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第6879号

【主な記事】

ドローンでベランダ配送
千葉市が実験 医療分野も視野


 急速に進展するネット通販を背景に配送に携わる人手不足が深刻化する中、国際未来都市の戦略特区に指定される千葉市が小型無人航空機(ドローン)を使い、ベランダに日常生活品を届ける宅配手段や遠隔医療など斬新な計画の検討を進めている。昨年2回行ったドローン宅配の実証実験では、東京湾海上の水平移動、地上と屋上間の垂直移動に成功。実用化に結び付ける収益性に鑑み、あえて都市部でのビジネス化を狙う千葉市の取組みは物流関係者から注目を集めている。政府がドローンなどの実用化に向け、安全性を確保した上で事前規制を緩和する改正特区法案の今国会成立を目指す追い風も吹いてきた。

 政府が規制改革などの施策を総合的、集中的に推進する「国家戦略特区」の第3次指定地域に千葉市が指定されたのは2016(平成28)年1月。特区に託された「近未来技術実証・多文化都市」の構築に向けて、ドローンなど先端技術の活用を目指すことになった。
 政府がドローンを使った宅配便物流を完全無人化する「2030年目標」を打ち出した動きとも絡み、多くの自治体がドローン技術に関心を持っているが、特区として内閣府と民間事業者、自治体の三者で「ドローン宅配分科会」が設置されているのは全国で千葉市のみとなっている。
 分科会では、千葉市と千葉大学の元教授でドローン開発の第一人者とされる野波健蔵氏(㈱自律制御システム研究所代表取締役)と連携。幕張新都心を中心に、都市部におけるドローンの新たな制度と規制改革について重点的な検討を進めてきた。
 分科会の下部組織となる技術検討会には、アマゾンやイオン、ウエザーニューズ、SGシステム、NTTドコモ、佐川急便、楽天、ヤマトロジスティクスなど多数の関連企業が参加している。
 昨年度に行った2回の実証実験では、ビジネス化に向けた課題を抽出した。
 対象地域と想定しているのは、幕張新都心の中でも既に約2万6000人(約9400戸)の住民が住む幕張ベイタウンと今後、約1万人(約4500戸)の新たな住民移住が予定される若葉住宅地区のマンション。地区内の店舗から日常生活品などのドローンによる配達、侵入者へのセキュリティサービスを行う垂直飛行の検討を重ねていく。
 垂直飛行で特に注目されるのは戸別に届けることが可能な「ベランダ配送」。千葉市は「ベランダへの配送は一つのアイデアで、実証実験はこれからだが、実現できると非常に利便性の高い配送手段になり得る。ただし、安全性などに留意した上で、規制緩和がされなければコスト面も含めて容易ではない部分もある」と指摘する。ベランダまで戸別に運ぶのは無理となった場合には、各階に荷物の受取可能な集積場所を作ることなどを考えている。
 全国各地の関係者も注目するドローン宅配の医療分野の活用もにらむ。現行の医師法で可能な範囲の遠隔診療を行い、医療機関から処方箋情報を薬局へと送付。薬局が患者に遠隔服薬指導を実施した後、処方箋をドローン宅配で住民に届ける構想になる。たいていの病院は待ち時間が長いが、それが軽減されることで高齢者などの負担が軽くなる。遠隔治療ができる範囲での症状であれば、適切な治療と服薬による医療費削減につながることも期待されている。
 昨年4月11日と11月22日に行われたドローン宅配の実証実験では、横断的に配送する水平的技術と、高層マンションなど高い位置に運ぶ垂直的技術に取り組んだ。
 4月の実証実験はワインボトル720ミリリットルをイオンモール幕張新都心の屋上から150メートル先の豊砂公園に配送する実験と、市販薬を詰めたBOXを打瀬3丁目公園から高層マンション「幕張ベイタウンミラマール」屋上まで約120メートル運ぶ垂直的飛行を中心に検証。発着した公園内は通行止めとし、飛行区域に立ち入らないよう監視員を配置した。
 11月には、物流倉庫が点在する東京湾隣接部に近接する幕張新都心の立地条件を活かし、水平的な海上配送を実験。稲毛海浜公園「いなげの浜」海上で自律制御システム研究所と楽天、NTTドコモの協力を得て海上の水平的飛行を実験した。
