「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6916・6917合併号

【主な記事】

新春インタビュー
郵便局を維持
ユニバーサルサービスを提供
日本郵便 横山邦男社長


 全国に郵便局ネットワークを持ち、日本郵政グループの中核を成す日本郵便の横山邦男社長は、新年に当たり改めて「社会的使命を果たす」とするとともに、「2万4000の郵便局の維持とユニバーサルサービスの提供」を大前提に、「10年、20年後の郵便局の進化した姿を検討している」と強調する。また、自民党が議論しているユニバーサルサービスの維持に関する交付金制度の創設については「郵便局ネットワークを更に魅力あるものにしていく面でも、たいへんありがたい」と期待を示し、「郵便局の個性を更に活かしていきたい」とした。そして「40万人社員全員が創意工夫し、お客さまの信頼に応えよう」と呼びかける。
〈インタビュー=通信文化新報・永冨雅文〉

■人と人の関わりを大切に

 明けましておめでとうございます。昨年は郵政民営化から10年の節目の年でした。新たな歴史を刻む年を迎えましたが、日本郵政グループの中核企業として日本郵便の企業価値をますます高めていくことが求められると思います。まずは新年にあたっての抱負をお願いします。

 新たな中期経営計画を策定していますが、将来を見据えて10年、20年後に郵便局がどのような姿であるべきか検討しています。世の中の変化は速いですから、大胆に予測し、いかに対応するかを示す中計にしなければなりません。ですから単なる3年間の中計ではないということにしたいと思います。
 社長に着任以来、「ワクワク郵便局」と言っていますが、郵便局のワクワクネットワークをいかに進化させるかがポイントで、「日本郵便で働きたい」「郵便局長になりたい」という形にしなければならないし、お客さまが「ああ、やっぱり日本郵便とつきあっていて良かった」と、より一層思っていただける姿ということについて考えていきたいと思います。
 そのためには、40万人の社員全員が、創意工夫をしていく会社でありたいと思っています。

 郵便局の将来展望について、郵便局長会との議論も進められています。

 郵便局の在り方については本社からの押しつけではなく、郵便局の皆さんとの意見交換を一生懸命やっている最中です。将来に向かっていかに成長できるか、みんなが自分のこととして考えることが重要です。
 基本として2万4000という郵便局の水準は維持する、そして、ユニバーサルサービスを提供するという二つのことは大前提です。
 ITの進化に伴い、メガバンクは揃って支店や従業員(業務量)を減らしていくという効率化策を打ち出していますが、我々の戦略とは違います。ITや新しいテクノロジーを利用して、顧客利便性や社員の働きやすさを追求していくことは当然のことですが、一方でフェイス・ツー・フェイス(人対人)ということをもっと強化させていきたいと考えています。
 要は、郵便局という名の“よろずコンサルタント”です。金融商品では、郵便貯金、投資信託、簡易保険、あるいは提携しているアフラックの商品をはじめたくさんあります。もちろん物販もあります。今後、品揃えも含めて考えなければならない部分はあると思いますが、フェイス・ツー・フェイスの強みというものをもっと発揮することが重要だと考えています。
 どんなにITが進化しても、最後は人対人。こういう時代だからこそ、人の温もりやフェイス・ツー・フェイスの関係が大切になってきます。機械で様々なことができていくのかもしれませんが、郵便局はやはり人と人との信頼感があってこそだと思います。
 郵便局は商品、サービスも売りますが、そのベースとして信頼を売るということでなければいけないと思っています。これが諸先輩から受け継ぎ、これからも受け継がれる我々のDNAということです。

 社長に就任されて以来、社会的使命を果たすと強調されていることに繋がりますね。

 まさにそうで、人も会社も社会との関わりなしで生きていけません。社会的使命を見失った企業が破綻の道を歩む事例というのは枚挙に暇がありません。社会的使命を果たすその先に、ビジネスとしての成長があります。
 金融機関では「ESG」(Environment Society Governance)ということが言われています。ガバナンスは基本でしょうが、環境と社会に貢献する上にビジネスがあるのだと思います。それが100年、200年と長生きのできる会社です。

