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2020年11月30日 第7068号

【主な記事】

新たなビジネスモデルを
デジタル時代の郵政事業懇談会

 武田良太総務大臣主催の「デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)の第1回の会合が、11月13日に開催された。10人の構成員とオブザーバーが出席。データ時代の郵政事業から、地方自治体との連携、コンプライアンス、成長に必要な規制緩和などの環境整備まで幅広く議論する。各構成員は、専門的な視点から、日本郵政グループが持つデジタル情報の活用や新ビジネス、時代に合った郵便局の業務改善などを提案した。

 検討内容は「AIxデータ時代の郵政事業」「SDGs(持続可能な開発目標)とEGS(環境・社会・ガバナンス)と郵政事業」「地方自治体と地域金融機関と連携した住民サービスの一層の向上(地方創生)」「コンプライアンスの強化」「郵政事業の持続的成長に必要な環境整備」など。
 会議に先立ち、武田総務大臣から「日本郵政グループが中長期的にユニバーサルサービスの維持を図りつつ、新たな時代に即したサービスを展開し、利用者の利便性向上や地域社会への貢献を推進していくための方策、特に日本郵便の将来像を検討することは喫緊の課題」としたうえで、「郵便局ネットワークで取得保有する膨大なデータを基にした新たなビジネスモデルの構築が求められている。忌憚のない議論をお願いしたい」とあいさつした。
 中村伊知哉・座長代理(情報経営イノベーション専門職大学(iU)学長)は、1984年に郵政省に入省。1990年から登戸郵便局長、1998年からは省庁再編を担当した。「民営化の流れにより、効率化やカバナンスが冗長される一方で、高齢化や情報化、国際化を郵政の機能にどう生かすかは、国民的課題。郵政グループの資産であるヒト、モノ、ネットワークをどう最大化するかだ」と前置き。
 「郵便局の安心感や信頼感はほかの企業にはないもの。地域公共サービスはより戦略的に手がけることが大事。不動産事業も個人的には教育の拠点に生かせると思う。eスポーツ関係者からも郵政と一緒にやりたいという話を聞いている。通信事業やICビジネス、郵便局が楽天のポジションを取っていくのも不思議はない。3事業でデータビジネスをどう進めるかだ。GAFAが強いと言っても全データの1%に過ぎない。郵便局は有利な立場にある」と語る。
企業風土については「衣川社長は『現場の経営の風通しを良くする』と言うが、私が知っているかつての組織は、風通しがよく、機動的だった。民営化してからは窮屈そうだ」と現在の組織風土への感想を述べる。
 中川郁夫構成員(大阪大学招へい准教授)は、IT戦略や分析が専門。「DXで重要なのは世の中にどういう変化が起きるか。デジタル時代は一人ひとりを特定することが簡単になった。特定の個人に特別なサービスや体験が提供できる顕名(けんめい)経済になる。顧客満足度が経営指標に入る。顧客がどのくらい満足し、継続利用しているかが重要視される。顧客データに基づいた信用基盤を作っていくという議論が広がればよいと思う」と提案する。
 根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授・アジア開発銀行研究所エコノミスト)は、デジタル化やフィンテックの研究をしている。「顧客満足度を高めるにはこれまで見つけてなかった新たなサービスをどう生み出せるか。それには豊富にあるデータを生かす。例えばゆうちょ銀行では、顧客取引を一元化して、ビジュアライズして、その企業に応じた提言やサービスを提供する。データは政府の政策や自治体に還元する。災害への対応、企業のコンサルに使っていくことも検討できる。郵便局は地方創生やデジタルデバイド対策なども検討するとよい」と、新たなビジネスの方向性を提案した。
 藤沢久美構成員(シンクタンク・ソフィアバンク代表)は、組織が新しいチャレンジをするための支援を手がける。「いろんなチャレンジをするにしても、現場がそれについていけないのではないか。郵便局の業務は紙と手作業がたくさん残る。窓口の業務フローを見直して、ICT化していくのは喫緊の課題。配達もデジタル化しているが、最後の配送先は紙。データ化を進め、働く人の負担を軽減したい。また、自治体がコンパクトシティ化する中で郵便局は非常に役立つ存在。センサーを取り付け、情報を取り、住民の安全安心につなげる。それを全国の自治体と一緒に行う。そういうプレイヤーになれたらよいと思う」と提案した。
 多賀谷一照座長(千葉大学名誉教授)は「郵便局は情報の拠点と物のデリバリーの結節点。一番の競争相手はアマゾン。顕名経済システムで、個人情報が第三者の情報になる。郵便局は利用される個人の側に立ち、個人情報が流通する際に、コントロールする代理人的な役割を果たすことが大事」と新たな役割を提言する。
 長田三紀構成員(情報通信ネットワーク)は「信頼をなくさないようにして、郵便局はデジタル社会を応援する“場”になってもらいたい」と要望した。
 宮元陸構成員(加賀市長)は、市長として、郵便局窓口の包括業務受託や支所の郵便局内移転など、郵便局とは先進的な取り組みを進めている。「自治体業務を幅広く続けていくと制度の壁にぶつかる。規制緩和をしてもらい、住民サービスを郵便局と一体となり進め、住民の利便性を高めたい。あらゆることができるような仕組みづくりを是非、お願いしたい」と自治体の立場から制度改革を要請した。
 オブサーバーとして、日本郵政グループからは日本郵政の小方憲治常務執行役と日本郵便の立林理常務執行役員が出席した。


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