 スマートフォンで簡単に注文できるドローン配送専用の楽天スマホショッピングアプリを使用。現地から約40キロ離れた楽天本社(世田谷区二子玉川)から携帯電話のLET電波を活用して離陸を遠隔指示し、飛行中もダッシュボードで遠隔監視を行った。
 モバイルバッテリー約320グラム1個、書籍約80グラム1冊が入った長さ23×幅15×高さ10センチの宅配BOXを積んだドローンは、海岸から約30メートル離れた海上飛行を遠隔で操作され、約700メートルを横断して無事に着陸した。
 初回の実証実験で浮上した課題は、ドローン宅配を実現するには規制のかかる第三者上空飛行について、安全性を保ちながら緩和しなければ実用化が難しいことだった。
 11月の海上飛行では第三者上空を飛行させないために、海上保安庁や所管警察署、消防署へ周知したほか、漁協など20団体と調整。漁船などの航行のない海岸沿い飛行ルートを選定した。4月の実験段階よりも防滴性能や長距離飛行性能、メンテナンス性能だけでなく、パラシュート搭載など安全性も向上させた。
 政府は2015(平成27)年1月からドローンと自動走行の近未来技術実証特区検討会を始め、翌16年から各地で実証実験を開始した。2月には藤沢市で買い物支援、3月に仙台市で災害危険区域での実証、7月に仙北市で日本初の国際ドローン協議会を開催。4月と11月に千葉市でドローン宅配の実験を行った。
 その結果、現状の規制では実用化に向けた実証実験レベルでも不可能な部分が多過ぎることから、事前規制ではなく事後チェックを重視する「サンドボックス(規制の砂場)制度」(革新的な新事業を育成する際に現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策。英国でのフィンテック〈金融とITの融合〉のイノベーションや競争促進を目的とする施策の一種)を導入しなければ、技術開発も進められないとの認識が共有された。
 このため、自民党の経済構造改革に関する特命委員会は昨年11月に「規制ゼロのフリーゾーン特区」と題する中間報告をまとめ、12月には有識者議員が資料を提出。安倍晋三首相からは「ドローンなどの近未来技術の実証実験がスムーズにスピーディーに行えるよう、安全性を確保しつつ、手続きを抜本的に簡素化する仕組みを検討せよ」、さらに今年2月には「サンドボックス制度の創設を」と指示された。
 これを受け、3月10日に①事前規制と手続きを抜本的に見直す具体方策を1年以内に検討し、措置を下す②事業者向けに法令相談や手続き代行などを行うセンターの設置―の2本を柱とする「日本版レギュレトリー・サンドボックス」を創設する改正特区法案が国会に提出された。3月11日には東京都が初のサンドボックス分科会を開催するなど様々な動きも起きている。改正法案は今国会の成立を目指し、今後、衆院での審議が始まる。
 内閣府地方創生推進事務局は「地方発のイノベーションを推進するために、ドローンなどの実証実験を精力的に行えるようにするための改正法案。諸外国の〝規制の砂場〟を参考に事後チェックルールを徹底することで、実証実験を集中的に推進する。当然、安全性には十分配慮しなければならないが、事前規制が抜本的に見直され、施行1年以内に措置が講じられるため、スピード感を持っていろいろなことが進む可能性がある」と強調する。
 千葉市は「ドローンは宅配だけではなく、カメラやガス検知器を搭載した消防活動のほか、セキュリティや測量、インフラ点検機能などにも活用できる。郵便局の立場でユニバーサルサービスを考えると、山間地など過疎地で交通弱者や買い物弱者の方々に対するドローン配送はもちろん重要。しかし、民間主導でビジネスに結び付けるために、千葉市は都市部での実用化にこだわっている」と話す。 
 幕張新都心は、3年後の東京オリンピックのフェンシング、レスリング、テコンドーの3種目とパラリンピックで車いすフェンシング、テコンドー、ゴールボール、シッティングバレーボールの4種目の競技会場に幕張メッセが選定されたほか、15年には観光庁が公募したグローバルMICE(多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称)強化都市にも選定されている。


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