 郵便局は昔から地域に根差し、地域の方の信頼を集めてきました。

 よろず相談屋さんとして信頼を売り、その上に商売があります。だから150年近く続く会社になっているわけです。それを見失ってはいけません。これは民間企業になった、上場したからといって変わるものではありません。我々はそういう成り立ちだからこそ、もっと成長のポテンシャル(可能性)があると思っています。


■地域に合わせた個性の発揮を

 メガバンクが店舗や人員を減らすなどの効率化を打ち出しています。地域に残る金融機関は郵便局しかないという状況も出ています。

 我々は日本のあらゆる地域でサービスすることが基本です。私の故郷の宮崎県では、宮崎銀行が椎葉村の支店をなくすということで、話し合いをして宮崎銀行のATMを郵便局に置きました(上椎葉郵便局)。郵便局の中にゆうちょ銀行と宮崎銀行のATMが2台あります。もちろん賃料はいただきますが、宮崎銀行からしたら店舗を構えて社員を置くよりもコストダウンになります。
 こうしたことは他の銀行からの引き合いもあります。我々はどんどん手伝いをしてもいいと思っています。地域のためになるし、10年も経ったらお客さまが全て郵便局に移り変わっているかもしれません。
 どんな分野でも、健全な競争をしなければいけないこともありますが、協働してお客さまのために良いことをしていけばいいのではないかと思います。金融だけでなく物流の分野でも、特に地方においては配送を一緒にできることもあるかもしれません。健全な競争分野と協働分野を見出していく必要があるのかもしれません。

 郵便局でもITの活用などは、積極的に取り組まれていくのでしょうか。

 最初に、まずお客さまのデータは郵便局にあるということです。貯金や投資信託、保険の加入状況、お中元やお歳暮をどこに送るかといった顧客データです。
 他の銀行や証券会社では来店されたお客さまの情報を画面で見ながらセールスします。これまでの取引履歴や家族構成、他の金融機関に資金がどれくらいありそうだとかですが、我々はそれが郵便局長の頭の中にあります。これこそがビッグデータです。これをどう活かしていくかで、お客さまに適切な提案もできるだろうし、我々のビジネスが更に発展するということにも繋がります。
 人の繋がりが基本ですが、ITはお客さま、また郵便局の効率化の面でもどんどん進化していくことでしょう。社員が事務処理を簡単にできるようになることによって、もっとお客さまとの会話やコンサルティングに使う時間を増やすことができます。

 高齢化や過疎化はこれからも進展することが予測されます。

 地域性が大事であり、郵便局はマーケットに応じた個性があっていいと思います。また、郵便局ネットワークは総体として強化していくことが重要なのであって、一つの郵便局が赤字だったとしても、地域への貢献など数字だけで捉えられない魅力があります。将来的には、数字で出てくる定量的なものに加えて、地域貢献をはじめとした定性的なものも含め、総体として評価していきたいと考えています。
 従来のサービスだけではなく、各々の地域に合ったものがあるはずです。地域社会にふさわしい個性、特性を郵便局がどう出せるのかを期待しています。
 ユニバーサルサービスというのは大前提で、それ以外のものは創意工夫して考えてみようと強調しています。

 地域活性化や地方創生に貢献するため、郵便局と自治体が積極的に連携することが広がっています。

 都道府県との間でも何らかの協定を締結しているのは36県に及びます(このうち包括連携協定は9県)。市町村でも1714自治体のうち1518自治体と締結しています。
 これまでは支社や郵便局任せのことが多かったですが、会社全体として、より積極的に関わり、自治体との連携をもっと進める方針です。たとえば、特産品はあっても、発信手段に困っている自治体は多くあると思います。日本郵便が協力できることはどんどん進めたいと思います。

■中期経営計画の達成は確信

 郵便局を維持するため、自民党で郵便貯金簡易保険管理機構を活用した新たな交付金制度が検討され、通常国会に法案の提出が予定されています。

 郵便局ネットワークを更に魅力あるものにしていく面でも、たいへんありがたい話だと思っています。郵便局の個性を活かす形での魅力づくりを更に進めていきたいと思います。

 地域社会に貢献することでは、郵便局のみまもりサービスが始まりました。

 みまもりサービスは、まだ件数的にはそれほど多くありませんが、進める過程で出てくる課題を解決しながら展開していきたいと思います。スタートしたばかりですが、お客さまの評判はたいへん良いと感じています。
 そんな中で新たなニーズも発見できました。一人暮らしを始めたお子さんをみまもって欲しいというものです。いわば親世代から子世代へのみまもりです。

