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第6922号

【主な記事】

日本郵便イノベーションプログラム
AIで配送ルート最適化
最優秀賞にオプティマインド社


 日本郵便とベンチャーキャピタル事業会社「サムライインキュベート」(東京都品川区、榊原健太郎代表取締役)が進めるオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」のスタートを記念するイベント「Demo Day」が2月1日、東京都千代田区のJPタワーで行われた。11月に採択された4社を対象に審査が行われ、最優秀賞1社と観客賞1社が決定した。最優秀賞には名古屋大学発ベンチャー「合同会社オプティマインド」(愛知県名古屋市、松下健代表社員)が選ばれた。

 合同会社オプティマインドは、物流の最適ルートをAIを使って自動化するシステムを提供する会社。日本郵便とのコラボでは、ボタンを押すだけで配送ルートの最適化ができるシステムを作成し、草加郵便局で実験を行った。ベテラン社員、新人社員、そして新人社員がツールを使った場合の三つのケースを検証した。
 ルート作成と配達先の滞在時間、移動時間を足し合わせた結果、ベテランとツールを使った新人は同レベルの時間だった。コンセプトは「だれでもすぐにそこそこの配達ができる」。3月には草加郵便局で導入予定。5月には5局、9月には主要都市の局に導入する計画だ。
 同社の受賞について日本郵便の横山邦男社長は「Eコマースの物量が増加しているが、安定的に速いスピードでお届けすることが大事。最大の経営課題でもある。素晴らしい提案だ。なぜ社内から出ないのかと思っている。オープンアーキテクチャーにして良かったと思う。一緒に成長させていきたい」と講評した。
 松下さんは「我々の力だけでなく日本郵便の多大な支援があってできたこと。IT技術だけではうまくいかない。現場の気持ちやドライバーの思いを汲み取り、初めて最適化できる。現場の人たちが思う最適化が、協力いただきながら進めることができた」と語った。
 共にこの事業を進めてきたパートナーの日本郵便の三苫倫理郵便・物流業務統括部長は「技術は難しいが、使う側は簡単に操作でき、心理的なハードルを下げてくれた。今後はドローンロボティクスにも生かしたい」と抱負を語る。
 観客賞に輝いたのは「MAMORIO」(東京都品川区、増木大己代表取締役)。MAMORIOは落とし物を探し出し、届けてくれるサービス。ICタグをなくしたくないものに取り付けておくと、同じサービスを受けているICタグとスマートフォンが連動し、落とし物の位置を知らせてくれる。
 コンセプトは「待っているだけで大切なものが帰ってくる」。サービスが普及すればするほど、見つかる確率も上がる仕組み。このICタグを14万台ある日本郵便の配送車やバイクなどに取り付けることで、ネットワークの拡大を図る。見つかれば日本郵便の配送網を使い、持ち主に届けることもできる。
 2月1日から東京中央郵便局と世田谷郵便局でこの「MAMORIO」を販売する。1個3500円だが、利用個数が増えれば価格は下がるという。MAMORIOの泉水亮介COOは「東京五輪までに、落とし物が必ず見つかる日本を実現することを目標にしたい」と語る。
 サムライインキュベートの榊原代表取締役は「2020年の東京オリンピックに、日本のすばらしさを訴求できる事業であることが受賞のポイント。日本郵便とのコミット感も引き出されている。『難しい』とあきらめないで、どうやったらできるか、日本郵便のおしりに火をつけてくれた」と講評。
 泉水COOは「観客は僕らのお客さま。観客に支持をいただけないと成長できない。賞をいただけたのは、まだまだ成長できることの証明だと思う。うれしい。まずは感動を与えられて安心できた」と喜びの気持ちを語った。
 パートナーの事業開発推進室の畑俊彰主任は「今回学んだのはあきらめが悪いこと。どうしたらできるだろうと頑張る。彼に無理という言葉はない。このプロジェクトは2社でしかできないスキーム。最後まで一緒にやりたい」と述べた。
 Demo Dayでは、まず横山社長が「郵便・物流の環境は変化しており、そのスピードが加速している。自前主義だけでは対応できなくなっていることを実感している。オープンアーキテクチャーであるべきで、日本郵便の経営資源と革新的な技術やアイデアを持つスタートアップ企業が混ざることで、化学反応がいい方向で起きる。ワクワクさせるような商品やサービスを提供し、社会を豊かにしていきたい」とあいさつした。
 採択企業4社(受賞した2社と「ecbo」「Drone Future Aviation」)によるプレゼンテーションが行われ、主催者と外部の審査員合わせて11人で審査が行われた。審査員は、主催者側は横山社長をはじめとする日本郵便の役員6人と榊原代表取締役、外部は放送作家の小山薫堂さんら5人。観客賞は会場の投票で決められた。
 授賞式では、榊原代表取締役が「小さな会社が巨大な会社を動かせるわけはないと思っていたが、結果は違った。大企業とスタートアップが一緒になれば新しい世界ができることを実感した。人の心を動かすことが重要だということを頭に入れて、豊かな世界の実現に向けて頑張りたい」と総評した。
 日本郵便の同事業担当役員の福田聖輝副社長は「今日のデモデーがスタートの日。一緒に取り組んだ社員も、イノベーションが図られたと思う。目指すところは郵便・物流のラストワンマイルをテクノロジーで変革すること。そこを目指して一緒に取り組みたい。責任をもって次へと進めていきたい」と語っている。
 スタートアップ企業は一緒に事業に携わった日本郵便の社員に対して「ディフェンシブになるのかと思ったが、進めるために熱い議論が繰り返された」「堅いイメージが払しょくされた」「事業を進めるスピード感に驚いた」「レスポンスが早い」と評価する。今後の新規事業の展開にも期待が高まる。
【主催者側の審査員】
〈日本郵便〉横山邦男代表取締役社長、福田聖輝代表取締役副社長、諫山親執行役員副社長、小野種紀専務執行役員、山本龍太郎常務執行役員、津山克彦常務執行役員
〈サムライインキュベート〉榊原健太郎代表取締役


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