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第6931号

【主な記事】

思いが込もった郵便物を供養
紀三井寺の「文塚」で


 受取人に届けられず、差出人に還付することもできない「迷い子郵便」などの郵便物を供養する「文供養会」(ふみくようえ)が4月7日、和歌山市の紀三井寺で前田泰道貫主を導師に行われた。
迷い子郵便は郵便局で3か月間保管された後に廃棄処分となる。そうした郵便物に込められた“人の心を運ぶ魂”を慰め、迷い子郵便がなくなることを祈念して1967(昭和42)年に、紀三井寺の協力で境内に「迷い子郵便供養塚」が建立された。
 毎年4月に各地から送られてくる迷い子郵便の焼却灰を「迷い子郵便供養塚」に納めて供養し、今年で52回目を迎える。1994(平成6)年からは、思いを届けて役目を終えた手紙やはがきも供養しており、「迷い子郵便供養塚」を「文塚」と改めた。
 昨年からはお詣りした人に「大切な人から届いた大切な郵便物」も持参してもらい、供養会の中でお焚き上げし、供養を行っている。
 文塚供養奉賛会(島本敏夫会長)主催で、郵政退職者近畿互助会や日本郵便近畿支社、和歌山中央郵便局、和歌山南郵便局、日本郵便輸送株式会社、関西郵便輸送協会らが開催に協力し、郵政グループ関係者やOB、関係団体代表ら約120人が参列した。
 紀三井寺護国院(西国二番札所)境内の「文塚」前で法要が行われ、祭主を務める島本会長が「(今年の)元旦に届けられた年賀状は全国で昨年を1億通も下回った。社会環境の変化により、文字によって思いを表現して手紙やはがきという形にして、相手に伝えるという大切な文化が失われていくようで大変残念に思う」と心境を表した。
 また「新しい技術によって通信手段が多様化し、ともすれば簡便さにのみ目が向けられがちだが、深い愛情や熱い思いなど、手紙でしか伝えられないことがある。そんな手紙やはがきが、これからも人の心をつなぎ、安らげ、満たしてくれる手段として、いつまでも利用され続けることを切に願う」と祭文を述べた。
 美術の授業の一環として絵手紙作成に取り組み、日本郵便主催の第50回手紙作文コンクールの絵手紙部門で審査員特別賞を受賞した、和歌山県立和歌山北高校3年の坂本聖哉さんが「絵手紙は自分が体験したことを絵と文章で表現し、思いを相手に届けられますが、はがき1枚の限られた範囲に自分の思いをうまく表現することは、そんなに易しいことではありません」。
 さらに「送る相手を想い続けていないと、気持ちは表現できません。送る相手を想い、心がほっこりする絵手紙が出来上がった時は、はがき1枚の何百倍、何千倍もの重さを感じますし、もらった時は相手の顔が目に浮かび、そんな思いで送ってくれたのだと思うと感動を覚えます」。
 そして「そんな体験を通じ、私たちは書いた人のいろいろな思いを運んでくれる手紙の力を感じるようになりました。たくさんの手紙たちに感謝の気持ちをお伝えし、桜の樹の下で安心して眠れることをお祈りします」と供養文を読み上げた。
 青少年ペンフレンドクラブから依頼を受けた手紙や、参列者が持参した大切な手紙など約2000通を文塚前でお焚き上げし、参拝者たちがお焼香を行い、島本会長が灰の入った壺を文塚へ納めた。


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