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2021年3月22日 第7084・7085合併号

【主な記事】

[日本郵政]楽天と資本・業務提携
1500億円を出資、DX推進


 日本郵政と日本郵便、楽天(三木谷浩史会長兼社長)の3社は3月12日、物流・モバイル・DX(デジタル・トランスフォーメーション)などの分野で業務提携したことを発表した。また、日本郵政は楽天の第三者割当増資に応じ、約1500億円で同社株式の8.32%を取得する。取得後は楽天創業関係者に次ぐ株主となる(4番目)。日本郵政の増田寛也社長は「関係強化のため出資に合意した。先進的なデジタル技術と豊富なノウハウを生かし様々なインターネットサービスを展開する楽天グループと日本郵政グループは、シナジーが発揮できる最高のパートナー」と評価。金融やEコマースの分野でも具体的な提携を進めていく。

 3社は昨年12月から「日本郵便と楽天の物流域における戦略的提携」に向けて協議を進めてきた。今回、資本提携まで踏み込んだものとなった。
 資本・業務提携により両グループは「オフラインで全国2万4000局のリアルネットワークや、1.2億以上の貯金口座を持つ日本郵政グループと、オンラインの国内外で70以上のサービスを展開し、会員数1億人以上の顧客基盤を有する楽天グループを組み合わせることで、新たな価値を創造する」というビジョンを描いている。
 資本・業務提携について増田社長は「楽天は最高のパートナーで、両グループの関係をより強固なものとし、今後も幅広い領域での協力を進める原動力になると大いに期待している。協業を通じて、デジタルとリアルを相補う双方の特徴と強みをうまく掛け合わせることで、シナジー効果を最大限に引き出し、お客さまに喜んでいただける新たな価値を創出したい。金融やEC分野でも企業価値向上に資する戦略的提携を幅広く検討したい」と話す。
 三木谷社長は「大型の出資の受け入れは創業以来、初めてのこと。リアルで圧倒的なネットワークを持つ日本郵便とタッグを組める。親戚関係になることは日本のビジネス界や産業界、日本社会にとっても歴史的な1ページになると考えている」と強調する。
 そのうえで、「コロナ禍で今まで以上にDXが加速していく。ネットなくしてはやっていけない時代に突入している。地方をいかに豊かにするかも大切なこと。創業精神に立ち戻り、地方をエンパワーメント(力を引き出す)することを続けていきたい。新しい形を作っていくことに、私自身ワクワク、ドキドキしている」と述べた。
 今回の合意で決定したことは、物流、モバイル、DX、金融、EC分野での協業。物流分野では、データを活用したDXと共同事業化を進める。倉庫などの共同拠点化やドローン・自動走行ロボットなどの次世代技術を共同開発、オペレーションの改革、在庫の最適配置に共同で取り組む。
 モバイル分野では、郵便局を活用して、基地局の設置を進めている。500局以上に設置予定で、すでに400局に設置済み。郵便局のイベントスペースに楽天モバイルの申し込みカウンターを設ける。このほか、郵便局の配達ネットワークを使い、携帯電話の広告・宣伝を実施する。
 また、楽天は日本郵政グループのDXをサポートする。楽天グループから日本郵政グループに役員クラスのデジタル人材を派遣する。増田社長は「4月に楽天から日本郵政グループに転籍という形で受け入れる。日本郵政からも楽天に出向させてDXを学んでもらうこともあり得る。様々な場面で交流を深めたい」と話す。
 今後は、キャッシュレスペイメントや保険分野での協業についても話し合う。
 提携や協業に密接に関係する企業文化ついて、増田社長は「文化は違う所はあるが、お互いに刺激になり、相補える形になっている。トップがハンドリングしながら、今後の展開を隅々までいきわたらせたい」と話している。

 携帯事業の基地局整備
 楽天は3月12日の取締役会で「第三者割当増資による新株発行と自己株式の処分」を決めた。割り当て予定先との関係強化と資金調達を目的とし、募集株式の総数は2億1165万6500株をこれに充てる。2423億4669万2500円(発行費用5億円を含む)を調達。その全額を楽天モバイルの基地局整備(4月~12月)に使う。
 株式は、日本郵政をはじめ、中国のEC企業「テンセント」の投資持株会社「イメージフレームリミテッド」(香港)やアメリカの大手スーパーマーケットチェーン「ウォルマート」にも割り振る。このほか、三木谷社長の資産関連会社「三木谷興産」と「スピリット」にも配分する。
 世界の巨大市場で巨大ビジネスを展開する戦略的パートナーと協業・提携を進めることで、楽天が進めている会員の共通IDで楽天グループのサービスを有機的に結び付ける「楽天エコシステム」の拡大・強化を図る。
 三木谷社長は「今回の投資は、楽天エコシステムの拡大と影響力へ向けた高い期待と、世界を牽引する3つの経済大国のリーディングカンパニーとの更なる提携への大きな可能性の両方を示している」とした。
 さらに「日本郵政グループとの物流領域・モバイル・フィンテックにおける提携に加え、テンセントとの新たな提携については、オンラインゲームを含むデジタルエンターテインメントからECまで幅広い分野における提携の可能性を検討していく。ウォルマートがリテールの将来に向けた投資を進める中で、今回の投資というコミットメントに繋がったことを嬉しく思う」とコメントしている。
 株式は1株1145円。配当は1株4.5円。募集株式(普通株式)2億1165万6500株のうち、新株は1億3973万7600株で66%。残りの34%は自己株式を当てる。
 出資割合は、日本郵政は約61.9%、イメージフレームインベストメントは約27.1%、ウォルマート約6.9%、三木谷興産は約2.1%、スピリットは約2.1%。
 日本郵政は、今回の株式取得により楽天株の8.32%を保有。クリムゾングループ(三木谷氏が代表を務める個人財産管理会社)14.38%、三木谷社長11.20%、三木谷晴子氏8.43%に次いで4番目の株主となる。
 今回の出資について、日本郵政の増田社長は提携発表会見で「1月に楽天側から話があった。資本提携することで提携のレベルが高まっていく。出資はリスクとリターンを慎重に検討した」と述べている。


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