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2020年10月26日 第7063号

【主な記事】

武田良太総務大臣インタビュー


 武田良太総務大臣は9月16日の就任以来、精力的に仕事をこなしている。菅内閣発足時、イの一番に掲げた「携帯電話料金の引き下げ」は、自ら携帯事業者トップと会談。異例の早さで値下げの意向を引き出した。その行動力とスピードは、今の日本に求められていることでもある。菅内閣は、縦割り行政の是正にも取り組む。郵政事業には、国営時代から残る政策的低廉料金の改善や、地方公共団体からの事務受託業務の範囲拡大など、複数の省庁間の調整や法改正が必要なことから、前に進まない課題も多い。日本郵政グループは10月5日に営業再開したものの、かんぽ生命の不適正募集問題を抱え、厳しい状況が続く。民営化の評価や課題について聞いた。
(永見恵子)

郵便局の果たす役割は大きい
ネットワークの活用を

■2005年の郵政民営化法に反対票を投じたということですが、現在の日本郵政グループの状況についてどのように思われていますか。
 全国2万4000局の郵便局が地域で担っている役割は、大変大きなものがある。日本郵政グループには、顧客の皆様の信頼を回復した上で、国民の利便性の向上に資する郵政事業の展開に努めていただきたい。
 2007年10月の民営化以降、ゆうちょ銀行が全銀システムに接続し、送金可能な金融機関の範囲が大幅に拡大した。郵便局はがん保険の販売を受託できるようになった。日本郵政グループにおいては、国民の利便性を高める取り組みが進められている。
 また、東京中央郵便局の場所には2013年3月に、高層ビルのKITTEが開業した。その後も、KITTE博多(2016年4月)、KITTE名古屋(2016年6月)と、続けて開業した。様々な店が入居して便利になったことは民営化によるものだと思う。
 一方で、かんぽ生命保険の不適正募集問題や、ゆうちょ銀行のキャッシュレス決済サービスの不正利用被害への対応など、日本郵政グループで問題が生じていることも事実であり、総務省としても、日本郵政グループに対して必要な監督を行っていくことで、このような問題の再発を防止するとともに、新たな問題を未然に防いでいきたい。

■地域住民とともに生きなければならない郵便局。防災、地方創生など、特に過疎地での役割は大きいと思いますが、全国2万4000局の郵便局の維持や活用、また果たす役割への期待は…。
 全国2万4000局の郵便局ネットワークは、地域におけるユニバーサルサービスの担い手として、過疎化が進む地域であるほど、その役割は重要になる。
 過疎化が進む地域では、市町村役場の支所が閉鎖するに当たり、住民サービスが低下しないよう、地域の郵便局が窓口業務を受託する取組みも進んでいる。
 災害時には被災された人々の生活再建や被災地の復旧に貢献していただくとともに、地域に役立つ新しい取組みを積極的に行うことで、郵便局ネットワークを活用した地方創生が進むことを期待している。
 近年、地震や台風、水害などの自然災害が増加しているが、災害対応に郵便局が果たす役割は大きい。郵便局は、災害時には、貯金・保険に関する非常取扱や車両型郵便局によるサービスを提供している。数多くの地方自治体と連携協定を締結し、局舎内のスペースに食料を備蓄するなど、いざという時の災害に備える役目も果たしている。
 例えば、昨年の台風や大雨の際には、通帳や印鑑をなくされた被災者向けに、非常取扱を行い、20万円までの現金引出に応じ、当面の生活を支えてきた。
 郵便局も被災している中、車両型郵便局を活用し、手紙やはがきで被災状況を親戚に伝えられ、ATMで現金を引き出すこともできた。それらは被災された地域の住民の方のお役に立ったと聞いている。
 平時においても、地域で郵便局が果たす役割は大きいと考えている。総務省では現在、郵便局活性化推進事業に取り組んでいる。郵便局のネットワークを活用して、過疎地での買い物支援や、情報通信技術を活用したみまもりサービス、地域の農作物の配送支援などのモデル事業を実証している。これらが全国展開の呼び水となることを期待している。

