「通信文化新報」特集記事詳細

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第6930号

【主な記事】

不動産事業で子会社設立
日本郵政長門社長 グループ収益の柱に

 日本郵政の長門正貢社長は3月28日の記者会見で、グループの不動産事業を専門的に行う子会社「日本郵政不動産株式会社」を設立することを明らかにした。資本金は15億円で、日本郵政の100%出資の子会社として4月2日付で発足した。新会社の代表取締役社長は、不動産部門を担当している日本郵政の岩崎芳史代表執行役副社長が兼務する。また、今春闘では厳しい経営環境を踏まえてベアは見送ったものの、一時金の増額や初任給の引上げ、期間雇用社員の処遇改善などを行い、組合員の年収ベースで約4・3%の賃上げとなり、最大限配慮したとした。

 日本郵政グループの不動産事業について、「民営化以降、郵便局や社宅の跡地を活用した開発を進め、不動産事業の2016年度の売上げが260億円までに成長している。今後はより効率的に推進し、地域特性を活かした開発を行うことで、地域の発展に貢献するとともに、将来のグループ収益の柱の一つとして成長させていく」と不動産事業に特化した会社の設立の意義を強調した。
 これまでは「人事ローテーション上、不動産事業に特化した人材育成が難しい部分もあったが、新会社は不動産事業を専門的に行う会社で、専門力を有する人材の確保育成により、人材基盤を強化し、さらなる経営効率の向上を図りたい」とした。将来的には「他社との共同開発と新たな事業領域にも取り組み、不動産開発による街づくりを通して地域の皆さまへ新たな価値を提供していきたい」と設立の趣旨を語った。当初の体制は50人程度、日本郵政グループで不動産事業を実施してきた社員や民間他社で実務経験を積んだ人材で構成するが、会社の成長に合わせ、専門的知識・経験を持つ人材を追加的に受け入れることで、新たな事業領域に取り組める体制を整えていく。
 また、あおぞら銀行とゆうちょ銀行が、あおぞら銀行の全店舗内へゆうちょATMを設置する契約を締結した。他行へのゆうちょATMの設置については、昨年7月に山形県鶴岡市の荘内銀行本店に実施しているが、すべての店舗へゆうちょATMを設置するのは、あおぞら銀行が初めてとなる。
 8月27日から順次、ゆうちょATMへ置き換えることとなる。設置するゆうちょATMは、これまでファミリーマートなどに設置している16言語に対応した小型ATM。国内約1400社の提携金融機関カードが利用可能なほか、海外で発行されたクレジットカードで日本円を引き出すことが可能だ。
 「海外からのお客さまも利用できる大変便利なATM。ゆうちょ銀行としては、あおぞら銀行のお客さまにゆうちょATMを利用いただくことによる、提携手数料の増加が見込まれる。あおぞら銀行においては、コスト面などを含め、ATMの効率的な運営の実現に寄与すると聞いており、双方にとってメリットのある施策」と強調した。
 さらに、日本郵便が3月19日に報道発表したように、東京都板橋区の社宅跡地に保育所を建設したことに関し、「ベネッセスタイルケアに借りていただいて民間保育所『ベネッセ板橋三丁目保育園』として4月1日より運営を開始する。トータル生活サポート企業として社会的課題の一つである子育て支援につながればとの思いでいる」とし、今後も「社会ニーズを踏まえながら、保育施設や高齢者向け施設をはじめ、グループ所有不動産の有効活用を進めていく」とした。
 3月18日に終了した平昌2018オリンピック・パラリンピック冬季競技大会について、日本郵便ではメダリスト公式フレーム切手としてオリンピックで13種類、パラリンピックで10種類を発行した。「売れ行きも好調で、すでに60万シート、切手300万枚を超える申し込みをいただいている」と明らかにした。
 通信販売では「非常に多くの注文をいただき、お届けが遅れてご迷惑をおかけしており誠に申し訳ないが、1日でも早くお届けできるよう順次、発送の準備を行っており、ご理解をお願したい」と述べた。
 また、3月28日に東京オリンピック・パラリンピック関連のイベントが東京中央郵便局で行われたが、「不要になった携帯電話からメダルを作ろうというもので、環境省や東京2020組織委員会などが積極的に推進しており、日本郵便でもこれに全面的に協力する形で全国約3000の郵便局に携帯電話を回収するボックスを設置することとした」と、協力を呼びかけた。
 このほか、郵便局のみまもりサービス用として直営郵便局約2万局に配備しているタブレット端末に、4月中に多言語翻訳用のアプリを搭載することを明らかにした。「近年、訪日外国人数は増加の一途をたどっている。東京オリンピック・パラリンピックに向けて、この傾向はさらに強まると見込まれることから、外国人のお客さまにもスムーズに郵便局をご利用いただけるようアプリの導入を決めた」。
 今回、郵便局に配備するものは、音声認識11言語、文字入力認識30言語に対応が可能で、観光案内や日常会話などを中心に翻訳する。利用状況を踏まえ、用語の追加を予定しており、「お客さまとのコミュニケーションが円滑になるよう取り組んでいく」としている。