 みまもりは郵便局のお客さまを増やすことにも繋がると強調されています。

 高齢者のみまもりということは、次の世代との繋がりの強化になります。みまもりのご利用によって、遠方にお住まいのお子さまやお孫さまと新たなお付き合いが繋がるということで、非常に良い話です。郵便局は全国にありますから。開始して良かったですし、今の時代にふさわしい社会的使命の全うだと思います。

 中期経営計画の最終年度です。営業収益3.1兆円、純利益300億円などの経営目標の達成については。

 郵便物流部門、金融窓口部門ともに良い形になってきていると思っています。順調に推移しており、計画の数字は達成できると確信しています。トール社の4000億円という“のれん代”の減損処理も、お客さまや社員にご心配をおかけしたと思いますが、戦略的な会計処理であって、20年にわたって毎年200数十億も償却するということは、20年間マイナスのスタートラインに立つことになります。このマイナスがなくなったことは大きいですが、これを除いても良い方向になってきています。トール社の再生も大きく進んでいます。
 トール社のジョン・マレン会長とマイケル・バーン社長という人材を採用できたことが大きい。これまでのM&Aで組織やシステムの重複など非効率な部分を一つにまとめ上げる作業をしていますし、商売にも非常に前向きで様々な案件が出てきており、結果を出してくれています。
 そもそもトール社は伝統ある素晴らしい会社で、このたび国際物流部門についてはシンガポールに大きな物流拠点もできました。これは、アジアの拠点にもなり、これから我々が企業物流を行っていく上でトール社から学ぶことは多くあります。BtoBのビジネス、国際展開もできるのではないかと思います。
 会長、社長とはいつも顔を合せて意志疎通をしっかり行っています。ジャパンデスクを設け、日本企業へのセールスも行っており、我々の成長の起爆剤になる会社だと思っています。

■創意工夫で明るい未来を

 「現場、現物、現実主義」を呼びかけられてきました。
 
 郵便局やお世話になっているお客さまのところに自ら行くことを心がけており、そこで、直接色々な話を聞きます。その中には様々ヒントがあります。やはり「現場、現物、現実主義」で施策を考えないといけません。「現場頑張れ」ではだめですね。現実をしっかり理解し、実施したことも常に検証することが求められます。
 ゆうパックの運賃改定の発表のときも強調しましたが、現場の社員に過重労働や低賃金などを強いるようなビジネスは長続きしません。日本郵便がそうした会社にならないように、現実をしっかり見つめてお客さまのニーズを見極め、地に足の着いた施策を実施していかなくてはなりません。

 全国で頑張っている郵便局長や社員の皆さんに、改めてメッセージを。

 郵便局長をはじめ、全ての社員の皆さんがそれぞれの立場で創意工夫をして欲しいと思います。お客さまが郵便局、日本郵便という会社に求めているものは、やはり心のこもった良い商品やサービスを提供してくれるという期待だと思います。商品自体の持つ魅力もさることながら、お客さまからは見えないところで、もうひと手間を加えることも大切です。仕事の迅速性や正確性、そういうものも含めて創意工夫にたゆまぬ努力をしていきたいと思います。
 そこをお客さまは「良いな」「やはり郵便局は違うよね」と思っていただけるのではないかと思います。そこまで含めて品質です。手を抜かない、お客さまへの“圧倒的努力”による創意工夫です。そこは我々の良さでDNAです。

 現在は低金利時代で営業も難しい面がありますが、長年にわたり培われてきた郵便局への信頼こそが最大の武器と話されている局長の皆さんが多いです。


 定額貯金を10年したら倍になるような時代もありました。ですが、今は超低金利の時代です。
 私がいつも強調しているのは、お客さまとの関わりは、まずゆうちょで口座を作っていただくことから始まります。その後、定期性貯金、投資信託、保険等の商品を、お客さまのライフステージに応じて提供していくことが重要であり、我々が目指すべき「グループ総預り資産」の拡大につながります。 出発点は、我々が長年にわたって培ってきた郵便局への信頼です。この点を忘れずに大切にしていきたいと思います。


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