社員も増やして郵便局に活力を持たしていく発想が必要です。自治体も郵便局も良い、ましてや地域のお客さまも不便さが解消され三方両得です。
 会社は収益を上げなければいけないので、例えば支所で年間4000万円かかったとしたら、郵便局が受託したら4000万円くらいは儲けたいという人がいました。そんなことはあり得ませんよ。1人の社員を採用して、それは窓口で受託事務だけを行うわけではないですよ。大半は郵便局の仕事ができるでしょう。
 ようやく一つのレールに乗ってきましたが、さらに、自治体業務の中で公務員しか行ってはいけないという仕事があります。現在は5業務ですが、25とか30業務も委託したいという要望が多くあります。そうすると法律的に抵触することがあるらしいです。
 それをどうすれば解決できるのか、例えばシステム化で可能か、あるいはみなし公務員のような人を郵便局に配置したらどうか、などと議論しています。地方の郵便局を存続させ、自治体の業務も補完する、地域住民にも不便さを感じさせない、こうした三つの大きなメリットがありますから、これは将来的には絶対に行っていかなければならないと思っています。

■人口減少がどんどんと進んできますから、地方では特にニーズが高まってくるでしょうね。
 当然です。郵便局も一緒ですよ。利用者が少なくなってくると、最終的には簡易局化や廃局などとの話も出るでしょう。それを防ぐためにも新たな業務を付加していくことが大事です。また、都市部についても、郵便局の在り方は議論すべきでしょう。

■ゆうちょ銀行の限度額の問題ですけれど、方向性は固まっていると思われますが。
 これまでに郵政民営化委員会が金融庁、総務省、日本郵政グループや全特、銀行や各種団体のヒアリングを行い、様々な意見を集約しています。民営化委員会も一定の方向を出したいという基本部分は固まっていますが、最終的に金融庁と総務省との間で意見が一致していない部分があります。
 事務当局での議論は既に終わっており、あとは政治決断の段階です。政治でも一定の方向を出したいということですので心配はしていません。

気力を振り絞り郵政事業のために

■5月の全特郡山総会で、来年の参議院選挙の組織内候補として決定、自民党の公認も出ました。改めて決意をお願いします。
 かねがね若い人に譲るべきだ、新しい郵政事業の在り方も時代によってかなり変わってきており、これからの事業のあるべき道を新しい感覚で政治という場で力を発揮して欲しいと言ってきました。ただ、積み残したことがまだまだあります。それをしっかりと解決して欲しいという全特、日本郵政グループなど関係方面の強い要請があり、郡山総会で組織推薦をいただきました。7月20日には自民党の公認を得ました。皆さまの温かいご推薦に心から感謝を申し上げます。
 腹を固めてやらなければいけないと覚悟しています。多くの課題がありますが、一つは郵便法の改正です。郵便法は郵政省の時から何も見直していません。それによって生じている郵便事業に及ぼす経営への負荷等、影響は大きいものがあります。それと合わせてユニバーサルサービスが付加されていますが、そのために経営に大きな負担となっていることがたくさんあります。
 国の時代からかなりのサービスを行ってきました。過度に経営に負担になる部分があるとするならば、国民にも政治にも実情を明らかにして、こんなに大きな負担があっては郵便事業が難しいと申し述べる時期にきていると思います。サービス面を含めて郵便法の改正は大きな課題です。
 これに加え、政治の世界に足を踏み入れたときから、地域ということをキーワードにしてきました。地域の中で起こっている現象は、2045年問題と言われる高齢者の問題です。高齢者が本当に住みやすい地域社会かと言うとそうではありません。過疎化や買物難民、医療難民、金融難民という言葉に代表されるように、今の様々な制度が時代に合わなくなってきています。
 高齢者にとって住みにくい社会になっています。2025年になると高齢者が50%を超えると言われています。その時に今の制度で本当に良いのか、少子化問題も含めて解決していかなければなりません。
 人生100年時代への対応は政府も真剣な取り組みを始めました。私は「人生100年時代に挑戦する郵便局」を命題に取り組んでまいります。

■経営の在り方として、支社や郵便局の裁量を増やし、地域のニーズに合ったサービスを意欲的にできるようにすることも必要と以前から強調されています。
 それは特にありますね。組織的には旧郵政省の本省、郵政局、普通局、特定局という構造は、それほど変わってはいません。大きな改革期を迎えており、機能別マネジメントという形で、中間のマネジメント体制を普通局も巻き込んで行う一定の形ができています。
 しかし、エリアで協力し、どういう形で収益を上げていくかという体制では、まだ大変なところはたくさん残っています。経営者はしっかりとビジネスプランを示すことです。
 また、郵政事業は長い歴史を誇る独特な事業です。利益を優先する民間的なペースだけで行う事業とは違っています。それを実体験してきたプロパーが、民営化からもう10年以上になりますから、気概を持って引っ張ってもらいたいですね。ぜひ経験や知見を生かして欲しいと願っています。

■全国の郵便局で働いている局長、社員の皆さんにメッセージをお願いします。
 こんなに素晴らしい事業形態を持っている会社はありません。郵便局の仕事は、ただ単に日本郵便という会社の利益を上げるだけの職ではないのです。地域の中で、住民の幸せや喜びをお互いに協力して創り出していけるのかというものです。だから以前は、局長も社員も誇りがありました。今はそれほど実感として持てないのではないでしょうか。
 会社の指示に沿うことだけやっていればいいではないかという空気、暗い重い空気が、まだ残っているのではないでしょうか。これを打ち破って、以前の郵政省の時代のように、地方や地域が伸び伸びと自主性を持ってやれるような環境を作っていきたいと思っています。
 一つには局長さん自身の意識改革も必要でしょう。地域のために尽くせる魅力ある仕事です。地域に根を張っている局長が、自ら考えてできることに取り組むことが求められています。夢のある仕事を追っていけるような環境づくりを、私は政治の場でしっかりと行っていきます。会社とは全特がしっかり交渉するという形で、局長の皆さんに良い環境を作ってあげたいですね。
 郵政事業、郵便局、自らの夢を一歩でも二歩でも具体化する努力をして欲しいと願っています。必ず良くなります。現場が潰れたらこの郵政事業は終わります。
 赤いポストがあるから郵便局があるのではないのです。郵便局長さんがいるから郵便局があるのです。
 誇りと自信を持って前に進みましょう。私も生命のある限り、地域と郵便局に全力を尽くす覚悟です。


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