「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6877号

【主な記事】

サービス条件の柔軟化など
ユニバ検討会WGで議論
自治体との連携も

 「郵便のユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会」(座長:村本孜・成城大学名誉教授)の「第9回現状と課題等に関するワーキンググループ」(主査:米山高生・一橋大学大学院商学研究科教授)が3月24日、総務省で開かれた。今回は「地域の郵便局ネットワークの現状」がテーマ。会議では「郵便局サービスの条件の柔軟化」や「日本郵便と地方公共団体との連携」「新しい簡易郵便局モデル」「店舗展開における営業戦略」「将来的な財政支援についての諸問題」など、既存の制度の枠組みを超えた新たな視点での提案や意見があり、それらの可能性や現状、現行制度との関係について活発な議論が行われた。
【郵便局サービスの条件の柔軟化】
 東條吉純・主査代理は「郵便局ネットワークを機能的に捉えて、より柔軟にしてはどうか。移動郵便局、出張サービスなどを組み合わせて、その機能が従来水準通りであれば、よいのではないか」との意見。総務省は「必ず建物を設置しなければならない、ということは法律には書かれていないので解釈の問題であるが、現状を変えてよいか、というと今の段階ではそう簡単ではない。現状での郵便局の使われ方を見ると、建物、窓口があることで、ここは郵便局だという安心感がある。今後、存続が難しいなど考え方が変わってくれば検討の余地はある」と答えた。
【新しい簡易郵便局モデル】
 米山主査は「伝統ある簡易局制度だが、それを前提として踏まえながらも、新しい簡易局モデルを行政と共に考えていくことがよいのではないか。地域の人のためになり、受託者もモチベーション・やる気が出ることも考慮して、仕組みを作ってはどうか」という意見。
【日本郵便と地方公共団体との連携】
 簡易局の受託者ができる資格者は①地方公共団体②農業協同組合③漁業協同組合④消費生活協同組合⑤十分な社会的信用を有し、かつ郵便窓口業務等を適正に行うための必要な能力を有する者、と簡易郵便局法で定められている。個人の受託は⑤に当たる。2016年7月末現在の受託者・4011局のうち個人は3576局で約9割を占める。地方公共団体は107局、農協は175局、漁協34局、その他の法人が119局。
 逆に郵便局では地方公共団体の事務を取り扱っている。住民票や戸籍謄本など各種証明書の発行やごみ袋の販売なども行っている。日本郵便と地方自治体が協定を結び実施している事例として「ひまわりサービス(70歳以上の高齢者への声掛けや集荷サービスなどを郵便外務員が行い、無料)がある。
 会議で東條吉純・主査代理は「簡易局の受託者の9割は個人。地域の高齢化・過疎化が進んでいる中で、個人の確保が難しくなっている現状を考えると、地方公共団体と郵便局の機能は親和性があり、連携で簡易局にすることはあり得るのか」という問いに対して、総務省は「数年前までは総務省から地方公共団体での受託のお願いを出していた。安定的受託者確保という点では連携は選択肢としてある」と述べた。
 東條・主査代理は「公務員の兼業禁止を柔軟にしてもらい、地方公共団体の職員が受託することはできないか」、井出秀樹・検討会座長代理は「アメリカのユニバーサルサービスでは、営業時間を弾力的に変えて営業しコストを減らしている。日本の簡易局ではどのようになっているのか。貯金や保険を扱っていない局もあるがどう捉えてよいのか」という質問に、総務省は「原則決められた営業時間は開くことになっている。3事業を扱うのが郵便局の設置基準の前提」と回答。
【簡易局受託者のコンプライアンスなど】
 佐々木百合・構成員は「受託者の確保は施設面でも難しいのではないかと思うが、施設を借りるお金を出す形に変えてはどうか。預金や保険を扱うので一人では、コンプライアンス上、問題はないのか」という質問。総務省は「局舎の確保、受託しやすい条件を考える余地はあるが、最後は日本郵便の経営判断。コンプライアンスの問題は、監査体制の強化や不祥事が起きないような体制強化はされている」と回答。受託者の高齢化については、金融代理業としての手続きが大変で新しいスキルを身に付けられなかった高齢者の受託者が辞めた例があることも報告された。
【将来的な財政支援についての諸問題】
 大谷和子構成員は「経営的に辛くなってくる時にどういう基準でサービスや機能を維持していくかを考える意味でもどのあたりで設置の限界を迎えるのかについて、当局で情報を持ち対応していくことが必要なことについても検討して欲しい」と述べた。総務省は「何をもって限界にするかの計算が難しく現在、コスト算定WGで、現在のネットワークを維持するうえでどこが負担になっているか試算しているところ。試算してもいつ維持できなくなるかをそのまま導き出せるものではない」と回答。
