「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6896・6897合併号

【主な記事】

[かんぽ生命]植平光彦社長
保障性拡販で反転攻勢
強みは郵便局チャネル


 低金利や人口減少など保険業界への荒波は引く気配がないが、その中で近年、かんぽ生命の新契約は勢いづいている。売上げの9割は郵便局。長く営業畑を歩んだ植平光彦新社長は8月2日に行われた通信文化新報などの共同インタビューで「郵便局チャネルとの連携を密に、高齢者、青壮年、既契約のお客さまへの保障を強化していきたい」と意欲を示した。また「青壮年層への販売強化は喫緊の課題」と強調。郵政民営化10年目を迎えた今年、植平新社長は底打ち、反転攻勢の成長戦略に打って出る。

■経営トップに立たれた所見をお願いします。
 前石井雅実社長時代5年間のうち4年間は商品開発と営業企画、営業推進を担当し、一緒に経営に務めてきた。石井前社長は上場や基幹システムの更改など大きな功績を残された。
 現在の中期経営計画に掲げた新契約月額保険料500億円確保を1年前倒しで2015(平成27)年度に達成。16年度は同553億円と民営化以降、最大の売上げを実現している。さらなる発展を目指したい。
 かんぽ生命は三つの大きな柱をベースに次期中期経営計画を検討する。1点目は「お客さま本位を徹底した業務運営の追求」。お客さま本位とはニーズに応える商品開発と親切丁寧な説明を継続して、募集品質の向上により納得いくご契約をいただく。特に、募集関係資料は分かりやすく見直す。
 2点目は「持続的な成長の実現」。新規契約を伸ばし、早期に保有契約の底打ち・反転を実現することで、かんぽ生命の成長をさらに確実なものとしていきたい。3点目は「事業経営における健全性の確保」。生命保険はお客さまの生涯にも及ぶ非常に長い期間の商品・サービスになる。お客さまに安心を届けるために、適切なリスク管理の下で経営に取り組む。

■かんぽ生命の「強み」とは何でしょうか。
 かんぽ生命の「強み」は保険商品販売の9割を担う郵便局チャネルという強い販売網だ。連携を密に、販売余力がある領域を開拓したい。

■地方銀行での窓口販売は検討していますか。将来的な新たな販売チャネルの構想はありますか。
 現在は自社と日本郵便のチャネルのみを通じて保険商品の販売を行っているが、今は郵便局としっかり連携して販売していくことを考えている。かんぽ生命は三事業のユニバーサルサービスを提供する日本郵便に終身保険および養老保険を供給する責務を担っており、これらの商品を郵便局チャネルを通じて一人でも多くのお客さまに提供するということに、しっかりと取り組んでいきたい。

■若い層のお客さま獲得に向けて何か考えていますか。
 青壮年層への販売強化は喫緊の課題だ。若い層のお客さまに契約者となっていただくためには、低廉な商品を活用する。かんぽ生命は高齢のお客さまに多くの商品を販売してきたが、つながる安心活動を通じて、複数世帯で住んでいる高齢のお客さまの訪問時に、青壮年層の開拓も進めていきたい。

■6月19日に認可され、10月に郵便局でも販売開始が予定される終身保険と定期年金保険、入院特約の3商品は経営にどのような効果をもたらしますか。販売戦略のあり方は。
 入院特約の見直しは、入院していなくても手術保険金を支払う、入院初期に入院保険金日額の5倍の保険金を支払うなど、商品の魅力を引き上げる改定を進めながら準備をしている。終身保険の見直しは解約返戻金を抑制し、保険料負担を軽減した低解約返戻金型の商品。2016(平成28)年8月以前の予定利率1.5%の頃と比べると保険料が安くなる領域も多々ある。低金利環境で保険料が上がっていく中で、買い求めやすい保険料の水準を確保している。
 定期年金保険の見直しは保険料を年金として返していくものだが、早くお亡くなりになってしまった方へお支払する年金を圧縮する代わりに、長生きした方にお支払する年金に上乗せしていく商品。長生きするほど支払った保険料を上回る年金が受け取れる。一部大手生保が先行しているが、かんぽ生命は少し違ったコンセプトで返戻金をやや高めに設定した。長生きリスクに備え、長生きすればするほど受取りが多くなるような年金商品で対応していく。既存商品に加えて売上げを確保し、増収を図っていきたい。

