「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6895号

【主な記事】

株売却急ぎながら着実に
[日本郵政 長門社長]地域社会に役立ちたい

 日本郵政の長門正貢社長は7月25日の記者会見で、集中豪雨により災害救助法適用地域での非常取扱いやかんぽの宿における地域住民の受入れなど日本郵政グループ全社で取り組んだ状況、申込受付が目前に迫った郵便局のみまもりサービスは最終的な詰めを行っていることを報告。「少しでも地域の役に立っていきたい」と意欲を示した。今秋に迎える民営化10年の節目に当たり「よかったのは上場できたこと」と振り返り、株式売却は他公営企業の民営化事例にも触れながら「三事業のユニバーサルサービスを維持しつつ、急ぎながらも着実に進めたい」と語った。中期経営計画の最終年度として目標達成への営業活動も促した。

 長門社長は冒頭、「九州北部や秋田県など全国で発生している集中豪雨で被災された方々にお見舞いを申し上げたい。日本郵政グループとして九州北部豪雨により災害救助法が適用された地域のお客さまへの非常取扱いと救援団体へ宛てた災害義援金の現金書留郵便物や口座送金の料金免除を実施した。大分県内の三つの郵便局では7月8、9日の土日に窓口営業を実施し、貯金の払戻しを行った。かんぽの宿日田では被災され、避難された14名を受け入れたほか、被災者やボランティアの方々に温泉施設を無料で開放し、7月23日までに延べ3754名が利用された。少しでも被災地域の役に立っていきたい」と語り、現地の労をねぎらった。
 会見では、日本郵便の2016(平成28)年度の「業務区分別収支」と「郵便事業の収支の状況」が発表された。16年度は業務区分別収支はそれぞれの区分で黒字、郵便事業の収支は合計で黒字を確保した。
 長門社長は、業務区分別収支のその他業務の営業損益が15年度の64億円から16年度は276億円と大きく増加したものの、郵便事業の収支においては内国郵便業務が2年ぶりに15億円の赤字を計上したことや、荷物の収支は15年度8億円の黒字から16年度は28億円まで伸展したと説明。コストコントロールや増収対策に取り組み、郵便のユニバーサルサービスを維持する方針を示した。
 長門社長は「郵便局のみまもりサービスはいよいよ8月に申込受付を開始する。今、最終的な詰めを行っている段階」と報告した。
 また「2017(平成29)年度は日本郵政グループ中期経営計画の最終年度。達成すべく営業活動に専念すると同時に、次期中期経営計画の本格的な議論を開始した段階。現状認識している各社の問題に少しだけ触れると、日本郵便はeコマースの急速な発展に伴う荷物拡大への対応と働き方改革との関係も含めて議論が高まる中で料金やサービスの見直し、宅配ロッカー活用など収益とコスト両面をどう考えるかが最大の課題になる」と指摘。
 さらに「約2万4000の郵便局ネットワークの活用策も重要な課題。過疎地の郵便局に他行の通帳記帳が可能なATM(現金取扱機能なし)の設置、日本ATM㈱が運営する『銀行手続の窓口』(他行の手続きを取り扱う)を郵便局内に設置も始めたが、さらに充実させ、地域インフラとしての郵便局ネットワークの価値を高めることが必要」と強調した。
 「ゆうちょ銀行は長期化する低金利への対応が最大の課題。さらなる運用の高度化・多様化や投信利用者のすそ野拡大と残高拡大、ファミリーマートへの小型ATM設置など手数料収入増加に向けた取組みのほか、決済サービスの伸展や地域金融機関との連携促進などに一層力を入れなければならない」と説明した。
 「かんぽ生命も高齢化の進展等が予測される中、社会保障制度を補完する民間保険の役割はますます拡大しつつある。保障性商品を重視した販売活動を徹底し、商品開発を推進しながら本格的な成長軌道に乗せたい。また、低金利環境の長期化が予想される中、運用収益向上へオルタナティブ投資の拡大などさらなる資産運用の多様化を図りたい。IBM Watsonを保険金査定に使い始め、コールセンターの一部にも導入したが、活用分野はさらに拡げられる。新たな技術を積極的に活かし、業務プロセスの高度化と効率化を図る必要がある」と指摘した。
 記者団からの「地域活性化ファンドへの共同出資も6件になったが手応えは」との質問に対し、「ゆうちょ銀行社長時代に地方創生に対応すべく金融法人営業室を立ち上げ、昨年4月に部に格上げし、地域金融機関との対話を深めてきた。池田憲人社長が就任し、6件目まで実績を上げた。ファンド総額は約25億円とまだ小さいが、民業圧迫と言われていた空気も変わり、ゆうちょ銀行と手を組める印象を地域金融に持っていただけるようになった。ゆうちょ銀行の強みは郵便局と共にこれからも全国各地でビジネス展開できること」と語った。
