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2021年10月11日第7113号

【主な記事】

かんぽの宿32施設を譲渡
営業継続と雇用確保が条件

 日本郵政の増田寛也社長は10月1日の定例会見で、「かんぽの宿」の32施設に係る事業を株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメントおよびYakuasima特定目的会社(フォートレス・インベストメント・グループ・エルエルシー)をはじめとする4社に譲渡することを発表した。9月29日の取締役会で決議し、1日に契約締結した。事業譲渡の完了は来年の4月となる見通しだ。

 譲渡にあたっては、適正な譲渡価格はもとより、営業の継続、雇用の確保を重視した。増田社長は「譲渡先の事業者は、それぞれ宿泊や不動事業等の経営で高い実績を持つため、かんぽの宿の経営を今後とも維持し、発展させていただけるものと考えている」と述べた。
 譲渡先は①株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメントおよびYakuasima特定目的会社(ともにフォートレス・インベストメント・グループ・エルエルシー)②株式会社シャトレーゼホールディングス③株式会社ノザワワールド④株式会社日田淡水魚センター。
 「かんぽの宿 石和」(山梨県)はシャトレーゼホールディングス、「かんぽの宿 いわき」(福島県)はノザワワールド、「かんぽの宿 日田」(大分県)は日田淡水魚センターに譲渡する。
 「かんぽの宿 恵那」以外の29施設は、マイステイズ・ホテル・マネジメントおよびYakuasimaに譲渡する。不動産はYakuasimaとの間で信託受益権として売買するが、信託受益権化できなかった一部の不動産については、親会社のフォートレスの関係会社、藤合同会社との間で、現物不動産として売買する。
 譲渡対象は、各施設に付帯する社宅等の施設を含む。今回の譲渡契約に含まれていない「かんぽの宿 恵那」については、今後、関係自治体と協議を行う。
 来年の4月1日に、シャトレーゼホールディングス、ノザワワールド、日田淡水魚センター、4月5日にマイステイズ・ホテル・マネジメントおよびYakuasimaにそれぞれ譲渡することを予定している。
 かんぽの宿は簡易保険加入者のための福祉施設として 1955(昭和30)年から設置され、簡易福祉事業団が運営を行っていた。その後、日本郵政公社の運営を経て、2007年10月の郵政民営化時に日本郵政に承継された。
 かんぽの宿事業の経営状況は、日本郵政が承継する前から、恒常的な赤字体質にあったため、事業承継後は増収施策、コスト管理の徹底のほか、不採算施設の一部廃止などの経営改善を進めてきた。
 しかし、毎年約30~50億円の赤字が継続している。2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、約113億円の赤字を計上した。民営化以降、昨年までの14年間の累積赤字は約650億円に上る。
 日本郵政グループは今年の5月に中期経営計画を策定し、厳しさを増す経営環境の中で、経営資源をコアビジネスの充実強化、新規ビジネスの推進に振り向けるよう、ビジネスポートフォリオの転換が必要不可欠としている。その中でも、宿泊事業の経営改善が喫緊の課題になっていた。
 こうした状況を踏まえて、かんぽの宿事業をホテル、旅館ないしは不動産業の運営に実績、意欲のある事業者に譲渡することが最善と判断した。増田社長は「赤字が嵩んできて放置できないとする一方で、経営資源をコア事業の方に集中させていきたいという考えのもと、今回の判断を行った」と述べた。
 譲渡に当たっては、次の3点を重視した。
①かんぽの宿は地域の集客拠点、雇用の場でもあるため、譲渡後も営業を継続してもらう。フィナンシャルアドバイザーを通じて全国の宿泊、不動産事業等に実績のある事業者に声がけをした。譲渡後も、営業を継続してもらうため、一定期間の施設の転売制限を契約に盛り込んだ。
②継続してかんぽの宿での雇用を希望する。正社員で約300人、期間雇用社員で約2000人の従業員の雇用を確保することを重視した。従業員の継続雇用を条件に付している。
③適切な価格で譲渡する。譲渡価格については事業譲渡の市場価格のひとつである不動産鑑定評価額を基準として判断を行った。増田社長は「32施設の譲渡価格は全体で約88億円となり、鑑定評価額を上回る経済的合理性のある価格での譲渡と認識している」との見解を示した。
 今後、従業員の転籍など事業の円滑な移行に向けた作業が必要となるため、譲渡実行は来年4月を予定している。かんぽの宿は運営主体が代わることになるが、継続して営業を行っていく。
 マイステイズ・ホテル・マネジメントに譲渡する29か所の「かんぽの宿」「JPリゾート」、シャトレーゼホールディングスおよび日田淡水魚センターに譲渡する「かんぽの宿」では、譲渡日以降も現在と同様のサービスを提供する。
 ノザワワールドに譲渡する「かんぽの宿」は、譲渡日から4月上旬まで休館し、その後の営業開始とともに新たな内容のプラン・サービスを提供する。宿泊等の予約はいずれも有効となる。
 かんぽの宿メンバーズカード会員制度については、マイステイズ・ホテル・マネジメントに譲渡する29か所の「かんぽの宿」で継続しての利用が可能。
 今回の譲渡に伴い、2020年3月期の連結決算で、特別損失として減損損失および社員の異動に伴う退職金等の割り増し分を計上する見込み。退職金等の割り増し分の金額が未確定のため同譲渡に伴う金額は現時点で未定となっている。


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