「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6877号

【主な記事】

[郵政グループ]新ビジネスモデル構築
地域貢献と無担保融資

 日本郵政グループは郵便局ネットワークの特性を活かす形で新たな金融ビジネスモデルを打ち出す。フィンテック(金融とITの融合)の伸展など時代の変化に則し、地域で資金をうまく循環させる経済活性化への貢献とグループ収益の9割を占める資金運用の高度化が柱。4年半前に申請したゆうちょ銀行の新規業務を取り下げ、上限額50万円とする無担保融資の全局取扱いなどの業務を3月31日、金融庁と総務省に改めて申請した。地域金融機関との連携もさらに強化し、過疎地も含めて若者ニーズにも対応。全世代、全地域の“そばにいる”利便性の高いトータル生活サポート企業の道を拓く。

 ゆうちょ銀行の新規業務として新たに申請される無担保融資業務は、ゆうちょ口座からの引き落とし金額が不足した場合や、急に少額の資金が必要となった時に対応する口座貸越サービス(銀行総合口座を持つ場合に普通預金口座で残高不足になったとき、不足分を自動的に貸し付ける)の無担保版。
 ゆうちょ銀行が新規業務を申請したのは改正郵政民営化法が成立した2012(平成24)年9月3日だが、その際に申請されたのは①個人向け貸付業務②損害保険募集業務③法人向け貸付業務―だった。特に重視されていたのは、スルガ銀行の代理店業務で実績を上げてきた住宅ローン。3か月後の12月18日に郵政民営化委員会(当時は西室泰三委員長)が条件付きで認可する意見書を作り、金融庁と総務省に投げられていた。
 昨年12月、4年前に申請した新規業務の内容が時代に則したものなのか、現時点で優先的に開始すべきものは何か、金融庁とゆうちょ銀行のビジネスモデルの対話が始まった。背景には全国郵便局長会(青木進会長)が自民党の郵便局の利活用を推進する議員連盟(郵活連=野田毅会長)の役員会や総会、民進党郵政議員連盟(古川元久会長)、公明党郵政問題議員懇話会(斉藤鉄夫会長)の会合で新規業務を要請していたこともある。JP労組も民進党議連で要望した。
 郵活連は11月29日には高市早苗総務大臣、12月2日に麻生太郎財務・金融担当大臣にゆうちょ銀行の新規業務を2016(平成28)年度内に実現すべきなどと明記した決議文を申入れた。高市総務大臣はその後の記者会見や会合で「金融庁と連携し、審査を加速させたい」との発言を繰り返している。
 日本郵政の長門正貢社長も12月21日の記者会見では「総合的な観点でお客さまに貢献できる企業価値向上施策を再検討すべき時期。ゆうちょ銀行がどの業務を優先的にやりたいかを決めて、金融庁も含めた関係者の方々に改めて提案したい。今年度中に決めたい」と語っていた。
 数年前と現在で大きく変化したのは、ゆうちょ銀行の資産運用ポートフォリオにおける国債比率。全国の銀行の平均国債比率が21%だった2010(平成22)年度にゆうちょ銀行は77%だったが、17年度3月期第3四半期決算では35%と半分以下になった。専門人材を多く投入し、最善策を講じる中で収益を上げてきたが、日本郵政グループ全体を支えるにはそれだけでは限界がある。
 金融庁側の思いは「郵便局ネットワークを活用することで活性化を図る地域経済全体の底上げ」にあった。国債では利ざやが稼げないマイナス金利の中、資金のボリュームを増やすのではなく、収益の9割を占める資金運用の高度化をどのように実現できるかに主眼が置かれた。それに向けてゆうちょ銀行の資金運用に関する業務の規制を払い、様々な運用ができる一環として今回、無担保融資とともに新たにCDS(企業の債務や破たんに備える金融派生商品。社債や国債、貸付債権などの信用リスクに対して保証する契約)も申請された。
 ゆうちょ銀行には、儲かる分野で利益を得て資産規模をコントロールしながら経営が成り立つビジネスモデルが求められ、郵便局が地域の経済循環に貢献するには地域金融機関との連携も重要な視点となっていた。
 人口減少により借入需要の減少も予想される中、担保や保証に依存した単純な貸出業務の収益性はさらに低下する懸念もある。ゆうちょ銀行として様々な葛藤もあったが、他の金融機関にはない日本郵政グループの強みの郵便局ネットワーク、郵便局らしさに重きを置き、無担保融資なども考慮されていった。
 厳しい金融情勢下で、銀行業界全体のPBR(株価の純資産倍率。市場が業界をどう評価するかの判断される指標)は下がっているが、無担保融資に関する業務は銀行業者にとってある程度採算が見込まれた。専門業者には総量規制が設けられているが、銀行は規制対象ではないため、すぐに審査できる有利な条件がある。
 ゆうちょ銀行としては、住宅ローンを優先したい思いもよぎった模様だが、困った時に誰もが利用できる身近な無担保融資の方が広い範囲で地域住民のニーズが高く、利便性によって新たな郵便局顧客を生むことにもつながる見方もあった。直営店や限られた単独マネジメント局だけではなく、エリアマネジメント局を含めて全局で扱える商品設計により、三事業のシナジー効果を出して郵便局の存在価値を高めながら収益を上げる対話が進められた。
 ゆうちょ銀行は熟慮の結果、過去に申請した内容を一旦取り下げ、経営の全体的な方向性と密接に関わる部分に勘案して業務整理を行った上で認可申請を出し直すことを決めた。改められたゆうちょ銀行の新規業務は今後、金融庁と総務省で対応が検討される。取得までは比較的短期間が想定される。
 全局取扱いに向けたシステム整備にかかる時間は約2年。継続できる事業に成長させるためにリスクに配慮し、上限額は50万円と少額が設定された。
 柘植芳文参院議員は「融資の風穴を開けたことは意味があるし、日本郵便とゆうちょ銀行が新しいビジネスモデルで、市場に出ていく第一歩。お客さまにも喜んでいただける。高く評価されるべきことだ。ゆうちょ銀行のイメージアップにつながる」と指摘する。
 民進党の奥野総一郎衆院議員は「日本郵政グループが今のままでは民間企業として国民の期待に応えられない。新ビジネスモデルとして仕切り直せたのは意義深きこと。早期実現を支援していきたい」と強調。公明党の斉藤鉄夫衆院議員は「財源を生み出すためにも自由にしなければ魅力ある会社に発展できない。郵政グループが自らの足で立つために政府と協議の上で成り立った新ビジネスモデルで大きな一歩を踏み出してほしい」と期待を寄せた。


>戻る

ページTOPへ