「通信文化新報」特集記事詳細

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第6894号

【主な記事】

日本郵政グループへの期待
大塚耕平参院議員(民進党)

 改正郵政民営化法が2012(平成24)年に成立する以前に郵政事業見直しの大元となった郵政改革法案を旧民主党政権下で中心となって作成したのが当時、内閣府副大臣(金融・郵政改革担当)を務めた大塚耕平参院議員だった。日銀出身で民進党のネクスト内閣では財務・金融担当大臣を務める大塚参院議員は今も郵政事業を見守っている。金融・郵政改革担当大臣の後に厚生労働副大臣も務めた大塚参院議員は「今後、地域包括ケアシステムの中で郵便局ネットワークが有機的に役立つ部分がある」と指摘する。

 地域包括ケアへの参画に期待
 信頼を基盤とするビジネスモデルを

■郵政民営化が始まって10年が経過しようとしています。今の日本郵政グループの状況をどう見ていますか。
 民営化から10年。自民党から民進党(旧民主党)政権へ、再び自民党政権と変遷する中で軌道修正をされながら今日を迎えたが、次の10年に向けて今、非常に重要な局面に差し掛かっている。なぜかといえば、日本郵政グループの収益を大きく支えるゆうちょ銀行とかんぽ生命が日銀の超低金利政策を背景に厳しい収益環境に置かれているためだ。郵便の取扱数は年々減少している上、人手の確保が困難な状況も強いられている。
 今後のグループの発展に向けてどのような戦略で臨むべきか。冷静に考える時期だと思う。金融2社の新規業務も認可され、新たな展望も開けつつある一方、新規業務の中にはリスクが高いものもあるため、今後の戦略や経営手腕が問われる。
例えば、かんぽ生命は、死亡時の支払い原資を生存者の年金原資に充て、死亡時の保険金支払額を抑えることで生きている人の年金額を増やすトンチン年金と呼ばれる商品が認められた。保険業界で人気が高まりつつあるトレンド商品だ。かんぽ生命は低金利環境の影響を受けて年金商品を販売停止してきたが、従来商品よりも契約解約時の返戻金水準を低く抑える年金商品に取り組むことで、長寿社会の自助努力を支援し、年金商品に求められる時代のニーズに応えようとしている。
 また、ゆうちょ銀行の新規業務として、資金運用の高度化・多様化に資するためにCDSが認められた。CDSは信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引であり、一定の事由の発生時に被る損失額の補塡を受けられる。銀行の自己資本比率を高める対策の一環としても利用されているが、一方でローンビジネスの申請を取り下げたため、相対的にリスクが高い利用の仕方になるだろう。内容を熟知して適切に運用しなければ、思わぬ損失を被りかねない。体制強化や人材育成が重要だ。

■日本郵政グループとして新たなハードルへの挑戦もあるとの見方だと思いますが、見通しが飛躍的に拓けることではないということですか。
 飛躍の可能性もあるが、同時にリスクも認識すべきということだ。飛躍の可能性を高める上で、郵便局ネットワークという同業他社や競合先にはない貴重な経営資源を持っていることを重んじるべきだろう。郵便局ネットワークを活用してどのように独自のビジネスモデルを拓き、将来も続けていけるのかが焦点となる。郵便局ネットワークは三事業のユニバーサルサービスを維持するために存在する。国民への公平なサービスを提供するのが郵便局の使命であり、国民にどう貢献できるかを常に考えることが大切だと思う。
 抽象的だが、「儲ける」という漢字は「信」と「者」の組み合わせで成り立っている。漢字の構成は、その漢字の意味の本質を表わしている。「儲ける」とは、「何かうまいことをやって稼ぐ」という意味ではなく、「信頼される者は儲かる」と理解すべきだ。「儲け」は結果としてついてくる。郵便局ネットワークを駆使した独自のビジネスモデルによって、地域住民、顧客に信頼され、その結果として「儲かる」ビジネスモデルを軸に据えて考えていくべきだと思う。郵便局ネットワークは他に類のない経営資源。活用の仕方次第で必ず良い戦略が生み出せる。
 時代と共に経営環境は変化しているが、その変化を的確につかみ、環境に適した戦略やビジネスモデルを追求することが肝要だ。少子高齢社会をどう乗り切るか。今後半世紀の日本の最重要課題であり、その課題にどのように向き合うか、郵便局ネットワークをどのように活用するかがポイントになる。地域社会の要請に応えた郵便局ネットワークの活用方法を考えるべきだと思う。かつて、ひまわりシステム、ひまわりサービスと呼ばれていた地域での見守りや声掛けサービス。ここにヒントがある。地域住民の生活支援と金融・郵便サービスの有機的連携という切り口で考えていくべきだろう。
 民主党政権下で金融・郵政改革担当を含む内閣府副大臣を務めた後、厚生労働副大臣を務めたが、その時に「地域包括ケアシステム」を導入した。自民党政権でも引き継がれているが、今後の高齢社会に対応する地域包括ケアシステムの中で、郵便局ネットワークが有機的に役立つ可能性は必ずある。

