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 年/月

第6736・6737合併号

【主な記事】

新規事業などで収益向上が筋
ゆうちょ銀減資案に懸念高まる

 秋にも本格化する日本郵政の上場に向けた議論を前に、改正郵政民営化法に反対したみんなの党が7月4日、ゆうちょ銀行が5兆円を減資し、その相当分で復興財源を確保する内容の提案書を菅義偉官房長官に提出した。郵政グループは現在、中期経営計画「~新郵政ネットワーク創造プラン2016~」の達成に向けて、営業を強化しながら反転攻勢に出ている最中。郵便局現場もそれを受けて、通常業務終了後や休日も研修などを行い、貯金残高を増やす様々な施策や新たなシステム対応の努力を重ねている。みんなの党案には、政治家や全国郵便局長会(大澤誠会長)などから「収益確保は新規事業や会社間窓口委託手数料、消費税などの問題に風穴を開けることで解決すべき」との反対意見が高まっている。

 みんなの党の提案書には「日本郵政株式の資産12兆4000億円のうち、大部分を占めるのがゆうちょ銀行の純資産約11兆円となっているが、格付けAA水準に求められるレベルの金利リスク、信用リスク、予備資産などを勘案しても、適正な資本額は約6兆円程度あれば十分で、約5兆円程度が過大資本の状態であると言わざるを得ない」と記されている。
 また、「郵政グループ中期経営計画でゆうちょ銀行の平成28年度当期純利益目標は2200億円程度にとどまっており、一般的なメガバンクの平均株価収益率(PER)が10程度であることを考えれば、同社の推定時価総額は約2兆円程度にしかならず、このままの状態で日本郵政株式を処分した場合の価額は4兆円にはるか及ばないことが予測される」としている。
 これらを根拠に、株式の処分を開始する前に、子会社のゆうちょ銀行が資本規模を適正な水準にするために減資を行うことや、その減資相当分を日本郵政に剰余金として配当し、その後に日本郵政は株主の政府に同額の剰余金として配当する。政府はその剰余金を復興財源に充てることを申し入れている。
 この案に対して、郵政グループの会社関係者も「そのようなことをしてはゆうちょ銀行の利益が出なくなってしまう」と懸念を示す。また全特の大澤会長は「郵政グループは、法律により全国津々浦々で三事業のユニバーサルサービスを行うことを義務付けられている。そうした中で、ゆうちょ銀行の新規事業も認可されず、成長戦略を描けないでいる。株式会社である郵政グループのゆうちょ銀行の資本を減資して余剰金として配当することなどは企業原則を無視したことであり得ないことだ。国会で決議した法律に反する発言は大きな問題だ」と指摘する。
 郵活連事務局次長の柘植芳文参院議員は「ユニバーサルサービスを金融2社に課した中、今のゆうちょ銀行が担う責務の大きさ、郵政グループが一丸となって日本郵政の上場に向けて必死に取り組んでいることを考えると、グループの中核となるゆうちょ銀行の資本を減らすなどはあってはならない」と強調する。
 郵活連幹事長の山口俊一衆院議員は「暴論だと思う。改正法の精神に反するし、自己資本比率の点から見てもそのようなことをすればゆうちょ銀行が大変だ。貸出業務もできない中で、そんなことをすればつぶれ、上場といっても簿価割れしてしまう。肝心の日本郵政そのものの値打ちがなくなってしまうではないか」と分析する。
 民主党の奥野総一郎衆院議員は「ナンセンスだ。株式価値を毀損してでも、復興財源を確保するやり方は、会社の経営を損なう可能性が高い。郵政事業を根底から崩すことになるため、断固反対」との姿勢を鮮明にする。
 民主党の藤末健三参院議員は「唐突な提案として絶対反対だ。日本郵政の自主的な経営判断の尊重が、結果的に売却益、復興財源の最大化につながることが財政審答申の意図で、政府の介入は極力慎むべき。また、投資額の根拠として金利リスクなどから適正資本規模を仮定しているが、国債からリスク性の高い商品へ移行しつつある資金運用状況などを考えると、試算の妥当性も大きな疑問だ」と話す。
 公明党の斉藤鉄夫衆院議員は「新規事業などで郵政グループを魅力ある会社にして、日本郵政の株価を上げて復興財源にすることが政策目標。日本郵政が体力をつけた結果、株式を高く売ることを目指すべきだ。国庫にするのは大切な資産を減らし、日本郵政の体力低下につながる」と語る。
 7月15日の会見では、記者団から同案への対応方針を問われた新藤義孝総務大臣が「様々な検討は受けるが、この案件についてはまったく決めていない」と答えていた。


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