 さらに、「郵便料金の値上げから約2か月が経過し、引受数減少も予想されると思うが」の問いかけに「6月からのはがき料金などの改定により今年度の収益は約300億円の増収効果を見込んでいる。値上げ前には若干駆け込みもあったものの、結果はまだ見えてこないが、大差はないと思う。インターネットの普及率が1997(平成9)年の9.2%から2016(平成28)年度は83.5%に増え、スマートフォン契約比率も08年度1.1%から15年度46.2%に増えるのと逆比例して郵便は減少している。ただ、諸外国と比較すると、民営化初年度の08年度を100とした場合、日本は16年度92.5。米国は71.5。手紙離れが進む欧州はイタリアが53.2、英国は54.9と日本の減少幅は比較的緩やか」と説明した。
 「ユニバーサルサービス維持の観点から、再公社化の議論についての考えはあるか」には、「郵政民営化法の中でできることを精一杯やる。日本郵政グループは日本郵便を持っている。つまり、約2万4000の郵便局を持つ。金融2社の株式は将来100%売られるかもしれないが、金融2社は郵便局に依拠しているビジネスモデル」と強調した。
 「日本郵政の2次売却は今夏が見送られ、今秋の見通しと報じられたが。今秋は丁度、民営化10年の節目を迎える時になるが」との問いかけには、「日本郵政株の売出しは政府が決める。主幹事証券会社を選んで準備している。売出しが遅れている理由が株価にあるのか、それとも違う判断材料があるのかもしれない。民営化して10年を迎え、よかったと思うのは上場できたことに他ならない。市場から明確な成長戦略を求められ、経営環境は厳しくなったが、よかった」と感慨深く語った。
 「売出しが遅いとの見方もあるようだが、国鉄民営化は1987(昭和62)年。JR東日本の上場は93年、完全売却は2002(平成14)年と9年かかった。JR西日本は96年から04年。JR東海は97年から06年。NTTの東証一部上場は87年。2次、3次、4次と続き、直近は2000(平成12)年に6次売却して今も政府が33.7%持つ。NTTデータやドコモも時間をかけている。だからゆっくり進めればよいということではない。政府は復興財源のために前倒ししたいのではないかとも思うが、我々も急ぎながら着実に進みたい」と意向を示した。
 「ゆうちょ銀行の業態は銀行より資産運用会社に近いが、メガバンクに株価で負けていないというのはどのような部分を根拠としているのか」との質問に対し、「確かに、銀行と名乗っていても業態はメガバンクとは異なる。収益の約94%が資金運用益で、約6%が手数料。その手数料はメガバンクの5分の1程度。融資ができないことで例えば、シンジケートローン(複数金融機関の協調融資を行う)の管理手数料等もない。しかし、株価を見ると明らかにメガバンクと連動している。実態は違うにもかかわらず、マーケットの多くの方が銀行と思ってくれている。今の指摘は、株式価値をしっかりと評価すべきと真摯に受け止めたい」と強調した。
 通信文化新報の「アナリストの方の中には、金融2社の2次売却を急ぐべきで特にかんぽ生命は50%まで一気に売り出すことで単品医療保険を郵便局で販売できるようにした方がグループ全体の収益増になるとの声もあるが」には、「三事業のユニバーサルサービスやグループ全体への影響、株価や世界経済等も考慮し、経営の自由度を得るために速やかに実施したい思いは変わらない。まずは、財務省が日本郵政株を復興財源に充てるために2次売却を実行されることが一義。それがあった上で、タイミングが来れば諸条件を考え、しかるべき時期に実行したい」と答えた。
 また「指摘のあった議論の趣旨は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を比べるとかんぽ生命の方が時価総額は小さく、5割まで売り出すのに現状の株価で考えたベースで約6000億円程度。市場に与えるインパクトが少ないためにやりやすいことと、改正郵政民営化法に定める認可が届出になり、経営の自由度が出てきて、やりやすくなるのではないかということだと思う。ただ、認可が必要な今でも素晴らしい商品があれば、当局に認可申請し、認可が得られればできなくはない。株式を50%まで売ったから初めて色々な商品が爆発的に出てくるということではない点は理解いただきたい。あくまで一つの考えで、参考にはしたいと思っている」と説明した。


>戻る

ページTOPへ