■改められた郵便局のみまもりサービスも10月から全国で展開されますが、地域包括ケアシステムとはどのような仕組みですか。
 今後の目指すべき地域社会として、①医療②介護③予防④住宅⑤生活支援・福祉サービスの5点セットを中学校単位規模の地域社会の中で適切に提供する姿を目指している。医療や介護の関係者だけでなく、商店、宅配、自治会など多くの関係者の協力なしには成功しない。高齢者の見守りと自立支援、生活支援を目指しているのが地域包括ケアシステムであり、その方向に向かって様々な政策制度が徐々に整備されつつある。
 可能な限り住み慣れた地域で生活を継続できる包括的な支援体制の構築を目指しており、五つの構成要素が相互に連携しながら高齢者の生活を支える。
 地域包括ケアシステムには「自助」「互助」「共助」「公助」の要素がある。「公助」は税による公的負担、「共助」は介護保険などの共同負担、「自助」は自助努力、「互助」は相互に支え合う助け合いの世界だ。
 その中で、郵便局ネットワークが役立つことが様々に想定できる。「自助」や「互助」の範疇に含まれるようなサービスも工夫できる。また、行政と連携して「公助」の支援も可能だ。ゆうちょ銀行やかんぽ生命の金融サービスは「共助」にも活用可能と考えている。
 都市部と地方の違いも考えて戦略を練ることも必要だろう。都市部では「互助」が難しい一方、民間サービス市場が大きく、「自助」的なサービスへのアクセスは容易。地方では、「自助」的サービスの市場が育ちにくいが、その一方で「互助」的な仕組みは構築し易い。
 少子高齢化の更なる進展や政府の財政状況を鑑みると、「共助」「公助」の大幅な拡充を期待することは難しい。「自助」「互助」の果たす役割が大きくなることを前提としつつ、日本郵政グループとしての戦略を検討すべきだろう。郵便局の出番だと思う。

■内閣府のまち・ひと・しごと創生本部や総務省自治行政局は小さな拠点づくりに力を注いでいると思うのですが、最近の問題点はどこにあるのですか。
 地域包括ケアシステムは医師、歯科医師、薬剤師、看護師、介護士等々の専門職関係者、役所、警察、消防等の行政関係者、自治会や商店街等の地域関係者、あらゆる人たちの協力と連携が必要になる。小さな拠点づくりで重要なのは人と人とをつなぐ役目。そのプラットフォームとして、連絡役などの機能は郵便局ネットワークが協力することで糸口を見いだせるのではないか。もちろん、ビジネスとして正当な収益をあげる工夫も必要だ。全国郵便局長会(青木進会長)の皆さんには是非頑張っていただきたい。アイディアを出すことを一緒に考え、実現していくことに取り組みたい。

■金融2社は国債の保有比率をここ数年でかなり下げています。ゆうちょ銀行は30%代、かんぽ生命は50%程度になっていますが、さらに保有比率を下げるべきでしょうか。特にかんぽ生命はどうでしょうか。
 日銀の異次元緩和、マネタリーベース(社会に出回る現金と金融機関が預金の払い戻しなどに備えて日銀に預けている当座預金の残高合計=資金供給量)拡大のため、ゆうちょ銀行、かんぽ生命のみならず、メガバンクや生損保など大口投資家は総じて国債保有比率を下げている。ゆうちょ銀行もかんぽ生命も国債保有比率をさらに下げても問題はないのではないか。
 特に日銀の金融緩和手法が限界に達しつつあり、長期金利の急騰リスクが高まっていることから、国債保有はリスクを考えながら戦略を練るべきだろう。業務認可を受けたCDSを有効活用してリスクヘッジすることも一案だ。国債の保有比率を引き下げれば、その分、他の金融資産への投資が必要になる。今まで以上に内外の金融証券市場全体の動向を把握しつつ、的確な資産運用戦略が求められる。

■政府保有の日本郵政株の2次売却は当初、今夏とも見られていましたが、秋以降が想定されているようです。どのように思われますか。
 株価低迷の影響というよりも、売出を先延ばしして、財源確保の余力を温存したと見るべきだろう。現政権が続けば消費税率引き上げが再々々延期される可能性もあり、財務省としては先行きへの対応力を残したとも見ている。ただ、日銀の金融政策が行き詰まり、長期金利急騰、株価下落という展開もあり得るため、今ぐらいの株価水準で売り出しておいた方が確率的には良いような気がしている。



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