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第6938号

【主な記事】

良質なユニバ提供を
民営化委 便利な郵便局が原点

 第189回郵政民営化委員会(岩田一政委員長)が5月24日に開かれ、岩田委員長が再選された。また「郵政民営化の進捗状況の総合的な検証」に関連して、日本郵政グループの「中期経営計画2020」と「2018年3月期決算」のヒアリングを行った。検証について岩田委員長は「民営化の議論が業界の利害調整に目が行き過ぎて、質の高いユニバーサルサービスの提供や国民にとって便利な郵便局になるという民営化の原点から外れている」と苦言を呈した。

 岩田委員長は「国民生活を豊かにするために質の高いユニバーサルサービスを提供するのが民営化の最終目標」としたうえで、「国民一人ひとりが民営化して良かったということを実感してもらえる状況を作り出すのが重要。民営化をあまりに急いでやって競争環境に歪みが生じたり、経営が難しくなったりすればスローダウンしなければならない。より良質なユニバーサルサービスを提供し、国民にとって便利な郵便局にするという原点に立ち戻って考えるべき。業界の利害調整に目が行き過ぎていて、焦点が外れているのが残念」と民営化の議論の現状について語った。
 中期経営計画2020については「3年間の経営計画だが、10年を視野に入れているところを評価したい。投資信託やイデコ、NISAなど選択の幅のある金融サービスを提供している点は望ましい方向」と評価する。
 同検証には、ゆうちょ銀行の限度額の引き上げについて委員会の考え方を盛り込むことになっているが、岩田委員長は「日本郵政からは通常貯金の限度額を外す、全国郵便局長会からは通常貯金の限度額を外し、定期性貯金の限度額を引き上げる。限度額について具体的に提案をいただいたのは日本郵政と全国局長会だけ」と2者のヒアリングでの意見を尊重する考えを示した。
 一方で金融庁や民間金融機関のヒアリングでも、金融庁の「基本的には限度額の緩和に反対しているが、総合的に考えれば限度額引き上げはあり得る」、民間金融機関の「法人預金がゆうちょ銀行にシフトし、民間金融機関の手数料が減るのではないか」「過疎地を限度額の対象から外してはどうか」という意見や提案があるが、これらについても「いただいた意見を受け止めて、実行可能かの評価が必要なので時間がかかっている」と、きめ細かく検討していることを明らかにした。
 春ごろには検証を取りまとめるという当初予定が遅れている理由として、「5月15日に新中期経営計画を発表されたが、最新の意見を取り入れることが望ましいとの判断から、発表に合わせて検証の取りまとめ時期を延ばした」としており、会見で岩田委員長は「できるだけ早期に取りまとめたい」と述べた。
 ゆうちょ銀行の限度額の引き上げと資金シフトに関する記者の質問に、岩田委員長は「民間金融機関との競争状況と資金シフトで判断することになるが、2015年の限度額の引き上げ(300万円)の後、状況を見てきたが、関係省庁をはじめ私もそうだが、資金シフトは起きていないのではないかという見解。流動性貯金は若干増えているが、民間より増え方が少ない。限度額を増やしても資金シフトが起きなかったのではないかというのがこの3年間で分かったこと」と答えた。
 その理由の裏付けとして、全国郵便局長会からは「通常貯金を限度額から外しても振替貯金の分が通常貯金に戻ってくるだけで、ゆうちょ銀行の貯金構成の中での変化、大きな資金シフトはないのではないか」との意見があったことを紹介した。
 ゆうちょ銀行のサービスについて、岩田委員長は「ゆうちょ銀行の商品は民間の商品と比べてもほとんど同じ。民営化以前のように有利なことはなくなった。ゆうちょ銀行は貸出しできないこともあり、金融サービスの多様性からみて民間金融機関の方が優位性を持っているのではないかと思う」という見方をしており、今後、限度額を緩和した場合の影響についても「仮に緩和されても資金が大きく動くという状況はないのではないかと考えている」と述べた。
 また、ヒアリングで明確になったことについて「通常貯金を限度額から外すことが、利用者にとって利便性が高いこと」や「郵便局にとっても、アフターケアも含めて、費用とエネルギーを取られているので外してもらいたいとの意向があったこと」を挙げ、検証の結論の参考にしていくという。
 ヒアリングの中で委員からの「かんぽ生命が無理な営業を行っているという報道があったが、その実態と再発防止策は」との質問に、日本郵政は「一部ではあるが事実であり重く受け止めている。再発防止策としては、新規契約以外に契約が継続していることを社員の評価基準にすることや、高齢者に保険内容を理解してもらえるよう家族の同席を義務付けている」と答えたという。
 さらに「渉外社員増員の必要性は」との質問には「募集品質を確保するためにお客さまに丁寧に説明する必要があるため。渉外社員は年々減少しており、今後はそれを維持していきたい」と回答した。
 新中期経営計画では「完全民営化は何合目になるのか」との質問に、日本郵政は「投資の原資として金融2社の株式の売り出しを考えている。株式市場を見ながら関係省庁や東証と相談して進めたい」と回答した。
 岩田委員長も「金融2社の売却については新中期経営計画にははっきりとは書いてないが、新たな投資分野のファイナンスについて、手持ちのキャッシュ、借入、金融2社の株式売却を念頭に置いて資金源にすることが記されている」と完全民営化に向けた日本郵政グループの方向性の一つと受け止めている。
 「SDGs(持続的な開発目標)やEVや自動運転への取組みについて」の質問には「バイクのEV化は現状では実用化していない。自動運転は実際の道路で対応できるかが重要。ゆうちょ銀行とかんぽ生命では電子化の進展によりペーパーレス化している。それらの積み重ねが重要」と回答した。
 決算関係では委員の「ゆうちょ銀行の個人貯金は他の銀行と比べて増加幅が少ないが、どのように見ているのか」との質問に、「2017年度は集中満期を迎え、一部が流出したため」と回答。 また 「振替貯金が1.3兆円を超えていることについて」の質問に、「振替貯金には限度額を超えた顧客の一部が含まれている。例年1兆円程度で、1.3兆円の変化は特異なものではないと考えている」と回答したという。
 民営化委員会では5月8日に5人の委員全員が再任され、委員の互選により委員長には岩田氏が再選された。委員長指名により米澤康博委員長代理(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)も再任された。


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