自治体窓口業務の包括受託
環境整備に努める

■郵便局の地方自治体の行政事務受託が、過疎地を中心に増えつつあります。民間委託できる業務のうち、郵便局が直接代行できる申請関連の行政事務は法改正された5業務だけで、支所の窓口業務すべてを受託できないのが状況です。自治体職員がいなくても郵便局で取り扱える業務を増やすには、各法律を管轄する省庁の協力が必要です。菅内閣は「縦割り行政」を打ち破る取り組みに意欲を示されていますが、支所窓口受託業務の現状についてどのようなお考えですか。
 過疎化が進む地域で、安心して利用できる窓口サービスは重要であり、自治体窓口業務の受託を含め、地域における郵便局の役割は益々高まるものと考えている。
 行政事務の包括受託はすでに、長野県泰阜村、石川県加賀市、福島県二本松市、静岡県東伊豆町で始まっている。
 令和2年地方分権改革に関する提案募集で、「郵便局における取扱い事務の拡大」について複数の自治体からご要望をいただいており、これらについては、関係省庁と連携して対応している。引き続き関係省庁と緊密に連携し、地域住民や各自治体のニーズを踏まえながら、必要な環境整備に努めていきたい。
 日本郵便においては、郵便局ネットワークを最大限活用しながら、引き続き、地域のニーズを把握していただき、積極的に地域社会に役立ってもらいたい。

■縦割り行政や既得権益の問題として、国営時代から続く第四種郵便物の政策的低廉料金があります。総務省の「郵便のユニバーサルサービスに係る課題等に係る検討会」(2016~2017年)で、その見直しについて議論がなされましたが、3年経っても先に進まない事例の一つです。解決に向けての提案があればお願いします。
 第四種郵便物の政策的低廉料金は、国民の福祉という観点から国営時代から続いている制度だが、この制度の必要性や妥当性について、省内でも議論を進めてきた。「郵便のユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会」(2016年7月~2017年6月)での結論や、情報通信審議会郵政政策部会「郵便局活性化委員会」(2018年2月~2019年8月)の答申で、今後の検討課題が示された。
 検討会の後には日本郵便とも制度の必要性や意義について議論を重ねてきた。情報通信審議会の答申に示されているように、第四種郵便物の費用負担のあり方等について、関係省庁とともに、引き続き検討を深めてまいりたい。

■全国郵便局長会は郵政民営化委員会の検証に関する意見募集の中で、金融2社との一体経営を担保する仕組み(一定数の株式の保有)を提案しています。意見を伺えないでしょうか。
 郵政民営化法第62条で、日本郵政株式会社は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式について、「その全部を処分することを目指し」「できる限り早期に、処分するものとする」とされている。
 処分に当たっては、日本郵政は、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金・債権債務の決済の役務、簡易に利用できる生命保険の役務の3つ(ユニバーサルサービス)を一体的に確保していく責務の履行への影響を勘案することとされている。
 いずれにせよ、2社の株式の処分については、こうした郵政民営化法の規定に基づいて、日本郵政において検討される。
 ご指摘の提案を含めて、意見募集で寄せられた意見については、郵政民営化法第19条第1項第1号に基づいて郵政民営化委員会が「郵政民営化の進捗状況について総合的な検証」を行う中で取り扱っていくことになると考えている。

【武田良太総務大臣略歴】
 福岡県出身。52歳。早稲田大学大学院修了。福岡11区衆院・当選6回。亀井静香衆院議員の秘書を経て、2003年11月福岡11区で初当選。防衛大臣政務官(福田改造内閣、麻生内閣)、防衛副大臣(第2次安部内閣)を務める。前国家公安委員会委員長、前内閣府特命担当大臣(防災)、前国土強靱化担当、前行政改革担当。自民党地方創生実行統合本部筆頭副本部長、同党幹事長特別補佐兼副幹事長、同党安全保障調査会会長代理、衆議院決算行政監視委員会理事などの要職を歴任。


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