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2020年 5月18日 第7040号

【主な記事】

コロナ禍 株式市場への影響は
金融関係者に聞く今後の見通し

 新型コロナウイルスの感染症によって、国民生活のさまざまな場面で甚大な影響が及ぶ中、株式市場もその例外ではない。昨年の12月に日経平均は2万4000円台をつけたが、コロナ禍が表面化した3月中旬には1万7000円台に下落するなど、ボラティリティ(価格変動性)が激しい展開となっている。かんぽ生命が4月24日に今年度の資産運用方針を発表した際には「株式市場の調整局面は長期化する」との認識が示された。ゆうちょ銀行の国内株式(信託)投資は、2019年3月期末に2兆1417億円だったのが、直近の2020年3月期第3四半期に2兆3061億円となり、1643億円増だった。かんぽ生命の国内株式(投資信託含む)は、2019年3月期末には1兆7560億円、2020年3月期第3四半期には2兆501億円となり2941億円増となった。国内株式投資は日本郵政グループにとっては重要な資産運用手段となっている。株式市場の動向について、本邦大手証券会社、本邦資産運用会社、外資系資産運用会社、それぞれの管理職に匿名を条件にインタビューした。

調整局面は長期に及ぶ
実需悪化で2番底の懸念も

■まず短期的な観点からうかがいたい。株式市場はボラティリティが激しいが。
 リーマンショックと比較されるケースが多い。リーマンの時は金融市場の内部の不安感が起因となった。今回は実需が一気になくなってしまう危機感が背景にある。
 ボラティリティが急激に拡大して、VIX指数(恐怖指数)がリーマンショック並みに上がって来ている状況だ。ただ、3月の半ばくらいに政策が総動員されているので、少しづつ落ち着きを見せはじめていると思う。
※VIX指数は、アメリカのシカゴオプション取引所がS&P500種指数のオプション取引の値動きをもとに算出・公表している指数。数値が高ければ高いほど、投資家が先行きに対して不安を感じると解される。

■VIX指数と投資家のセンチメントの関係は。
 市場が落ち着いている時は、アメリカ市場の場合、VIX指数が20以下になるが、20を超えると不安感が台頭すると言われており、30を超えるとマーケットは恐怖に支配されている状況になる。
 リーマンの時には80くらいまで行っていた。恐怖指数が上がると、割高・割安の判断さえもままならなくなる。指数が下がってくると、いわゆるバリエーションが効き始める。
 今回の場合は、リーマンショック時に近いくらい指数が上がっていたが、5月6日時点では30台にまで落ち着いた。30を切る状況になれば、マーケットが割高・割安を判断できるような状況になると考える。

■日本市場の場合はどうか。
 日本には日経平均ボラティリティ・インデックスがある。日経平均の純資産価格が2万500円前後と言われており、日経平均がそれを下回って推移している。これは、日経平均ボラティリティ・インデックスが高いので、割高・割安の判断が機能していないためだ。
 ボラティリティが落ち着いて来て、割高・割安を判断できるようになれば、おそらく2万500円くらいまで戻ると予測できる。一旦、そこまで戻って、実需の悪化が表面化する3月期決算の時期になると、マーケットは実需の悪化を心配しながら、2番底を付ける可能性はある。

■3月期決算の発表を控えているが。
 3月のNYダウや東証の安値自体は、一気に織り込みを探る状況に入った。実需の悪化は今から表面化してくる。1回目の底を付けた時の想定よりも、実際の実需が想定よりも悪くなければ2番底は浅い。一気に下がった時の想定よりも実需が悪化しているのであれば、再び安値を切りに行くだろう。
 今は円安ドル高になっているが、米国FRB(連邦準備制度理事会)が無制限の量的緩和を維持するため、最終的にはドル安の方向に向かうと予想される。3月の下旬ごろは、株下落の割にはドルが下がっておらず、ドル需要が多かった(ドル高)。
 これからはドル安の方向に行く力が増してくるだろう。ドル安・円高の進展具合で、2番底を付けた時に、急激に円高が進むならば相応の株式市場の下落が起きる可能性はある。

■金融市場全体ではどうなっているのか。
 咋年末に比べて、日経平均が2~3割下げているので、余波がどのくらい続くか分からないものの、コロナ禍が相当長引くことを織り込んでいるはずだ。基本的には、一段、二段下がることはないと思う。世界中の主要中央銀行が金融緩和しているので、むしろ小さなバブルが発生していると考えられる。
 ドルの流動性がなくなったので、NYダウも一旦は下がったけれども、資金が流入したので、ドルがジャブジャブの状態になっている。相当、コロナ禍は長引くと思う。しばらくは金融政策等で支えるけれども、支えきれなくなったら、もう一段、二段下がるだろう。
 アメリカの大統領選挙の動向も注視しつつ、金融政策を使った下支えが行われるはずだ。このため、年内は、いまの株価水準でうろうろしているのではないか。恐るべき筋書きは、従来から懸念されている、欧州の大手金融機関の破綻が起きたならば、市場がクラッシュすることだ。リーマンショックの経験からバーゼル規制等によって自己資本を増強しているので、当時とは事情は異なるが。

■その金融政策だが、今後の見通しは。
 金融政策的には、各国ともすでに低金利を導入しているので、真に打つ手がないのが実情だ。ご存知の通り、日本の場合は、マイナス金利を導入しているため、実質的にはこれ以上金利を下げることができない。大事な時に、金利を下げるというカードがなくなってしまった。
 株が下がるのはそれなりの理由がある上でのことだ。景気が悪くなれば当然下がる。下がったところで買い手がつくと、再び値が上がる。そこで投資家は利益を上げる。いずれにせよ、市場が永遠に下がり続けることはない。言葉が正しくないかもしれないが、ETF(上場投資信託)で「高止まり」しているのは正常ではないと思う。

■長期的な観点からうかがいたい。コロナ禍が金融市場に与える影響をどう見るか。
 コロナ禍の影響は超長期に及ぶだろう。このまま行けば、実需が半減以下となる可能性が生じるうえ、下手をすると株価は現在の3分の1まで下落する。ポストコロナ禍の時代は、優勝劣敗の企業群に分かれると考えている。優れた企業はコロナ禍後であっても業績が良く、そういった企業群がいずれは市場を牽引するはずだ。


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