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2020年9月21日 第7058・7059合併号

【主な記事】

かんぽ商品など営業再開
10月5日 信頼回復を第一に

 日本郵政グループは9月11日、金融商品の営業を10月5日から開始すると発表した。営業活動を「信頼回復に向けた業務」と位置づけ、積極的な営業は行わず、まずはお詫びから始める。営業再開についての会見には、日本郵政、日本郵便、かんぽ生命保険、ゆうちょ銀行の4社長が出席。増田寛也社長は「失った信頼を回復するには一朝一夕にはいかないが、4社長が陣頭指揮を執り、グループ一丸となって取り組みたい」と決意を語った。

 営業再開に当たり、JP改革実行委員会から「最低限の必要条件は整った」と評価されていたが、増田社長は「十分条件は確認する必要がある」と再開は決めたものの時期は未定としていた。
 増田社長が十分条件として挙げたのは「信頼回復に向けたお客さま本位の業務運営の趣旨が社員に浸透していること」と「かんぽ生命の保険契約と投資信託の横断的な販売で、お客さま本位でない販売の懸念のある社員を特定できていること」の2つ。
 増田社長は「2つの条件が満たされていることが確認できた」として、営業再開に踏み切った。
 業務運営の趣旨が社員へ浸透しているかについては、経営理念や顧客本位について全郵便局を対象に研修を実施した。アフターフォローを中心とした研修は9月末までに終える予定。
 各社社長は支社長会議や統括局長会議などを通じて、フロントラインの現状について意見交換してきた。これらを踏まえ、増田社長は「業務を開始するための準備が整った」と判断したという。
 かんぽ保険契約と投資信託の横断的な販売については、苦情のあった79人のうち、顧客本位でない懸念のある41人に対する取引に関わった社員43人は、8月末に営業活動を停止した。新たに確認された6人の顧客については、必要な社員には調査を実施し、9月中に営業活動を停止する。2015年度から2019年度に2つの商品の契約をした約2.1万人に対しては、9月中に意向確認を始める。
 信頼回復に向けた約束について、増田社長は「お客さまに日本郵政グループの商品を安心して利用していただけるよう、真にお客さま本位の企業グループに生まれ変わるために必要なこと」と、その達成に向けて全力で取り組む方針。
 各社の社長も約束の遂行に決意を述べた。日本郵便の衣川和秀社長は「第一線でまじめに業務に取り組む多くの社員には苦労をかけることになった。これからは自らが先頭に立ち、本社、支社を含めた全職員がお客さま本位の業務運営をする中で、信頼回復に努めたい」。
 かんぽ生命保険の千田哲也社長は「改めて経営理念を全社員にしっかりと浸透させるとともに、約束を全員が実践し、お客さまから信頼いただける会社になるよう、全社員が一丸となって頑張りたい」。
 ゆうちょ銀行の池田憲人社長は「『やっぱり、ゆうちょ』と言われるように、目指す形に立ち返って、安心・安全・便利な商品を提供し、謙虚にお客さまの信頼回復に努めたい」。
 本格的な営業再開については高市早苗総務大臣(9月16日に退任)から「お詫び行脚で精いっぱいと言わないで、スピード感を持って道筋を付けてもらいたい」との注文があったが、増田社長はその時期について「つながりのあるお客さまを訪問し、お詫びと会社の姿勢を伝えてもらうが、次の段階に進めるかどうかは社員一人ひとりによる。その活動には相当な時間が必要。丁寧なお詫び活動を基本としており、先に進めればよいが、その場その場での判断となる」と具体的な日程の明言は避けていた。
 本格的な営業再開に向けて、現場ではかんぽ生命の新商品を待ち望んでいる。千田社長は「商品のラインナップを揃えて欲しいというお客さまからの意見もいただいている。できるだけ早く新商品を出せるよう努力している。販売に際してはお客さまのライフプランをしっかり作り、今後どのような資金ニーズが出てくるのか。適切な商品を出すことに尽きると思う」と強調。
 「10月5日からの活動は提案をするのではなく、お客さまの状況を確認する趣旨で始める。提案はお客さまに寄り添ったものでなければならない。総合的な金融コンサルティングの中で資金を把握しながら提案していきたい」と述べた。
 「本格再開までは、かんぽ商品の積極的な営業活動を行わず、営業目標も設けない」という郵政グループの方針に対して、記者からは「これまでどの位、無理な販売をしてきたのか。かさ上げしてきたのは収益の何%か」との質問があった。
 衣川社長は「具体的な数値はわからないが、金融窓口の委託手数料は大きく減っている。新規契約も限定的で、金融窓口事業単独では赤字になる。売上でゲタをはいていたのは事実だが、将来に向かって、地道にやっていくしかない。無理な営業で短期利益を獲得することはやるべきではない」と述べた。
 千田社長は「不祥事の原因の一つは、営業目標が高すぎたことにある。背伸びをしている目標だった。来年からは違う営業目標。量ではなく、お客さまの信頼回復にある。すそ野を広げて、お客さまを大事にする営業戦略、商品に変えていく。真の意味での営業力を持つ社員を育てていきたい」と方向性を語った。
 池田憲人社長は「預かり資金を増やす戦略に切り替えた。お客さまの利益にも我々の利益にもなるようにする。現在は足踏み状態だが、お客さまの信用を得て徐々に積み上げを増やしていきたい」と戦略を話す。

 営業再開を前に日本郵政グループは金融商品の募集・販売フローと手続きの改善強化策をまとめた。
 かんぽ商品の改善強化策は「満70歳以上の顧客への勧奨は原則禁止」「管理者は募集態様に課題がある社員について事前承認を行う」(4月新設)、「サービスセンターでの確認シートにより重層的な確認を行い、必要な顧客にはご意向確認をする」(昨年8月設置)、「録音・録画による募集状況の可視化(コンサルタントのみ)」(8月新設)など。
 投資信託では「満80歳以上の顧客への勧誘の原則禁止」(2018年4月)、「高齢の顧客向けツールによる意向確認」(昨年10月設置)、「70歳以上の高齢者には、初回のみ家族相談を実施」(昨年10月設置)、「管理者は70歳以上の顧客に対して、健康状態、投資意向、理解状態を確認する」(昨年10月改善)など。
 がん保険は「満80歳以上の顧客への勧奨は原則禁止」(4月新設)、「募集人は乗換に伴う不利益事項説明を受けたことを確認し、最終意向確認する」(7月新設)、「管理者は乗換契約に該当する場合、不利益事項の説明を受けたことを契約者に確認する」(7月新設)などとなっている。


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