「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6892・6893合併号

【主な記事】

宿泊と病院事業改善へ
[日本郵政]一層の地域連携を強化

 日本郵政が企業価値向上に向けて、逓信病院とかんぽの宿の改善策を強化している。逓信病院は患者増に向けた地域医療や介護施設との連携を強め、地域医療機関へのアピールや地域を対象とする健康教室の開催やコスト管理などを徹底。かんぽの宿は選ばれる宿泊施設としてサービスの充実や災害発生時に備えた取組み、地域の魅力発信などで客室稼働率を改善している。両事業とも赤字は続いているが、地方創生や経営資源を活かす観点で利用者目線に立った地域連携の強化を目指す。健康寿命分野のニーズが高まっていることなどから、今後は介護など地元関係事業者や自治体との連携も重要性を増していきそうだ。

 逓信という伝統的な言葉が残される逓信病院は、日本郵政グループが民営化された2007(平成19)年に全国に14か所あったが、現在は7か所。04年の臨床研修医制度改正に伴う大学医局所属医師不足により、患者の減少傾向が続いている。逓信病院は中小規模が多く、また、専門性などの特色が少ないことも患者増に向けた課題として浮上している。
 このため、16年度は医業収益向上のためにターゲットを絞った地域連携活動による紹介患者の確保や大病院からの患者受け入れ、地域連携システムへの参入のほか、介護施設の協力など様々な施策を展開。鹿児島逓信病院は鹿児島大学病院と連携し、肝臓内科専門診療を推進した。東京逓信病院は患者を増やすために地域連携医療機関へ「診療のご案内」を配布。認知度を高めるため「病気&診療完全解説Book」を発行した。
 コスト管理面では、医薬品などの一括購入により購入経費を削減し、医療機器稼働率の向上などの単価アップ策を実施した。しかし、そうした中でも経営環境の厳しさは続いている。
 2017(平成29)年度は16年度に続き、①医業収益向上のための施策②利用者拡大に向けた積極的なPR活動の強化③コスト管理の徹底(効率化・費用節減策の推進)④医療の質の向上⑤コンプライアンスの徹底―の5本を柱に取り組むほか、18年度の介護報酬と診療報酬の同時改定や7次医療計画、3期医療適正化計画をにらんだ経営改善を進めている。
 例えば、患者増対策の一環として他医療施設や介護施設との連携強化や退院支援の充実、がん患者の受入強化。単価アップに向けた診療報酬対応やデータ活用、必要な検査などを充実させた。人間ドック受検者増のために医師による推奨、新規団体との契約を行っている。さらに、リハビリテーションの充実のほか、地域医療機関に対するアピールなども展開する。地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化や強化に本社病院管理部と全ての逓信病院が一体となって取り組んでいる。
 一方、かんぽの宿は15年度の熱海本館、知多美浜及び奈良のリニューアルに続いて、16年度には熱海別館のリニューアルを行った。かんぽの宿熱海の社員は「リニューアルしてから明らかにお客さまが増えた。リニューアル前の14年度と16年度を比較すると2割は増えたと思える。夏には若いお客さまも多く訪れる。チェックアウトの時に『景観が素晴らしかった』と言ってもらえることがとても嬉しい」と喜びの声をあげている。
 このほかにも、メンバーズカード会員と一般の消費者の利用動向調査を行って現状を分析し、認知度向上のために1月14~29日で地上波テレビCMを放映した。放映前と比べ、認知度が約3割向上した。3~5月には、会員と新規顧客の囲い込みに向けた総額3000万ポイントキャンペーンを展開し、春には各宿の料理人による料理コンテストを開催し、出品作品は来客に提供している。日本郵政グループ各社との連携施策として、ゆうちょ銀行の「年金新規受取りキャンペーン」に参画し、割引クーポンの提供等も行っている。また、販路拡大のため、旅行代理店をJTB1社から3社に拡充した。更なる「お客さまサービス向上」の取組みとして、日本郵政本社にCS専担部門を設置した。
 費用面では、飲食部門においても、経営改善のために原価管理の強化や水道光熱費の使用量管理の徹底のほか、調達方法の改善の一環として、カタログ調達やウェブを用いた食材を安く調達するスキームを試行する等、費用削減にも力を入れている。収益面では、インターネット宿泊予約システムの表示スピードや予約導線等を改善したほかインバウンドの獲得増のため、海外予約サイトAgodaなどとの送客契約を締結し、Wi-Fiも拡充している。
 17年度はさらに選ばれる宿を目指し、CS向上とサービスの充実、事業運営体制強化に向けた人材育成や、働き甲斐のある職場づくりを進めている。地域社会への貢献策の一環として災害発生時に備えた自治体との防災協定などの取組みや各地域の魅力を積極的に発信している。
 2012(平成24)年には、かんぽの宿小樽の閉鎖していた長期棟を改築し、住宅型有料老人ホーム「かぜーる小樽」を設置した。基本コンセプトを入居者が充実した生活と活動的な日々を送れる施設とし、入居条件は65歳以上。医師の判断で日常に支障をきたす疾患がないと認められるなどの条件を満たせば入居できる。入居者の健康管理は毎月、協力医療機関の医師が来館し、個別に入居者と面談してヘルスチェックを行っている。併せて年に2回の健康診断も実施。介護サービスの提供はないが、入居者の自己負担で外部の在宅介護サービスを利用することもできるようになっている。
 6月22日に開催された日本郵政の株主総会では株主からの「逓信病院とかんぽの宿の赤字が常態化しており、黒字に向けた努力をしてほしい」との要望に対し、日本郵政役員は「地域医療との連携などによる増収対策や調達の効率化による経費削減などに取り組むことで経営改善を進めたい。かんぽの宿も若年層を中心に顧客基盤の拡大に取組む」と前向きに答えている。
 長門正貢社長は6月28日の記者会見で「介護事業への明確な形を示すのは時期尚早だが、貢献の姿は歩きながら考えたい」と語っていた。
 内閣府は介護事業起点のまちづくりなどについて「健康寿命分野は地域で安定したニーズがある。地方は大都市と比べると規模が小さい案件が多くなるため、収益性確保が課題で自治体との連携が必須。ヘルスケアを応援する事業者などと関係事業者間の連携が重要」と話している。
 かんぽの宿は1955(昭和30)年に簡易保険加入者の福祉増進のために設置され、熱海が最初の施設となる。2012(平成24)年に成立した改正郵政民営化法により日本郵政が運営、または管理をすることとなった。メルパルクは郵便貯金の周知宣伝施設として1970(昭和45)年に設置され、08年から現在までワタベウェディング㈱に建物を賃貸し、メルパルク㈱が運営している。
 メルパルクを含むかんぽの宿など宿泊事業の16年度営業収益は262億円で、営業費用は287億円となり、営業損益はマイナス24億円を計上した。08年度には52億円の赤字だったが、それ以降、営業損益の改善は進んでいる。
 一方、逓信病院は1938(昭和13)年に職域病院として設立。1980(昭和55)年から一般に開放された。歴史を踏まえ、現在の持てる経営資源を最大限に活用し、地域医療ニーズに応えた良質な医療を提供することを経営理念に掲げている。


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