「通信文化新報」特集記事詳細

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第6828号

【主な記事】

地域貢献は郵便局の原点 ⑪
兵庫県摂陽東地区郵便局長会
〈発表者〉尼崎西難波局 佐藤健太郎局長
〈補助者〉尼崎大庄局  杉原 幸 局長

 「前を向いていこう、何でもやっていこう、みんなを巻き込んでやっていこう」との思いが詰まった「活きろうや兵庫」を胸に、兵庫県摂陽東地区郵便局長会は様々な取り組みをしている。その一つが「尼崎・伊丹POSTファミリーフットサル大会」。尼崎市と伊丹市の二つの行政区を交えて実施するイベントで、若い世代へのアピールを狙いとしているが、子どもはもちろん父親、母親、さらに祖父や祖母の世代まで開催の意義が伝わり、多くの波及効果が出ている。そして、地域貢献活動で一番喜んでいるのは郵便局長。「誰のためでもなく、自分自身のため。楽しむ気持ちが大事」と地域に根ざした活動が広がる。=全特地域貢献活動発表大会の取り組みを紹介=

 「活きろうや兵庫」は兵庫の中若が大切にしている言葉。「少し意気がっても、すこし勝手でわがままでも、前を向いていこう、どんどん何でもやっていこう、そして一人ではなく、みんなを巻き込んでやっていこう」との思いが詰まった言葉だ。
 兵庫県摂陽東地区郵便局長会のエリアは尼崎市と伊丹市。主に工業・商業を中心に栄えた尼崎市は、2016年に市制100周年を迎える。15年10月から1年間は100周年プレ期間として、各種イベントが目白押しだ。地区会では「わがまち懐旧 尼崎市市制100周年」と題したフレーム切手を15年10月に発行、古き良き時代の尼崎の写真を題材として多くの人に喜ばれた。
 実は市制100周年以上に盛り上がっていることがある。それはNHKテレビで20年以上にわたり放映され、11年には映画にもなった国民的人気まんが「忍たま乱太郎」との深い関わりだ。尼崎出身の作者「あまこそうべい」さんは、登場するキャラクターに尼崎の地名をふんだんに付け、尼崎を舞台に漫画を描いており、子どもはもちろん、特に若い女性を中心に全国的に人気がある。
 地名をひと目見たさに全国各地からファンが訪れ、地名めぐりが大きなブームとなっている。登場人物の名前と同じ名の郵便局は、実に17もあることから、局名のゴム印を目当てに貯金する人や記念押印する人、少し違った面では郵便局の看板だけをレンズに収めるために来局する人も。
 例えば主人公「猪名寺乱太郎」の猪名寺は尼崎猪名寺郵便局。人気登場人物の一人「潮江文字郎」の潮江は尼崎潮江郵便局、田中正喜地区会長の局でもある。このブームを背景に尼崎市とタイアップ、14年6月にフレーム切手「尼崎の地名」を発行。その人気ぶりから其の弐、其の参とシリーズ化し、大ヒット商品となった。一風変わった切手だが、ファンにとってはたまらない商品となっている。地名ブームを背景に、観光に力を入れているのが尼崎市だ。
 伊丹市は空港があることで知られるが、滑走路部分だけが伊丹市であることを知っている人は少ないかもしれない。その影響もあるのか、伊丹空港とは呼ばれているものの、世間的には大阪国際空港の名前の方が多く使われているようだ。
 実は伊丹市は清酒発祥の地と言われている。慶長5年に伊丹の職人が、室町時代からあった仕込みを改良し、清酒を大量生産する製法を開発したことに由来しているとされる。13年には清酒による乾杯を奨励する条例も施行、小西酒造の「白雪」は全国的に有名だ。
 伊丹市出身でロンドンオリンピック柔道78キロ超級銀メダルの杉本美香選手が伊丹大使を務めている。ちなみに伊丹大使は著名人も多く、ニュヨークヤンキースの田中将大選手や、スキーモーグルの上村愛子選手、作家の田辺聖子さんもいて、官民が力を合わせて清酒を全国また海外にアピールしている。
 人口密度は兵庫県で尼崎が1番、伊丹が2番。尼崎市は55局、伊丹市は19局、計74局が元気に頑張っているのが摂陽東地区。
 「尼崎・伊丹POSTファミリーフットサル大会」について紹介する。若い世代へのアプローチを目的に、第1回大会を14年6月に開催した。サッカーワールドカップブラジル大会を2週間後に控えた時期であり、大会は大盛況となった。来年もぜひ実施してほしいとの多くの声があり、第2回大会を実施した。
 大会には大きな意義がある。それは尼崎市と伊丹市の二つの行政区を交えて実施するイベントだということ。二つの行政区となれば各種イベントなどは容易にはできない。両市のサッカー協会の協力を得て、実施にこぎつけた。参加チームからは二つの市の合同の大会は皆無だったことからもたいへん喜ばれた。どちらか一方の行政に偏らないことにより、多くの局長に参加してもらい、たいへん意義深いものとなった。
 フットサルは1チーム5人で行うミニサッカー。コートはバスケットボールのコートを少し広くした大きさで、ボールはあまり跳ねない。フットサルは、わざとボールが弾まないように作られている。カズこと三浦知良選手は49歳でなおプレーするが、15歳で単身ブラジルに行ったときの主な練習がフットサルだった。その技術は衰えておらず、45歳でフットサル日本代表に選出、フットサルのワールドカップにも出場した経歴も持っている。フットサルの最大の魅力は年齢や性別、経験の有無に関係なく誰もが楽しめることにある。
 大会前には若手を中心にした局長チームと市内小学6年生選抜チームのエキジビションマッチを行った。パワーとスピードでは負けるはずがなく、接戦でも試合には勝てると計算はしていたが、誤算が二つ。一つは「ぽすくま」のゴールキーパー。観客席からの黄色い声援に応えてばかりで、その隙をつかれて失点。また前が見えにくいとのことで、飛んでくるシュートはほとんど止めることができなかった。
