「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

2020年 2月10日 第7026・7027合併号

【主な記事】

業務改善計画を報告
営業目標水準の適正化へ


 総務省と金融庁が昨年12月に行った行政処分を受けて、日本郵政と日本郵便、かんぽ生命保険の3社は1月31日、業務改善計画を両省庁に報告した。会見で日本郵便の増田寛也社長は「かんぽ生命保険の調査を速やかに進め、不利益を解消することにより、信頼を一歩一歩回復していきたい」と述べた。金融庁から指摘のあった多数契約や多額契約、乗り換えの繰り返しなど5つのケース約5.9万人に対して追加調査する。「お客さま本位の業務運営」に向けては、社員が顧客のニーズを把握し、適切な商品を提案できるよう「かんぽ商品スタンダードモデル」を新たに作成し、研修を実施する。

 報告は「特定事案調査」と「3社の業務改善計画」。特定事案調査では、契約者への意向確認は、12月18日と比べて約4000人増えて13.2万人。案内済み顧客の85%が完了した。そのうち、契約復元が完了した契約者は、同6239人増の2万994人となった。契約復元の希望者は2万2137人おり、残りの1143人は3月末までには完了させる予定。
 募集人調査の対象事案は12月18日の前回公表時と比べて、379件増えて1万3215件。そのうち、判定が完了したのは4855件。法令違反は約2倍強の106件、社内ルール違反も約2倍強の1306件となった。判定は再確認を除き、3月末までには完了する予定。
 特定事案調査で分類した以外にも不利益が生じている可能性のある5つのケース合わせて5.9万件も調査する(金融庁の指摘)。「多数契約、約0.6万件」(過去5年間で新規契約に10件以上加入しその3割以上が消滅したもの)、「多額契約、約1.8万件」(昨年12月で65歳以上の契約者の契約料が10万円以上払込した短期消滅契約が1件以上)、「被保険者の乗換、約2.7万件」(過去5年で被保険者を変更し新規契約したが短期で消滅している)、「保険の種類の乗換、約0.4万件」(過去5年で年金・保険で乗り換えがあった)、「保険期間短縮変更制度を利用した乗換、約0.4万件」(過去5年間で保険期間を短縮し新規契約したが、引き受け拒絶となった)。
 増田社長は「これまではお客さまからの対応を中心にやってきたが、外部と内部では意識が違っていた。5年で15件の保険を契約しその半数が消滅していた事例もある。リスク管理の感度を高めて対応していくべきだった」と反省の弁。
 不利益が生じている可能性のあるケースについて、かんぽ生命保険では「お客さまの中には、自分の保険の被保険者を息子や娘に変えるケース(ヒボガエ)もある。長男の次は次男に被保険者を変えていくお客さまもいるが、これらのケースが全て悪いわけではない。それらの契約がお客さまの意向に沿っているのかがポイント。渉外社員が自分の営業成績を上げるために提案し契約させていたのなら、お客さま本位にはならない」としている。
 多数契約者の中で新規と解約を繰り返していた優先順位の高い約900人については、2月末をめどに調査を進める。これらの調査以外でも、内容確認や不利益解消のための訪問活動は続ける。
 社内業務は、顧客本位の意識づくりとその実践のために、その規範となる「かんぽ商品のスタンダードモデル」を策定する。ヒアリングシートにより、顧客のニーズを把握し、商品提案を行う営業スタイルに変えていく。通信文化新報は「このモデルの具体的な内容」について質問した。
 かんぽ生命保険の千田哲也社長は「これまでの研修教材はすべてクリアにして、もう一度作り直す。お客さまのニーズに合う商品の提案、やってはいけないこと(行動規範)などを盛り込むため、日本郵便の現場の社員と一緒にモデルの策定を行っている最中。これができないと本当の意味でのお客さまニーズに合った営業ができないと思っている。きちんと作り上げたい」と説明した。
 このモデルを基に郵便局向けマニュアルを作成し、研修に活用する。同モデルは2月中に策定を終えて、3月からは具体的な研修を実施する予定。
顧客のニーズに合った提案に向けて、日本郵便では1月から総合的なコンサルティングサービスに必要な知識やスキルを身に着けるための研修を実施。同サービスの指導者としてコンサルティング・アドバイザーも置くことにした。
 日本郵便の衣川和秀社長は「お客さまのニーズに合った商品販売には、いろんな商品の知識が必要になる。知識を身に着けていくために、何年かかけてやっていきたい」と話している。
 日本郵便の保険営業目標については、保有契約(ストック)を重視した目標に改め、保険の純増額や過去3年間の消滅率を評価の対象にする。また、募集品質を組織行政評価の項目に追加。営業手当についても基本給と手当の割合を見直す。1月にJP労組に提案し交渉中だ。4月実施を予定している。乗換契約の営業手当は4月からは支給しない。
 日本郵政では、改善策の進捗管理やお客さま本位の業務運営に向けての取組みの一環として1月に、増田社長の下にタスクフォースを立ち上げた。増田社長は「経営理念の浸透を図るには内部だけでは不十分。コンプライアンスやガバナンスの専門家や消費者団体など広く外部の人にも入ってもらう。アドバイスを受けながら信頼回復とお客さま本位の業務運営に努めたい」と話している。
 今後は同改善計画の進捗状況を総務省と金融庁に3か月ごとに報告する義務も課されている。行政処分としての報告は2月末を初回として3月15日、6月15日…と指定日に報告しなければならない。
 通信文化新報は「改善計画全体の完了時期(報告が終了となる)はいつになるのか」と質問。増田社長は「今の段階では報告をし続けることになるが、報告の中でいつということが聞こえてくるのではないかと思う。特別事案調査のように期限を決めているものと常に窓口を開いているものがあり、期限を決めているものは完了すれば報告は終了になる。恒常的に行っているもの(契約内容の確認のための訪問活動、フォローアップ活動)は、報告を続けていく」と説明した。
 信頼回復がなければ、営業活動も厳しくなる。「最後の一人まで不利益を解消する」と焦らずに最後まで着実に対応しなければならない一方で、悠長に対処していては売上や利益にも影響し、上場企業として市場や株主からは評価が下がることにもつながりかねない。報告という形であれ行政処分が続くのであれば、土曜休配を含めた郵便法の改正の国会への提出は国民の理解が得られず難しくなる。来年度から始まる次の中期経済計画の策定にも取り掛からなければならない。増田社長には難しい舵取りが求められている。


>戻る

ページTOPへ