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第6870号

【主な記事】

顧客本位の経営を
[金融庁]資産形成で有識者会議

 金融庁は2月3日、「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」(神田秀樹座長)を立ち上げ、初会合を開催した。
 「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」の策定を受けて1月19日から始まった意見募集や、長期積立分散の投資を普及するために創設された積立NISA(少額投資非課税制度)、投資初心者への教育などに対し、専門家の意見を集約。今後の政策に反映させる方針で、ゆうちょ銀行やかんぽ生命が郵便局で販売する金融商品に大きく関わってくる。
 有識者会議は、学習院大学大学院法務研究科教授の神田座長以下、東京大学大学院経済学研究科の植田和男教授、SPアソシエイツ&コンサルティング㈱の神戸孝代表取締役、㈱QUICK資産運用研究所の北澤千秋所長、㈱KKRジャパンの斉藤惇会長、Foster Forum良質な金融商品を育てる会の永沢裕美子事務局長で構成。全国銀行協会や生命保険協会などもオブザーバーとして参加している。
 会議冒頭、設立の目的や金融資産に関する日本と米国の相違などが報告された。金融庁は「日本の家計金融資産約1700兆円の52%に当たる約900兆円が現預金(会社が保有する現金と預金類)であり、勤労層の資産形成は今後、日本の重要な課題だ。家計の金融資産をバランスのとれたポートフォリオに移行させることで、安定的な資産形成を促すために様々な取組みを進めている」と説明した。
 その一環として、金融事業者の顧客目線を重視するために昨年12月22日の金融審議会市場ワーキンググループ(WG)の報告を踏まえ、「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」を策定。金融事業者による採択(プリンシプルベース〔原則主義〕のアプローチ)について、1月19日にパブリックコメントも開始された。原則を踏まえた金融機関の対応が形式的に留まらないよう顧客本位の観点に立った総合的な取組みを押し出す意向を示している。
 例えば、原則には、金融事業者が顧客本位の業務を運営する明確な方針を定め、取組み状況を随時公表することや顧客の最善の利益を図ることを企業文化として定着させることが掲げられている。
 また、手数料その他の費用の詳細を顧客が理解できるような情報提供、金融商品やサービスの販売、推奨などに係る重要な情報も分かりやすく提供することや、報酬や業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機付けの枠組みやガバナンス体制の整備も盛り込まれている。
 金融庁はさらに、「長期積立分散投資を普及させるために2017(平成29)年度税制改正大綱で創設が実現した積立NISA、投資初心者への実践的な投資教育に向けて効果的なアプローチを検討することが必要で、意見を集約するために有識者会議を設置する運びとなった」と報告。
 「米国では税制優遇などの政策によりバランスのとれたポートフォリオが実現、金融資産が大きく増加した。勤労所得(個人の勤労に基づく給与などの所得)と財産所得(金銭や有価証券、土地や建物などの資産を所有し、運用することから生じる所得)の比は米国が3対1に対し、日本は8対1で、家計の資産形成を促すために日本も政策的な後押しが必要となっている。日本は米国と比べると販売手数料も信託手数料も高いが、収益率は低い」と指摘した。
 このほか、投資に関心がない層や平日に金融機関を訪れる時間的余裕が限られている資産形成層にどのようなアプローチが効果的かを会議の論点に挙げた。
 斉藤委員から「米国では70年代に年金や投信が崩壊し、かなり危うい状況になった。立て直しを図るために運用の中立性を保ち、コーポレートガバナンス(ステークホルダーによって企業を統制し、監視する仕組み)が生まれていった。日本でも運用会社の完全独立性を確立することが一つの方法としてあるのではないか。販売会社は自らの商品広報のみに力を入れるのではなく、ベストな商品を作ることにもっと力を注ぐべき。中立的なパフォーマンスを比較する組織を作り、それを公表することが必要だと思う」と強調。
 「日本の家計資産1700兆円のうち1000兆円以上は65歳以上が保有するものだが、その年代は『これから20年積立てよう』と言われても年齢的に抵抗感があるため、長期積立の対象は約500兆円分にするなど目標を区分けした方がよい。60歳以上の心理状態は増やすことより元本保証だ。真っ先に考えるのは減らさないことだが、インフレが困る。そこで『経済がインフレ化してきた時にどうしますか』と、今のままではリスクがあることを意識させて、1000兆円を投資に導く。構造的に丁寧な教育システムが必要」と語った。
 永沢委員は「消費者の金融教育に携わってきたが、自分が分からないものには手を付けないように、と呼びかけてきた。しかし最近、それでよいのかと思うようになった。チャレンジしてよいと思えたものは自らの暮らしに取り入れ、使いこなしていくことが大事で、金融商品も同様だ」と訴えた。
 神戸委員は「なぜ長期投資が良いのか、分散すべきなのか、どうして積立なのか、をまず理解してもらう教育が大切。個人型確定拠出年金(DC)や職域NISAも始まっている。個人のライフプランをサポートする意味で、単に企業だけではなく、労組も巻き込んで行政庁も含んだ一体的なコンソーシアム(複数の個人や法人、団体が集まり結成される組織)を立ち上げて進めていくアプローチが効果的ではないか。その際は金融機関が主役になるべきだ」と呼びかけた。
 北澤委員は「コンソーシアムは良いと思う。ぜひ検討していただきたい。この会議の開催を政府が強く後押ししている今、資産運用の制度が大きく変わろうとしている。このチャンスを逃すと資産運用はなかなか広がっていかないだろう。歴史を振り返ると、戦後に貯蓄増強委員会のようなものが作られたが、急激に貯金残高が増えた時期がある。今後、より良い金融商品の投資に向けて、国全体でこの流れを高めていく取組みが必要なのではないか。実は戦後以上の好機が来ているのではないかとも思える」と強調した。


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