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第6938号

【主な記事】

自治体と実証事業を実施
ICT活用 郵便局活性化委が骨子案


 総務省の情報通信審議会郵政政策部会の第7回郵便局活性化委員会(主査=米山高生東京経済大学経営学部教授)が5月28日に開かれた。委員会では郵政行政部会への答申のとりまとめに向けた骨子案が示された。自治体のニーズの高い郵便局の利便性向上への取組みに対して、ICTを活用することでより効率や効果を上げていくための実証事業「郵便局×地方自治体×ICT」を国(総務省)が主体となって実施する。実証後はメニュー化して、全国に普及していくことも盛り込まれた。

 骨子案では、郵便局の利便性向上への取組みの方向性として、地方自治体から窓口業務の受託や住民が手続きをする際のICTサポートなどの「行政サービスの補完業務」や、児童・高齢者のみまもりなどの「暮らしの安心・安全のサポート」などが示されている。
 郵便局でのICTの活用としては、テレビ電話を利用したオンライン行政手続きサポートや郵便車両・ポストにカメラやセンサーを取り付けることによるみまもりサービスなどが提案されている。
 「郵便局×地方自治体×ICT」では、行政の窓口業務の受託やみまもりなど地方自治体のニーズの高いサービスを中心に検証する。
 民間に委託が認められている自治体の窓口業務は25業務あるが、行政側の管理者の下で行うことが基本。郵便局だけは5業務に限り管理者がいない環境でも業務が行えるが、過疎地域では支所の廃止などに伴い、行政の窓口業務を丸ごと郵便局に委託したいという自治体もあり、受託できる業務の拡大が課題となっている。
 実証事業では、庁舎と離れた環境にある郵便局で、他の20の受託窓口業務について、ICTを活用することにより、どこまで拡大できるかを検証する。
 骨子案には郵便局の利便性向上に当たり、行政側にもコーディネーターとしての役割を担ってもらうことも盛り込まれている。行政課題やニーズがよく分かっているのは地方自治体であることから、郵便局が新たなサービスをする際に、企画や、連携するNPOなどの団体への呼びかけ、役割分担についてまとめ役になってもらう。その内容や必要性に応じて、地方自治体にも一定のコスト負担をしてもらう場合もある。
 郵便局の利便性を高めるために、郵便局の強みとしては「全国に偏りなくある郵便局ネットワーク」「郵便局舎の持つスペースなどのインフラ」「各世帯まで日々届けてくれる配達ネットワーク」「窓口相談や配達で顔の見える関係による地域住民との信頼」が挙げられ、これらを生かした取組みが示された。
 これまでのヒアリングや専門委員らの意見を取り入れた内容で「行政サービスの補完業務」や「暮らしの安心・安全のサポート」のほか、「住民生活のサポート」「まちづくりのサポート」といった公益性の高い業務。ライフスタイルの変化に応じて窓口の開設時間の柔軟化などの「郵便局のサービスの多様化」も取組みの一つに挙げられた。
 それらの実現に必要なコスト負担の基本的な考え方としては「ユニバーサルサービスの提供に支障がなく持続できるようにする」「ビジネスとして実施できるよう、郵便局ネットワークの利用者、受益者の適切なコスト負担の下で実施する」「ICTの有効活用により、ユニバーサルサービスの提供と郵便局の利便性向上を両立させる」が示された。
 委員会には日本郵便の諫山親執行役員副社長が、前回に続き出席。郵便事業の収支や労働力不足、配達効率の低下など郵便局の現状について説明した。
 コスト負担について諌山副社長は「利用者の利便性向上については、ビジネスとして成り立つことが重要。実施することで赤字が拡大するのでは継続は難しい。公共性の高さに応じて配慮するケースもあるが、利用者、受益者、地方公共団体には適切なコスト負担が必要になってくる」と同社の基本的な考え方を示した。
 非正規社員の賃金単価の上昇や単身世帯の増加などによる配達効率の低下、中期経営計画2020で「郵便物は3年間で18億通、その収益として1000億円の減少を見込んでいること」など、数字やグラフを示し現状や将来について説明した。
 諫山副社長は「業務の効率化を図ってきたが、損益の悪化は企業努力で黒字化することは難しい状況。昨年は、はがきを値上げさせてもらった。ユニバーサルサービスの提供が確保されなくなると、ネットワークの維持も利便性の向上もできなくなる。様々な努力を行っていきたい」と述べた。郵便と荷物の配達の流動化は今年度中に行うという。
 東條吉純主査代理の「郵便は厳しい状況。企業努力ではやっていけない時の方策は」との質問に、総務省の野水学郵便課長は「ユニバーサルサービスの提供は経営努力が大原則。合理化・効率化、増収の努力などやりつくした後に利用者負担もあるかもしれないが、まずは経営努力をお願いしたい」と述べている。
 関口博正専門委員は「コスト負担についてこれまで無償でやってきてなぜ、有償にするのかを理解してもらわなければならない。過疎地の人の負担力を考えると有償サービスをどこまでできるのか。サービスをパッケージ化しニーズのある所に有償でサービスを行う場合、エリアや規模ごとに違い、サービスの提供は個別の状況に十分対応することが必要。自治体との関係強化が大事なのではないか」との意見を出した。
 これに対して、諫山副社長は「買物サービスは特に自治体との連携が重要になる。先行事例を基にパッケージ化し横展開するというが、どこにでも当てはまる先行事例は難しいのではないかと思う。手作り感のある個別の仕組みを自治体と協力しながら創出していく。対価を取る以上、立派なサービスにする努力もしていかなければならない」と答えた。
 6月4日には最終とりまとめ案が審議され、同日開催される情報通信審議会・郵政政策部会に答申案として提出される。


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