運用の高度化・多様化が重要課題

■保障性商品の拡販に向けて、営業力の質と量をどう強化されますか。第三分野も保障性商品に入りますが、将来、特約だけでなく、単品医療の開発も考えていますか。
 保障性商品の販売は、最も力を入れなければならない領域と認識している。低金利下で貯蓄性の高い主力の養老保険は魅力が減少するため、死亡保障や疾病保障に重点を置いた販売が重要になる。一番力を入れなければならない分野だ。
 郵便局でかんぽ生命商品の販売を担うのは、保険営業の渉外社員と窓口で販売する郵便局社員に分かれるが、今、階層別の研修も実施している。保障性を切り口に様々な販売話法とスキルを高める種々の研修、DVDなどを作って郵便局に届け、直営店がサポートしながら教育に取り組んでいる。
 現在、養老保険と終身保険を10契約販売した場合、9契約は第三分野の特約が付加される。特約という形ではあるが、第三分野商品の保有年換算保険料ベースでかんぽ生命はアフラックに次ぐ国内2位。単品医療保険の参入をする前に、養老保険と終身保険に特約をしっかりと付加する取組みを行っていく。

■2016(平成28)年2月から始まった日銀のマイナス金利政策が保険業界に及ぼす影響を重く見た金融庁は、段階的に予定利率を引き下げました。かんぽ生命としてどのように取り組まれているのでしょうか。
 預かった保険料を運用する時に、予定利率を上回らなければ保険会社は逆ザヤに陥る。
 かんぽ生命は第1段階の16年8月、1.5%だった予定利率を1.0%に引き下げた。予定利率を引き下げるだけでは保険料は上がるため、独自の生命表に基づく死亡率の見直しを行い、死亡保障の保険料を引き下げた。総合的に保険料を調整し、一定程度保険料が下がるように改定した。
 今年4月には標準利率の見直しに伴い、生保各社が予定利率の引き下げを行い、かんぽ生命も1.0%の予定利率を0.5%に引き下げた。予定利率の引き下げによる値上げと特約発生率の見直しによる値下げにより、保険料を総合的に見直し、一定程度値下げとなるような改定を行った。

■リスク性資産の割合も少しずつ高めているようですが、今後の運用方針は。
 かんぽ生命の収益は保険商品の売上げと運用収益の合算。資産運用の高度化・多様化は極めて重要な課題になる。そのため、ALM(資産と負債の総合管理)で予定利率を上回る運用を行うことが命題だ。安全性の高い運用を国債中心で行っていくのは変わらないが、国債の金利が下がっているため、一部は運用利回りの高い商品に切り替える必要があり、リスク性資産に一定割合を投資する。直近は9.9%。今後、12%までシフトしたい。
 かんぽ生命の規模やERM(全社的統合リスク管理=リスクマネジメント活動に関する全社的な仕組みやプロセス)によりリスク許容度を決め、その範囲内でリスク性資産にシフトを図る必要がある。リスク性資産の内訳として、比較的安全性の高い外国債券にシフトするが、為替リスクを伴うため、ヘッジ付外債が多くなっている。

■海外戦略への構想は。
 日本の少子高齢化が続くようであれば、国内市場は大変厳しい。生保各社ともに海外のM&Aを強化している。かんぽ生命は現時点では出資規制があり、子会社を持つわけにいかないが、将来も見通して、研究と検討、準備を余念なく行いたい。

■社員の方々にはどのようなことを期待されますか。
 木を見て林を見ず、木を見て森を見ずと言うが、有効な戦略を企画・立案するには細部を知らずして専門性の高い仕事はできない。細部だけにこだわると全体が見えない。部分最適と全体最適を組み合わせて細かいことも理解した上で全体感のある仕事を進めてほしい。
 もう1点はあきらめないということ。抜けられないトンネルはない。歩みを止めると出口には辿り着かない。遅くても歩み続けるという粘り強さを全員で共有すれば強い会社ができるということを伝えていきたい。


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