「通信文化新報」特集記事詳細

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第6875号

【主な記事】

現場の声を経営に活かす
[日本郵便]大澤誠専務執行役員


 日本郵便の大澤誠専務執行役員が担当する改革推進部は「現場の視点を踏まえて、郵便局に係る全ての業務にメスを入れる重要な組織」。昨年6月に全国郵便局長会の会長を退任した後に就任を要請され、「郵政の原点である一郵便局長の現場経験を経営に活かそう」と決断した。全特会長として〝不易流行”を信条に、時代の変化にスピード感を持って対応する重要性を呼びかけてきた大澤専務は、既に13支社全てに足を運び、現場の社員らと直接意見交換している。「日本郵政グループの収益の源泉は郵便局。お客さまに喜ばれてこそ収益が上がる。郵便局ベースの仕事を実現するための環境整備や地方に合ったサービスを考えるべき」と強調する。
(インタビュー=永冨雅文)

郵便局ベースの意識改革を

■全特会長から日本郵便の専務執行役員に就任され、局長会と会社との橋渡し役として期待も大きいと思われます。改めて、経緯や思いを聞かせてください。
 日本郵便と日本郵政グループから「今までの経験を経営に活かしてほしい」と要請されました。私のできることは、郵政の原点である一郵便局長として、31年の経験を生かしフロントライン(現場)の意見を経営に活かし、横展開を実現することに尽きると思っています。しかし、それはフロントラインの実態が分からなければできることではありません。
 話をいただいた昨年は、郵政民営化から9年、改正郵政民営化法成立から4年目に入り、民営化10年と改正法5年目という大きな節目に向かう真っ只中でした。自問自答しましたが、今こそ現場経験を経営に活かすことが重要ではと決断しました。
 私が実践してきた現場主義は、横山邦男社長の「現場・現物・現実」という考えとイコールだと確信しています。日本郵便の最大の強みは2万4000の郵便局ネットワークで、日本郵政グループの収益の源泉は郵便局です。郵便局において、仕事をしやすく、局長や社員が生き生きと働くことができる職場環境を整え、窓口を利用したお客さまに喜んでいただき、グループ全体の収益が上がるようにすることが私のミッション(使命)です。
 全特会長を経験させていただいたとはいえ、局長会の会員が経営の中枢に入るのは初めてでした。会社も局長会も郵政事業と日本郵政グループの永続的な発展、地域社会への貢献という大きな目的は同じで、ウィン・ウィンの関係を構築するために尽力したいと考えています。

■専務執行役員として経営に携わられていますが、主にどのようなことが任務となっていますか。
 改革推進部の担当執行役員として「郵便局の機能発揮、郵便局ベースの改革の推進」「窓口機能、金融渉外機能における営業推進などの総括」「地域貢献施策、地方公共団体等との対応の総括」が主な担務です。
 改革推進部は、現場での視点を踏まえた改革を推進し、郵便局に係る全ての業務にメスを入れる重要な組織で、前年度まで改革推進室でしたが、今年度、部に昇格しました。
 郵便、貯金と保険の全ての業務についてフロントラインの意見を吸い上げ、改善を図るための重要な部です。郵便局ベースの仕事を実現するために、本社社員の意識や文化、行動を変革することも担務の一部と思っています。

社会的使命を果たす

■日本郵便の経営は厳しい状況が続いています。郵便局ネットワークを持つ郵政グループの中核会社として、今後の経営の要点はどのようなことでしょうか。
 経営環境は非常に厳しい。金融界はマイナス金利で、物流もネット通販が急速に伸展する中で、業界最大手のヤマト運輸や佐川急便が大きな壁にぶつかっています。日本郵便も現状を脱却するため、様々な手を打ち、適正価格で良質なサービスを提供できる体制整備に取り組んでいます。
 第3四半期決算ではグループ連結の純利益が2966億円と前年同期と比べて864億円減、日本郵便は308億円と178億円減少しました。金融窓口の営業利益は454億円と86億円増で黒字ですが、残りの3か月を含めた年度末にどのような結果が出るかです。
 郵便・物流事業の営業利益は29億円減の21億円で、黒字とはいえ利益は非情に少ない構造です。葉書の料金等を一部改定してもそれだけでは安定した収益構造にはならないでしょう。郵便・物流事業も大きな改革を断行しなければならない営業環境にあります。
 将来的には日本郵便の収益構造を変えなければなりませんが、急激な体質改善は難しく、進めていく段階では、一時的に非常に厳しい時期が訪れるかもしれません。そうした事態に陥らないようにしていくことも我々の仕事です。
 日本郵便としては「社会的使命を果たす」ことは最も重要なことで、前島密翁の信条である「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためによかれと願う心を常に持てよ」が原点であって、経営哲学の柱ということを再認識することが必要です。
 社会的使命には普遍的なものと時代とともに変わっていくものがありますが、両方を全うしてこそ会社の未来を拓き、存在価値を示すことができると考えています。
 私は、全特会長時代に〝不易流行〟と言ってきました。その意味は、いつまでも変わらない普遍的、本質的なものを忘れないと同時に、時代に合わせて新しく変化を重ねることが重要ということです。変えるべきものは変え、守るべきものは守ります。
 郵便局は日本郵政グループの収益の源泉であり、日本郵便がしっかりとした経営を遂行できなければ上場3社の経営も成り立たなくなります。さらに、ユニバーサルサービスを提供しつつ、利益も上げていかなければなりません。
 現在、取り組んでいる機能重視のマネジメントを深化させて、普遍的な三事業にさらに磨きをかけたサービスを提供し、時代と共に変化しながら物販や提携金融の充実と強化、みまもりサービスなど新たなサービスに取り組む必要があります。

