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2020年10月12日 第7061号

【主な記事】

3兆404億円の減損処理
[日本郵政]ゆうちょ株の下落で

 日本郵政の増田寬也社長は9月30日、東京大手町の本社での定例会見で、2021年3月期第2四半期決算時に、連結子会社のゆうちょ銀行株式の時価が著しく下落したため、保有する株式について3兆円超の減損処理を行うことを発表した。また、10月1日付で郵政グループ横断的な2つの社長直属のプロジェクトを立ち上げ、企業価値の向上に資する経営にさらに力を注ぐ。プロジェクトは、新規事業等に関する企画立案・調整等を担う「新規ビジネス室」、DX(デジタルトランスフォーメーション)施策の推進に関する企画立案・調整等を担う「DX推進室」。いずれもグループ横断的な取組みを牽引していく。2021年度から始まる新中期経営計画では、新規ビジネスやDXの推進が盛り込まれることが検討されている。

新規ビジネス室、DX推進室を立ち上げ

 ゆうちょ銀行の株価が著しく下落していることを踏まえ、企業会計基準に基づき定めた会計ルールに則り、保有する株式の簿価を引き下げる。その影響は、持ち株会社の日本郵政単体の財務諸表に留まり、ゆうちょ銀行の財務諸表には影響がないうえ、経営の健全性にも影響を及ぼさない。
 2021年3月期第2四半期累計期間(2020年4月1日から2020年9月30日まで)のゆうちょ銀行株式に係る評価損の金額は、3兆404億3700万円に上る。ゆうちょ銀行株式の時価評価は9月30日時点の株価を基にしている。
 四半期決算期末での有価証券の減損処理については、洗替法を採用するため、2021年3月期第3四半期および2021年3月期通期での特別損失の額は変動する場合がある。
 洗替法を採用したことにより、第2および第3四半期末時点で、ゆうちょ銀行株の時価が取得原価(帳簿価額)より低い場合には、時価で商品の評価を行い(低価法)、翌四半期首に前期の評価を戻し入れて改めて評価を行う。年度末には、切放法を採用して、評価損を確定させる。
 今期決算での減損処理に伴う損失額の規模については、2021年3月末のゆうちょ銀行の株価をもって最終的に確定する。
 今回計上する評価損は、連結決算上では消去されるため、連結業績に与える影響はない。また、9月30日時点で、2020年5月15日に公表した2021年3月期の通期連結業績予想および配当予想について変更すべき事象は発生していない。
 増田社長は「当社単体の財務諸表で見た場合に、保有するゆうちょ銀行株式の評価を変更するという会計処理であり、ゆうちょ銀行の経営の健全性に影響を及ぼすものではない。また、今年度2800億円の当期純利益を見込んでおり、グループ連結の業績にも影響はない。加えて当社単体において減損処理に伴う損失が生じるとしても、現預金の流出は発生せず、資金繰りにはまったく影響はない」と強調した。
 また「株価はさまざまな要因によって形成されるものだが、ゆうちょ銀行の株価が著しく下落していることについても、その正確な要因を特定することは困難。現在の株価水準は真摯に受け止め、引き続きグループ一体となって企業価値の向上に取り組んでまいりたい」と述べた。
 減損処理に至ったことの受け止めについての問いには、「株価に影響を与えている要因は複雑で、非常に多くの要因が絡み、株価が形成されているため、ゆうちょ銀行株の水準についてコメントすることは差し控えたい」と述べた。
 そして「金融界全般としてマクロで見れば、今回のコロナ禍の中で、下押し要因になっているものの、ゆうちょ銀行の株価水準については投資家が判断して株価が形成されているという観点から、真摯に受け止めたい。株価をさらに向上させていくための価値向上に資するさまざまな取組みを進めていかなければならないと考えている」と語った。
 配当政策を含めた今後の影響については、「日本郵政単体としての配当をどうするかだが、中期経営計画にも記している配当政策を変更することはない。日本郵政単体での経営成績に影響を与えることについては、事態をきちんと受け止めなければならない。内部留保も多くあるうえ、今回のことでキャッシュが流出するわけではないので、これまで通り順調に経営をやっていけると思う」とした。 
