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2021年3月8日 第7082号

【主な記事】

投資家は生産性向上に関心
[総務省懇談会]従業員の主体的参加も

 総務大臣主催の「第4回デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」が2月18日に開かれた。根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授・アジア開発銀行エコノミスト)や太田直樹・NewStories代表取締役、冨山和彦・経営共創基盤グループ会長が、ESG投資や地方創生、DXといった社会課題と郵政事業についてプレゼンテーションを行った。
 根本構成員は「SDGs/ESG(環境、社会、企業統治)の潮流と企業の課題」をテーマに、国内外の現状と課題、日本郵政に対するステークホルダーの期待などについて発表した。
 投資家サイドから見たESG投資について根本構成員は「投資家は、生産性の向上や働き方の変革に、非常に興味を持っている。顧客満足度や従業員満足度のKIP(重要業績評価指標)を定期的に公開している企業もあり、1つの検討材料でもある」と説明した。 
 ESGのS(社会)では、従業員の健康や事業への主体的な参画も重視されている。推進するためには自発性を評価する制度も必要という。
 企業のESG評価と企業業績との関係について根本構成員は「ESG評価は発展段階。業績との関係はポジティブとみる研究は多いが、コンセンサスを得るまでには至っていない」と更なる研究蓄積の必要性を訴える。
 投資リターンについては「ESG投資家は、社会的なリターン(自然環境や労働環境が良くなるなど)と金銭的なリターンの両方を追及しているが、特に日本の投資家は、金銭的リターンへの効果を重要視している。金銭のリターンに影響するため、社会的な要素を勘案している」と説明する。
 日本郵政グループに対しては「中期経営計画でESGを重視しているということだが、まずは、不祥事や評判リスク、ガバナンスを強化する必要がある」と提案。「不祥事が起きた会社は、ESGインデックス(株価などの指数)から外れるため、ガバナンスは根本的で重要な課題」と指摘する。
 日本郵政グループへのステークホルダーの期待は「次期中期経営計画(2021年~2025年)でESG投資を重視するということだが、それにはガバナンスは強化する必要がある。不祥事や評判リスクへの対応や再発防止のほか、収益性向上は引き続き重要なテーマ」と話している。
 ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険は投融資の開示について「機関投資家として、責任投資が求められる。投融資の方針は開示されているが、投資家の要求水準は厳しくなっている。サステナブルな投資をしてそれが本当に効果を生んでいるのか。ESG投資は途上ということもあるので、リスク管理は強化する必要がある」とアドバイスする。
 巽智彦構成員(成蹊大学法学部法律学科准教授)からは「日本郵政の増田寛也社長から、投資家からは郵便局はお荷物と評価されているという話を聞いた。日本の投資家は郵便局インフラをどう考えているのか。郵政の投資家は、ESG投資の内在的なメリットをどう考えているのか」という質問があった。
 根本構成員は「地域貢献や日本のライフラインの継続への動機は強まっていると思う。ただ、投資家はサステナブルな成長を重視するのでライフラインは重要だが、企業体として維持できないのは良くない。投資家ならライフラインとして必要なものを見極めることが必要と考えるのではないか」と答えた。
 また投資家のESG投資メリットについては「ESGの効果はすぐには出ない。長期的に見なければならない。リスクを減らすことについては意識が一致しているものの、リターンについてはいろいろな考え方がある」と考えを述べた。

 荷物のコスト削減 短期で高い目標を
 太田New Stories代表取締役は「郵便事業への提言」を発表した。郵便について「現在の郵便はアップデートが必要だと思う」と前置き。例えば小包と郵便の改善については、そのスピードにも言及した。
 マッキンゼーの郵便事業レポートは「2025年には小包と郵便の比率は1対1になる」と予測。また「Eコマース利用の増加により、小包は平均で10%ずつ伸びているが、一方で利用者の7割は配送料の無料を希望する」という課題がある。
 太田氏は「大きな変化のある時は、短期間でコスト削減の高い目標を立てる。5年で3割削減を目標にしてはどうか。効率化について日本郵便は少しずつやっていると思うが、思い切った目標にする。そうしないと小包の仕事は競争相手に行ってしまい、二度と戻ってこなくなる」と提言する。
 その方法については「目標から逆算し実施する。ユニバーサルサービスや組合が強いという事実はあるが、ユニバは何%なのか、見える化できる。経験値からして、2~3割高いということにはならないと思う」と述べる。
 冨山経営共創基盤グループ会長は「地方創生と郵便局ネットワーク」についてプレゼンテーションした。地方の事業再生を手掛けてきた冨山氏は「人口減少の中で、地方の企業の効率化は、密度の経済性を考える必要がある。人口の少ない所では仕事の相乗りをしないと密度が出ない。同じ事務所で行政、金融サービス、物流など複数のサービスを行わなければならない」と述べる。
 過疎地の郵便局に対しては「残っているのが郵便局だけなら、デジタルを使いこなし医療も介護もやっていくことも考えておいた方が良い」とアドバイスする。
 DXを担う人材については「地域や郵便局ネットワークの間で人材の流動性が必要。フルタイム、終身雇用で雇うのはナンセンス。ジョブ型に働き方を変えていくのが良いと思う」と提案する。
 郵便局の改善については「店舗単位で密度を上げる努力を現場でやってもらう。パイロットを選び、改善していくのが基本」とアドバイスする。


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