【記者会見での概要】

〈春闘について〉
■春闘では3年連続でベアの据え置き、一方で非正規への手当、特別休暇の措置などがあったが。
 超低金利下の厳しい経営環境下での春闘、労働組合からの要求に加え、懸命に働いている社員に、できるだけ還元したいという思いを込め、4か月から4・3か月への一時金の増額、一般職6300円、地域基幹職4700円の初任給引上げを行った。
 期間雇用社員のモチベーションアップを図るため、平均約14%増という一時金の増額、1日4000円の年始勤務手当の新設、アソシエイト社員(無期雇用に転換した社員)の夏期・冬期休暇の新設等、手厚い処遇改善を図った。さらに、働きやすい職場環境を推進するため、不妊治療休暇の新設等、病気と仕事の両立支援、育児休業の一部有休化、勤務間インターバル制度の段階的導入等の施策も導入することとした。
 以上のように期間雇用社員の処遇は、社会的動向やグループ各社の事業運営に不可欠な戦力となっている状況も踏まえ、一層の処遇改善の必要があると判断した。
 社員一律のベアは厳しい経営環境を踏まえ見送ったものの、一時金の増額や初任給の引上げ等を行うことで妥結した。これにより定期昇給等による月例賃金の増加分に今回の一時金や初任給の引上げによる賃金増加分を加えた上で、組合員の年収ベースで比較すれば約4・3%の賃上げとなる。厳しい経営環境でも最大限配慮したもので、全社員がより高い士気を持って仕事に励んでもらえるよう期待している。

