「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

2019年10月7日 第7008号

【主な記事】

違反事案は6327件
[かんぽ契約]営業再開1月に延期

 日本郵政と日本郵便、かんぽ生命保険の3社は9月30日、「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」(委員長:伊藤鉄男弁護士/7月設置)の中間報告と改善に向けた今後の取組みについて発表した。顧客への確認調査は全体の4割弱を終えた。法令違反や社内ルール違反の可能性のある事案は6327件(9月27日時点)あった。風通しの良い企業風土づくりを進め、社員の声を把握する体制やグループ会社間に連絡会を新設する。営業再開は来年1月に延期した。

 調査対象は乗り換えに伴い引受・支払い謝絶、特約切り替えや保険金減額で対応できたケース、乗り換え前後で予定利率が低下したが保障内容などは同じというケース、保障の重複・空白があるなど、不利益が生じた可能性のある「特定事案」は18.3万件。37%に当たる6万8020件については、顧客への確認を終えた。そのうち6327件は、法令違反、社内ルール違反の可能性がある。1400件は法令違反の可能性があるという。
 違反案件については、顧客に再度内容を確認し、募集人にもヒアリングする。違反が認められれば、募集人の資格のはく奪や人事上の処分も検討される。
 保険の復元は、書類を送付した15.6万人のうち、2万6036人が詳細な説明を希望している。かんぽ生命保険では「案内状を送付し、迅速な対応を行いたい」としている。
 営業目標は日本郵便、かんぽ生命とも、今年度末までは設定しない。営業再開は、当初は10月を予定していたが、来月1月に延期する。その理由として▽再発防止に向けた対策をより浸透、徹底させる必要がある▽特定事案調査に時間がかかる▽調査委員会の報告書が12月を目標にしている―の3つを挙げる。再開までには、顧客本位や再開防止対策、商品知識の充実を図るための研修も実施される。
 組織改革にも着手する。現場の声や顧客の指摘が本社に届きにくかったことから、社内に内部通報窓口や社員の相談窓口を新設する。グループ会社間の内部監査、コンプライアンス、お客さま満足度などの経営課題に関して、連絡会を新設する。
 日本郵政の長門正貢社長は「経営会議では、各業界で実績のある社外取締役にも入ってもらい、厳しい意見も出され、活発な議論ができる体制はあるが、今回は肝心の情報が上がってこなかった。子会社は情報を持っているかもしれないが、持株に上がってこない。共有できる仕組みを作り、潜在的な情報を事前にチェックできるようにしたい」と述べている。
 通信文化新報の「現場の声が経営に届かなかったということだが、今回の営業再開延期を決めるに当たり、現場の声はどうだったか」との質問に、横山邦男社長は「お客さまが優先されるという考え方もあれば、早く金融商品を提供したいなどいろんな声があった。営業再開延期はお客さまの声も含めて、全てを勘案して決めた」と説明。
 また、現状と今後の営業再開について、通信文化新報は「乗り換えもしていないし、苦情もほとんどない、という郵便局の話は複数、聞いているが、それがエリア局全体でのことなのか。調査では事案数だけではなく、郵便局ごとの状況や不適切な募集をした募集人がどこに集中しているかも分析してもらいたい。平穏な郵便局も不適切なことを行った所と同じようにかぶらなければいけなくなる。エリア局の現場の声も聞いた方がいいのではないか」と質問。
 横山社長は「今後、調査分析を進めていくに当たり、どの局、どの募集人であったか、地域局は問題案件が少ないといったことも含めて分析したい。そして再開を決めたいと思う」と述べた。
 顧客本位の業務運営は、郵政民営化委員会や総務省からも指摘を受けているが、日本郵便は募集で不適切な事案が見つかれば直ちに改善するため「募集品質改善部」(立林理常務執行役員が担当役員)を9月に設置した。また、郵便局に配置されている金融渉外本部長の職務に募集品質の管理を加えた。
 かんぽ生命は7月に「お客さま本位の募集体制推進本部」を設置し、条件付解約制度・契約転換制度、社員の声の把握などに取り組んでいる。
 会見で記者からは3社長の経営責任を問う声が複数出された。
 長門社長は「我々が第一にやるべきことは、お客さま対応。不利益を確定し、最後の一人まで不利益を回復したい。再発防止策をしっかり定着させる。信頼を1日も早く回復できるよう、全身全霊で取り組みたい」と強調した。
 日本郵便の横山社長は「お客さまのご意向に沿った対応、再発防止策の徹底を含めて、体制をしっかり作り上げていくことが、責任だと思う」、かんぽ生命の植平光彦社長は「お客さまの調査をしっかり仕上げる。不利益が発生している場合は、解消を徹底する。1件の不正も見逃さない、不退転の決意で臨みたい。やるべきことをしっかりとやることが責任の果たし方だと思う」と述べた。

目標達成を過度に重視
特別調査委員会が中間報告

 「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」の中間報告が公表され、調査の現状や原因分析、今後の調査方針が示された。
 独自調査では、日本郵政、日本郵便、かんぽ生命の本社担当社員や郵便局の保険募集人ら関係者、外部の生命保険会社の実務経験者、保険業法の研究者ら360人にヒアリングを実施した。情報を広く募るため情報提供窓口(Webサイト)も設置した。
 原因も分析している。「実態解明を進める過程で変更が生じる可能性が高いことに留意」と前置きしつつ、商品や組織、コンプライアンス体制など様々な角度から要因を挙げている。
 商品販売について「主な募集対象が高齢者で、貯蓄性の高い商品の満期を迎える顧客に対して、新たに貯蓄性商品の加入を勧めるというものに偏っていた」。
 かんぽ生命と日本郵便の関係性については「個人を対象とするほぼ全ての保険募集を郵便局に頼っており、代理店委託契約解除の方法で不適切募集を抑止する手段を持っていなかった」。
 組織や企業風土について「顧客本位の業務運営が郵便局の現場に十分に浸透していなかった。リスク感度が低く、隠れた問題と原因が把握・認識されなかった。業務の縦割り意識から連携が不十分で、不適正募集の根本的解決を図る意識が希薄だった」。
 営業目標やチェック体制については「現場の営業力に見合わない営業目標金額が課されていた。目標達成を過度に重視した営業推進・管理がなされていた。申し込み審査(郵便局)と引受審査(かんぽ生命)のプロセスにチェックする手続きと仕組みに不備があった」。
 コンプライアンス体制については「不適切な募集との事実認識がなかったことから問題が矮小化され、原因分析や再発防止策が不十分となった。苦情処理や契約の無効・合意解約の検討段階で、原因分析と改善策を検討する仕組みが備わっていない。研修や教育の実効性が十分でなく、現場の法令遵守の意識が浸透していなかった。コンプライアンス遵守のための相互牽制の仕組みが適切に機能していなかった」。
 現場の声が経営層に届く仕組みについては「担当部署で実態が正確に把握できていなかったため、経営層への報告過程で情報が希薄化・矮小化されていた」。
 グループのガバナンスに対しては「かんぽ生命保険の日本郵便に対する適正募集の確保に向けた管理・指導が困難な状況下で、持株会社の日本郵政がそれを補完するための適切な統制が行われていなかった」。
 乗り換え契約特有の問題については「問題意識が希薄化していることから抜本的な対策への着手が遅れた。募集に係る社内ルールが明確化されていなかったため、ルールの形骸化や潜脱(禁止されている手段以外を使い結果を得て、規制を免れる)を招いた」。
 調査の最終報告書は12月に発表される予定。同委員会では「総合的・抜本的な対策を提示したい」としている。


>戻る

ページTOPへ