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2020年 4月13日 第7035号

【主な記事】

特別調査委員会が追加報告書
役員、募集人から聞き取り

 かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会(伊藤鉄男委員長)は、追加調査の報告書を3月26日に公表した。募集人やグループ役員のヒアリングを追加で実施。組織風土や縦割組織により改善が進まなかったことや、昨年4月に2次売出したかんぽ生命株式と不適正募集に対する経営陣の当時の認識も明らかになった。
 追加調査は「契約調査の妥当性の検証と結果分析・検討」「募集人の個別調査」「経営陣の認識を含めた事実経過について」「改善策への実施状況と評価」の4項目を目的に実施された。これにより、不適正募集問題の実態や原因・改善策をより明確にしていく。
 ヒアリングは日本郵政、日本郵便、かんぽ生命保険の執行役や執行役員以上の役員28人(前役員も含む)、3社の社員46人、日本郵便が選んだ郵便局の募集人46人に対して行われた。調査はこのほか、デジタル・フォレンジック調査という手法を用いた。取締役会の議事録(1万2203件)、関係役員2174人のパソコンに保存されていた電子メールなどのデータ890万件を集めて、分析を行った。
 かんぽ生命株式の第2次売り出しに際して、投資家に不適正募集について情報を公表しなかったのではないか、という指摘があったことを受けて、委員会ではこれらについても調査を行った。
 報告書では「かんぽ生命では2015年度以降不祥事は3件と少なく、経済合理性に疑問のある事案に対してサンプル調査を行ったが、顧客の意向に反する事案は認められなかったことから、同社は株式売出の際に、投資家の投資判断に著しい影響を与える事象が発生しているとの認識は有してなかった」と結論づけた。
 法の専門家にも意見を求めており「売り出しの段階で、保険業法違反による行政処分に至ることを認識するのは難しく、『投資判断に著しい影響を及ぼす』に該当しない」と説明している。
 かんぽ生命は、売り出しを前に金融庁から募集品質に関して報告を求められ、苦情事例などを提出した。日本郵政は「公表から売り出し、受け渡し完了までの間、金融庁の指摘や対応の状況は、かんぽ生命から報告を受けていなかった」としている。
 今回の不適正募集問題に対する経営陣の認識については、かんぽ生命の植平光彦前社長と日本郵便の横山邦男前社長にも調査が行われた。
 植平前社長は「自分の利益のために顧客に不利益を生じさせるような郵便局員は相当数いるとは思っていなかった」「他社ではほとんど発生していないという合意解除が100件以上あったが、総合対策を着実に実施すれば数年以内には減ると思っていた」「2017年10月に新商品を発売した後、乗り換え契約件数は増えていたが、2019年4月以降の乗換抑制策により減ると思っていた」という認識。
 横山前社長は「不適正募集として認識していたのは不祥事で、年間に20件程度。総合対策をかんぽ生命と実施しているので減ると思っていた。2019年6月以降の特定事案調査で一部の募集人に、募集手当欲しさに顧客に不利益を与える募集を行っていることを知った」という認識。
 日本郵政の長門正貢前社長と鈴木康雄前上級副社長が乗換契約の問題について知ったのは、金融庁から報告徴求を受けた後で「郵便局の不適正募集の実態を把握する機会がほとんどなかった」としている。
 かんぽ生命では、金融庁から2019年2月下旬の金融庁からの指摘で、経済合理性のない乗換契約に対して「問題点を明らかにして改善策にスピード感を持って取り組む」という会社の方針を示した。しかし、役員やその下の担当部署は「スピード感を持った対応を行っていなかった」という実態も明らかになった。
 この年の5月に金融庁から報告徴求を受けることになるが、植平前社長は報告書の中で「報告徴求を受ける前に真摯に対応すれば避けられた。報告徴求に適切に対応していれば行政処分までには至らなかった」と振り返っている。
