「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6970号

【主な記事】

[民営化委]進捗状況の総合的な検証
ゆうちょ限度額引き上げ
通常、定期を別枠で各1300万円

 郵政民営化委員会(岩田一政委員長)は「郵政民営化の進捗状況の総合的な検証」を取りまとめ、昨年12月26日に郵政民営化推進本部長の安倍晋三総理に提出した。ゆうちょ銀行の限度額の引き上げについては「通常貯金と定期性貯金をそれぞれ1300万円とする」ことで決着。4月実施を目指す。通常貯金の限度額を外すことなどを検討するための条件についても「日本郵政が保有するゆうちょ銀行株を3分の2未満にする」「グループのバランスシートの抑制と戦略的活用を含めた日本郵政のビジネスモデルの再構築」など具体的な内容が示された。

 同検証では、ヒアリングで日本郵政が「通常貯金を限度額期から外し定期性貯金は1300万円」、全国局長会は「通常貯金を限度額管理対象から外し、定期性貯金の限度額は一定額引き上げる」との意見を提出していたが、金融庁や関係金融機関が「民営化への道筋が立っていない」(金融機関)「送金にかかる手数料が安いゆうちょ銀行に法人が流れる」(同)、「金融機関の経営が悪化した時にゆうちょ銀行に資金が流れるのではないか」(金融庁)を理由に反対し、意見の調整が難航していた。
 当初は昨年春の提出を予定していたが、大きく遅れたことについて、岩田委員長は「意見の隔たりが大きく、そのギャップを埋めるのに努力してきた」と理由を話す。
 今回の決定について岩田委員長は「限度額の引き上げは利用者の利便性を改善することが目的で、バランスシートの拡大を目指したものではない」と強調する。同委員会では今回の引き上げに伴い日本郵政グループと政府に対して「貯金獲得のインセンティブを他の評価項目に振り替えるなどで撤廃すること」を求めている。その振替の一例として、給与や年金の振込口座の獲得など顧客基盤の拡大につながるものを挙げている。
 通信文化新報の「通常貯金を1300万円にした理由とその過程で出てきた意見は…」という質問に、岩田委員長は「審議の過程では限度額の枠を広げる、過疎地に配慮すべき、法人の貯金は別に扱うなどいろいろな意見が出てきたが、慎重に審議してきた。現行のサービスを劣化させるのは良くない。1300万円より低くすると使いづらい人も出てくる可能性がある。別枠で管理したうえで、1300万円ずつというのが適切ではないかという結論に至った。過疎地の場合は住んでいる人が移動すると事務処理が難しくなる。法人を別にすることも最終的には採用に至らなかった。これからもそうした意見はいただくことになると思う」と説明した。
 今後、通常貯金の限度額について検討する条件として「グループのバランスシートの抑制と戦略的活用を含めた日本郵政のビジネスモデルの再構築」、「日本郵政が保有するゆうちょ銀行株を3分の2未満になるまで売却する」が具体的に明記された。
 岩田委員長は「日本郵政が保有するゆうちょ銀行株を3分の1にした場合、現状の株価で1兆円程度の売却を行うことになるが、中期経営計画にあるもの以外にも戦略的活用や成長が期待できる分野を開拓していってもらいたい。3分の2未満にするのは決して困難な課題ではない」と述べている。
 日本郵政は金融の持ち株会社で、本来ならば銀行法上、不動産会社や証券会社、保守などの金融業務運営会社しか子会社化できないが、日本郵政は郵政民営化法で特例が認められており、日本郵便に必要な業務(金融のユニバーサルサービスを含む)については、事前届け出すれば子会社化できる。
 同検証は郵政民営化法に基づき3年に1度、郵政民営化の進捗状況の総合的な検証を行い、本部長への意見の提出が行われている。2014年11月の日本郵政グループ3社の株式上場後は、初めての検証となった。
 ゆうちょ銀行の限度額の引き上げは、政令の改正が必要。総務省では同改正案を作成し、パブリックコメントを実施。閣議決定を経て、4月に実施される予定。
 検証で示された日本郵政グループの今後の課題と同委員会の郵政民営化に対する期待については次の通り。


【日本郵政グループ全体】社会的責務や第4次産業革命の進展など事業を取り巻く環境変化などを十分に踏まえつつ、長期的な視野を念頭に成長戦略を含め、新中期経営計画に基づき、事業展開していくことに期待する。同計画については説明の機会を設け、分かりやすく説明し、株主はもとより、広く利用者関係者に理解が得られるようにすることも重要。


【日本郵便】郵便・物流では郵便物の減少や人手不足などの課題に適切に対応すること、金融窓口事業では投信などの販売体制を整備する。物販事業や不動産事業の拡充を含め、収益源の一層の多様化を図る。トール社の経営改革を着実に進め、国際物流全体での戦略的取組の推進を新中期経営計画に基づき、進めていくことが期待される。


【ゆうちょ銀行】収益の大半を資金運用収益に依存しており、低金利下での収益源の多様化などによる持続可能なビジネスモデルの構築は大きな課題。新中期経営計画に基づき、「今後のビジネス展開」の考え方に沿った形で、できる限り具体的かつ戦略的な取り組みを適切に推進していくことに期待したい。


【かんぽ生命保険】保有契約の減少が続いており、その底打ち・反転が大きな課題。今後も事業を取り巻く環境を踏まえつつ、高齢化・長寿化が進展する中、人生100年時代を見据え、老後生活の長期化や医療・介護ニーズの変化に適切に対応していく必要がある。高齢者のみならず、青壮年層のニーズに十分に応えられるよう、第三分野などの商品やサービスを充実させていくことに期待したい。


【郵便局ネットワーク】過疎地を含めた郵便局ネットワークの維持が経営上、一層の負担となることが懸念される中で、郵便・貯金・保険のユニバーサルサービスをいかに確保するかは極めて重要な課題。郵便局における地方公共団体事務の取扱を拡大することは住民の利便性に資することはもとより、郵便局ネットワークの活用の観点からも意義は大きい。関係者による具体的な協議の進展や制度諸官庁における制度の柔軟な運用や制度の見直しが期待される。また、拠点を縮小しつつある金融機関と提携し、その機能を維持するために郵便局ネットワークを活用することについても検討することが望まれる。


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