 さらに「原資等を十分に確認しながら、これから将来に向けてどういう配当を行っていくのか。配当政策を維持しつつ、今後、どういうふうに成長させていくのかを、社内および取締役で真摯に議論していきたい」と答えた。
 ゆうちょ銀行株の減損処理に関連した配当可能利益については、「(純資産の中には)利益剰余金だけでなくて、当然のことながら、資本剰余金、すわなち、資本準備金およびその他資本剰余金があるが、多くの資産を有している。従って配当をどうするかということを考えながら、中期経営計画で打ち出している政策を踏まえて、全体を勘案しながら、社内で良く議論して配当政策を考えていきたい。1株当たり50円という中期経営計画における配当政策を変更する予定はない」と述べた。
 10月1日付で立ち上げた「新規ビジネス室」は、グループの成長戦略に資するよう、グループの強みを把握・分析し、シナジー効果が見込まれるグループ横断的な新規事業、子会社単独では着手困難な新規事業などの検討を行う。
 20人規模のグループ新規ビジネス検討体制を整え、新規ビジネス室員11人にグループ3社からのメンバーを加えた横断的な編成とする。
 同日付設置の「DX推進室」では、グループのリアル・デジタル双方を兼ね備えた強固な事業体への変革を推進するため、各社が個別に取り組んできたデジタル化の取組みを全体で加速させるとともに、横断的な取組みを推進する。グループDX推進体制を整え、DX推進室員13人に3社からのメンバーを加えた横断的なチームとして28人体制とする。
 DX推進に関して、増田社長は「コロナ禍においては、郵便局というリアルなネットワークの重要性を再確認する一方で、デジタル化への対応が急務ということを強く認識している」と言及している。
 マイナンバーカードについても「政府がさらに普及を図るとしており、5年以内にほとんどの方が取得するというような情報もあった。そうすると、カードを更新するときに相当多くの事務が発生する。正式に政府から要請があったわけではないが、カードについての更新などについて、郵便局を使うということであれば、どういう形でやるかを詳細に詰める必要があるうえ、どれだけコストがかかるかも考えていかなければならないと思うが、そういう仕事に対しては積極的に対応していく価値があると考えている」と語った。
 そのうえで「カードを使って、さまざまなビジネスや役に立つ取組みにつながるのであれば、新設する『新規ビジネス室』や『DX推進室』の人員を活かして、グループとしての仕事の活用を考えていきたい」との見解を示した。
 地方公共団体事務の包括受託における郵便局の役割については、「受託事務の対象範囲が広がり、法律では20数業務まで拡大している。条件をさらに詰める必要があると思うが、郵便局での活用をこちらからも自治体に働きかけたい。自治体では、間違いなくこれからさまざまな仕事を郵便局に頼む場面が増えてくるのではないか」との見通しを語った。
 このほか「地方創生に取り組んでいて感じるのは、東京で考えるのではなく、現場のニーズを拾い集めると、本当に必要なものにつながっていくということだ。新規ビジネス室等で、地方創生の分野で、地域にもっと貢献できることは何かということを支社や現場の郵便局に積極的に聞くようにしたい」と語った。
 グループの内部通報窓口の運用状況の検証状況については、「JP改革実行委員会にすでに検証を依頼している。横田尤孝委員を中心とする検証チームに、関係者に対するヒアリングなどを行っていただいている。検証に当たり、JP改革実行委員会にグループの社員から内部通報窓口、その他各種の窓口等の運用状況に関して、広く意見や情報提供を募るための情報提供窓口を設置し、9月29日から運用を開始した。すでにそちらの方に情報が寄せられている」と説明した。


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