「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6883号

【主な記事】

直営が収益向上の余地
[ユニバ検討会]事業の多角化も


 「郵便のユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会」(座長=村本孜・成城大学名誉教授)の「第10回現状と課題等に関するワーキンググループ」(主査=米山高生・一橋大学大学院商学研究科教授)が4月26日、総務省で開かれた。政策的低廉料金や地域の郵便局ネットワークの維持などこれまでの議論を更に深めた。構成員からは郵便サービスの水準や内容、料金、商品開発などの柔軟化を求める意見が相次いだ。
【郵便局ネットワークの維持】
 「地域における郵便局ネットワークの維持」については、米山主査は「過疎地域で事業を広く考えれば、もっと郵便局が活躍できる余地がある。金融も扱っているので、エコマネーやコミュニティマネーなど得意分野で貢献できるのではないか。発想を柔軟にすればいろんなことができる。制約や規制など日本郵便で問題意識を持っているのであれば出して欲しい」、東條吉純・主査代理は「郵便局ネットワークの法令上の基準をすぐにどうこうということはないが、硬直的だと思うというのは私の一貫した意見。黒字を維持しており、差し当たって基準の緩和や法改正につながらないが、中長期的には基準の見直しが必要で検討をお願いしたい。移動郵便局も柔軟に考えれば、より機能的なユニバーサルサービスが可能になるのではないか」との意見。
 簡易局と郵便局のコスト面での考え方については、米山主査は「前回はコストが安い簡易局という一方通行の議論だったが、直営局には直営局のメリットがある。後継ぎがいないなどの問題もあり、コストを長期的にまたトータルに考えるとどちらがコスト安なのかは直ちに判断できない。柔軟に考える方が説得力がある」、東條主査代理は「コスト削減のためネットワークをスリム化するという考えになりがちだが、直営局だからできる事業がある。ネットワークをより積極的に有効活用することは新たな視点として、事務局の問題意識は理解している」と述べた。
 総務省からは簡易局と直営局の比較が示された。費用面では簡易局が低く抑えられる一方で、ATMが設置されていない局がほとんどで、サービスが基本的なものに限定される。また、受託者の事情で一時閉鎖のリスクがある。直営局は郵便、貯金、保険の業務が提供され、物販・金融商品なども取り扱い、地方公共団体からの受託事務、みまもりサービスなどの地域性・公共性の取組みもあり、収益面では直営局の方が事業の多角化・強化による向上の余地がある。総務省では今後の郵便局の配置や運営形態の見直しの検討について「地域の個別事情やニーズ、簡易局と直営局の違いを踏まえつつ、柔軟に対応することが必要」としている。
 大谷和子構成員の「郵便局では地方自治体の事務の取り扱いもしている。これらを活用して収益を得る。それには積極的に自治体のニーズを吸い上げていくことも大切。総務省もニーズの把握に努めていけるのではないか」との意見に、総務省は「自治体のニーズの把握については問題意識を持っている。自治行政局の担当部局と調整していきたい。郵便局が自治体とどのような役割分担が果たせるのか。みまもりや買い物支援など参加の余地はある」と答えた。
 人口減少や高齢化により、生活機能が低下した地域の暮らしを支えるための「総務省の地域暮らしサポート実証事業」の事例が紹介された。参加事業者として郵便局やスーパー・商店などが想定されているという。同実証事業は今年度1年間で実施される。公募は3月28日から4月7日まで行われた。都道府県、市町村など自治体単位での応募となり、現在選定中。
 過疎地に住む大平展子構成員は「地域の暮らしサポート実証事業は、地域の人たちがどのくらいそれに向かっているか、事業があるからでなく、地域がどう変わるかだ。地域の人がみんなで課題を解決していく。それを郵便局ネットワークの中で果たしていくのがよいと思う」と意見を述べた。
【通常はがきの料金見直しとサービスの柔軟化】
 通常はがきの料金見直しと収益拡大について、東條主査代理は「今回の郵便料金の見直しだけでは、十分に収支の改善が見込まれない。経営の安定やユニバーサルサービスを維持する観点から言うと、ある程度の情報開示が重要。また、郵便料金の見直しにすぐに飛びつくのではなく、サービス水準の柔軟化も含めて総合的に検討する必要が出てくるのではないか。収益拡大のため商品開発の継続的な取組は大事」と述べた。総務省は「サービスの柔軟化を検討することも考えていかなければならない」と回答。
【政策的低廉料金】
 大谷構成員は「各省の意見を読むと、社会的意義はあると受け止められるが、政策的低廉料金部分の赤字は年々拡大している。各省とも社会的意義を強調しているが、予算措置を持っていない所が大半。継続をどうすべきなのか、一民間企業に担わせ続けるのがよいのか、様々な可能性を各省庁と一緒に考えていくことが必要。定量的現状把握ができればよいと思う」、米山主査は「民間事業者に負担を求めることが適切かを踏まえた上で、継続的に見直しを行っていくのがよいと思う」と述べた。
 個別の料金見直しに対する意見としては、東條主査代理は「学術刊行物は低廉料金の存続が電子化を阻害しているというのは重要な指摘で、思い切った施策の展開が重要」、大谷構成員は「心身障害者や障害者の情報誌は、情報に接することにハードルが高い人の生活を支えている。社会全体が支える制度だと思う。現状制度の維持は重要」と述べた。
【郵便法施行規則の改正】
 同検討会WGの日本郵便のヒアリングで要望のあった課題を受けて、議論を重ねた結果、郵便法施行規則の一部が改正され3月31日に施行となった。改正されたのは「発行する郵便切手などの金額の認可が不要となった」「これまで法令で定めのなかった郵便事業の収支状況区分を明確化した(特殊取扱は義務的特殊取扱と任意の特殊取扱の2区分に、国際郵便は通常、小包、EMSの3分類となった)」「郵便認証司の兼業承認を不要とする範囲を明確化した」「郵便の試行サービスは、郵便約款の認可不要の範囲を地域と期間の両方に限定していたが、これを期間のみとした。それにより期間さえ限定されていれば全国展開は郵便約款の認可を受けずに実施できるようになった」「速達などを除いた任意特殊取扱郵便で新サービスを始める場合は事後届出でよいことになった」。
 米山主査は「今回の省令改正は迅速な対応で評価すべき。まだ法改正が必要なものもあり、見直しは継続してもらいたい」と述べた。


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