〈ゆうちょATM、限度額などについて〉
■あおぞら銀行の件だが、ゆうちょのATMについて、今後も民間金融機関との連携を拡大するのか。また、限度額を撤廃すると地域との連携にヒビができるという指摘もあるが。
 2万4000の郵便局にATMを置いている関係もあり、保有ATMは約2万8000台。
 フィンテック等々の影響もあって、過疎地では設置できないという銀行も出てくると思う。仮にゆうちょATMネットワークが、ウィンウィンの関係で使えるのであれば、あおぞら銀行のケースにとどまらずに引き続き可能性を考えていきたい。
 昨年度の実績では、ゆうちょ銀行の売上げの94%が200兆円強の資金運用益。残りの6%、900億円弱が手数料収入。その中の一つがATMビジネス。
 昨年3月末の数字だが三菱UFJが8300台、三井住友が6000台、みずほが5600台。我々は2万8000台で、一つの武器として使えるのであれば今後も推進していきたい。
 また、ゆうちょ銀行が推進しているのは、地銀や地方公共団体と一緒に、地域でニーズがある共同ファンドを設立している。限度額の議論に関わらずお互いに納得できるのであれば進めていきたい。
 限度額は様々な意見があるが、それらを踏まえた上で民営化委員会で見解をまとめようとしていると理解している。最終的には政府の関連部署で考えて決断されると思っている。先般の2015年12月に民営化委員会の所見が出ている。株式処分にとらわれることなく、通常貯金の限度額の撤廃、限度額の引上げ、いずれも撤廃との3案が紹介されている。
 日本郵政の希望は、通常貯金の限度額の撤廃と民営化委員会に申し上げている。キーワードはお客さまの利便性。限度額があると、オーバーした場合、様々な手続きがあり、お客さまと毎月平均1万通の手紙のやり取りがある。
 郵便局の窓口の手続きも非常に煩瑣になっている。
 民間銀行の一つの論拠は民業圧迫。現在では状況が変わってきて、持ち株会社については株の売り出しを2回行って、政府の持っている比率は57%弱。日本郵政も1回ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株を売り、議決権ベースで89%になっている。株式処分のタイミングにとらわれることなくという所見も踏まえると、もう民業圧迫ではない。
 さらに、貯金移動が起こるとの懸念があるとされるが、2年前に限度額を上げて以降、ゆうちょ銀行は最も低い伸び率と認識している。
 ゆうちょ銀行は融資もできない、大手銀行のように証券子会社、信託子会社などを持っているわけでもない、海外に拠点もない、ドルも扱っていないというところに、本当に来るのかという気もある。
 資金移動では信用不安が仮にあったときに、そういう銀行から流れてくるのではという話もあったが、セーフティーネットを含めて対応ができるようになっており、一方的にゆうちょ銀行に流れてくるとは考え難いと感じている。
 低金利なので資金が集まるとバランスシートコントロールで苦労するのではないかという話もあるが、いたずらに貯金を集めようという環境にはないと思っており、現場のインセンティブ等も見直し、NISAや投信など貯蓄から投資へという動きに乗れるように指示している。
■限度額が撤廃されると中小企業を中心に法人預金が来るとの指摘があるが。また、今後の地銀とのコミュニケーションは。
 融資を行わない銀行に法人預金が一斉に流れ込んでくるというのは考え難いと思っている。法人にとって融資は当然だが、証券や信託サービス、海外のお客さまを紹介してもらえるなどのニーズがあって付き合いをするのだと思う。
 また、地方創生の一つの有力なプレーヤーがゆうちょ銀行だと思っている。今までのように地域の金融機関ともファンドを作ったり、ATMの設置など彼らのプラスになるような使い方があるのであれば、引き続き対応していく。スタンスを変えずにコミュニケーションを続けていきたい。
■限度額の撤廃についてゆうちょ銀行の考えは。
 仮に、どうしてもゆうちょ銀行に資金を送りたいという人がいたとすると、振替口座があり、そこは青天井。ただし、金利はつかない。ただ、今は通常貯金もたいへん低い金利水準なのでほとんど同じ。
 何らかの理由で、どうしてもゆうちょ銀行にお金を送りたいんだといったら可能だ。
 だから限度額を増やして欲しいというよりは、通常貯金も振替口座も同じではないかということで、地味な希望ということだ。
 新聞報道でも振替口座は青天井になっている事実がなかなか書かれていないので、ぜひ理解たまわりたいと思う。
 また、ゆうちょ銀行の考えは違うという話が一部に出たが、郵政グループの意見は一になっている。ゆうちょ銀行、郵便局も含めて、通常貯金の限度額を外すというのが希望と一致している。郵政グループ全体の意思と理解いただきたい。

〈日本郵政不動産などについて〉
■グループ保有資産額は。
 保有不動産の簿価ベースの数字が、グループ全体で2・7兆円。土地が1・5兆円、1・2兆円が上物。日本郵便も郵便局などがある。
 郵便局が使っているのがあるので全部フリーで使えるという土地ばかりではないが、スピード感を持って戦略的に一つの大きな営業の柱にしていきたい。
 日本郵政不動産の設立も経営の意思を内外に示すという決意表明だ。不動産関係の人材も1級建築士がグループに130人強いる。不動産という旗をはっきりさせて、注力していこうという趣旨。
 日本郵便で持っているものは引き続き持ってもらうが、その資産を使って新しく行うのがこの子会社。収益は郵便の方に落とす。当初50人くらいだが、10人強が他社からスカウトした不動産のプロ。さらに20人くらい増やしていきたいと思っている。将来的にはどこかと組んで、共同的なプロジェクトも行っていこうと思っている。
■保有している不動産で魅力的な材料は。
 郵政グループで持っている小さい土地では保育所や老人ホームなどを考えている。地域での調整などがあり公表できないが、すでに動いているのが4、5件ある。大きい案件では例えば大阪中央局の跡地やロシア大使館の前の東京支社、これは森ビルと一緒に再開発する。五反田のゆうぽうともある。

〈ゆうパックなどについて〉
■3月からゆうパックが値上げされたが、約1か月経っての動向は。
 去年の5月からのヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の合計したシェアは、じわじわ低下している。類推としては新たなプレーヤーが伸びていると思う。
 3月から平均12%の値上げをしたが、現状では大きな変化が見えない。始まったばかりで結論を出すのは早すぎると思う。


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