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第6929号

【主な記事】

通常撤廃と定期引上げを
局長会が民営化委で意見

 郵政民営化委員会(岩田一政委員長)がとりまとめを進めている「郵政民営化の進捗状況の総合的な検証」は大詰めに入り、3月23日に金融2社の限度額について、全国郵便局長会や銀行・保険の業界団体にヒアリングを行った。局長会は「ゆうちょ銀行の通常貯金を限度額管理対象から外し、定期性貯金の限度額は一定額引き上げる」という意見を明らかにした。通常貯金の限度額撤廃だけを希望した日本郵政グループの意見を更に一歩先に進めた内容だ。

岩田委員長 資金シフトは起きない

 局長会は「ゆうちょ銀行の限度額を優先的課題」とした上で、その理由として「限度額の仕組みが難解で、お客さまとトラブルが起きやすいことや事務処理が煩雑でコストが負担になっていること」などを挙げている。
 委員からは「限度額を引き上げるメリット」について質問があり、局長会は「1300万円のままでは退職金の受け皿にならず、使い勝手が悪いこと」などを説明したという。
 これに対して、銀行関係の団体は「完全民営化への道筋が示されない中、ゆうちょ銀行への資金シフトが懸念されることから、限度額の緩和には反対する。現行規制を維持してもらいたい」という意見だった。
 資金シフトについて局長会は「ゆうちょ銀行は融資業務が認められていないので、定期性貯金の限度額引き上げと通常貯金の限度額を外すことを合わせて行っても他の金融機関からゆうちょ銀行への顧客流出は起きがたい」としている。
 全国銀行協会は「300万円限度額を引き上げた後に資金シフトが起きていないのは、引き上げ後は低金利・マイナス金利だったからで、今後はそのリスクがある」という見方を示した。
 岩田委員長は資金シフトが起きなかった理由について個人的な意見としながらも「ゆうちょ銀行の貯金を金融商品としてみた場合、他の金融機関の預金と比べて有利な点は全くない。ゆうちょ銀行は、融資業務も行っていないため、融資してもらおうとして貯金するインセンティブもないことが基本的要因」とみている。
 全国銀行協会と第二地方銀行協会からの「地域の金融機関の経営が悪化し、ゆうちょ銀行に資金シフトが起きた場合、ゆうちょ銀行と地方の金融機関との間の協業の枠組みが崩れ、地域経済に影響を与える恐れがある」との指摘に、岩田委員長は「信用不安になった場合も現在は、セイフティネット(預金保護や一時国有化する仕組みなど)が整備されているので、資金シフトは起きないのではないか」と述べた。
 また、足利銀行が破綻した時(2003年11月から一時国有化)の事例を挙げた。岩田委員長によると「破綻したときは足利銀行から1割くらいの預金が流出したが、ゆうちょ銀行には変化はなかった。その1割の預金は地方銀行の関連のメガバンクに流れた」としており、今後もこの事例が当てはまるのではないかとみている。
 前のヒアリングで日本郵政の長門正貢社長が「限度額を引き上げてもゆうちょ銀行への資金シフトは起きておらず、資金はメガバンクに流れている」という考えを述べているが、通信文化新報の「人口の51%が三大都市圏に集まっており、人口流入は現在も続いている。地方銀行に銀行口座を持つ人が都市部に移住してメガバンクに口座を開き預金を移す。また地方の親族(親)から相続した預金を、都市に住む相続者(子)がメガバンクの自分の口座に預けることが、地方銀行からの資金シフトの要因として考えられるのではないか」という質問に、岩田委員長は「大きなトレンドとしてはそうだと思う。少子高齢化の下、人の動きに応じてお金も動いている可能性はある」と答えた。
 ヒアリングで局長会は「限度額が緩和されても貯金をがむしゃらに集めるわけではない。振替貯金が通常貯金になるだけだと考えている。郵便局は自治体と協力して、地方創生の中心となっていきたい」と述べ、地域経済の発展という点でゆうちょ銀行や地方銀行と同じ方向を向いていることを強調した。
 保険業界についてもヒアリングが行われ、委員からは「かんぽ生命の業務範囲の拡大は、株式の完全売却を前提としているが、株式売却は市場の動向も見なければならないと思う。商品販売などで協調しながら消費者ニーズに応えていくのが現実的だと思うがどうなのか」という質問があり、生命保険協会は「株式の売却は市場動向を見る必要はあると思うが、業務拡大は市場に影響がなければすべて反対というわけではない。他社商品販売という面で協調していけばいいと思う。株式の売却の歩みは遅く、その道筋の明示は必要」と回答したという。
【ヒアリングの出席団体】
▽銀行業界 全国銀行協会、全国地方銀行協会、第二地方銀行協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会、農林中央金庫
▽生命保険業界 生命保険協会、全国生命保険労働組合連合会
▽郵政関係 全国郵便局長会、日本郵政グループ労働組合


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