■郵政事業は郵便局を通じてユニバーサルサービスを提供する義務があります。過疎地で収益を上げるのは難しいと思いますが、ユニバーサルサービスコストはどうあるべきでしょうか。また、郵便局ネットワークの将来像についてはどのようにお考えですか。
 政府はユニバーサルサービスコストの議論を進めていますが、国民の皆さまのために適正な判断をしていただきたいと思います。経営陣の一員として言えるのは、まずは会社が収益向上と費用削減、損益改善などに最大限の努力を尽くすことだと思います。個々の郵便局を見て赤字を減らす努力は必要ですが、郵便局ネットワーク全体の収益向上や費用削減を総体として考えることが、大変重要です。
 お客さまに愛され、地域に不可欠な存在として社会的使命を全うしてきた郵便局ネットワークですが、潜在するポテンシャルを活かしきっているかというとそうではないと思います。汲めども尽きぬ可能性を追求していくべきです。  
 本社内でも明るい未来を拓く郵便局ネットワークの展望を議論し始めました。今後、具体的な検討を進めていきたいと思います。
 過疎地が20市町村追加されると聞きました。1718市町村のうち過疎市町村は800を超えます。神奈川県も真鶴町が加わり、都道府県全てに過疎地が存在することになります。そうした地域で郵便局の生活インフラ機能は、さらに必要性を増すことから、それを見据えたビジネスモデルを構築することが大切です。

自治体と連携を深める

■郵便局が地方創生、地域貢献に果たす役割には大きな期待が寄せられています。
 郵便局は創業以来、人と人をつないでいます。時代の流れに沿って機械化が進み、様々なシステムが導入されるのは間違いないですが、それでも「こんにちは」から始まって人が関与する仕事は各事業で残ると思います。約2万局が同じ形態でビジネスを展開するのは難しいため、それぞれ地方、地域の特色を活かすことが必要でしょう。
 郵便局は国営の時代から地域貢献に積極的に取り組んできました。民営化により、残念ながらその積極性に翳りがあったことは否めません。
 今年度は支社に地方公共団体の専担窓口を設置し、市町村担当局長などが市町村との協定締結の取組みを始めています。ふるさと納税対応、みまもりサービス、デジタルメッセージサービス(My Post)などの施策も積極的に展開する予定です。
 これまでの反省点として、地域貢献と言いつつも、市町村に対して日本郵便が売りたいサービスを勧めるという営業的色彩が濃かったように感じていますが、有償・無償を含めて郵便局が地域に貢献できるサービスは多種多様なため、今後は、市町村の要望をしっかりと聞き市町村ごとに合ったサービスを提案していきたいと考えています。

■タブレットを使ったみまもりサービスの実施はいつ頃になりそうですか。
 都市部と過疎地では郵便局同士の距離感や環境が違い過ぎます。同じ距離を訪れるにも、その労力と費用に歴然とした差が出てきます。
 タブレットの供給やメンテナンス、通信回線の確保等の問題、親世代がタブレットの操作が分からないといった時の支援対応等、非常に難しい課題がたくさんあります。それら一つひとつ解決していきますが、まずは、定期訪問を実施して、その流れを見据えてタブレットを使ったみまもりサービスを実施していくことになると思います。