 米山主査は「民間事業主の手の届かない所を地方公共団体がコストシェアや直接的財政支援をするという制度はないのか」という質問に、総務省では「地方自治体が運営するコミュニティバスの運賃の補助に過疎対策事業債が使われている事例がある」と回答。2010年からは過疎対策事業債はソフト対策事業にも活用できるようになった。「集落の維持・活性化その他住民が将来にわたり安全に安心して暮らすことのできる地域社会の実現」という目的が示されており、その事業が「過疎自立促進計画」に定めたものに限られるなどの要件があり、郵便局の事業がこれに該当するかどうかは更なる検討が必要だという。
 財政支援の問題点について、東條・主査代理は「郵便局ネットワークは公共財のように扱われているが、独立していて、国が支援して維持する立て付けにはなっておらず、赤字は民間事業者が各種事業の収益で賄うことになっている。これでは国や地方公共団体が支援するのはぴんとこない。わかりやすいのは赤字部分を切り出して別会社にすれば公的な支援ができるが、今はそうなっていない。会計分離をすればネットワーク単体での赤字、黒字が出るが、事業者に相当裁量のある数字。広域で括って赤字エリアを黒字エリアが補てんしてトータルで若干の黒字になることについて、事業会社が個別のデータを持っておらず、個別局のデータには限界がある。そういう状況下で国や地方公共団体の支援はどう考えればよいか」としたうえで「赤字会社を分割して切り出して、別会社にすれば公的支援ははっきりする。諸外国にもそういうケースはある。現在の体制は局を統合して効率化を図り事業収益で賄い、赤字がかさんで足りなければ郵便料金を上げる。当局としてユニバーサルコストの詳細なデータを持っていないとどちらにしても問題が起きるのではないか」という意見。総務省では「支援策を考えるに当たり、どういった部分に支援するか。どのようにコスト算定すればよいか、現在は現状を把握して制度的なものも含めて勉強しているところ」と回答。
【店舗展開における営業戦略と簡易局の人材確保】
 2016年3月末現在の一時閉鎖簡易局は258局。2008年5月末には454局まで増加したが、その後日本郵便では一時閉鎖を解消する取組みを行い、200局前半から半ばを維持している。再開と同時に一時閉鎖が長期化している簡易郵便局のうち、顧客の利用に支障がないものについては、整理を進めている。
 また直営郵便局についても、利用者の需要に応じて規模に見合った運営形態にするため、簡易局に変更している。郵便局の配置についても、需要が少ない郵便局は地域住民の日常生活の導線を考え、他の郵便局を利用可能な場合は整理している。その際には例えば、隣のスーパーや病院、商業施設によく行くなどその地域の人の生活導線のパターンを考慮しているという。一方で、住宅開発や新駅開業、人口が増加している地域には積極的に新規出店している。民営化後の運営形態の見直しは29局、過疎地での廃止は4局。
 会議で井出・検討会座長代理は「民営化したので、店舗展開は重要な営業戦略。一時閉鎖をいかにして開設するかは重要。過疎地でも収入が得られるなら、やりたいという人をマッチングさせる仕組みを作ったらどうか。若者で開設したいという人もいるのではないか」、米山主査は「数が減ったこととサービスの低下はイコールにならない。トータルの数字はより効率的な目標を持って再編成したのであれば、むしろ良いことではないか」と述べた。総務省は「統廃合の中身を見て評価したい」と述べた。
 過疎の町に住む大平展子構成員は過疎地の郵便の現状について「過疎地の定義ができた当時と比べて、40年もの年月が経っているが、現状の過疎とはどのくらいの相違があるのか。少子高齢化の現状と合っているのか。万屋(よろずや)のようなものを地域に入れてもらわないと生活がしにくくなっている。高齢者が安心して住めるような状況を作ってもらえれば、地域でも自分たちができることを入れて、郵便局と共にやっていきたい」、郵便局の統合について「以前は地域の郵便局員が配達していたが、今は広域での配達となり、地域とのかかわりのない人が配達しており、家との繋がりが無くなっている。郵便局から地域に来るまでの時間がかかり、配達の人に負担がかかりはしないか。郵便局員を見ていて感じることがたくさんある」と利用者目線で意見を述べた。
 このほか、「みまもりサービス」のタブレット端末について井出・検討会座長代理は「みまもりサービスの端末はIBMとアップルだが、政府が株を持っていることもあり、日本企業と組み国内産業の育成や雇用拡大に貢献すべきなのではないか」という意見もあった。



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