「通信文化新報」特集記事詳細

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第6768号

【主な記事】

障がい者社員 初のアート展
日本郵政グループ 生きがい持ち働けるように

 すべての社員が生きがいを持ち働けるように日本郵政グループが障がいを持つ社員のアート展に初めて取り組んだ。グループの特例子会社「ゆうせいチャレンジド」(勝野成治社長、日本郵政専務取締役)が社団法人障がい者自立推進機構と連携し、企画した。障がいのある社員138人のうち64人が出展、東京・霞が関の本社ロビーで開催されている。日本郵政の西室泰三社長が「期間中は障がいのある社員全員が観覧できるような配慮を」と指示を出したという。厚生労働省の調べでは、昨年6月時点の郵政グループの障がい者雇用率は2.06%(法定雇用率は2.0%)と金融業界平均の1.89%、物流業界平均の1.88%を大きく上回っている。グループ初の試みに外部関係者などからも「一般の障がい者とのコラボレートして各地方でも展開し、障がい者アートの道を大きく拓いていってほしい」などの期待も寄せられる。グループのゆうちょ銀行も2011(平成23)年から、障がいを持つアーティスト作品のポストカードを作成している。

 日本郵政グループは、障がい者雇用の促進と郵政グループ一体での実雇用率算定(グループ適用)を可能とするために「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく特例子会社として2007(平成19)年11月に「ゆうせいチャレンジド株式会社」を設立した。
 世田谷郵便局内に本社事務所を構え、郵便局内などに設置された首都圏16支店で清掃、印刷、製本・キャンディの袋詰め、発送業務などを行っている。障がいを持つ社員にはフォロー体制の充実が必要になるが、5人程度に1人のコーチが付き、仕事の指導などを担っている。
 教えることやメンタル的な面も含めて世話をすることは忍耐力を伴うが、郵便局のOB、OGらが積極的にその任を担っている。
 ゆうせいチャレンジドは、障がいのある社員の業務スキルの向上だけではなく、運動会などのリクリエーションや社内報の発行など社員の一体感を高める取り組みにも力を入れているほか、特別支援学校からの現場実習や就業体験も受け入れている。
 「障がいのある社員に気持ち良く働いてもらいたい」と考えた勝野社長が、将来の日本のために健常者と障がい者の枠を超えてスポーツ選手、ミュージシャン、文化人などが協力し合うプロジェクトを目指す社団法人「スポーツオブハート」に提案。スポーツオブハートが仲介役となり、障がい者の社会参画と経済的自立のきっかけを作る活動(パラリンアート)を進める社団法人障がい者自立推進機構のノウハウを活用して「ゆうせいチャレンジドアート展」として実施する運びとなった。当初、作品を募集しても集まるかに不安があったというが、社員の約半数が個性あふれる絵画を描いた。
 初のアート展は2月16~27日の前期と3月2~13日の後期に合わせて64作品を展示している。障がいのある社員一人で描いた原画アートのほか、アーティストを目指す学生たちとのコラボアート作品も展示。絵の才能や自信の有無にかかわらず、アート創作の連帯感を共有することで、新たな可能性を広げ“生きる力”を高めた。
 本社を訪れる外部関係者も受付を済ませた後、ロビーで待機する合間を利用して観覧している様子が伺える。グループの本社社員だけでなく、関係者や同じフロアにある郵便局利用者など多くの人に日本郵政グループのCSR活動に触れる機会となっている模様だ。
 新潟県南魚沼市出身で、海外に障がい者アートを広める活動を行うことでNHK障がい福祉賞、毎日郷土提言賞、読売福祉文化賞、知的障がい者福祉事業功労者賞などを受賞したNPO法人「マイハートインターナショナル」の熊木正則代表理事は「会社の一角で開催することもよいが、次回は一般の展示会場の開催も検討するとモチベーションももっと高まるかもしれない。障がい者のアート作品を切手にすることなども日本郵政グループであれば可能性がある。また、全国に郵便局があるため、各地方で社員だけではない障がい者のアーティストとコラボして、地方の個性ある文化と結びつけるような活動も考えられる」と話している。
 文化庁も2014(平成26)年度に「戦略的芸術文化関連推進事業」の中で、障がい者の芸術文化を浸透させていく上での課題解決を探ることを検討し、今年度から具体策を練るなどの動きも出ている。
 社団法人障がい者自立推進機構の中井亨専務理事は「東京オリンピック・パラリンピックに向けて少しずつ障がい者アートの認知度も高まる中で、まだ社会的には理解されていない部分も大きい。こうした中で、日本郵政グループによるアート展開催は非常にありがたかった」と強調する。
 勝野社長は「グループが今後、多くの新しいことに挑戦する試みの一つととらえていただいてもよいと思う。障がいのある社員に自らの隠れた才能に気づいてもらい、社会参画のきっかけになれば嬉しい。また、健常者の社員の皆さんに、障がいのある方への理解を深めることにつながることを願っている」と語っている。
 近年、株式投資の銘柄選別の際、収益力などの経済的な指標だけでなく、社会貢献や環境配慮などの社会的指標を考慮するSRI(社会的責任投資)が重視されるようになった。
 英国の評価機関FTSEが2001(平成13)年にスタートしたSRIインデックスは、CSRに優れた世界トップ100企業を選定。当時、日本企業から8社が選ばれているが、8社の株式を組み込んだインデックスを試算すると、TOPIX(東証株価指数)をはるかに上回るパフォーマンスを発揮し、CSR、CSV(企業と社会の共通価値の創造)などに向けた活動も株価のパフォーマンスに大きな影響を与えることが示唆されている。



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