■機能重視のマネジメントが導入されました。評価や改善点を聞かせてください。
 機能重視のマネジメントの目的は、それぞれの機能の専門性を高めることで競合他社に打ち勝ち、業績を高め、会社を永続的に発展させていくことにあります。全国津々浦々のお客さま、社員とその家族のためにつながるものです。
 今年度から四半期ごとの状況確認・評価などPDCAを回しながら進めていますが、概ね順調に推移しています。次年度は単独マネジメント局の窓口運営形態やエリアにおける渉外機能について、段階的にあるべき姿に近づけていく取組みを実施する予定です。
 また、現在、旧集配センターのマネジメント統合は100局で先行実施してきましたが、来年度はその運営基盤を整備しつつ、第2段階の拡大を行います。
 単マネ局は、郵便、貯金と保険とそれぞれ別の社員が担当するのではなく、三事業の窓口対応を1人の社員がこなす総合服務ができるように取り組んでいます。これがどの程度のスピードで浸透できるかで、限られた人材を部会のエリマネ局と単マネ局でうまく共有すれば、サービス向上や人材の育成(人的資源の有効活用)につながります。
 いずれにしても、当初計画ありきではなく、現場の実態に沿った機能ごとの深化が必要で、次年度以降は機能間の連携によるシナジー効果を発揮した業績向上も重要な取組課題と考えています。

ゆうちょ銀行、かんぽ生命とは一体

■引き続き、ゆうちょ銀行とかんぽ生命との密接な連携が求められます。
 2017(平成29)年度は中期経営計画の最終年度。中計に掲げるとおり、日本郵便と金融2社は連携というレベルではなくて、郵便局ネットワークと金融2社の有機的な結合、一体となった郵便・貯金・保険のユニバーサルサービスを着実に実施していくことは不変と思っています。
 ゆうちょ銀行との間では、集中満期への対応や政府が掲げる「貯蓄から投資へ」の流れの中で投資信託取扱局拡大やNISA(少額投資非課税制度)、ジュニアNISA、積立NISAの取扱いにより、貯金残高だけでなく、総預かり資産を増やすことを意識しながら進めていきます。
 かんぽ生命との間では、つながる安心活動などお客さまとの接点拡大、営業スキルの向上による新契約拡大、お客さま目線に立った募集品質の向上を目標に掲げています。お年寄りにも最適な商品を十分に理解してもらいながら販売する募集品質の向上が最大のテーマです。
 13支社の中にはゆうちょ銀行とかんぽ生命のエリア本部があり、様々な連携施策も展開しています。かんぽは保険商品が値上げされ、昨年8月から鈍化傾向が続いていましたが、ようやく少し戻ってきました。4月には運用利率の見直しによる実質的な値上げもあるため、スタートダッシュをどう乗り切るかが勝負どころです。

■現場の声を事業に反映させることが重要と思われます。フロントラインの声を吸い上げる施策は。
 当社の発展のためには、郵便局が仕事がしやすく、局長・社員が生き生きと働くことが出来る、ワクワクとした職場環境を整えることが絶対条件です。
 民営化された10年前にも、現場の声を聞いてフロントラインの意見を経営に生かそうと「郵便局部」という素晴らしい部が立ち上げられました。しかし、残念ながらあまり機能しませんでした。分社化された直後で連携がスムーズに取れなかったためです。
 本社や支社の指示や施策について、その実施状況・効果等の評価による改善等の行動、PDCAがシッカリと回っていないのが今の実態と感じています。そのため、就任以来、意見要望を把握するスキームは、今までの既存チャネルでの意見・要望に加え、私が自ら13支社に出向き、フロントラインや支社社員と直接意見交換を行い、その場で判断できるものはその場で判断する等スピード感をもって真摯に対応してきました。すでに就任後、13支社で試みて非常に効果が上がったし、評判も良かった。次年度に向けて、この取組みを更に強化していきます。
 また、意見・要望に対する回答や対応が前例踏襲主義であったり、できない・したくないというものが多く、また、回答までの時間が非常に長いのが実情で、これもしっかりと、改善してきています。これを更に進めることで、本社社員の意識・文化・行動の変革につながり、本社が郵便局ベースの仕事の実現につながると考えています。

■郵便局長の皆さんへのメッセージを。
 日本郵政グループの収益の源泉は郵便局です。郵便局長の一人ひとりは経営者であり、局長の努力と奮闘が日本郵便だけでなく日本郵政グループ全体の永続と発展に直結します。日々のお客さま対応の中で、時間を割きながら地域貢献という社会的使命を果たす局長の存在なくして、このグループは立ち行きません。
 自信と誇りを持って、横山社長の座右の銘である「圧倒的努力」で、会社、グループを発展させていきましょう。
 私自身も13支社をかけめぐり、圧倒的努力で発展に貢献していきたいと考えています。


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