「通信文化新報」特集記事詳細

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第6875号

【主な記事】

資産形成のすそ野拡大
[日本郵便]横山社長
投信を第3の柱に


 日本郵政の横山邦男取締役(日本郵便社長)は3月7日、東京都港区六本木ヒルズで開催されたトムソン・ロイター金融規制ジャパンサミットで、郵便局で扱う金融商品として「貯金と保険に続く3本目の柱は投資信託。日本郵政グループが保有する約180兆円の家計金融資産で資産形成のすそ野を拡げていきたい」と強い意欲を示した。懇親会に駆け付けた小池百合子都知事は「フィンテック(金融とITの融合)やAI(人口知能)などを東京マーケットに呼び込むためのインフラを整えたい。人、モノ、金、情報が集積する東京を、今日を契機に輝かせたい」と展望を語った。

 金融規制ジャパンサミットは2014(平成26)年から毎年開催され、今回で4回目。
 市場活性化や日本で期待される新分野の考察を金融庁や国内外の金融機関代表のほか、弁護士や大学教授などを招き、講演やパネルディスカッション14セッションが1日がかりで行われ、約600人超が参加した。
 日本郵便の横山社長のセッションは、トムソン・ロイター・マーケッツの富田秀夫社長と「日本の資産運用業は国民の資産形成にいかに貢献できるか」をテーマに対談する形で行われた。「顧客本位の業務運営に関する原則案」を金融庁が策定し、2月3日に「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」(神田秀樹座長)、24日には「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキンググループ」(WG)が発足するなど、環境が着々と変化していく中で、横山社長は郵便局への思いや期待を客観的な視点を交えて話した。
 横山社長は「日本の家計金融資産約1700兆円のうち、現預金(会社が保有する現金と預金類)は900兆円。2割を占める約180兆円を日本郵政グループが持つ。貯金好きの国民性に郵便局が果たした役割は大きい。180兆円の大きな山を動かすことで、資産形成層のすそ野を広げていける」と説明した。
 また「投資という言葉が日本で危険じみてとらえられてきた責任は金融業界にあったと思う。証券会社や銀行、系列の運用会社が一部の人向けに複雑な商品を作り、一般に普及させてこなかった。商品から商品へと次々に乗り換えさせることで収益を上げてきた責任を業界全体が負うべきで、姿勢を改めなければ次の時代はない」と業界の体質改善に言及した。
 富田社長の「郵便局の金融商品といえば貯金と保険が頭に浮かぶが、投資信託の位置づけは」との問いかけに、「投信は3本目の柱だ。将来に向けた資産形成を成長させていくための商品ととらえ、お客さまの財産形成に向けて貯金と保険、投信の3商品を適切に提供できる〝よろずコンサルタント〟を郵便局は実践している。社長就任以来、グループの預かり総資産を増やしていくことを日本郵便社内はもとより、ゆうちょ銀行とかんぽ生命とも連携しながら話している」ことを強調した。
 「投信販売にあたり、良い方向に変化している点、なかなか変われない部分とは」には、「金融庁が制度を変えていることは大きな環境変化。NISA(少額投資非課税制度)やジュニアNISA、積立NISAなどに感謝すべきだ。ただ、国民に正しく理解され、活用されているかといえば心もとない。金融庁も打ち出したフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)の実践を銀行も証券会社も運用会社も宣言し、金融審議会市場ワーキンググループの報告書に示された第三者機関の評価を含めて、個人投資家の方々に適時適切ディスクローズすることが必要ではないか」と指摘した。
 「前職(三井住友アセットマネジメント社長)時代にいち早く社外取締役を導入したが」との質問には、「運用会社として投資家の上場企業に社外取締役整備を求めてきた。自分たちは上場会社ではなかったため、社外取締役は必要なかった。しかし、ガバナンス体制を確立すべきと考えていた。運用業界初の動きのために反感も強かったが、会社を立派に、顧客(投資家)本位の経営の道を進むために、時には株主の言うことを聞かないことも必要と思えた」と強気の姿勢を見せた。
 「長期・分散・積立投資は一般家庭にとって果たして必要なものか」には、「時代が変遷している今だからこそ、特に若い資産形成層にとっては必要だ。グローバル・バランス(安定型)ファンドを長期に分散して積み立てていくことが、資産形成層の裾野拡大のとっかかりとして大切となる。初めからサテライト(高いリターンを目指して運用するリスク性ある商品)ではなく、安定的な商品からチャレンジし、財産の範囲内でバランスを取ることが大事」と促した。
 さらに「日本ではテーマ型投資(世の中で話題になっているテーマに関連する銘柄に的を絞って投資するタイプの株式ファンド)が多いと言われてきたが、変えていくべきだろうか」の問いには、「変えていくべきで、テーマ型は乗り換えさせるために目新しい商品を次々出している。安定したコア商品を育てることが大事だ。投信の平均保有期間が伸びているが、郵便局の平均保有期間は他金融機関より1年程長い。郵便局社員とお客さまとの信頼関係によって長く保有いただくことの徹底ができている」と局長や社員を称えた。
 「テクノロジーへの期待は」には「資産運用業、特にアセットマネジメント業の世界でビッグデータ(事業に役立つ知見を導くためのデータ)をどう活用するかが自分の課題だった。国立情報学研究所の喜連川優所長とお会いできた際に『情報の収集分析を通じたデータを用いて将来予測をしていただきたい。見落としている隠れた財産があるはずだ』と依頼し、昨年、スタートした。喜連川先生は郵便局のビッグデータに強い関心を持たれている。ビッグデータ分析で日本は米国に比べてかなり遅れているが、追いつく努力をして、成果を業界全体のものに拡げたい」と意欲を示した。
 富田社長は「資産形成に積極的になれない理由として、リテラシー(与えられた材料から必要な情報を引き出して活用する能力)不足も指摘されるが、『お金の育て方』のセミナーを開催するセゾン投信にも出資されている。金融教育への考えは」と質問した。
 横山社長は「お客さまが財産としてどのような商品を選んでいけば適切なのかを伝えるために、以前に、金融に詳しい漫画『インベスターZ』の作者である三田紀房先生に漫画参考書を作ってもらったこともあった。分かりやすく、誰もが関心を持てる金融教育を政府と業界が協働して、全国で展開することが必要だと思う。貯蓄から資産形成の動きは今後の日本社会にとって最大の目玉。180兆円を支えるグループの経営者の一人として資産形成のすそ野を拡大したい。すそ野拡大により100兆円に満たない投信マーケットが5年後には200兆円に成長できることを期待したい。日本の経済活性化へ、資産運用業は最大に伸びる産業と確信している」と締めくくった。


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