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2022年8月8日第7156・7157合併号

【主な記事】

郵便局データ活用で報告書
[総務省検討会]プライバシーに配慮
転居届情報やデジタル地図の利用

 総務省は7月29日、「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方検討会」(谷川史郎座長=東京藝術大学社会連携センター 客員教授)の報告書と意見募集の結果を公表した。今後は、総務省内に「郵便局データ活用アドバイザリーボード(仮称)」、日本郵政グループ内には「データガバナンスワーキンググループ」(仮称)を創設。ロードマップに沿って活用を具体化していく。
 7月25日に開かれた最終の検討会(第5回)では、構成員の意見交換が行われた。報告書案について「パブリックコメントに対する総務省の考え方に対して異論はない」と了承された。
 意見募集は6月16日から7月15日まで行われた。意見は法人3件を含む18件。ソフトバンクなど電気通信事業者からは、日本郵政グループが楽天グループと業務・資本提携していることから、公正競争を求める意見もあった。
 意見の内容は主に日本郵便が保有する転居届情報を弁護士会紹介申請に基づき提出する場合(照会の申し出、所属弁護士会が審査、弁護士会が回答を求める)の意見、日本郵便が作成するデジタル地図のデータ取得とプライバシーへの配慮、保有データをビジネスに活用する場合の民間企業間の公正競争への配慮など。
 公正競争の在り方について、ソフトバンクは「日本郵政グループは国営時代から引き継ぐものも含めて規模の大きい資産や顧客基盤で優位性を有し、公正競争環境への影響が懸念される。特定企業との協業や他企業へのデータ提供は配慮が必要」、KDDIは「法令上の制約や社会的受容性を確認しながら、段階的に展開することが望ましい」という意見。総務省は「公正競争への影響を注視するのが適当」との考え方を示した。
 検討会で巽智彦構成員(東京大学大学院法学政治学研究科准教授)は「日本郵政グループと楽天グループの資本業務提携については議論してきた。郵便局の物理的プラットフォームとしての機能や郵便・物流ネットワークを活用するに当たり、効率的に発展していくには他の事業者との提携は重要。一方で公正な条件を設定するのは当然。データ活用についても同様」とコメントした。
 弁護士会照会制度を活用した転居届のデータの提供については、報告書が「日本郵便から提供された情報が、弁護士の依頼者に渡る可能性があることから、弁護士会が審査を通して、DVやストーカー、児童虐待との関連がうかがわれないことが表示された照会に限り回答する」としていることに、「そのような表示は必要ない」(個人)との意見があった。
 総務省は「表示は必要」という回答に加えて「具体的に表示の方法については協議の場を設ける」と考え方についても併記した。
 大谷和子構成員(日本総合研究所執行役員法務部長)は「DV被害者情報の不当照会を排除する仕組みは整備されているが、たくさんの弁護士会があるので確実に不当照会を排除する工夫が必要。報告書は第三者への提供可能な場合を明記したものと考えている」とコメントした。
 またNECは「カメラ画像については、プライバシーリスクに配慮し、個人情報がわからないように人物の顔や車のナンバープレートをぼかすなど画像処理するなどの安全管理措置を講ずる必要がある。道路の破損状況などのプライバシー保護と関係がなくて問題なく活用できるものを明示した方が、活用の推進につながる」という意見を提出した。
 また、これまでに発覚した数多くの日本郵政グループの不祥事に対して「郵便配達業務を通して目視やカメラ、センサーで情報収集することは、住民のプライバシーを侵害する恐れがないとは言えない。活用を加速することには反対する」という意見も寄せられた。
 オブザーバーとして出席していた日本郵便の小池信也常務執行役員は「信頼回復と適正なデータ取り扱いを前提に社会環境のニーズやお客さまのニーズに対応するデータの活用やデジタル化を進めていきたい」と述べた。
 検討会では、日本郵便のリソースや保有するデータを活用した具体的な事例ごとに、郵便法や個人情報保護法、プライバシー保護に照らし合わせて検討を進めてきた。
 配達総合情報システムなどの活用による大規模災害や事故等の緊急時の安否確認や救助のための地方公共団体への情報提供では、住民票を移さずに住んでいる人もおり、情報提供により救助活動が迅速に進み、生命や財産の保護といった利益がプライバシー保護などの利益を上回るという考え方が示された。
 弁護士会や地方自治体からの転居届情報の照会では、信書の秘密が転居先情報を用いて得られる利益を上回ると認められた場合にのみ回答することにした。
 自治体や地図制作会社の依頼での公道の街路データ取得調査は、個人情報保護法が適用されるため、個人情報の映り込みへの配慮をすることも明記された。
 集配員に配布されたテレマティクス端末や配送総合情報システムなどを活用したデジタル地図の自社での作成も、来年度までに実施する。
 2025年度までに実施を予定する「郵便局データ活用推進ロードマップ」が示された。新規ビジネスとして「集配車両などを活用した空間データ取得ビジネス」や「利用者同意の下でのデータ活用に向けての段階的なビジネスの展開」が示された。公共的要請に応えるためのデータ活用としては、地方公共団体やNPOと連携し、オープンデータ化を進め、スマートシティの実証実験にも参画する。
 総務省は「郵便局データ活用アドバイザリーボード(仮称)」をこの秋に創設予定。公的機関等へのデータ提供の具体的運用に当たっての助言やデータ活用のニーズに関して意見交換の場を設けることなどに取り組む。
 転居届などの情報開示について、弁護士会など郵便局データの提供を求める団体と日本郵政・日本郵便と協議の場を設定・運営する。
 検討会の最後に中西祐介総務副大臣に報告書が手渡された。中西副大臣は「ロードマップに基づき、総務省の取組みは着実に実行する。日本郵政、日本郵便においてもデータを活用した新規ビジネスの取組みを進めていただき、革新的なサービスの提供を積極的に推進することを期待する」とあいさつした。


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