 通信文化新報は「会社の方針を役員以下の人がスピード感を持って対応しなかったことに対して、調査したことがあれば教えて欲しい」と質問。伊藤委員長は「現場には営業を推進する部署も募集品質を向上させる部署もある。かんぽ生命だけでなく日本郵便との折衝もある。そういった調整に時間がかかった。それぞれの立場にも温度差があった」と説明。
 早川真崇委員は「社風にセクト主義がある。自ら所管する業務以外はできるだけやりたくない。新たな業務が発生した場合、どこが担当するか定まらず、募集管理は統括部が主幹だが、支払いや引受は他の部署も関わってくる。どこが管轄するかが社内でデマケーション(業務区分)の統制が進まなかった」と問題点を指摘。
 そのうえで早川委員は「社長の指示に基づき進めようとしたが、主担当が定まらず、結果として進まなかった。ただ、年明けの新体制では風通しの組織への改善がこれまでとは異なるスピード感で進んだ」と新体制を評価する。
 募集人へのヒアリングは「募集品質が優れている」「法令違反の判定が下された」「特定事案調査の対象外」の3類型に対して行った。営業目標について募集人からは「目標の見直しに賛成する声の一方で、現在の目標が負担になるものではない。販売実績と募集品質が良好な募集人からは、営利企業なら営業目標の設定は必要だという意見が多かった」。
 委員会には「販売成績が良く募集品質にも優れている募集人から、その秘訣を聞きたい」という思いがあり、年間販売実績が500万円以上の優良募集人を調査した。その結果、共通点があることが分かった。
 共通点は▽保険商品を勧奨する際に役立つ知識や経験を得るため、創意工夫を重ねていた▽顧客ニーズに合う保険商品を提案できるよう、訪問の際に顧客の状況を入念に調べたうえで訪問していた▽かんぽ生命の商品に加入したことのない青壮年層も、広く募集の対象としていた▽飛び込み営業も含めて、一般の募集人より活動量が多かった▽契約者から家族や友人の紹介を受けて、新規顧客を増やすことが多かった▽顧客の話をよく聞き、ニーズを把握したうえで合う商品を提案することを心がけ、契約の最終判断は顧客にゆだねている。
 委員会では10の提言を行った。「募集状況の録音録画」「不適正募集のリスクのある契約をシステムにより、営業のフロントが簡易に検知できる仕組みの整備」「新規契約の偏った手当や人事評価の見直し」「不適正募集を行った募集人・管理者の処分の徹底」「募集コンプライアンスに特化した通報制度の設置と通報内容の定期報告」「改善計画の第三者検証機関のモニタリングとその進捗状況の各社取締役への報告と定期的な公表」。
 その他の改善策として「売上・利益重視の経営から真に顧客本位の業務運営を実行する組織に改革する」「時代や環境の変化に対応できるビジネスモデルへの転換と保障性商品の営業スキルの向上」「実力に見合った営業目標の設定と配算方法の見直し」「顧客本位の保険募集を実現するための研修・教育の充実化」。
 録音録画には「顧客と募集人に主張の食い違いがあると、どちらの主張が正しいのかの判断が困難になる。録音録画をすれば後日の検証ができる」というのが導入の理由。顧客が断った場合「録音録画はしなくてもよいと考えている募集人もいるが、顧客が録音録画を拒否する場合は契約そのものができないようにする」と強い提言になっている。3月から試行が始まり、8月以降に本格実施となる予定。
 通信文化新報は「録音録画は、証拠が残り今回問題には有効だと思うが、個人情報保護の立場から顧客の許諾も取らなければならないなど、実際の営業現場では募集人も顧客もハードルが高くなると思うが、それでも導入する理由は」と質問。
 伊藤委員長は「募集人の中には可視化したら仕事ができなくなる、プライドが傷つけられるという人もいた。逆にその方がいいという人もたくさんいた。太陽生命は導入しており、先例もある。かんぽ生命保険では4月から試行が始まっており、ぜひ導入してもらいたい。顧客が録音録画は嫌だという場合は契約しなくてもよいと思う」と厳しい答えが返ってきた。
 顧客からすると情報活用の不透明さや、プライバシー、情報漏洩のリスクもある。現場からは反対の意見もあったというが、本格導入に当たり、顧客や現場の声も聞いてみてはどうだろうか。


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