 二つ目は弾まないボールにより、足元の技術に勝る小学生には力ずくだけではどうにもこうにもならなかった。選手はこかされ、そしてぽすくまもこけて…試合結果は2—5で完敗。負けはしたが、小学生のおかげで局長が楽しい時間を過ごさせてもらった。
 大会は特別ルールを設けている。それは「家族みんなで楽しめるように」がモットー。1チーム5人のメンバーに父親1人、母親1人、小学4年生3人がピッチ上に必ずいることを条件にしている。父親のポジションはゴールキーパー、母親のゴールは2点とすることにした。
 開会式には参加者全員にポスト型の貯金箱を渡した。父親の威厳、母親の意外性を狙いとした特別ルールは、大会を大いに盛り上げた。体を張ってゴールを守る父親、ボールに不慣れな母親は空振りを連発、会場からは笑いと拍手が絶えることはなかった。小学生をメインとしながら、主役は完全に大人になっていたことが大会の盛り上がりの要因の一つにもなった。我が子がどれだけ難しいことをしているのか、そこに気付いた大人も少なくない。
 決勝戦。スコアは0—0、試合終了まで残り33秒というところで、母親が豪快なシュート、決勝ゴールとなった。子どもに用意していたMVPの商品「金の貯金箱」は、満場一致でこの母親に渡すことになった。
 翌日のエピソードだが、母親の父が尼崎西難波局に来て、「娘が昨日ごっつい喜んで帰ってきてなあ、金のポストもろたって喜んでたわ」と。「娘にはまだ小学1年生の子どももおるから、あと5年はこの大会やって」と。カバンの中からは帯のついた“福沢諭吉”が登場、お米の物販もゲットできた。
 そうなのだ、第1回終了後に、もう一度大会をと一番言っていたのは子どもではなく父親、母親だったのだ。ここに今回の地域貢献の意義が詰まっており、若い世代へのアピールを狙いとした大会は、子どもはもちろん、その父親、母親、祖父や祖母の世代へまでしっかりと伝わっていたと感じた。
 単に大会を運営するだけでなく、共に汗をかくことが大切だとの観点から、今回は地域の小学3年生と局長チームを結成、大会に参加した。小学生は4年生を対象にしていたが、局長チームが勝ってしまうのはどうかとの思いやりから、3年生とタッグを組んだものだ。そして未経験ながら女性局長2人が参加した。これが意外も意外、初戦で女性2人で3ゴール、2倍換算で6点、トータルスコアは9—1と全37試合で最多得点の試合となった。その一人は補助者の杉原局長だ。
 プレーヤーとして参加しない局長を中心に、全37試合のタイムキーパーや得点管理を行い全面的にサポートした。試合時間の12分間、試合はとにかくスピーディーに動いており、一瞬でも目が離せない。ほとんど休む間もなく、全ての試合をコントロールした局長は、たいへんだったと思う。
 第1回大会後も参加したチームと付き合いを続けている。その一つとして14年12月には郵便局空きスペースで餅つき大会を実施した。学校や公園などの公共施設では、餅つきができない都市部ならではの環境にあったため、チームの選手はもちろん、保護者やコーチはたいへん喜んでいた。使用したもち米は郵便局で行っている「物産展」の業者から購入するなど、幅の広い付き合いが実現している。
 この「物産展」、郵便局の空きスペースを利用して、地方の新鮮な野菜や魚などを売っている。販売する朝にその地域からトラックで配送されるので、新鮮なものばかりだ。だからこそ、地域から絶大な支持をいただいている。「物産展」の取り組みは、本社が興味を持ち、15年11月に渋谷で行われた地域創生まちづくりエキスポ「まちてん」に、全国の郵便局を代表して摂陽東地区会が取り組みを発表した。
 参加したチームとの付き合いは、餅つきにとどまらない。保護者を通して、PTAからの要望として手紙の書き方教室を実施した。兵庫県や尼崎市などの行政とも連携を図ることができており、定期的に実施している。
 郵便局と行政の取り組みは他にもある。市制100周年を記念した取り組み「潮江まつり」、普段は交通量の多い道路を歩行者天国にして行ったイベントの来場者は何と5万人。地区会では葉書を使ったワークショップを開催、多くの人に楽しんでもらった。
 また、11月1日には市制100周年を記念して、子ども100人対大人11人のサッカーの試合を企画。市長や尼崎出身の元Jリーガーに参加してもらい、ぽすくまも登場した。女性100人との試合も行った。若い世代を狙いとしたフットサル大会に続いたものでもある。イベントは翌日の毎日新聞の全国版にも掲載され、行政とタイアップした良い企画ができていると思う。
 フットサル大会を中心に主に子ども向けのイベントを行っている。当然子どもたちのためではあるが…。一番喜んでいるのは父親や母親でもあり、それ以上に我々局長だ。また、そうでなければならないと思う。フットサル大会終了後、明日の仕事も頭によぎる日曜日の午後5時。朝から運営ばかりで疲れていると思いきや、「フットサルやろうぜー」の声に全ての局長が賛同、みんなでボールを蹴った。
 仕事では見せない楽しい表情。中には休日出勤帰りでシャツ、スラックス姿の局長も。そうなのだ、地域貢献は誰のためでもなく、自分自身のためでもある。伝えたいこと、それは「地域貢献活動を楽しむ気持ちが大事」ということだ。


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