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2020年 2月10日 第7026・7027合併号

【主な記事】

ロボットで「置き配」
[日本郵便]実証実験に参加

 日本郵便は、大学発のベンチャー「アメーバエナジー」(神奈川県藤沢市の慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス内、青野真士社長、資本金1億円)が開発した自律走行型ソフトロボットによる「無人複数置き配の実証実験」に参加する。階段の昇り降りが自律的にできるソフトロボットを活用した「置き配」の自動化を検証。日本郵便が参加する実証実験が1月30日、神奈川県相模原市の「さがみロボット産業特区プレ実証フィールド」(神奈川県相模原市の元県立新磯高校)で行われた。

 日本郵便では、再配達削減のため、荷物を玄関前に配達する置き配に取り組んでいるが、オートロックのマンションは、中に自由に入ることができず、置き配は難しい。エレベーターのない集合住宅では、重い荷物を階段で運ばなければならず、不在の時もあり、業務効率にも影響している。
 Eコマースの拡大や物流の人手不足、高齢社会が抱えるこれらの課題を解決しようと、慶応義塾大学の青野真士准教授らが2018年に「アメーバエナジー」を設立。大学での研究技術を応用し、オートロックを外し、自動で荷物を置き配して回る自律型ソフトロボット「Amoeba GO-1」を開発した。
 足回りは、柔らかい素材(発泡ゴム)でできたクローラ(キャタピラー型)。接地面に合わせて、柔軟に形を変えながら走行するため、荷物を載せても階段や段差を滑ることなく昇り降りできる。青野准教授が行ってきた粘菌アメーバの研究から生まれたロボットだ。
 大きさは全長77センチ、幅62センチ、高さ61センチ。本体重量は24キロ、荷物は6キロまで積み込める。ロボットは2018年の設立当初から開発が進められ昨年、完成した。
 昨年12月にはエレベーターのない4階建ての藤沢市の市営住宅で荷物やごみ袋を運ぶ実験を行った。この時はコントローラーによる遠隔操作で行われたが、今回の実証実験は自律走行による連続置き配が課題だ。
 開発には、縦に移動するためのアルゴリズムや足回りの柔らかい素材に工夫を重ねた。実証実験を通して、クローラの素材の耐久性やコスト面などを更にブラッシュアップし、2021年の実用化を目指す。
 この日の実験は、日本郵便の配達員が携帯端末でロボットを呼び出すと、ロボットがオートロックのドアまで移動。自動ドアを開いてくれる(この日は手動)。配達員が荷物を積むと、宅配先のドアの前に自動で進み、荷物を落としていく。配達を終えると、自動で荷物の写真を撮り配達先の携帯端末に写真と完了メールを送付してくれる。ロボットは次の配達先へ。階段を上り、所定の場所に置き配する。
 荷物の順番は配達員がロボットを呼び出す時に入力する。AIが使われており、進行方向や置き場所を自律的に判断できるのが特長。
 青野准教授は「このロボットは、移動宅配ロッカーのような仕組み。宅配ロッカーがあるマンションでも荷物がいっぱいで使えないところもあるが、このロボットなら配達したら戻ってくるので、空きのある状態にできる。玄関ゲートで、このロボットに置き配を任せられるため、配達員の業務効率も向上する」と説明している。走行速度は、現在は時速1キロほどだが、将来は時速3~4キロに伸ばしたいという。
 実証実験の開始に当たり、日本郵便の五味儀裕オペレーション改革部長は「これまで置き配に対応するロボットはなかった。置き配は我々の物流戦略とも合っている。オートロックはアプローチしにくい所だが、ロボットが中から開けてくれるので安全に置き配ができる。受け取りやすさや労働力確保といった課題解決に一定の成果が期待できると思う」と参加の意図を話す。
 この実証実験は、神奈川県が実施する公募型ロボット実証実験支援事業で採択されたもので、担当の神奈川県産業振興課の内田浩章主事は「商品として市場で受け入れてもらえるよう、実証実験に力を入れている。県の特区ネットワークを活用して総合的にコーディネイトしてきたい」と述べた。



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