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第6932号

【主な記事】

行政と連携の可能性を議論
[郵便局活性化委]観光客の拠点にも

 総務省の情報通信審議会郵政政策部会の第3回郵便局活性化委員会(主査・米山高生東京経済大学経営学部教授)が4月16日に開かれた。
 岩手県遠野市や島根県邑南町(おおなんちょう)、佐賀県唐津市の3自治体のヒアリングや藤沢久美委員(ソフィアバンク代表)のプレゼンテーションが行われた。3自治体は人口減少・高齢化の問題を抱えており、行政と郵便局の連携や利活用の新たな可能性について活発に議論した。
 遠野市からは本田敏秋市長が出席。同市と市内郵便局は2012年に地域の見守り活動に関する協定、翌年に道路の破損などの情報を提供する防災協定を締結、2004年からは住民票などの証明書交付事務を小友郵便局で行っている。
 本田市長が郵便局との連携で特に評価しているのは、手紙の書き方教室の実施と郵便局社員が地域のイベントに家族ぐるみで参加してくれることだ。
 本田市長は「子どもが基礎学力をつけるには、手紙やはがきが役立つ。おじいさん、おばあさんは孫からの手紙をとても喜んでいる。手紙やはがきに自分の言葉で思いを語る。それが子どもの育成につながる。また、地域のイベントに参加し、地域づくりや人づくりに貢献していただいている」と語った。
 小友地区は4月現在、425世帯が住んでいる。証明書の交付事務などの市民サービスを小友局で提供しており、年間利用件数は150件~250件。
 同地区から市役所までは片道25キロあり、郵便局での市民サービスは移動の負担を軽減している。しかし、当初見込まれた利用件数を下回る状況で採算性が課題だ。今後は郵便局ネットワークを活用し「高齢者の買い物支援と見守り」「移住定住の窓口を都心の郵便局に設置する」「郵便配達後の空便を利用した野菜の集荷・配送」などを挙げている。
 本田市長は「野菜を作る農家が高齢化し、道の駅や直売所に持っていくことが難しくなっており、配達の後の空便が何とか活用できないか。また、農業の生産現場では仲間と働いてもらうが、その後押しを郵便局にしてもらえないか」と提案している。
 郵便局について本田市長は「合併後は隣の市に行った方が便利という場所に住む住民もいる。行政は市町村境というバリアがあるが、郵便局はそういう壁はない」と行政にはない利点を話す。
 唐津市は日本郵政公社時代の2007年7月に九州支社との間で「地方公共団体特定事務の郵便局における取り扱いに関する協定」を締結し、戸籍証明書などの請求受付や交付事務を行っている(現在の指定期間は昨年4月~2020年3月)。
 市内郵便局とは「災害発生時における協力に関する協定」を結んでおり、緊急車両の相互提供や避難先リスト作成のための情報の相互提供、郵便局ネットワークを活用した広報活動、道路破損の情報提供などでお互いに協力している。
 今後、郵便局の利活用について、唐津市では郵便局や総務省に「観光地にある郵便局で観光案内や手荷物預かりを行う」「買い物難民の支援策として食料品や日常品の注文・配達する拠点としての役割」「コミュニティバスの停留所を郵便局にする」「災害時の物資を郵便局に送り、郵便局から避難所に送るようにする」「図書の貸し出しの配送を郵便局が担う」などを提案している。
 石山アンジュ専門委員からは「見守りの報告については郵便局では実績がないということだったが、連絡手段に問題はないのか」との質問に、唐津市からは「見守りは、郵便局、宅配事業者、コンビニなど80の事業所にお願いしているが、気づいた点をFAXや郵送、持参で連絡してもらっている。しかし電話が一番ありがたい。コンビニなどから不審者の連絡など、10件~20件上がってきている」と回答。
 石山専門委員は「郵便局の配達員が異常を見つけたらすぐに連絡できるように、ICTやSNSを活用する方法もある」と提案している。
 小林史明総務大臣政務官は「業務委託費についてどの程度を考えているのか」との質問に、唐津市は「市民ニーズが高いものについては応分の費用を負担していきたい」と回答した。
 邑南町は3月末現在、1万891人で高齢化率43.5%。同町総合戦略では2060年の人口目標として1万人維持を掲げている。郵便局とは昨年10月に「地域における協力に関する協定」と「災害発生時における郵便局の協力に関する協定」を締結している。
 同町では郵便は大切な通信手段で、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は身近で親しみやすい金融機関と評価している。郵便局の優位性と優位でない点については「郵便・金融・保険業務が集積し利用しやすい一方で、業務ごとに会社が分かれているので信頼性に乏しい」「ゆうパックの安定した業務の継続を評価するが、不配達が発生している」「死亡による凍結口座の処理が複雑で時間がかかる」。
 窓口業務の委託については「窓口事務の多くは外部と遮断された基幹システム情報を基にしており、情報管理面で問題がある。専門性を必要とする事務がある。災害緊急時に対応する職員の確保が必要」との理由から検討しないという。
 藤沢委員は「社会環境変化の中でのサービス提供」をテーマに外国人観光客や在留外国人に対する郵便局サービスの可能性について、プレゼンテーションした。
 基になったのは昨年度のDBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者意向調査にある「機会があれば地方を観光したい」が93%という結果。
 訪日外国人の地方旅行へのニーズが高まっており、全国津々浦々にネットワークがある郵便局は、優位性があることから提案した。
 特にアクセスの良い郵便局は、観光案内所としての活用も期待できる。観光案内所は全国に設置されているが、ビルの2階や3階にあることもあり、分かりにくい。その点、郵便局は1階で、駅の案内図にも載っていることが多い。
 訪日外国人が困っているのに改善されていないサービスとして、ATMの利用と外貨両替があることから、郵便局の活用として、外貨両替や手荷物預かり・配送サービス、無料Wi-Fiの拠点、自転車などのシェアリングサービスの拠点を挙げている。
 訪日外国人の中には、自転車やスノーボード、スキーセットなどを持参して、リピートする観光客もおり、一時預かりサービスもビジネスになる可能性があるという。
 シェアリングサービスでは土日に営業で使っている自動車を貸し出している静岡銀行の事例を紹介した。
 観光案内については、案内ができる人材のいる観光協会や日本政府観光局(JNTO)と郵便局をテレビ電話で結び、ガイドをしてもらい、現場の局員には負担がかからないようにする方法を提案している。
 藤沢委員はゆうちょ銀行ATMの外国語の画面は改善の余地があると指摘。外国人研修生ら在留外国人も増加していることから、口座開設の申込書についても多言語対応を求めている。現在は日本語の申込書しかない。
 藤沢委員は郵便局に、外国人旅行向けサービス会社や同ライフサポート会社、シェアリングサービス会社のプラットフォームとしての役割を提案している。
 最後に米山主査は「貴重な意見をいただきできるだけ報告書に生かしていきたい」と述べた。


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